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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第二章
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黒の系譜02-39『帰って来た日常。新しい日常』

 毎日黒猫院の執務室を訪れる人々は多い。

 本日34人目のお客さんはバートンの泊まり木店長のティム少年だ。


「オーナー! 人が足りないんだけど!」

「うーん、じゃあ店員募集の張り紙でも出して見る?」

「いいわねソレ! あと新メニューよ! そろそろ新しいメニューで新規顧客層をゲットなのよ!」

「お、おぉー。やる気マンチカンだね」

「何よソレふざけてんの!? 給料減らすわよ!」

「ワタシオーナーなのに!? ご、ごめんなさい。新メニューの案はいくつか考えて提出します」

「まったく、頼むわよ! オーナー!」


 そう言ってティムはバン、と部屋を出て行った。

 ぐすん、オレの方が偉いのに。オーナーなのに。

 

「失礼するッス……ってクロネコさん何で泣いてんスか!?」

「泣いてないもん! ……で、ケーンさんは何の御用で?」

「あ、はいッス」


 35人目は農場の代表ケーンさんだ。

 つい3日前には奥さんと一緒につい先日焼畑された北の平地の開墾計画とかで来てたけど。

 

「今日はどうしたんですか?」

「実は開墾作業で【賢者の土】が必要なんスけど量が足りなくて」

「あぁなるほど。じゃあ、錬金じゅちゅ師さんたちに……」

「いや、実はもう行ってきたんスけど、材料がないらしいッス」

「何がないんですか?」

「【岩人形の土塊】ッスねぇ」

「あぁ、ケーンさんの因縁の?」

「ッスねぇ……」


 ケーンさんは言いながら渋い顔をする。

 そういえばケーンさん、材料元となる魔物のロック・ゴーレムに殺されかけてたもんねぇ。


「でも、今のケーンさんなら余裕で勝てますよ? たぶん」

「……またまたー。冗談キツイッスよー」

「前にケーンさんにあげたクワあるじゃないですか」

「あぁ、あのエミリーちゃんが打ったって言う【良く切れるクワ】ッスね? いやぁ、あのクワだと畝を切るのがホントに楽で……たーまに作物まで切れちゃうのが難点ッスけど」

「あれなら、ロック・ゴーレムも切れます」

「マジッスか!?」

「超マジです」


 一回、どのくらい切れるのか試したらアダマンチウムに傷をつけることもできた。

 切るまでは行かなかったけど、アダマンチウムに傷をつけられるほどの強度だ。

 ロック・ゴーレム程度なら楽勝でみじん切りにできる。


「つまり、どういう事ッスか?」

「はいコレ、ポーションと予備の[アイテム・ボックス]」

「えっと……やっぱり?」

「一応護衛に戦士さんとか、魔じゅちゅ師さんとか、癒じゅちゅちさんとかもお願いしときますねー」

「噛み噛みッスね」

「噛んでないし! じゃ、頑張ってくださいねー」

「え、ちょ!? ホントにマジで行くッスかー!?(バタン!)」


 オレはハンカチをひらひらさせてケーンさんを追い出す。

 別に奥さんとラブラブだから嫉妬してるとか、リア充爆発しろとか、末永くお幸せになんて思ってないんだから!


「まったく。こっちは忙しくてお昼ご飯もまだなのに……千客万来すぎるよもう!」


 オレは嬉しい悲鳴を上げる。

 そう、別に人が来るのが嫌なわけではないんだ。


「……でも頼ってくれるのは嬉しいけど、最近みんなオレに頼ってばかりな気もするなぁ」


 別に悪い事ではない。

 オレなら大抵の事は解決できるだろうし、手っ取り早いのはまず間違いない。

 オレ自身みんなの為に出来ることがあるならやってあげたいとも思っているから、嫌なわけではない。

 でも、


「やっぱり、そろそろかなぁ?」


 オレがぼんやり次なる作戦を考えていた時だった。

 ドアの外でパタパタパタパタと誰かが走ってくる音がする。

 どうやら、もう36人目のお客さんがやって来たようだ。

 バン! と勢いよくドアが開け放たれ、オレに飛び込んできたのは、


「おねちゃー!(ぼふん!)」

「わぷ! ミミちゃん? そんなに急いでどうし……」


 言いかけて、オレはやれやれと頭を抱えた。

 ミミちゃんが慌てて駆けこんで来るのなんて、ここ最近ではいつものことだ。

 むしろ駆け込んでこない事が無い。


「ひょっとして、また〝先生〟?」

「そうなの! せんせ、またかんじゃさんとケンカしてるの!」

「だと思ったよ。はぁ……すぐ行く」


 オレは頭を抱えて歩きだした。

 ホント、あの〝先生〟ときたら問題を起こさない日がないな。

 とりあえずお昼ご飯はもうしばらくお預けになりそうだ。



―――――



 黒猫院に到着すると、院の外まで二人のケンカ声が聞こえてきていた。


「――やるかひょろひょろ眼鏡!」

「――なんだと筋肉ハゲ!」


 案の定、騒ぎになっている診察室の先生は〝ギース〟。

 つい先日まで教会の神官だった、あのメガネくんだ。


「はいはい、どーどー。人の身体的特徴をあげつらって悪口を言うのはどうかと思うよー?」

「ク、クロネコさん!?」

「ちっ、お前か」


 オレがやってきた事に驚いた患者さんは……って、エミリー隊のケリッヒさんじゃないか?

 なんか声を聞く限り相当怒っていたようだが、一体何をケンカしていたのか。

「で、なんでケンカしてたの?」

「「こいつが!」」

「……まずはケリッヒさんの言い分」

「……大体、こいつは小言が多いんすよ。さっさと治して終わり、それでいいじゃねぇか?」

「それに対するギースくんの言い分は?」

「ふざけるな。ボクたち癒術師も暇じゃないんだ。アホみたいに毎日怪我をしてこられたらたまったもんじゃない」

「なんだと!? 怪我を治すのがてめぇらの仕事だろうが! だったら黙って治しゃいいんだよ! 陰険メガネ」

「だから、その怪我がないようにしろと言ってるんだハゲダルマ!」

「戦闘してるんだから怪我するんだろうが! 馬鹿はてめぇだ! なよメガネ!」

「だから怪我しないように戦えと言っている筋肉ハゲ!」

「はいすとーっぷ」


 オレははぁ、とため息をついて二人の頭に拳骨を落とす。


「はぎゃっ!?」

「いだっ!? 何するこの野蛮人め! 僕の優秀な頭がバカになったらどうしてくれる!」

「お黙りなさいハゲ&メガネ! ケンカ両成敗です!」

「あだっ!?」


 オレは反省の色が見えないメガネには特別にもう一発拳骨を落とす。

 

「いい? まずケリッヒさん!」

「は、はい!」

「戦闘するからケガをする。もっともです」

「だったら」

「でもね! ギースの言い分ももっともなんです。ケガをしないならそれにこしたことはありません! もしケリッヒさんがケガで倒れたら、他の仲間は誰が守るんですか!? 極力ケガをしないように戦う、それが仲間を守る事にもつながるんです!」

「――っ! ごもっともです」


 ケリッヒさんはきちんと反省してくれたようだ。

 うんうん、こちらの方は物わかりが良くて結構。


「ふん! 分かったかこのハゲ!」

「問題はお前だ分からず屋メガネ!」

「なっ!?」


 でももう一方はとんだ問題児だな。


「お前さっき人の身体的特徴で悪口言うなとか言っていなかったか!?」

「お黙りなさい! もやしメガネ!」

「貴様! いいかげんに――」

「ね? 今みたいな言われ方したらムッとするでしょ?」

「ぐっ!」


 そう、今のはわざとです。

 普段ギースがどんな事を言っているのか、自分でも分かってもらいたくてあんな言い方をしたんです。

 全然本心ジャナイヨー?

 

「誰だってバカにされたみたいな言い方されたら怒る。当たり前でしょ? ギースがケリッヒさんの心配してるのは分かるよ? でもね、もう少し言い方があるんじゃないの? って話」

「……ふん!」


 どちらが悪いとかじゃない。

 どっちにも悪いところがある。

 

「だからお互いに謝る! 返事は!?」

「は、はい!」

「なんで僕が……」

「ん? 何? 二発じゃ足りなかった?(ニコッ)」

「わかった! 謝る! 謝ればいいんだろう!?」

「うんうん。素直でよろしい♪」


 オレは二人に無理矢理握手をさせて、互いに謝らせる。


「悪かったよ。腐れメガネ」

「こちらこそ。10分の9ハゲ」


 ギリギリと互いに睨み合ったので、オレはもう一度笑顔で拳を握りしめる。

 そうすると二人も笑顔で笑い合った。

 やれやれ、ギースがここに馴染むのにはまだまだ時間がかかるかもしれないな。



――ゴブリン軍との戦闘の翌日だ。

 院の外で勝利の宴(どんちゃん騒ぎ)をして寝落ちしていたオレの所へ、その知らせが届いたのは。


「生意気なメガネの野郎が来ています」

「あぁ、ギースか」


 一発で分かりました。

 前と同じように応接室に通して、とりあえず自分に[リ・フレッシュ]をかけて軽く身だしなみだけ整える。


「やぁやぁ、どーもどーも」

「ふん! 寝癖がついているぞ馬鹿者」


 オレは寝癖を整えつつ、イスに座る。


「おはようございます。で、今日は何の用ですか? それに、前みたいにお連れさんはいないんで?」

「いるわけなかろう。……僕は教会に破門された身だ」

「ほほほぅ……聞きましょうか?」

「楽しそうに笑うじゃないか…………長くなるぞ?」

「今日は特別に暇なんで」

「ふん! お目出度い奴だ」


 どうやらこのギース君。

 昨晩あの後、教皇のレイリアさんに禁術の事を直訴したらしい。

 なんとまぁ真っ直ぐな事で。


「あの術の危険性をお伝えし、使用を制限するように進言した。それからアレをどのように手に入れたのか問いただそうとした」

「で、破門された?」

「あぁ……禁術を封じる腕輪の装着を義務付けられた上でな。『知ってしまった以上、こうする事が貴方にとっての最善となるでしょう』とな」


 それはきっと間違いない。

 もしギースが禁術の真実を知ったとあの男(ザッハーク)が気づいたら、ギースは間違いなく消される。

 あの男はそういう類の危険人物だ。

 教会もギースがアレを使えなくなったと分かれば、無理に口封じしたりはしないだろう。


「なるほどねぇ」

「驚かないのか? やはり貴様聞いているな?」

「なんのことかさっぱり? ……で、教会の命令じゃないなら、今日はどうしてここに?」

「ふん! 僕だって本当はこんな所へ来るのは嫌だったんだ。だが、教皇様が破門後はここを頼るよう進言してくださったんだ」

「だろうね」

「何がだ?」

「ううん、こっちの話」


 だってそうするようにレイリアさんにお願いしたのオレだし。

 もっと言えばその腕輪【極魔封じの腕輪:高ランク魔術の使用を禁止、制限する魔術を込めた魔核がはめ込まれた腕輪】をギースに渡すようにレイリアさんに渡したのもオレだし。

 ふはははは! ギース君、君は初めからオレの手のひらの上で踊っていたのだよ!


「それに……ここへ来たのはあの女との約束でもある」

「ぶはっ! あ、あの女とは?」

「しらばっくれるな。貴様の姉だ」

「アハハハ、ナンノコトカナー?」

「嘘を付け! あの黒髪に顔、生意気な態度! 絶対にお前の姉だ!! そうだ、そうに決まってる!」

「し、知らんなー?」

「見え透いた嘘だな! あの女を出せ! 一言二言文句を言わないと気が済まない!」

「それは絶対やだ!」

「出せ!」

「無理!」


 だってあんな更神(アクセス)もう二度と使わないとオレは心に決めたんだ。

 考えても見て欲しい。

 いつも通り変身したかと思えば、驚きのビフォーアフター。

 なんということでしょう……あの漢らしいはずのクロードがビューチフルでスタイリッシュな大人の女性に!?


「イミガワカラナイヨ」

「意味がわからんのはこっちだ! くそっ! やはり姉妹だな! 性格まで姉にそっくりだ!」

「やめて! アレと一緒にしないで! 自覚症状あるから余計に辛いんだよ!」


 たしかにあの状態の時のテンションはヤバかった。

 自分で言うのもなんだけど、あれなら完全体クロードの方がまだいいよ! 吾とか言っちゃうくらい全然大目に見るよ!

 

「姉なんていなかったんだ」

「現実から目を背けるな!」

「背けたくもなるの!」

 

 オレ自身納得行かなかったので、ティー様に文句の[メール]を送ってやった。

 [メール]欲しがってるって女神も言ってたし。

 そうしたらなぜか怒り口調で『仕様です!』と返って来た。

 いやいや怒りたいのはこっちですから!

 

「ふん! まぁいい。ともかく、そういうわけで大変不本意ではあるが、わざわざ来てやったというわけだ……癒術師は必要だろう?」

「いえ、間に合ってます」

「ふふん! そうだろう! 貴様がどうしてもと頼むのならこの僕が……何? 今なんと言った!?」

「だから、癒じゅちゅ……師は間に合ってますって」

「そんなバカな!? 回復魔術は教会の秘法のはずだ! そうほいほいといるわけがない!」


 現に癒じゅちゅ師見習いの人はミラやオレ指導の元で着実に育っている。

 よっぽどの重傷患者でなければ、回復出来るくらいには間に合っているのだ。


「信じられん!」

「ふぅ……[フル・ヒール・リング]」


 オレが証拠の回復魔術を見せると、ギースは口をあんぐり開けたまま動かなくなった。

 どうやら思考回路がが容量突破(キャパオーバー)したらしい。


「じゃ、ゆじゅ、ゆじゅちゅし……ゆじゅちゅち、は間に合ってますので」

 

 オレはわざと素っ気ないふりをして、ギースを無下に扱う。

 確かに教会では偉い立場だったのかもしれないが、ここは門の外。

 まずは自分の置かれている立場という物をわきまえて貰わないといけない。


「ま……待て!」

「ん? 『待て』?」

「ぐっ! いや、待って、くっ……ださい!」

 

 かかった♪


「んんー? まだ何かあるんですかぁ?」

「……色々お前、いやクロネコ、さんには聞きたい事がある。だから……やはりここで働かせろ」

「『働かせろ』?」

「くっ……働かせてくれ、ださい」


 勝った♪

 オレはニタァ、と勝利の笑みを浮かべ振り返った。


「んー? そこまで言うならぁ? 働かせてあげないこともないんだけどなぁ?」

「くっ! いいさ! お前ら性悪姉妹の事だ、どうせまた何か条件をつけると言うんだろう!」

「こらこら、雇用主に向かって性悪とは何さ。口の利き方には注意したまえ、ギース君?」

「くっ! この僕がこんな……屈辱だ」

「おーっほっほっほ♪ くるしゅうない、くるしゅうないぞえー♪」



――で、ギースに与えたお仕事がここ、治療院での仕事なのだが、


「もう何度も口をすっぱくして言ってるんだけど。もう少し言い方をどうにかしてよ。ただでさえ元神官だからって変な目で見られてるのに、あんな言い方したら余計に敵を作るだけじゃない?」


 ケリッヒさんが帰った後の診察室で、オレはギースにお説教する。

 現にここの治療院、他の癒術師(言えた♪)さんの部屋への患者さんは多いのに、ギースの部屋だけやってくる患者さんが少ない。

 まぁだれでも小言は言われたくないもんなぁ。


「ふん! どう思われようと知らん!」

「またそんな言い方」

「……ただ僕は、命を粗末にする奴が許せないだけだ……どんな馬鹿者でも、死んだら悲しむ人間がいる。そう誰かさんに教えられたからな」


 なんだ、ちゃんと考えてくれていたんだ。


「このツンデレめ(ニヨニヨ)」

「笑うな。あとツンデレではない!」

「……でもね、もう少し仲良くなる努力はすること。死んで悲しむ人がいるみたいに。ギースがここにいられなくなって、悲しむ人もいるんだから」

「そんな奴いるわけ……」


 バタン! と入り口のドアが開け放たれる。

 

「せんせ! おねちゃ! ご飯持ってきたよ!」

「み、ミミ!? どうしたんだそのパンは!?」


 両手いっぱいにパンを持ってきたのはミミちゃんだ。

 オレがギースを説得する代わりに、お昼ご飯を取ってきてもらうようお使いをお願いしていたんだ。


「おねちゃに頼まれたの!」

「一人で行ってきたのか!? お前はまだ目が治ったばかりでまだ視界が慣れていないんだ。一人で外を出歩くなとあれほど言っただろう!?」


 ここで働かせてあげる代わりにオレがギースに出した条件。

 それはミミちゃんの保護者になる事だった。

 というより、ミミちゃんを通して少しはギースの性格が丸くならないかと考えたんだよね。

 

「クロマルもいっしょだから一人じゃないよ?」

「わふっ!」

「そういう事じゃなくて……あぁもう! 怪我はないか!?」

「ないよ? せんせはしんぱいしょーだねー?」

「ねー?(ニヨニヨ)」

「わふー♪」

「くっ!」


 あのギースも幼女の純真さの前には形無しである。

 散々文句を言ってはいるけど、なんやかんや言って結局はちゃんと面倒を見ている。

 少しは効果があるみたいだね。


「これだからツンデレメガネは素直じゃなくて手がかかる」

「だから断じてツンデレではない!」

「じゃあろりこんさん?」

「もっと違う! というか誰だミミにそんなアホみたいな言葉を教えたヤツ! 教育に悪いだろうが!」

「なるほど、じゃあ教育ママか」

「ち・が・う! いいか、勘違いするなよ! 僕はただお前の見に何かあったら怖い雇用主に文句を言われるから仕方なく……」

「誰が怖い雇用主だ。ギース君、減給」

「げんきゅー!」

「わっふー!」


 オレが言うと、ミミちゃんは『げんきゅー、げんきゅー♪』とギースの周りを踊り出す。

 意味がわかっているかどうかはおいといて、とても和む光景だ。


「な、横暴だぞ! ミミ、減給されたら今晩のおかずから一品減るぞ?」

「えー!? おーぼーだー!」

「わっふーん!」


 夕飯には勝てなかったのか、今度はオレの周りを『おーぼー、おーぼー!』と歌いながら踊り出すミミちゃん。

 やはりかわいい。


「じゃ、ミミちゃんはどっちの味方なの?」

「わふー?」

「わふん?」

「トボケる姿も可愛い! 減給取り消し!

「やたー♪」

「わふー♪」

「ほっ……」


 そんなこんなで黒猫院は今日も平和です。 


「ここにクロネコなる者はいるか!」


――だけどやはりというべきか、さすがというべきか、オレの周りには次から次へと問題が転がり込んでくるようだ。

 やれやれ、せっかくミミちゃんが持ってきてくれたお昼ご飯が冷める前に片付けばいいんだけど。

 院の入り口で叫んでいたのは、やたらごてごてした派手な鎧に身を包んだ男だ。


「へぇ、その肩の紋章はフィリル・ダリアが誇る騎士団〝皇国騎士団〟の紋章じゃないですか」

「貴様に用はない獣人。今度の皇都防衛戦の功労者クロネコを出せと言っているのだ!」


 やれやれ、嫌味たっぷりに言ったのにその意味を理解してもいないとは。

 コイツとことん無能だな。

 同じ戦場で戦っていたはずなのにオレの事も知らないのか。


「分かりませんか? ワタシがクロネコですよ? 一緒に最前線で戦ってませんでしたっけ?」

「む? 貴様が……そうか。遠くてよく見えなかったと思っていたが、単に視界に入っていなかっただけだったな」


 うん、コイツ嫌い。


「で、誇り高い皇国騎士団の方がワタシごとき獣人になんの用です?」


 こちとらアンタらと違って暇じゃないんですけど? お腹減ってるし。

 思ってても口には出さない、それが大人の対応です。


「貴様には我らが国王より、召集状が出されている。大人しく王城へ来い」


 やっと来たか。

 思っていたより随分時間がかかったな。


「まさか断るなどという不敬な真似はしないだろうな?」


 オレは不敵に笑う。


「もちろん」


 断わるわけがない。

 だって、そうなるようにわざわざ色々と調整したんだから。

 メガネ君はオレの狙い通り、手の上で見事なダンスを披露してくれた。

 果たしてあの男(ザッハーク)はこのメガネ君のように踊ってくれるだろうか?

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