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黒の系譜  作者: 木根樹
黒の系譜―第一章〝黒の目覚め〟
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黒の系譜00-00

 まだまだ練習中なのでご意見ご感想、誤字脱字などご報告いただけると喜びます。

『ホント、気を付けて帰ってきなさいよ』

「わーってるって! だから絶対そのダンボールはあけんなよ!」


 はいはい、といって母は通話を切った。


――――――――


 花金、なんて言われる週末だったが今のオレの心境は墓場の中にいるようだった。

 元々今週は実家に帰る予定があったし、ついでに何か買っていくものでもあるかと思い電話をしたところ、最後に母親の口から出た『あぁそういえば』の一言。


『そういえば押入れを片付けてたらダンボール箱が出てきたんだけど』


 ドクン、心臓が激しく鼓動するのを感じた。

 嫌な予感がした。


『何かアンタの字で〝封印〟って書かれてるんだけどアレって……』


 予感は的中した。

 最悪だ、最悪すぎる。

 まさか〝アレ〟がまだこの世に残っていたとは。

 いや〝アレ〟が世に広まるのを恐れて処分せずあえて〝封印〟したのだ。

 当たり前とはいえ当たり前なのだが。


「お袋。おれさっさと帰るからそれ絶対あけないでくれよ!」


 オレ、坂上蔵人(サカガミ クラヒト)は急いで身支度を始めた。


――――――――


 今になって思い返せば、あの頃は随分やんちゃしていたと思う。

 そのせいでたくさんおやじやお袋にも迷惑をかけた。

 姉は……特に気にしていなかったな。

 妹も……うん、アイツもなんやかんやで楽しんでたみたいだし、それはいっか。

 ともかく、若気の至りというヤツで、恥ずかしい青春の1ページとして、今の今までその事を忘れていた。

 むしろ記憶を封印していたのかもしれないが、それがまさかこんな形で姿を表すとは。

 ベッドの下からエロ本とか、そういう生易しい物じゃない。

 あれは、いうなれば他人が知らない、知られちゃいけない類の黒歴史なんだ。

 だからオレ自身の手で完全にこの世から抹殺しなければならない。


 オレの書いた〝魔導書(中二妄想ノート)〟たちを。



 誰しも若いころには夢見たことだろう。

 超能力、スーパーなヒーロー、魔法少女、剣や魔法の世界などなど、おおよそこの世界には実在しないだろうファンタジーを。

 オレにもあった。

 オレの場合は特に、なんでもできる魔法なんてのに憧れ、そしてあり得ないくらいにのめり込んでいった。


――ちょっと黒い布を羽織って『漆黒のローブ!」なんてかっこつけて見たり

――ちょっと腕に包帯を巻いて『腕が疼く!』なんて大げさに騒いだり

――ちょっと眼帯をつけて『我が魔眼で!』なんて言ってみたり

 誰でも一度は経験あるだろう?

 え、無い? そんなバカな?


 ともかくそんないわゆる〝中二〟全開だったオレはあろうことか。


『そうだ魔導書を書こう!」


 なんてバカな事を考え始めたのだ。

 今あの時に戻れるなら全力でぶん殴ってでも止めたい。

 ともかく世界征服すらも夢じゃない魔導師(自称)だったオレは、持っていたお小遣いを全部はたいてちょっといいノートや色とりどりのペンを買い集め、魔道書の執筆を始めたのだ。

 それこそ魔法を色々と書いた本から、必殺技をまとめたノート、伝説の武器や魔獣なんかを書いた本まで、たしか10冊近くの魔導書が出来上がっていたはずだ。

 ホントよく書いたな。

 その労力をもっと別の所に回していれば、と思う所もある。

 書き上げた時は満足気で、誰かに見せてやろうかとそわそわしていたが、正直見せなくてよかった。

 あんなモノ恥の集合体でしかない。

 しかもそんなオレの苦労と汗とお小遣いの結晶は、高校デビューと同時にダンボールに入れられて押入れの奥底に封印されたのだ。

 それが今世に解き放たれようとしている。

 危険すぎる。

 誰かに知られようものなら、どこからその話が出てくるかオレの気が気でなくなってしまう。


(それだけはなんとしても阻止しなくては!)


 オレは心に闘志を燃やし、愛車のランクルをアクセル全開で飛ばすのだった。



――――――――



「おいおい、なんだよ。アレ?」


 その異様さに気付いたのは家を出て少し走った所だった。

 道路の少し先。

 街灯に照らされながらソレはゆっくりと大きな首を動かしている。

 この世界に存在するはずがない。

 いや、目の前にいる今となっては〝存在するはずのなかった〟ともいうべき暴虐の象徴。


グギャルゴゴゴゴ!


 辺り一帯に木霊する咆哮をあげるのは間違う事なき〝ドラゴン〟だった。

 なぜこんなところにドラゴンがなどと自分でも訳が分からない事を考えていたが、すぐにハッとしてオレは急ブレーキをかける。

 本物か偽物か、そんなことを確かめに行って巻き込まれるのはナンセンスだ。

 三十六計逃げるが勝ちだ。

 そう考えてオレはUターンしようとする。

 しかし視界に映ってしまった。

 街灯の下にいる一つの影を。

 見た目からおそらく帰宅途中の学生だろう。

 遠目で分からないが腰が抜けてしまったのか、動けないでいる。

 ドラゴンはその少女に釘付けな様子でこちらにも気が付かないようだ。

 だから今が逃げ出すチャンスなのだろう。

 だが、

 

(しょうがないよな)


 オレは心を鬼にしてハンドルをきりアクセルを踏み込む。


(うん、しょうがない)


 相手はドラゴンなんていう化け物である。

 生身の人間が勝てるはずもないし、幸い向こうはこちらに気付いてもいない。

 だからこれはしょうがないことなんだ。

 オレは自分にそう言い聞かせて前を向く。

 目の前に紅い巨体が迫っていた。


「悪いなランクル! 無事に帰れたら絶対修理してやるからな!」


 そう叫んでオレはドラゴンに愛車で突っ込んでいた。


グギャオォォッ!?


 ドラゴンもぶつかる寸前でこちらに気付いたようで両手で車を押さえかかっている。

 タイヤがこすれ酷い音を出し、車体が悲鳴を上げている。

 だが力負けはしていない。

 オレはアクセルを踏み続ける。


「逃げろ! 早く逃げるんだ!」

 

 同時にオレは助手席側の窓を開けて呆然とする少女へ叫ぶ。

 暗くてはっきりとはしないが結構な美少女だ。

 少女は初め何が何だかと言う顔だったがオレの方へ深くお辞儀をすると夜道を駆けていった。

 上手くいったらお近づきになれるだろうか?

 命の恩人だし、オレ自身顔はたぶんそんなに悪くないと思うし?

 高校生ぐらいなら年の差は……なんて妄想するのは28歳独身ゆえに勘弁してもらいたい。

 ともかく、そんなバラ色の未来のためにも目の前のデカブツをなんとかしなくては。

 ドラゴンは徐々に根負けしてきたのか徐々に後ずさっていく。

 これは勝てる、オレは小さく確信した。

 そして気づく、


「あ、やべ。これって死亡フラ……」

 

 思った時まさに、目の前の魔獣の王とも呼ぶべき存在は大きく首をそらせる。

 やっぱり使えるよねー、だってドラゴンだもん。

 目の前のドラゴンの口内が赤々と燃えている。

 伝家の宝刀『ドラゴンブレス』、現実世界でまさか目の当たりにする日が来るとは思わなかった。


「あー死んだわこれー」


 覚悟を決める。

 そういえば人って死ぬ前に走馬灯を見ると聞いたことがあるが、ぜんぜん見る気配もないな。


「案外当てになんねえなハハハハハ……」

 オレは目を閉じて静かにその時をまつ、が。

 待てど暮らせど炎は来ない。

 いや、別に来てほしいわけではないけど。


「あれ? ぜんぜん炎が来ないぞ?」


 見ればドラゴンは大きく後ろに仰け反っていき……ふっ、とそのまま見えなくなる。

 倒したのだろうか? いや違う。


(どちらかと言えば穴に落ちたような…………うぉっ!?)

 

 体、というか車全体が浮いているような感覚になる。


「これは違う。まさか!」


 落ちている?

 周囲を見るとよく分からない、グニャグニャとした空間に覆われている。

 あれか? よくある異次元の穴とかそんな感じの所か?

 うわー、眼に悪そうな光だらけだよおい。

  

グギャルゴゴゴゴ!


 ドラゴンも一緒に落ちているのか、割れた窓から凶悪な雄叫びが聞こえてくる。

 というより真横に燃えるような紅い瞳と牙の隙間から見え隠れする炎がある。


「ハハハ……こんどこそホントに死んだな」


 案外、アッサリしたもんだと思った。

 思い返してみれば、なんてことない普通の人生だったなぁ、と思う。

 劇的な出来事なんて何一つない、いたって普通、いたって平穏な人生だった。

 普通に地元の学校を卒業して、大学に入学してからは一人暮らしを始めて。

 彼女ができて、何もないまま驚くほどあっさり別れて。

 そういえば別れた理由も『蔵人ってびっくりするぐらい普通すぎてつまんない』だったな。

 普通の何が悪い! って一晩飲み明かしたっけなハハ。

 それから普通に就職して普通に働いて……あぁホント普通すぎる人生だったなぁ、と思う。

 いつからだろうか。

 そんな普通の暮らしに慣れてしまったのは。


 思えば、あの時のオレは普通の人生へ、普通の日常へ必死で反抗したかったのかもしれない。

 普通じゃないということへの憧れや願いだったのかもしれない。

 それを忘れないように、形として残すためにノートに、ってのは考えすぎだな……


「ってあぁくそ! 忘れてたノート!」


 Q.このままオレが死んだらどうなる?

 A.きっと失踪扱いになるだろう。

 

お袋 :『これがあの子が失踪する直前まで気にしていたダンボールです。ううう……』

鑑識 :『この中に何か失踪の手がかりが……こ、これは!?」

刑事 :『黒き炎の演武(ダークネス・ロンド)? これは暗号か何かだろうか?』

鑑識 :『いや、ただの中二な必殺技ですね』

お袋 :『ううう……うちの子がバカですみません』


 サ・イ・ア・クだ。


「死ねない! オレまだ死ねない!」


 だが目の前まで迫ってくる炎に為す術がない。

 炎はたやすく車体を解かし、一瞬でオレの身体を包み込む。

 瞬間的な高熱と痛みの後、体の全ての感覚が失われる。

 徐々にフェ ード   ア  トし  てい   意識の 中   は

 最後   で   ノ ト  どう   て   しょ   ん   な   



 


 










 








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