第六話 翔と玲於奈
翔に連れられて4階の部屋へ入った玲於奈はすごく驚いていた。
男の一人暮らしだからもっと散らかっている部屋を想像していたのだが期待は裏切られ翔の部屋は白と黒のモノトーンで統一されてきちんと整理整頓されていた。
「奥さん居るんですか?」
「いねえよ!そんなもん!」
あまり綺麗に部屋が片付けられていたので翔を見て玲於奈はつい確認してしまった。
「ですよね・・・部屋がすごく綺麗に片付けられていたのでつい疑っちゃった!(苦笑)」
「家にいる時間が短えからな!散らかることがねえんだ!」
翔は驚いている玲於奈を見て笑いながらソファーに座ってタバコに火をつけていた。
確かにこの部屋には生活感が感じられなかった。どこか母親が入院してからの玲於奈の部屋と似通っていた。
玲於奈よりもずっと長い年月を翔はこの部屋で一人で暮らして来たのだと何故か玲於奈はそう思うと翔が急に身近に感じて愛おしく思えた。
「部屋は2つ開いてるからどっちでも好きな方使って良いぞ!冷蔵庫の中の物も好きにしろ!自分の家だと思ってのんびりしろよな!それと、一人で寝るのが寂しかったらいつでも一緒に寝てやるぞ!(笑)」
「フフフ♪ほんとに~?じゃ~今夜は一緒に寝てもらおうっかなぁ~?」
冗談を言っている翔に玲於奈は後ろから両手を絡めて抱きついて甘えた声で囁いていた。
「オイオイ!俺も一応男だかんな!無防備すぎるんじゃねえか?おめえはほんっとに真李亜そっくりだぜ!」
「・・・・だってほんとに寂しいんだもん・・・」
玲於奈の頭を撫でながら翔が無防備過ぎると叱って身体を離そうとしたら抱きついていた玲於奈は尚更力一杯しがみついて翔の背中に顔を埋めて離れなかった。
「・・・そうだな・・・偉かったな!良く一人で頑張ったな・・・玲於奈・・・」
翔はそのまま玲於奈を抱き上げてソファーに座らせて優しく頭を何度も撫でて玲於奈を強く抱きしめていた。
病に冒された母親を助けながら弱音も吐かずにずっと頑張って来た玲於奈にとって甘えられる大人なんて側にはいなかった。ここへ来てようやく翔が唯一心を許せて甘えられる存在だと玲於奈に思えた瞬間にピンと張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのだ。
「パパって言うのは勘弁してくれよ!(苦笑)」
「言うわけ無いでしょ?パパなんて私には必要ないもの・・・」
翔が冗談を言って玲於奈の顔を覗きこむと玲於奈も顔を上げてふくれっ面をして見せた。
「怒るなよ!冗談だって!ほんっとまだまだガキだなお前は!クククク♪」
「あー!子供扱いしないで!もう十分大人です!」
玲於奈は翔に子供扱いされて怒っていたものの本当の父親か兄に甘えているかのように翔に抱きついたままなかなか離れようとしなかった。
「なぁー玲於奈?ほんとに一緒に寝るか?」
「うん!寝る!」
そうしてその夜、玲於奈は翔のベットに潜り込んで本当の父と娘のように一緒に眠った。




