第二十七話 祝杯の日 その二
10月25日PM8時 恭介が18歳になったその日の夜の『うみねこ』は『黒龍』の現メンバーとOBでちょっとした祭りのように賑わっていた。
恭介は自分の愛車に跨がり愛花は愛花の兄の薫が運転するBMWで純白のウエディングドレスを身に纏って現れた。
既にメンバー達は待ち切れずに盛り上がり店の周りでは打ち上げ花火を上げている者も居て若い連中は走り回って騒いでいた。
しかし総長の恭介が現れると一斉に現メンバーは整列して花道を作り背筋を伸ばしてあっという間に緊張感が漂っていた。
「すごいね!なんだかドラマか映画の撮影を見てるみたい。」
「そうだな!総長の引退と結婚の祝杯式だからな!特に今回は人数が半端じゃねえ!普通の野郎の引退はこれの半分位の人数だからな!なかなか見れるもんじゃねえぞ!」
玲於奈が圧倒されていると翔はすぐ横に来てタバコに火をつけながら玲於奈の頭をポンポンと軽く叩いて笑っていた。
式は着々と進み指輪の交換を済まして新郎新婦が誓いのキスをするとすごい歓声が上がってそこからは皆無礼講で飲み食いしたり音楽に合わせて踊ったり花火を上げたりシャンパンをかけ合ったりして騒ぎ始めた。
幸いな事に海岸沿いにある『うみねこ』の側に民家は無かったのでこんな夜更けに騒いでいても通報されることは無いのでいつも祝杯式は朝までこの状況だった。
玲於奈は用意していた大きな花束を花嫁の愛花に手渡して軽くハグをした。
「おめでとうございます!愛花さんとっても綺麗です。恭介さんと赤ちゃんと絶対幸せになってくださいね!」
「ありがとう~!玲於奈ちゃんの事は恭介から時々聞いていたわ・・・何かあったら相談してね。」
二人は言葉を交わすともう一度しっかりとハグをして微笑み合っていた。
「やっぱ少し妬けるか?大事な妹かっさらわれちまって!(苦笑)」
「一発殴ってスッキリしました。(笑)アイツがマジなのも良く解りましたから・・・祝ってやることにしたんです。正直に言うとやっぱ少し妬けますけどね(苦笑)」
黒龍のOBでもある愛花の兄の薫は翔のグラスにビールを継ぎながらとても複雑な顔をして笑っていた。
13歳も歳の離れた妹なだけに薫が愛花をずっと溺愛していた事はチームの間でも有名だった。
所が偶然チンピラに絡まれている所を恭介に助けられた愛花がいつの間にか恭介に思いを寄せてその真剣な思いに恭介も絆されて愛花を愛するようになっていた。
しかしこの二人をなかなか薫は認めようとせずとうとう愛花が思い余って家を飛び出して恭介の元へ転がり込んだ。何度も恭介は愛花に家に帰るよう説得したようだったがそんな時は女のほうが頑固で男の言うことなんて聞く訳もなく愛花のお腹には新しい命が芽生えていた。
「まぁー恭介なら愛花を幸せにするだろうさ!心配すんなって!」
「そうっすね・・・ほんとそう思います。アイツはしっかりしていやがるから(苦笑)」
翔に慰められて寂しそうに笑った薫のその瞳には薄っすらと涙が浮かんでいた。




