第十五話 約束
玲於奈は突然蘇った記憶がとても衝撃的なものだったのでしばらく何も言えずに大輝の腕にしがみついて少し震えていた。
「オイ!大丈夫か?玲於奈?」
大輝の言葉に我に返って玲於奈はゆっくりとその時のことを大輝に話し出した。
「あの日・・・店の前でバーベキューをして皆でワイワイ楽しくやっててジュースを飲み過ぎちゃった私はトイレに行きたくなって店の裏口からトイレに行って用を済ませて出ようと思っていたら裏口の前にある倉庫からママと翔さんの声がしてどうしたんだろうと思ってそうっと少し開いていた戸の隙間から覗いたらママと翔さんがキスしてた。そうよ!キスしてたのよ!」
「見間違いとかじゃないのか?マジで見たのか?」
幼かった玲於奈にはあの時二人が何をしていたのかがわからなくてスッカリ忘れてしまっていたが大輝とキスをした事で今になってやっと母親と翔があの時に何をしていたのかがハッキリと理解することが出来た。
「なんかやだな・・・確かにもうあの頃にはあの人は出て行ってしまってママと私だけだったけど・・・翔さんとママが恋人同士だったなんて・・・しかも翔さんには理奈さんが居たんだもんね・・・」
「しゃーねーんじゃね?男と女ってそんなもんだろ?惚れちまったら常識なんてクソ食らえだからな!」
ちょっとブルーになっている玲於奈の頭をポンポンっと優しく叩いて大輝は見えて来た海を指差して笑った。
「思いっ切り叫んでみるか?スッキリするぜ!!バカヤローとか叫んじまえよ!へへへ♪」
「もぉ~!!大輝のバカ!!人が真剣に悩んでるのに!ふざけないでよね!(笑)」
玲於奈は大輝の背中をバシバシと叩いて声を上げて笑い出した。
確かに大輝の言う通り男と女ってそういうものなのかもしれないと思うともうこの世に居ない母親の事で頭を悩ましていても仕方ないと思えて来た。
「死んじゃったママの事で生きてる私が悩んでも仕方ないよね!もうママは居ないんだから!」
「そうだな!あれこれ考えても始まんねー!お前はお前だからな!」
大輝と玲於奈は素足になって少し砂浜で引いては寄せてくる波を感じながら肩を寄せ合って歩いていた。
「理奈さんと翔さん・・・結婚するのかな?」
「多分、しないだろうな・・・翔さんにその気がないからな!なんか一生一人で良いって仲間の前で宣言してたぜ!結婚なんてしないってな!面倒臭えんだってさ!」
玲於奈は大輝の言葉に少しホッとしていた。父親代わりのような翔に理奈のような奥さんが出来たら玲於奈はもうここには居られないような気がしていたし何故か玲於奈は理奈に嫌悪感を感じていたからだった。
「もしも翔さんが結婚しちゃったら大輝がずっと一緒に居てよね!」
「ああ!ずっと一緒に居てやるよ!」
それでも不安だった玲於奈は大輝に詰め寄り二人は堅い約束を交わして抱き合って誓いのキスをしていた。




