第十四話 幼い日の記憶
理奈の姿を見て玲於奈はハッキリと幼い日の記憶を取り戻していた。
玲於奈が8歳だった夏休みにこの街へ母親と訪れて翔や母親の友人たちと楽しく過ごして帰ろうとしていた駅のホームに確か理奈は凄く怖い顔をして追いかけて来て
「どういうつもりなの?!翔は私のものよ!!あなたはこの街も翔も捨てはずでしょ?!それなのにまたのこのこと帰って来て私から翔を奪うつもりなの?!もう二度と帰って来ないで!!」
そう叫んで母親の頬に平手打ちをしてしゃがみ込んで泣いていた女が理奈だということをハッキリと昨日の事のように思い出していた。
あれから7年の月日が経ってはいるけれども理奈はあまりあの頃と変わらず綺麗なままだった。
そしてあの日からこの街へ母親と来ることは無かった。
子供なりに不思議には思ってはいたが何故か玲於奈は母親にこの事を問うことは出来無かったのだ。
そしてそのまま月日が流れていつの間にかそんな事は忘れてしまっていた。
理奈に腕を無理やり引っ張られて店の外へ連れて行かれた翔はこちらを見て口をパクパクさせて気にしながらも車に乗り込み理奈とどこかへ行ってしまった。
「初めてじゃないわ!私・・・あの人知ってるわよ・・・駅のホームでママに平手打ちした女だもん!」
「ま・・・マジで?!理奈さんが・・・真李亜さんに平手打ち?!ええー?!」
玲於奈の話を聞いて大輝は驚いて水を吹き出しそうになって咽て咳き込んでしまった。
「ハッキリと思い出したわ!私が8歳の時に帰りの駅のホームであの人がママに翔さんを自分から奪うつもりなのか?!って叫んで泣いていたの・・・そしてその日を最後に私達はこの街へ来ることは無くなったわ・・・」
「そうだったのか・・・きっと翔さんと真李亜さんと理奈さんの間でその頃に何かがあったんだろうな!大人の事情ってやつがさ!」
大輝は平静を取り戻してその時の光景を思い浮かべて自分達には立ち入れない何かがあったんだろうと玲於奈を宥めることぐらいしか出来無かった。
「そうだ!海!海見に行こう!ね?いいでしょ?すぐそこじゃない?」
「あああ!良いぜ!行くか?海!!」
突然声を上げて玲於奈が海へ行きたいと叫んで大輝に詰め寄ってきたので大輝はすぐに了承してニィッと笑って伝票を持って席を立った。
玲於奈と大輝はカフェを出てそのまま手を繋いで徒歩で海岸へ向かっていた。
「こんな日だったわ!凄く空が青くて太陽が眩しくってお店の前で翔さん達とママとバーベキューして過ごして駅まで送ってもらってホームでママと電車を待っていたら・・・理奈さん・・・すっごく怖かった・・・でもママはどこか冷静だった。どうしてだろう?」
「色々あったんだって!!真李亜さんも理奈さんも女だからな!翔さんも男だぜ!男と女には色々あんだって!!俺とお前もそうだろ?」
大輝は少し浮かない顔をして俯いている玲於奈を抱き寄せて顔を近付けて優しくキスをしていた。
その瞬間、玲於奈にもう一つの幼い日の記憶が蘇ってきた。
「あ?!・・・翔さんとママがキスしてるの私・・・見た!」
玲於奈はそう言ったまましばらく大輝の腕にしがみついて黙って動かなくなってしまった。




