第九話 大切なもの
夜の9時を少し過ぎた頃に現総長の恭介がバイクに乗って現れて大輝達はまた物凄い爆音を上げて海岸通りへ仲間を引き連れて夜の闇へと飛び出して行った。
この間の夜に玲於奈は気付かなかったが大輝の特攻服には『特攻隊長』の文字が刻まれていて背中には『喧嘩上等』と刻まれている事に気付いて少し玲於奈は驚いていた。
玲於奈がそんな大輝の様子を少し心配そうに眺めていたので後ろから翔はそっと玲於奈の肩を抱いて優しく頭を撫でていた。
「心配すんなって!捕まっても少年Aだ!少し説教食らって出てくるだけだ!それに大輝や靖弘はそう簡単には捕まらねえしな!へへへ♪」
「流しに行っただけよね?バイクで走っているだけでしょ?大丈夫よね?」
玲於奈は昨日の夜にたまたま着替え中の翔の背中の大きな傷跡を見てしまったことで大輝たちの事も心配になってしまったのだった。
「今日は流しに行っただけだ!!そりゃー野郎同士でたまには喧嘩もあるぜ!あいつらはそういう世界で生きてんだからな!」
「わかってる・・・でもやっぱなんかやだ・・・」
宥める翔を振りきって玲於奈は店の外へ出て月明かりに照らされている夜の海をジッと眺めながら大輝たちの無事を祈っていた。
「男のほうがロマンチストなのよ!」
昔・・・玲於奈の母親が小さな玲於奈にそう言って笑っていた。
「女はいつでも現実的だからね!」
確かにそうかもねと今になって玲於奈は母の言葉に頷いていた。
母親を亡くしてもう無くすものは何も無いと玲於奈は思っていた。
それがこの『うみねこ』に来て翔と大輝をとても大切に思うようになっていた。
温もりをくれる父のような翔と明るい日常を一緒に過ごす兄のような大輝の存在はたった数日でも玲於奈にとってとても大きなものになっていた。
落ち着かない様子で玲於奈は店の片付けをしながら明日の朝の仕込みを済ませてあと少しで日付が変わる頃になってやっと大輝は戻って来た。
戻って来た大輝の姿を店の中から見つけた玲於奈は片付けの手を止めて店を飛び出してバイクから降りた大輝に勢い良く抱きついていた。
「ありゃーマズイんじゃね?」
「ああー!マズイかもな?(苦笑)」
そんな玲於奈を見ていた翔と裕章は大きな溜め息を吐いていた。
「え?オイオイ!どうしたんだよ?玲於奈?何だ?どうした?」
「すっごく心配だったんだからね!すっごく・・・すっごく心配したんだからね!」
突然玲於奈に抱きつかれた大輝はどういうことかわからないまま玲於奈をその腕で強く抱きしめていた。




