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お化け少女と契約《エンゲージ》 2013 クリスマス編

この作品は、『お化け少女と契約

エンゲージ

』という作品の番外編です。

先に『お化け少女と契約

エンゲージ

』を読まれることを強く推奨します。


『お化け少女と契約

エンゲージ

』http://ncode.syosetu.com/n0228bt/


原作、監修:探偵コアラ

執筆:譲木 那音

 白銀の雪が舞う空は、とても幻想的だった。太陽の煌め街を覆い、夜明けの時を告げる。今までにも経験した事のある朝だった。だけど、今までと「同じ」では無い。何故ならここは―


「魔法の国」なのだから



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



魔法国「ファンタジア」の景色は何もかもが新鮮で、驚きの連続だった。

俺や弥生、そして陽花さんとリクは、ラグさんが用意してくれたホテルのロビーで、窓から外の景色を見ていた。

美しい雪は少しずつ降り続け、積っている。あともう少し積もれば雪だるまぐらい作れるかも知れない。そう思った時だった。遠くからゆっくりと足音が聞こえ、その姿が見えてくる。ラグさんだ。 

やがて彼は、俺たちの前で立ち止まり、今日最初の笑顔を見せてきた。



「おはよう。みんな揃ってるね」



 澄んだ声がロビーに響く。



「おはようございます、ラグさん」



 俺がそう言うと、他のみんなも挨拶を返した。するとラグさんは頷き、何か思いついたような仕草を見せた



「そう言えば、今日はみんな何か予定はあるの?」



 ラグさんの問いに、リクが無邪気に、あるいは若干拗ねたように応える。



「そう言われても、ファンタジアに来たばっかりでなにもわからないから、予定なんかないよね、陽花」



 リクのそれを聞いたラグさんも、思わず苦笑した。



「あぁ、そっかそっか。ごめん、それもそうだね」



 ひとつ咳払いをして、続ける。



「それじゃあ、オススメのレジャー施設を紹介するよ。せっかくのクリスマスだし、今日はそこで遊んでおいで」



 ラグさんの声に、我ながら反応してしまった。魔法の国の……と想像するだけでワクワクする。それはみんなも同じなのだろう。特に弥生なんか、露骨にテンションが上がっている。

リクは首を傾げ、隣に居る陽花さんのシャツの裾を引っ張った。



「ねー陽花、レジャーってなに?」


「遊園地の事だよ。これからみんなで遊園地に行くの」


「ほんと? わーいわーい♪」



 話しを理解したリクも嬉しそうに、陽花さんの周りをパタパタと走り回る。そんな彼の姿を見て、陽花さんが優しく微笑んだ。独特の楽しい雰囲気。するとラグさんが、少し申し訳なさそう俺の顔を見てきた



「あっ、春人くんは申し訳ないけど、今日一日、ちょっといいかな? 大事な話があるんだ」


「あっ……はい、わかりました」



 内心少しがっかりしたが、俺もラグさんに聞きたいことが色々あったからちょうど良い。レジャーにはまた別の機会に行けばいいだろう。

そんな事を考えていると、弥生がこちらを見上げてきた。



「あぅー、ハルは行かないのですか……。残念です」


「まぁ、弥生たちは俺の分まで楽しんでくれ。きっと楽しい乗り物も沢山あると思うからさ」



 俺は彼女の頭に手を乗せ、撫でた。その途端、また元気を取り戻した弥生。「はい、しっかり楽しんできますね!!」と言って大きく頷いている。彼女の後ろではリクもそのマネをしていた。目の前で元気に頷く2人のオバケ。そんな面白い光景に、思わず笑ってしまった



「それじゃあ弥生ちゃん、リクくん、陽花さんは準備をしておいで。手ぶらで大丈夫だから、着替えてくるだけでいいよ」


「はい、分かりました」



 陽花さんを筆頭に、言われた三人が部屋に戻った。するとラグさんは改めてこちらに視線を向けてくる



「ごめんね。ほんとは春人くんにも楽しんで欲しかったんだけど……」


「いえ、大丈夫ですよ」



 そう言いながらラグさんの顔色を窺うが、表情が読めない。良い話題か悪い話題かさえ分からなかった。



「それで、その、話って……」


「まぁまぁ、そんなに焦らないで。大丈夫、悪い話じゃないよ」


 言葉の途中で遮られた。ラグさんは苦笑いしている。まるでさっき思ったことを悟られたような言い方だ。これも魔法によるものかは、分からないけど。



 そんな話をしているうちに、弥生たちが部屋から戻って来た。揃いも揃ってオシャレな格好をしている。

 弥生は薄いクリーム色のワンピース。フリフリ付きのロング丈で、まるで外国のお嬢様みたいだった。

 陽花さんは黒のノースリーブシャツに、ショートデニム。かなりアクティブな服装だ。これはインパクトが強い。

 リクの服はおそらく陽花さんが選んだのだろう。グレーのベスト、白いシャツにグレーのスラックスが統一感を出している。



「それじゃあ案内人さんを呼ぶから、ちょっと待っててね」



 指をパチンとならして、呪文のようなものを呟いた。ラグさんを淡い光が包んで、すぐに消える。そして、俺達は驚愕した。

 「ちょっと待ってて」なんて、それこそ冗談のようだった。ラグさんの隣に女性が立っていたのだ。

 肩に触れるか触れないかくらいの金髪に、タイトなスーツを着ているその女性は、ラグさんに向かって真っ直ぐな、だれど優しい視線を向けていた



「ジュリー、いつも悪いね。僕の大切なお客さんだから、よろしく頼むよ」


「はい、かしこまりました」



 そしてジュリーと呼ばれた女性が、陽花さんたちの方を向いて言った。



「本日皆様の案内人を務めさせていただきます、ジュリエットと申します。よろしくお願いいたします」



 よく通る凛とした声で自己紹介と挨拶をしたジュリエットさん。ふと弥生を見ると、左右それぞれの握りこぶしを胸の前で振り、瞳をキラキラ輝かせている。

 そんな弥生の視線を知ってか知らずか、ジュリエットさんはクールに弥生たちを玄関へと連れて行く。



「玄関を出た所で転移致しますので、行きましょう」



 弥生たちも促されるまま、ジュリエットさんについて行く。



「ハル、行ってきますね」


「ハルくん、お土産たくさん買ってくるから、楽しみにしててね」


「いってきまーす!!」



 皆が行った後、ラグさんが口を開いた。



「春人くん、ごめんね。話しておきたい事があって……」


「あ、いいえそんな……。それで、話って」



 そこまで言ったところで、またもや遮られた。



「何度も長引かせてごめんね。けど、とりあえずコーヒーでも飲もうよ。お互い、落ち着くためにさ」



 そう言って、ラグさんはカフェに俺を案内してくれた。

通路は壁と天井が、清々しいくらいの白で完全に統一されている。

廊下の部分は真っ赤なカーペットが敷かれていて、イメージにある高級ホテルそのものだった。

しばらく歩くと、テラスに着いた。ラグさんが歩くのを止めたところをみると、どうやらここがカフェのようだ。


 それからラグさんが注文しに行って、俺は適当な席に座る。戻ってきたラグさんも同じテーブルの椅子に座った。

コーヒーが来るまでは、お互いに何も言わず、ただ景色だけを見ていた。そしてコーヒーが来ると、ラグさんはそれを一口飲んだ



「ふぅ……やっぱりおいしいなぁ。……それでね、話なんだけど……」



 カップを片手に、今度はラグさんの方から切り出してくれた。まだ熱いコーヒーを飲むのを止めて、俺も改まる。



「はい」


「春人くんは魔力を持っているって話しは、この前したよね?」


 俺が相槌を打つ間に、また一口、ラグさんはコーヒーを啜った。


「……ここはファンタジアだし、魔法研究会の警備もしっかりしてる。だけど、もしかしたらまた君や君たちが誰かに襲われることもあるかもしれない」


「それは……確かに、そうですね」


「そこで、提案っていうかお願いなんだけどさ。今から教える簡単な魔法を習得してもらいたいんだ」


「魔法……? 俺が、ですか?」


「自衛も兼ねて……といっても、教える魔法は攻撃魔法なんかじゃないんだけどね」


 苦笑するラグさん。俺は堪らずコーヒーを一気に飲み干した。

頭の中が火照って、でも妙に冷静なのが自分でもわかる。


「俺に……出来るんですか?」


「確かに簡単な魔法とはいっても、『スキル』だって使うし、すぐに使えるようになる訳じゃない。ただ、春人くんだったら出来そうな気がするんだ」


「俺、やってみたいです……! その魔法、教えてください!」


「うん、君ならそう言ってくれると思っていたよ」




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




 朝のブレークタイムが終わって、ラグさんに次に案内されたのはホテルの別館にある「魔法試施室」という場所だった。

 ここはファンタジアの中でも一際「魔力原子」が多いらしく、特に魔法の練習に向いているそうだ。

この別館には他にも魔法を扱うのに適した部屋が一杯あるそうで、もしかしたらラグさんがこのホテルを用意してくれたのはこういった理由もあるかも知れない。



「さぁ春人くん、中に入って」



 ラグさんがドアを開けると、小さなテーブルがいくつかあるだけの、殺風景な部屋だった。促されるまま、一歩足を踏み入れる。その時だった。体全体に強烈な違和感を感じ、大きく震えてしまった。呼吸が少し荒れ、目まいがする。

 するとそんな俺に気付いたのか、ラグさんが体を支えてくれた



「ああ、ごめん。さっきも説明した通り、この部屋には普通の場所と違って大量の魔力原子にあるから、慣れてない人は圧を感じてしまうらしいんだ。慣れるまでは気持ちわるいかもしれないけど、すぐに慣れるから」



 ラグさんはそう言って背中をさすってくれる。二、三回深呼吸をすると、違和感はなくなったような気がする。



「もう、大丈夫かな?」


「はい、もう大丈夫です。すみません」



 ラグさんは小さく頷く。そして中央まで歩いて行き、これから教えて貰う魔法について説明を始めた。



「君には、≪イマジネクト≫という魔法を覚えてもらおうかと思うんだ。簡単なモノを『創りだす』魔法だよ。例えばね……」



 そう言ってラグさんは右手を開いて掌を天井に向ける。そして、静かにそれを詠唱した。



「≪イマジネクト≫」


 ラグさんの掌の周りに眩い光の粒がたくさん現れ、それがゆっくり合わさっていく。そしてその光が消えた後には、掌の上には小さなリンゴがのっていた。



「すごい……」



 無意識にそう言っていた。目の前で起きた非現実的な、だけどこの国では至って当たり前の現象に。



「ありがとう。でも、君もこれが作れるくらいには頑張って貰うからね」



 そう言ってラグさんはリンゴを一口かじる。そして思い出したように、もちろんこれは本物のリンゴだと説明した。



「俺に、これが出来るんですか……?」


「もちろん。君は素質があるし、ちゃんと練習すればね」



 ラグさんは俺が頷いたのを確認して、言葉を続ける。



「この魔法に必要なのは、『集中力』と『想像力』の二つ。どちらかだけじゃダメだ」


「『集中力』と『想像力』……」


「まぁ、言葉で説明するより実際にやってみるのが早いかな。やり方を教えるね」



 そう言ってラグさんは、俺の隣に戻ってくる。



「いきなりやるって、そんな……」


「いいから、いいから」



 強引に遮ると、分かりやすくやり方を教えてくれる。



「まずは、創りたいものをイメージするんだ。具体的にね。そして、そのイメージがきっちり固まったなら、モノを出す『座標』を決める。だいたいは掌だったり、目の前のテーブルや床だったり。最後に、スキルを起動させる。≪イマジネクト≫って言うんだ。これだけ。簡単でしょ?」



 説明を聞く限りでは、確かに簡単そうではある。想像もつかない手順があったりする訳じゃない。

なによりラグさんが、「とりあえずリンゴを出してみよう」と言うから、試しに俺もやってみることにした。

 肩の力を抜いて、目を瞑る。大きく深呼吸して、イメージを始める。イメージしたのはリンゴ。座標もラグさんと同じく掌をイメージ。掌を上にして、右手を前に差し出した。そして



「≪イマジネクト≫」



 目を閉じていてもわかるくらい、眩しい光が俺を覆った。

 すると、掌に何かがのった感覚。恐る恐る目を開けると、そこにはリンゴがひとつ――ただし、かじった跡があった。



「うーん、春人くん、惜しいね。ちょっと違うかな……」



 どうやらこのリンゴは、ラグさんがのっけたらしい。

 ラグさんはリンゴを取ると、欠けている部分が俺には見えないような角度でそれをテーブルに置いた。



「君には、これがどういう風に見える?」


「どうって……赤くておいしそうなリンゴに見えます……」


「うん、それは僕にもそう見える。だけど、この魔法を使うなら、そんなシンプルなイメージじゃいけないんだ。大事なのは『想像力』。たとえば、これを食べたらこんな味なんだろうなー、とかね」


「想像、ですか……」


「うん。それもできるだけたくさん想像できたらいいね。君は『集中力』をしっかり使えたから、それで光は集まった。だけど、肝心のイメージが未熟だったから、光は行き場をなくして、消えてしまったんだ」



 モノの素になる光は、イメージした通りの形になる。だから、イメージが不完全だったら魔法は成功しないっていう理屈。

 それだけ聞けば簡単そうだが、実際に使うにあたって要求されることはとても難しい。



「まぁ、誰だって最初から出来る訳じゃないよ。それどころか、春人くんは一回目で片方の課題をクリアしてるんだから、やっぱり素質があるよ」


「ラグさん、ありがとうございます。俺もう少しイメージ頑張ってみます」



 そして、朝から始まったその練習は、昼の休憩を跨いで夕方、弥生たちが帰ってくるまでずっと続いた。

 だが、とうとうその日の内にラグさんから合格を貰えることはなかった。




☆     ☆     ☆     ☆     ☆




 本館のロビーで弥生たちと再会し、各自自分の部屋に戻ることになった。

 ラグさんとの別れ際に、ラグさんは優しい眼差しを向けてくれた。



「春人くん、何度も言うようだけど君は本当に素晴らしい素質の持ち主なんだよ。あと一つ、ちょっとしたキッカケがあれば、すぐにできるようになるさ」


「はい、ありがとうございます」



 そう言ってラグさんと別れ、ラグさんも自分の部屋に戻っていく。

 俺は楽しそうに話をする弥生たちを見ながら、それでもまだ魔法のことについて考えていた。

 惚けている俺に、陽花さんが声をかける。



「ハルくん、今日はお疲れ様。ラグさんと二人っきりでなにをしてたのかな~?」



 と、表情にこそ出ていないが、明らかにこの人、内心ニヤニヤしてるに違いない。

 陽花さんの隣ではリクも彼女のマネをしている。というかリクに関してはもう表情に出ている。

弥生も何と言えばいいのかわからないらしく、俺と陽花さんを、交互に首をブンブンさせて見ている。

 別に魔法の練習をしていたことについてラグさんに口止めされていたわけではないし、ましてやこの人たちになら話してもいいだろう。



「実は……魔法の練習をしていたんです。ラグさんに付き添ってもらって……」


「魔法? すごいね、ハルくん!! できるようになったの?」



 手をパチンと合わせて組んで、陽花さんが首を若干傾ける。リクもまるで陽花さんの操り人形のように、首を傾げた。弥生は目を大きく見開いて、こっちに駆け寄ってきた。



「ハル、本当ですか? どんな魔法なんですか?」



 みんなの期待が一直線に集まる中、俺は重たい口を開く。



「モノを創る魔法なんだけど、まだうまく使えなくてさ……もうちょっと練習が必要みたいなんだ」



 それから俺は、みんなに今日のことを話した。

 一つ説明するたびに、みんなはリアクションをしてくれて、とても話しやすかった。

 魔法試施室のこと、≪イマジネクト≫のこと、そして想像力が足りないらしいこと。

 一通り説明が終わると、リクが真っ先に口を開いた。



「だったらさー弥生ちゃん、魔法の練習で、ハルに誕生日プレゼント作ってもらったらどう?」


「えっ……?」


「誕生日……プレゼント……?」



 キョトンとする俺と陽花さん。そんな俺達を見て、弥生があたふたと手を振り始めた



「あっ、いえ、その……」


「だって、今日はたしか弥生ちゃんの誕生日だったよねー?」


「あぁリク、言ったらだめですよ……あぁ……」



 今度は反対に、リクがキョトンとして、俺と陽花さんは納得した。



「そっか!!弥生ちゃん、今日が誕生日なんだ!! おめでとう!!」


「あっ、ありがとう、ございます……うぅ、恥ずかしいです……」



 弥生はうずくまり、顔を真っ赤にしている。



「弥生、おめでとう。それにしても、もっと早く言ってくれればよかったのに。なんで黙ってたんだ?」


「だ、だって、恥ずかしいじゃないですかぁ……」


「恥ずかしいってお前なぁ……。まぁそれはともかく、何かお祝いしなきゃな。弥生、何がいい?」



 そこで陽花さんが呟いた。



「だからハルくん、リクが言ったとおりだよ」


「えっ?」


「ハルくんが魔法でプレゼント出してあげればいいんじゃない? 魔法の練習も兼ねられるし、弥生ちゃんが欲しいものだったらイメージもしやすいだろうし」



 弥生の方を見ると、否、見ようとすると弥生はつま先立ちまでして俺を見ていた。



「ハル……できるんですか? 創れるんです?」


「いや、それは……やってみないとわからない。というか、正直難しいとは思う。俺はまだ「想像」が出来てないわけだしなぁ」


「じゃあさーハル、『想像』は弥生ちゃんに任せちゃったらどう? ハルが『集中』して、弥生ちゃんが『想像』するの。そしたら成功するー?」


「でも、それってできるのか……?というか、そもそも……」


「もー!!ハルは弥生ちゃんのパートナーなんでしょ? 「エンゲージ・クレスト」もあるんでしょ? だったらやるの!!いい?」



 頬をプクーっと膨らませたリクに怒られてしまった。不思議と説得力がある。



「わかった。それじゃあ弥生、やってみようか」


「ハル、いいんですか……?」


「もちろん。やってみないうちから諦めちゃいけないよな。よし!!」



 そう言って、弥生の左手を強く握った。その瞬間、柔らかくて小さなその手が俺をドキっとさせる。弥生の手はこんなにもか弱くて、だけど愛おしいんだなと実感させてくれた。ふと弥生を見てみると、心なしか赤くなっている様に見える。



「(かわいい……って、俺は何やってるんだ!!)」



 冷静になった俺は、慌てて魔法の実行に移る事にした



「弥生、目を閉じてじっくり想像してみてくれ。欲しいプレゼントが手に入った時の、自分の姿を」


「はい。いきますよー……」



 その声を聞いてから、俺もじっくりと目を閉じる。

 弥生の鼓動が伝わる。息遣いが伝わる。そして、イメージが。



「≪イマジネクト≫」



 何かが集まって来るのを感じる。俺と弥生を包み込んでいく。

 握りしめた掌どうしが熱を帯びている。

 そして手の甲――「エンゲージ・クレスト」がある部分も、とても熱い。

 まるで時間が止まっていると思うくらい、長い間それは続いた。

 やがて力が抜けていくのを感じた。


 弥生が目を開けたらしく、嬉しそうな声に呼ばれた。



「ハルっ!!ハルっ!! 見てください!! 成功しましたよ!! すごいです!」



 目を開けると、そこには大きな箱を持った弥生。そして、驚いている陽花さん、リクがいた、どうやら俺は魔法の発動に成功したらしい。周りの状況と、体の微妙な脱力感がそれを物語っている



「ハル、開けてみてもいいですか?」



 やっと状況を理解した俺は、弥生のお願いに頷いた。返事をするやいなや、弥生は箱を持って少し離れたテーブルへ走って行く。そして箱の蓋を少し開けて、覗き込むように中を確認した。



「……っ!! すごい! すごいです、ハル!」



 その場でピョンピョン跳ねる弥生。きっと喜びをどう表現していいか分からないらしい。そこへ、ラグさんが息を切らして走ってきた。



「春人くんっ!!今、すごい魔力を感じたんだけど……何かあったの?」


「あっ、それは……」



 そして彼は弥生と、箱を視界に捉えた。



「まさか……≪イマジネクト≫が成功したのかい? ここは試施室でもない普通の部屋なのに……」


「……はい、できたみたいです。弥生が『イメージ』してくれました」



 そう言いながら、俺はラグさんに右の手の甲を見せた。



「それは、前に話してくれた契約の……」


「はい、そうです。この「エンゲージ・クレスト」が、弥生と俺を繋げてくれました」



 ラグさんは、目を輝かせていた。



「これは、『魔力』と『霊力』を融合させるのか……すごいよ、君たちは本当にすごい……」



 脈絡もなく褒められて、俺はただ言葉を閉じ込めた。ラグさんはまだ肩で呼吸をしながら、言葉を続ける。



「明日の朝、また話を聞かせて。僕はちょっと、やることができたからさ」



 部屋に戻るラグさんに一礼をして、俺は彼を見送った。



 弥生、リク、陽花さんの三人はこれ以上ないほどはしゃいでいた。

本当に嬉しそうで、見ていてこっちまで幸せになる。



「ところで弥生、弥生はなにをイメージしたんだ?」



 そう問いかけると、弥生はこっちまで駆けてくる。そしてニッコリと笑った。



「えへへ……秘密ですよ♪」

こんばんは、那音です!

メリークリスマス!


今回のコラボ小説、楽しんでいただけましたでしょうか?


前回の短編がコアラさんに好評でして、クリスマス編も……といった次第です。


今回は新要素が入ってきてますね。もちろん原作に準拠しています。


書いてて楽しかったです。


短編コアラさんならびに読者の皆様、優しい声をかけてくださった皆様、ありがとうございました。


良いお年を!

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