呪術師の枷
ギルドの説明会。
説明部分は軽く読み流して貰っても多分話は分かります(笑
一部、偽クノイチの同様のシーンから持ってきているので似た会話があります。手抜き陳謝。
俺が案内されたのは壁一面が本で埋まっている奇妙な部屋だった。
さらには床一面には…いわゆる魔法陣と言うのだろうか、奇妙な模様が円を描いている。
「ヘーイ、少年、良く来たね♪これから能力の焼き付けを行うけど、怖がらなくて良いんだよ~おねーさんが優しく教えてあげるから♪むっ……むしろ、この後お時間あるかな~みたいなっ」
その部屋で待っていたのはイヤにハイテンションな金髪美女だった。
白いローブの胸元は凶悪に押し上げられている。
身長は……俺より少し高い位か……くそ。
「色々ツッ込みたいところではありますが、とりあえず俺は成人なので『少年』はやめて頂きたい」
「え!? まさかの合法ショタ!?」
合法かどうか以前に俺の同意があるかを問題にしてください。
あと、俺の身長はそこまで低くねぇ。あんたがでかいんだ。
「あー、もう良いですから、さっさと仕事をしてください-」
「イ・ケ・ズ♪……仕方ないわねー、じゃあクラスの焼き付けを……って、呪術師でいいの?……なんていうか……冒険者としては凄く中途半端な職よ?」
残念な金髪美女は手元の書類を見ながら俺に確認してきた。
「……なんというか、他に選択肢が無いもので」
「そ、そう……あの、気を落とさないでね」
ハイテンション美女が一瞬素に戻るほど残念な職なのか、とますます俺は落ち込んだ……
※
クラスの焼き付けを終えた俺は無事に呪術師となってトオコさんの所へと戻ってきていた。
「ただいまーなんとか終わったよ」
「ああ、無事に終わったようですね。それは重畳」
「うん、で、ギルドカードとやらを貰った」
俺が貰ったのはスマートフォンサイズの銀色の板。
これは各人の素質や職によって色が違うそうだ。
「では、先ほどの窓口でギルドやカードの説明を受けるとよろしいでしょう」
「ああ、うん、そうするよ」
さっきの……あ、あのおっさんの窓口か。
俺がおっさんの窓口に近付くと、おっさんもこっちに気が付いたみたいで、手を振ってきた。
「よう、無事に終わったみたいだな。じゃ、軽く説明しようか」
「あ、ああ、お願いします」
「うん。まずは自分のカードの内容を確認してくれるかな。カードの表面に指を当てて『表示』と唱えるとと内容が表示されるから」
「はい……『表示』と……おお、出ました!」
――――――――――――――――――――――――――――――
氏名 神楽十蔵 21歳 男性
総合レベル6 ギルドランクF
クラス メイン呪術師LV6
サブ 魔道具師LV3
HP 54(MAX54)
MP 10650(MAX10650)
ステータス基本値(実効値)
STR 10(15)
VIT 09(14)
DEX 15(23)
SPD 11(16)
INT 13(20)
MID 13(20)
称号
真なるマナの申し子
固有スキル
魔力自動回復
魔性の指
魔力使用制限解除
属性補正
全属性+5
祝福
母の愛
――――――――――――――――――――――――――――――
スロット数1
所有スキル 加速、素材調達、製薬、呪術1(解析、ヒールⅠ)
セットスキル【加速】
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お、クラスが呪術師になった他にもスキルに呪術1ってのが増えているな。
レベルが上がっているのは……ボアオークを落とし穴に嵌めたせいか。
「君は今まで無職だったからね、レベル6分の経験値は自動的に初期クラス――呪術師に組み入れられる。初めから『呪術1』ってスキルを覚えていたのはそのせいだ」
「ふんふん……あと『魔力使用制限解除』ってのも増えているんだけど、これは何?」
「なに?……これはまたレアなスキルを……あんた、なんか最近無茶な魔力の使い方をしなかったか?」
「……まあ、無茶な倍掛けとか色々したな」
「そうか……普通は倍掛けってのはレベルが低くてもMPがあれば10倍までは掛けられる……だが、それ以上はレベル分までしか出来ないもんなんだ……レベル20なら20倍まで、とかな。ただ、たまにお前さんみたいに先天的にその制約に縛られないヤツがいるんだ。そんなお前さんの特性がクラスを得たことによってはっきりと固有スキルという形で表れたんだろうな」
「ん?まて、職員殿、倍掛けが10倍以上は自己レベルまで、なんて話は聞いた事が無いぞ」
脇で聞いていたトオコさんが疑問を洩らす。
「まあ、そうだろうな……普通、自分のレベル以上の倍掛けなんて、そもそも大抵MPが足りん」
「そ、そうかファイアボルトを私がレベル分……29倍で撃とうとしたら145……ほとんどMPを使い尽くしてしまう……確かにそんなことはしないな」
「まあ、つまりあんたはそういう無茶が出来るだけのMPがあるって事なんだろうが……迂闊にギルドカードを見られたりするなよ? トラブルに巻き込まれたくなかったら、普段はMP欄と固有スキル欄だけでも消しとけ。こう、指でなぞりながら『隠蔽』って唱えれば消えるから。見る時は『隠蔽解除』だ」
「あ、ああ、了解だ」
まあ確かにトラブルには巻き込まれないに越したことは無いしな。
「……話が脇道に逸れたが、カードの説明を続けよう
氏名、性別、年齢、はそのままの意味だ。
総合レベルは所有クラスの中で一番レベルが高い物が適用される。
クラスは同時に複数所持できるが、メインクラスと同等の経験値を受け取れるのはメインの他に1つまでだ。
ここで注意するのは、サブクラスのレベルはメインクラスの半分が上限だって事だ。
最も経験値が減った訳では無いから、サブクラスをメインクラスにすればレベルも適正な値まで上がる。
メインクラスの交換はギルドに来てくれれば請け負っているぞ。
ギルドランクはギルド内でのあんたの評価だな。
ギルドランクは上から順にEX、S、A、B、C、D、E、Fとある。
登録したばかりのあんたはFだな。
ちなみにCでベテラン、Bで一流、Aで超一流、Sは英雄クラス、EXは伝説クラスと言われているな。
HPは生命力
MPは魔力
STRは腕力
VITは体力、頑健さ
DEXは器用さ
SPDはスピード
INTは知力
MIDは精神力
をそれぞれ表してる。
HPMP以外のステータスは成人で平均8~12で、人間だと最高値は各18。
しかし、レベルが高いほど実際の効果は補正がかかる。
各ステータスの右に()で括って表示されているのがそうだ。
称号は神々が認めた二つ名のようなものだな。
固有スキルはクラス特有のスキルや個人の特性によるスキルで、スキルスロットに入れなくても効果を発揮するぞ。
属性補正は属性を持つ攻撃の威力や受けるダメージに関係する。
祝福は加護を受けている神やそれに準ずる存在のことだな。
……と大まかに言ってこんな所か……なんか聞きたいことは?」
「お、おう……」
正直、このおっさんが一気呵成に説明しだしたのに圧倒されて良く聞いて無かったが……そういえば。
「覚えたスキルにさ、呪術1のヒールⅠってあるんだけど……Ⅰって?」
「あー……それなぁ……普通は使い込んでスキルレベルが上がったりすると段々とⅠ~Ⅴまで威力や消費MPが強化されるんだが……上級職は最初からⅡ~Ⅴの高レベルスキル覚えてたりするしな」
「お、じゃあ俺も使い込んでいけば」
「育たない」
「え」
「呪術師が使えるのは初級呪文……Ⅰまでだから、呪文名の後ろに数字が付いているタイプの呪文をいくら使っても呪術師はパワーアップできないんだ」
「ちょ……おまっ……それ無理」
「まあ、それが……扱える呪文のバリエーションが多い割に冒険者から徹底的に人気の無い呪術師の理由って訳だ」
前略母上様……ここにキーボードがあればショボーン(´・ω・`)とかポカーン(゜Д゜)とかorzとか打ちまくりたい。そんな気分です。
「……まあ、なんだ。その分お前には豊富なMPがあるみたいだし? 倍掛けで強化できるから、な? 強く生きろ」
「……はい」
「で、最後は依頼だが……大まかに分けて討伐、護衛、採集、探索、警備、その他、の6種類ある。その掲示板にカテゴリーと依頼難度ごとに分けて張り出しているから後で確認するといい。依頼難度はギルドランクと同じくF~EXまである。受けられるのは自分のランクより2つ下~一つ上までだ。それから、依頼は最低でも3ヶ月に1回はこなさないと資格停止になるから注意しろよ……ま、細かいことはこの小冊子に書いてあるから後で読んどけ」
おっさんから渡されたのは『よく分かる冒険者の始め方。ギルド利用編』という冊子。
和紙のような材質で書かれており、赤と黒の二色だが印刷された物のようだ。
……凄いな。結構文明度が高いのかな。
「お疲れ様でしたな、十蔵殿」
「ああ、うん……説明聞いているだけなのに結構疲れたね」
主に精神的に。
「まあ、今日はボアオーク等とも戦いましたしな。もう宿を取って休んだ方がよろしかろう」
「ああ、そうするよ……ここらで治安がそこそこ良くて安い宿ってあるかな」
「で、あればギルドの隣がギルド直営の『冒険者の宿』で便利も良い。しかし……」
「あ、隣ね、ありがとう。よし、行くかー」
疲れたし善は急げってね。
「そ、その、お礼もしたいし、良ければ私の所に……っていない!?じゅ、十蔵殿ーー!?」
※
結果から言えば。
現代社会になれた俺からすると『冒険者の宿』は食事以外は満足できる宿では無かった。
風呂も無いし部屋はダニだらけだし。
しかし、不思議なことに俺が部屋に入った途端、ぞろぞろとノミ、ダニ、ゴキブリ、羽虫の類が一斉に出て行ってしまったのだ。どうやら装備品の虫除けの指輪の効果らしい。
その瞬間だけはヒッチコックの『鳥』みたいで怖気を振るったけど、結果的に衛生的なベッドで一夜を過ごせたのでよしとする。
「でも飯だけは美味いんだよな~」
本日の朝定食Aは炊きたての白米にお新香、大根?の味噌汁、サンマっぽい焼き魚と卵焼き。
実に正しい日本の朝ご飯だった。
「飯だけは余計だよ坊主!」
うっかり口に出してしまった一言に女将さんの手からナイフが飛んだ。
それは、『ダンッ!』と、とても良い音を立てて、きっちり俺が座ってたテーブルの真ん中に突き立つ。
……これ、ただのディナーナイフだよな? 刃の半ばまでめり込んでいるぞ、おい。
かろうじて俺の朝定食セットはお盆ごと待避できたので被害は無かったが……これからは女将さんを怒らせないようにしよう。
しかし、何者だ女将さん……赤毛でグラマラスな、一見30代後半に見える美熟女……といった感じなんだが、迫力が並じゃ無い。
「はっはー、ここの女将さんは昔はBランクまで行った凄腕の冒険者らしいからな~坊主、怒らせない方が良いぞ-」
隣のテーブルのマッチョ兄さんがそう忠告してくれる。やっぱりか。
「ええ、今まさに命の危険と共に感じたところです」
「馬鹿な事言ってないでさっさと稼いできな! 宿代が足りなくなったら追い出すよ!」
ここの宿代は朝夕食付きで30クラム……銅貨30枚。
残金、銀貨10枚、銅貨70枚。
……確かに稼がなければ一ヶ月ちょいで昼飯を食べなかったとしても生活が行き詰まってしまう。
ここは速やかに自活手段を模索せねば。
ということで早速冒険者ギルドへと顔を出すことにした。