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左官でバトル

虹の谷編終了。

切りの良い所で切ったので、ちょっと分量が少ないです。ごめんなさい。

 虹の谷は進むに従って薄暗くなり、樹木やツタがはびこる森のようになっていった。

 もはや先ほどの花畑が幻想だったのでは無いかと思う位だ。

 救いはここが谷の底で1本道な為、迷う恐れが無いって事か。


「いやー、しかし流石だね、こんな悪路をよくさっさか歩けるねぇ」


 トオコさんの足取りにはまったく持って乱れが無い。

 俺も実家は山の中だったから悪路には馴れているつもりだったが……トオコさんパネェ。


「うむ、セカンドクラスにレンジャーを取っているからな。『悪路踏破』の常時発動技能パッシブスキルのおかげだ……というか、十蔵殿こそ、足下が覚束無い割に無理なくついて来ておられる……レベル5とは思えん」


 おお、トオコさんに褒められた……照れるな。


「いや、実際の所『加速』スキルのお陰なんだけどね」


 と、ゆっくり(・・・・)答えながら効果時間の切れた『加速』をかけ直す。

 効果時間中は気をつけないとテープレコーダーの早回しみたいになってしまうのだ。

 加速は消費MP5で10分程持つ。

 俺のMP自体はどうやら毎分50ちょいずつ回復しているみたいなので、使い続けても問題ない。

 というか、花畑で使ったMPもすでに全回復しているしな

 俺のステータスに固有スキル『魔力自動回復』ってあったからそのせいかもしれない。


「あーところで……セカンドクラスって何?」


「あ、ああ、そこからか……あー、冒険者ギルドという所があってな」


 おお、定番ですね。RPGもどきの世界には。


「そこで、登録すると魔物と戦う力を得る為に、先人の努力の結晶――技術や知識や体使い、コツなどをデータ化して体に焼き付けてもらえるのだ……これは戦士系とか魔術師系とか系統別に分かれていてな、これを通称、職業クラスと呼んでいる」

「ふーん、じゃあセカンドクラスってのは同時に焼き付けておけるサブの職のことかな?」

「ああ、理解が早いな」


 伊達にその手のゲームをやり込んでませんぜ。


「昔はサブクラスには色々制限があったんだが……『成長しない』とかな。今はカグラ神様がマナを世界に満ちあふれさせてくださったお陰でメインクラスもサブクラスも隔てなく同時に成長できるようになった」


 母さん……一体この世界で何やってたんですか…… こりゃ、母さんの事は黙ってた方がいいなあ。

 ……等と黄昏れていると、真剣な顔をしたトオコさんが俺の側に体を寄せ、耳元に小さな声で囁きかけて来た。


「十蔵殿……囲まれております」

「うえ!?」

「魔獣……? いや、二足歩行の音……おそらくボアオークかと」


 ただのオークならゲームだとザコよりちょっとだけ強いって位置付けなんだけど、「ボア」オーク?


「トオコさん、ボアオークって強いの?」

「3体までなら私1人でもなんとかなろうが……」


 それ以上だと、レベル5の俺まで手が回らないって事か。


「十蔵殿、『加速』を持ってらっしゃいましたな。それを使えば十分奴らを攪乱できます。ただ……」

「あー、了解。攪乱に留めて手は出さないよ。武器も攻撃魔法もレベルも無いしね」

「……お願いいたします」


 トオコさんと俺は周りの気配を探りながら、じりじりと移動し、場所を小さな広場に移した。

 ここならどこからかかって来られても視界に入る。


「さて、いつまでも人の後を付けていてもしょうが無かろう? そろそろ姿を見せい!」


「ギ……プギィ!」(何で分かった!)

「ギギギキブヒィィィ!!」(久しぶりの女だぜぇぇぇ!!)

「フゴーゴゴ……」(が、がまんできん)

「ゴフフン、ゴフーブヒン」(男はほっとけ、女を捕らえるぞ)


 トオコさんの活に思わず飛び出してきたのは4体。

 ボアオークってのは文字通り豚じゃ無くてイノシシの怪物らしい。

 体毛も茶色く、牙が凶悪に長い……そいつらがそれぞれ片手剣や手槍を持ってこちらを威嚇してくる。

 ちょっとやばいか? とりあえず俺はせめてトオコさんの邪魔にならないようにしなければ。


「『加速』」


 加速をかけてそのまま一気に飛び出し、奴らの間を縫って包囲網の外へ出て、木の陰に身を隠す……どうやら俺はハナから奴らの危険物リストからは外れていたらしく、それはあっさり成功した。


「ブギッ!ブヒィィィィィィッ!!」(こ、この!避けるな!)

「ギギギィィィィッ!!」(痛えぇぇぇ!!)


 逆にトオコさんは奴らの集中攻撃を受けているが、まるで舞うがごとくその攻撃をことごとく躱しつつ、反撃している。

 すげぇ。


「あー……感心している場合じゃねえや……でも、攪乱っても……何をすれば良いのか……石でも投げるか」


 と、思ったが適当な石がない……あ、そうだ。


「『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』」


 習ったばかりの生活魔術を唱えると、足下に手頃な陶器製のレンガが。


「おお、出来た。もういっちょ……『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』」


 俺は生活魔術で作ったレンガを一つずつ両手に持つと『加速』で駆け回りながら木の陰からボアオークにそれを投げつけていった。


「ブォ!?ゴブフフゥゥ!!」(いてぇ!どこから投げつけて来やがった!!)

「プギ!ブギフゴガーーーッ!」(くそ!あの男のガキかーーー!)


 4体の内、2体がこちらに気を取られた隙に、トオコさんが1体を切り捨てる。

 それに気付いた残り3体が俺を探すのを諦め、再びトオコさんに対峙する。

 そこで、俺は妙なことに気が付いた。木陰に身を隠した俺の位置からなにやら揺れる草むら(・・・・・・)が見える。

 何事かと思って目をこらしていると、そこからもう一体の……一際体の大きいボアオークが姿を現した。

 まずいな……伏兵ってヤツ?

 ヤツの位置からだとちょうどトオコさんの背後に飛び出すことが出来る。

 このままだと挟み撃ちだ。


「ゴッフー」(一撃で決めてやるぜ)


 やつはトオコさんが3匹相手に剣を打ち合ったのを見計らって一気に飛び出した!

 まずい。トオコさんはまだ気付いてない!


「『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』個数×2!」


 俺は一気に二個のレンガを作り出し、そいつに投げつけるが、簡単にその手に持った片手斧で打ち払われてしまった……くそっ!どうせSTR10だよ!レベル5だよ!……なんか無いか、他に……トオコさんを守る壁でも出せれば……って、そうか!


「『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』効果距離×10!体積×500!!!」


 『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』の消費MPは3。その510倍、1530MPを使って俺はトオコさん(・・・・・)の背後に直接(・・・・・・)、陶器のレンガを生成した。しかも特大の。

 その高さは1.5メートルは優にあり、横幅は2メートル以上ある。レンガと言うよりも、すでに壁だ。

 これならトオコさんは前面の敵に集中できる。


「プギッ!!??」


 ドオオオンッ!!

 ついでに副次効果で奇襲しようとしたボアオークはセラミックの壁に激突して姿を消した(・・・・・)

 ……て、あれ?

 ボアオークどこ行った???

 と、俺が混乱している間に、トオコさんは手早く残り3体のボアオークを切り捨ててこちらへ戻ってきた。

 その途中、俺の作った巨大レンガの裏側を見て驚いていたが……なんでだ?

 まあ、しかしやっぱり強いね、トオコさん。しかも美人でネコミミでカッコいい。最高。


「ふう……十蔵殿、お怪我は?」

「あ、大丈夫ですトオコさんこそ……」

「ああ、私も大丈夫。かすり傷もありません。十蔵殿の援護のお陰で……それにしても十蔵殿はいつの間に『ロックウォール』の呪文など身に付けたのですか?ロックウォールは中級呪文だと思いましたが……」

「ろっくうぉーる?」

「ええ、しかも同時に『クリエイトピット』で落とし穴まで一緒に作り出すとは……やはり本当は賢者様なのでは」


 ……落とし穴?……あ。


「あー、ちょっと待ってくださいね。確認を……」


 俺は自分が作り出した巨大レンガを確認に行く。


「ああ、やっぱり……」


 そこにはレンガの裏側に沿うようにして同体積の土が消失しており、まさしく落とし穴となっていて……その中ではあの奇襲しようとしたボアオークが頭を打って伸びていた。

 つまり、巨大レンガを作る材料として消費された部分が偶然落とし穴(ピット)として機能したという事だ。


「あ、あはは……あー……トオコさん、誤解ですよ」

「私でさえ見逃した奇襲をいち早く感じ取り、私の背後をロックウォールで固め攻撃方向を一元化すると共に、奇襲にはピットによる罠で対処する……まさしく賢者の知謀!」

「い、いえ、だから……」

「ああ、分かっています。ステータスやレベルまで魔法で誤魔化していらっしゃるには、よほどの事情があるのでしょう。このトオコ・サヴァン、決して口外いたしませんとも」

「いえ、ですからね……」

「十蔵殿のまっすぐな心根、共に戦えば明らか。そのなさることです、信用に値しますとも」

「だからー」


 結局誤解を解くには1時間を要し、解けたら解けたで「ロックウォールなら同様な物が50MPで出来るのに……1530MP……」と微妙な表情をされたのだった。


          

次はやっと街です。

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