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エピローグ(2)継ぐ者と待つ者

劣化賢者本編最終話です。

――――――――――???――――――――――――


 御年11歳。

 種族 半獣人ハーフビースト

 ギルドランクE

 総合レベル9

 メインクラス 装飾魔道具使いリングマスターレベル9

 サブクラス 武術家アーツマスターレベル4(9)


 漆黒の長髪にビロードのような体毛の生えたとがった耳を持つ美少女。

 10歳の時に冒険者ギルドに加入、最年少ギルド員の記録を持つ。


―――――――――――――――――――――――――――


            ▽

            ▼

            ▽


 かららん。

 私が冒険者ギルドの扉を開くと、軽やかな鐘の音がなる。

 その音にいくつかの視線が集まるも、すぐにもとに戻る。

 最近はみんなやっと慣れてくれたみたいですね。


「いらっしゃい、チトセちゃん。今日はなんのご用?」


 いち早く私を見つけたミュケ叔母様がギルドの窓口越しに声を掛けてくれる。

 ミュケ叔母様はお母さんの妹で、もう30を過ぎているはずなのに、少女のように可愛い人です。

 私と違って純粋な獣人族なので、頭頂部からネコミミが生えているのがまた愛らしいです。くそう、羨ましい。


「はい、切り裂き兎(カッティングバニー)を狩ってきたので……確か依頼ありましたよね?」

「うん、Eランク依頼であるわね……ええと9匹ね。3匹で依頼1回分だから……革と肉買い取りで銀貨9枚ね。はい、これ報酬ね」

「ありがとうございます」


 ミュケ叔母様の手から銀貨を9枚渡して貰う。

 うん、これで銀貨30枚……お父さんとお母さんに結婚記念日のプレゼント買えるかな。


「でもチトセちゃん凄いわね~この切り裂き兎、毛皮とか全然傷んでないし……普通血で汚れていくらか値引きされちゃうものなんだけどね」

「それを言うなら、チトセちゃんの歳で切り裂き兎を狩れる事がそもそもスゲーだろ?」

「ちげぇねえ。流石は『七閃』と『竜滅』の娘ってことだよなぁ」

「聞いたか? その2人、騎士団の尻ぬぐいに出たってよ」

「ああ、死海迷宮だろ? 確かにあの2人にかかりゃ朝飯前ってとこだろうしな」

「わははははは! 我らが英雄、『七閃』と『竜滅』にかんぱーい!!」

「うひゃひゃひゃ! 我らがアイドル、チトセちゃんにもかんぱーいとくらぁ!」


 ミュケ叔母様の話に乗じて、受付に隣接した食堂のあちこちで乾杯の声が上がる。

 ……単に私やお父さん達をダシに、飲みたいだけなんじゃないだろうかって気もしますが。

 ここのギルドは施設内に食堂と宿を持っているのでちょっと五月蠅いです。

 数年前に改築した際に隣にあった冒険者の宿と合併したのだそうで……なんで合併しちゃったかなぁ。


 あ、ちなみに『七閃』とか『竜滅』っていうのは私の両親の冒険者としての二つ名です。


 父は『七閃』の十蔵……神楽十蔵

 母は『竜滅』のトオコ……神楽トオコ


 そして私が神楽千寿カグラチトセ……ちなみに11歳。これでも正規のギルド員。

 ギルドのみんなからはチトセと呼ばれて可愛がられて(?)います。

 ですが、いまはみんなに付き合ってあげるより、お父さん達のプレゼントを買いに行きたいので、さっさとギルドを出ましょうか。


「じゃあ、叔母様、また来ますね」

「ええ、チトセちゃんが強いのは分かるけど無理しない程度にね」

「はい。安全、堅実、確実! ですから」


 私はお父さんの口癖を引用すると、銀貨を持ってギルドを出たのでした。


          ※


 ギルドを出て数分経った頃。

 私は後ろから付けてくる気配に気付きました。


「はぁ……またですか。最近は居なかったのに……鬱陶しいですね」


 おそらく変質者かこそ泥か。

 どちらにせよ子供だと甘く見て犯行に及ぶ訳です。

 力の無い子供を狙うとか鬼畜の所行ですね。

 ……とりあえず町の人を巻き込まないように路地を通ってちょっとした空き地に出ますか。

 もう日もかなり沈み、あたりは薄暗くなっています。

 着いてきているのが本当に犯罪者なら、時間といい場所といい絶好のタイミングのはず。


「ち、チトセちゃん、こんな人気の無いところに入って……さ、誘ってんのかな? な、なら俺といいことしような、なっ……」


 案の定、私を追って路地から男が現れました。

 革鎧を着て剣をいた見覚えのある大男。

 確か1週間ほど前、他国から流れてきてギルドに登録した新人冒険者さんだったと思いますが。


「残念ながらそんな気はありません。今なら見逃してあげますから、女の人が欲しいなら、まじめに仕事をして花街でも行ったらどうですか? 私のような子供を狙うと最低でも街からの追放刑ですよ」

「ひゃひゃ……強がっちゃって……かわいいなぁ。武器も持ってない11歳の女の子がどうしようって言うんだ? どうせギルドランクも縁故で取ったんだろ?」


 むか。それは侮辱ですね。ちょっとお仕置きが必要かもですよ。


「お、大人しく服を脱いで……」


 男の手が私の手首をがっしりと掴み、ひねり上げようとします。

 そんな事はさせませんけど。


「脱いで……て、あれ? 何で動かない? くそっ、このっ!」

「無駄ですよー『力の指輪』を4つ付けてますから」


 私の10本の指に光る指輪は全部で10個。

 そのどれもが魔法効果を持った指輪です。

 普通の人は両手合わせて4個までしか魔法の指輪は付けられないのですが、(お互いに干渉して効果が不安定になる)装飾魔道具使いリングマスターである私は10本の指すべての指輪を有効化する事が出来ます。

 力の指輪+10が4個、防御の指輪+10が3個、魔除けの指輪+10が1個、スキルリング+10が2個。

 ましてやそれらの指輪はお父さんの特製品ばかり。

 これが私がこの年でギルド員としてやっていける秘密なのです。


「ちょっとお仕置きしちゃいますね……えいっ!」


 私の腕を掴んでいた男の手を逆に掴み返して捻り上げます。


「ぎゃ! 痛てててっ」


 そしてそのまま大きく振り回します。

 ぶんっ……ぶんっぶんぶんぶん……

 私を中心にして振り回しているので、段々と男の体が宙に浮かび始めます。


「ひゅわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「飛・ん・で・けーーーーーーっ!」


 ぶぅぅぅんっ!


 最後に一際大きく振り回すと、そのまま真上へ男を放り投げます。


「ひょおおおおおおっ!?」

『守護の革手袋』(シールドグローブ)起動っ!」


 私がそうコマンドワードを唱えると、両手の指ぬきの革手袋の周りに目に見えない障壁が生成されます。

 この障壁を直径10センチほどに展開し、拳に纏わせると、カイ○ーナックルも真っ青の威力となる訳です。

 ……まあ今回は30センチほどにしといてあげますが。

 『守護の革手袋』(シールドグローブ)を起動させたところで、ちょうど良く目の前に男が落ちてきたので、地面に叩き付けられる前に腰を入れた正拳を男の腹部目がけて叩き込みました。


「へぶしっ!?」


 打撃の面積を直径30センチと広くしてあるので、男は私の正拳によって水平に飛んでいきます……空き地向こうの河の方へ。

 あ……うん、計算通り河の中に落ちた。

 本来なら地面に叩き付けられてもおかしくない変態を柔らかい水面に落としてあげるとは。

 とっても優しいですね、私。


 ……あの河、人を襲う魚とかも居たような気が。

 ……まあ、さっさと上がれば大丈夫でしょう。たぶん。


 「さて、さっさと帰りますか。お父さん達もそろそろ帰って来るでしょう……し……?」


 なんでしょう。あれは。

 なにやら妙な光が空を切り裂いて飛んでいます。

 っていうか、こっちに来ます!?


「まさかっ……攻撃魔法!? ひゃうっ!…………?」


 これは……一瞬、誰かから攻撃されたかと思いましたが……違うみたいです。

 妙な光は確かに私を貫いたのですが、痛くもかゆくも無く……ただ私の体を包んで光っているだけです。

 ……………まさか。

 そういえば以前、お父さんから聞いた事があります。


 「あの話が本当だったとしたら……この光は……お父さんの故郷に……」


 私が口に出せたのはそこまででした。

 次の瞬間、私はこの世界ファリーアスから消え去っていたのです。




――――――――――神楽紫乃――――――――――――


 十蔵達に古竜シリーズを渡した後、新潟県の山中でネイルとねっとりしっぽり蜜月生活を送る。

 時々思い出したように時空転移や時空のねじれ、タイムパラドクスについて研究を重ねているようである。


―――――――――――――――――――――――――――


            ▽

            ▼

            ▽


「シノ様~どちらですかー? お昼ですよー」


 ネイルが私を呼ぶ声が聞こえる。

 だが、今はここを離れる訳にはいかないのだ。


「ネイル、ここー。庭よー……悪いけどお昼はこっちに持ってきて-」

「ああ、シノ様、こちらでしたか……ここで何を?」


 ネイルがおにぎりと卵焼きとお茶とおしんこをお盆に載せて持ってくる。

 今日は事前につまんで食べられるものを頼んでいたのだ。


「うう……ん、たぶん今日辺りだと思うんだよね……」

「今日……ですか?」


 なんの事やら、という表情でお盆を縁側に置くネイル。

「うん、そう」


 ネイルの作ってくれたおにぎりを一つ掴みあげ、ぱくりと口を付ける。

 うん、美味しい。ネイルの好物、コシヒカリに塩鮭のおにぎりだ。


「もうすぐね、この庭に息子と嫁と孫がやってくるようなね……そんな気がしてる。カンだけど」

「シノ様のカンならきっと当たりますよ」


 縁側の私の隣に座ってネイルもおにぎりを一つつまむ。


「何しろシノ様は神様ですからね」

「……本当の神様なら、息子達にこんな苦労はさせないんだけどね」


 思わず苦笑いが出る。

 多分、帰って来る息子は多くの苦労を経験してきているだろう。

 その責任の多くは私にあるのだ。

 これで神様とか笑っちゃうってなもんで。


「せめて、帰ってきたら思いっきり抱きしめてあげよう」

「ああ、それは良いですね」

「あと息子からトオコちゃんは寝取らない!」

「それはごく普通の事です」

「あ、でも耳だけはもふりたいな」

「私で我慢してください」




 いつものごとくネイルと軽口の応酬を始めた私は、庭の隅に実体化し始めた3人に気が付かないでいた――





            ――――――劣化賢者の幻想譚 END――――――



応援ありがとう御座いました。

何とか完結いたしました……


あとは書くとすれば外伝とかでしょうか。

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