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エピローグ(1)それぞれの20年後

エピローグが思ったより長くなり分ける事に。

鱗持つ者達の王(レプトルキング)事件から20年後~


――――――――――ゴーバック――――――――――――


 その後の調査で鱗持つ者達の王(レプトルキング)事件の原因が時の守護者(タイムキーパー)の紛失したアーティファクトだという事を知り、チームを解散。

 ばれる前にとラダオルへと移住する。

 その際、愛人、子供、孫、チーム員他、一族郎党連れて行ったため、ちょっとしたキャラバンの大移動のようだったという。

 ラダオルではやはり冒険者として愛人と家族達を養っているようだ。


――――――――――ミュケ・サヴァン――――――――――――


 魔力不適合症候群が完治した後、14の時に姉の力になろうとギルド職員として働き始める。

 グリーンロードギルドのアイドルとして人気を博した後、26の時に新進気鋭の冒険者と職場結婚。

 お相手は黒髪の人間族で聖騎士パラディン

 本人曰く『十蔵義兄(にい)さんに似ていたから』との事。

 現在は1男1女の母。


――――――――――シモーヌ・ルグリス――――――――――――


 十蔵が納品する品々のおかげもあって、店は順調に大きくなり、魔道具店としては神楽屋と並ぶ大型店舗となる。

 その後2回結婚するも2回とも離婚。

 現在は『仕事も夜も中途半端な男には興味ない』と女手一つで店を切り盛りしている。


――――――――――シュガウ・ハーヴ親娘――――――――――――


 アイスクリーム生涯無料権と引き替えに魔石交換式冷凍庫を十蔵に作って貰い、農業のかたわらアイスクリーム専門店『さぁてぃわん』を開店。(十蔵命名)

 支店を作るべく次の魔石交換式冷凍庫代金を貯める日々。

 

――――――――――ドロシー・アーキン――――――――――――


 「英雄」十蔵&トオコと旅の仲間だった、と触れ回ることによって伝手を広げて商売を拡張。

 そこそこ繁盛し、アイリーザとグリーンロードに複数の店舗を新たに建てたが、事業を広げすぎて失敗。

 現在は神楽商会の下請けとして小さな隊商を率いている。


――――――――――十蔵&トオコ――――――――――――


 相変わらずコンビで冒険者を続けている。

 2人ともレベルは180を超え、ギルドの最高位EXランクに到達。

 20年の間に起こった3度の国難――『貴族連合の反乱』『古代遺跡崩壊による魔獣の大量出現』『炎の精霊王の暴走』を解決に導いた英雄としてグリーンロード王家から爵位と領地を与えられるも辞退。

 ひたすらストイックにレベル上げにいそしんでいる。

 最近の悩みは経験値たましいのちからの多い強敵がいないこと。

 現在は質より量でレベルを上げている状況である。


―――――――――――――――――――――――――――


            ▽

            ▼

            ▽


 夕闇が濃くなる頃。俺たちが現場に着いた時、そこはまさに地獄絵図だった。

 大量のアンデッドが平原をひたすら街目指して行進しているのだ。

 言ってみれば「緑が3に茶色が7だ! 草原が腐れたアンデッド共で埋まってやがる!!」みたいな感じだ。

 それらを10分の1にも満たない騎士団がかろうじて押しとどめている。


「押さえろ! ここを突破されたら……街まで後数キロだ……後が無いぞ!!」

「無茶言うなぁ!! もう暗くなるぞ! これだけのアンデッド、どうしろってんだ!! スケルトンやレッサーバンパイアだけじゃねえ、シャドウストーカーにリッチまでいやがるんだぞ!」

「く……ええい! 応援要請はどうした! ギルドからの返事はまだか!」

「は、大隊長殿! ギルド長は『最大戦力を送る』と! 先ほど魔法通信の返事が!」

「最大戦力? 100か? 200か?」

「は、2名とのことであります!」

「ふざけんなー! ボケぇー!!」


 ……なんというか、騎士団とは思えない口の悪さだな。

 まあ、これだけ劣勢なら仕方ないか。

 騎士団は街を背にして平原に横に広がって陣を敷いているので、どうしても陣はその分薄くなる。

 一体たりとも街へアンデットを通す訳には行かないから仕方ないのだろう。

 だがそのせいで数の暴力に今まさに屈しようとしていたところだった。


「いやぁ、遅くなりました」

「早速戦線に出ようと思うが……大隊長殿はあなたでよろしいのか?」


 俺とトオコはそれぞれ大隊長(と思われる人物)に後ろから声を掛ける。


「ぬぁっ!? いつの間に……貴様等何者だ!!」

「は、大隊長殿! このお二人がギルドからの援軍であります!」


 大隊長殿の怒声に俺たちの代わりに律儀に応える兵士A君……俺たちはこのA君に案内して貰って陣幕ここまで来た訳だ。

「……この二人が援軍だと? こんな若造共がか」

「ああ、若く見えるかもしれませんが、これでもおそらくあなたと同年代ですよ」


 大隊長殿は見た目40代くらいだ。人族だから実際の年齢もその位だろう。


「バカモン! 年齢が問題なのではないわ!! 見よ、あのアンデッド共の群れを! 今更2人程度増えたからと言ってどうなるというのだ……あんのギルドの古狸共がぁ!!」


 ウキー、ムキーと頭から湯気を出して怒鳴り散らす大隊長殿。

 血管が切れないか心配だな。40代はそろそろ動脈硬化を心配しなければならない頃だぞ。


「ほうほう、結構な数ですな。察するところ最近見つかったという死海迷宮からあふれ出たようで」

「そおぉうだ!! どこぞの糞冒険者が迷宮の主を復活させてしまったのだ! まったく冒険者等という輩は碌な事をしよらん!!」

「いやいや、耳が痛いですね。それじゃあ冒険者の汚名返上、名誉挽回ってことで何とかしますかね」

「は? 貴様等二人でか? 何を寝ぼけたことを言っておる」

「トオコ、俺が大方掃除するから、残った大物頼むわ」

「はい、頼まれました、主様ぬしさま


 俺が大隊長殿の言葉をスルーしてトオコにそう声を掛けると、トオコはクスリと笑いながら了承する。

 その姿は20年前と変わらず凛とした風貌の美少女だ。


「んー……ここで戦うと騎士達を巻き込んじまうな。『念動サイコキネキス』……重量限界30倍×移動速度10倍×対象2っと」


 ふわり、と俺とトオコの体が浮かび上がり、前線の更に前へとウサイン・ボルト並のスピードで飛んでいく。

 本来、3000ほどMPを消費するはずだが、竜骨の杖によって2100に低減されている。

 今の俺にとっては負担でも何でも無い数値だ。

 何しろ3万以上のMPが有る上に1分間に約168MP回復する。

 2100MP程度なら13分もかからないで完全回復だ。


「おお!? 飛行フライを使えるほどの賢者であったか! いやしかし、それでも二人だけでは……」


 後ろからそんな大隊長の声が聞こえてくる。

 すまんね。賢者じゃ無いんだわ。飛行フライでもなくて念動サイコキネキスだしな……隠者ハーミットはフライを覚えられないんだよなぁ。

 ……そうこうしている内に最前線へと到着する。

 うん、一面アンデッドだねぇ。匂いがひどいわ……きっつぅ……


「アンデッドという事は……聖属性か光属性か炎属性が効くな」

「そうですね、雑魚共はその属性の広範囲攻撃で十分だと」


 ふむ……それじゃいつものアレが一番効率良いか。

 スロットに光術2と魔力精密制御(マナ・カスタマイズ)がセットされていることを確認する。

 この二つは20年前の鱗持つ者達の王(レプトルキング)戦のレベルアップで習得したものだが、この組み合わせが恐ろしく使い勝手が良くて、それ以降スナイパースタッフに代わる俺の主な攻撃手段となっている。


「『投射光サーチライト』照射範囲1000分の1に収束×光量400倍……『魔力精密制御(マナ・カスタマイズ)』による照射範囲収束、更に100000分の1……波長分解7色……位相同調……」


 『投射光サーチライト』とは、読んで字のごとく強力な光で特定方向を照らす魔術だ。消費MPは10。今回は光量400倍+MP30%減で……2800MP使う訳だ。

 本来は非殺傷の魔術で、『光明ライト』が白熱電球なら『投射光サーチライト』は軍用探照灯レベルの光をほぼ直線に照射する。

 ただそれだけの魔術なのだが……魔術効果の詳細な調節(カスタマイズ)が可能になる技能スキル、『魔力精密制御(マナ・カスタマイズ)』と組み合わせることによって光の位相の調節まで可能になる。

 これがどういう事かというと……


独自魔術オリジナルスペル、『魔虹レーザー』発射ぁっ!!」


 宙に浮かぶ俺の周辺に発生した7色、7本の光。

 これらは『投射光サーチライト』の光を『魔力精密制御(マナ・カスタマイズ)』で単色に分解し、波を揃えたもので……


 いわゆる『レーザー』である。


 もっとも中途半端な科学知識しか持たない俺が、実用性のあるレーザーを作れるとは思えないので、そこには多分魔法的な何かの補正が入っているのかもしれない。

 そもそも普通のレーザーだったら目に見えないし……こんなカラフルな魔貫光○砲、絶対に日本のサブカルチャーの影響だよなぁ。


 まあとにかく、その魔法を使って再現されたレーザー(厳密には、レーザーのようなもの、だが)が圧倒的な熱量を持ってアンデッド達目がけて発射されたのだ。

 7本の光はあっという間に敵に着弾し、そのまま抵抗もなく貫通して大地を抉る。


 大地……? あ、いかん……俺が飛んでるせいか。敵の群れに対して平行でないと。


 念動サイコキネキスを操作して俺だけ地上へと降りる。

 そして改めて『魔虹レーザー』をアンデッド達へ向ける。

 うん、今度は良い感じだ。だいたい1秒照射で20体位貫けるみたいだ。

 それが7本だから1秒換算で140体ってとこか。

 光属性に弱い事もあって、良く効く事。

 まあ、アンデッドだから腹に穴が開いたくらいで行動不能になることは無いんだが、それはこう、レーザーの発射方向を水平に動かせば良い。

 するとあっという間にアンデッドの輪切りが大量生産されるという訳だ。

 ピンポイント攻撃にも大量破壊にも使え、レーザー加工やレーザー溶接も自由自在。

 この魔法を覚えてから生活レベルとレベルアップの速度が飛躍的に向上した。


「主様、そろそろよろしいのでは?」


 感慨に浸っていたところをトオコの声で我に返ると、1000体以上居たであろうアンデッドの群れは、ほぼ跡形も無くなっていた。


「残るは光属性に抵抗を持つ数体の上位種のみ。私にお任せください」

「うん、よろしくね」

「はっ!」


 トオコを念動サイコキネキスで一際瘴気の濃い地点に運んでやる。

 其処にはリッチや神祖の吸血鬼オリジナルヴァンパイアなどが居るはずだったが、トオコならまったく心配は無い……というか相手が可哀想になるレベルだが。

 何しろ今のトオコが本気を出せば、ただの棒きれ(ひのきのぼう)悪霊スペクターなど非実体の敵をたやすく切り裂くのだ。

 ましてや俺のバフを受け竜牙刀を持ったトオコなら亜神デミゴッドさえも切り裂く。

 この程度の戦場では心配できようはずも無かった。


         ※


 結局10分もかからず戦場のアンデッドを一掃した俺たちは、空を飛んでもとの陣地へと降り立った。

 とたんに騎士達の歓声が上がり二人して騎士達にもみくちゃにされる。

 とりあえずどいてくれないかなぁ。現場指揮官の大隊長殿には一応報告しないといけんし。

 というか、痛ぇよ。鎧着て力一杯ハグしてくんな。

 あ、其処のそいつ、どさくさ紛れにトオコにまで抱きつくんじゃねぇ。


「お、おい……なんだ……あの二人は……」

「は、大隊長殿! ギルドの応援であります!」

「バカモン! んなこたわかっておるわ! あの二人が何者か、という事だ!」

(いや、何者かって……あの戦い方見りゃ一目瞭然じゃんなぁ)

(え、大隊長殿、今まであの二人が何者かわかってなかったのか?)

(我が国の英雄を知らないとは)

「ええい、こそこそ五月蠅いっ! 知っているなら答えんか!」

「は、大隊長殿、あの二人は……『七閃』の十蔵殿とその妻、『竜滅』のトオコ殿と推察いたします!」

「………………なにぃぃぃぃ!?」


 あ、大隊長殿の顔色が一気に青くなった。


「そ、その二人は……国王様直々に公爵待遇を約束された……あの?」

「は、我が国の過去3度の国難を救ってくださった、そのお二人です!」

「ばばばばばはばかーーーーーっ!! なぜ早く教えんっ!!」

(ギルドがこの大事に送ってくる応援がたった2人って時点で気付けよなぁ)

(俺なんざトオコたんのブロマイド持っているから一瞬で気付いたぜ)

(なによ、お前人妻専?)

(いや、ケモ耳専)


 大隊長殿が慌てて俺たちの方へと人波をかき分けて近付いてくる……その人波の中からなんか兵達の聞き逃せない話が聞こえたが……後でシメる。


「さ、先ほどは誠に失礼いたしましたぁぁぁぁっ!! 不肖、このフランクリン・ロベルト、お二人に気付かずご無礼を……ど、どうかこの事は……」


 このままでは俺たちの方へ近づけないと思ったのか、兵達の肩に登り、そこから大ジャンプをかます大隊長。

 そのまま地面に落ちると同時に土下座。

 すげぇ。ジャンピング土下座。

 まあ、この大隊長は見ていて面白いし、別に気にしてない……公爵扱い云々って話も、本当言えば面倒くさいだけだしな。


「ああ、気にしなくて良いですよ。俺たちが来るまで良く凌いでくれたと思います……おかげで一般市民には1人も死者は出なかったそうじゃないですか」

「は、ははっ! ありがたきお言葉っ!……しかし」

「気になるならアンデッドの後始末を頼みます。このままじゃ疫病の温床になりそうだし」

「は、お任せください!」


 1000体以上のアンデッドの残骸の始末はある意味戦いよりやっかいだ。

 それをしてくれるってんなら有り難い事この上ない。


 俺たちは歓声を上げてまとわりついてくる騎士達と、土下座をしたまま動かない大隊長をその場に残して街の拠点へと転移しようとした。

 だが、その時、突然自分の胸元から膨大な魔力と共に『光』があふれ出したのだ。


「なっ! これは――」


 慌てて転移呪文をキャンセルする。光はどうやらペンダントとして常に持ち歩いている『界渡りの宝玉』から発せられているようだ。

 もしかして時期が来たのか? 予定よりずいぶんと早いが。

「主様っ!」


 俺の異変に気が付いて駆け寄ってくるトオコ。

 だが、俺の胸元からあふれ出た光はトオコにも蛇のように絡みつく。


「くっ……一体、これは」

「抵抗するな、トオコ! これは……」


 溢れる光に包まれる俺とトオコ。

 だがこれはおそらく俺が待ちに待った瞬間。

 そして更にもう1本――

 光の帯がグリーンロードの街中を目指して飛んでいくのを確認しつつ。

 俺とトオコはこの世界ファリーアスから消え去ったのだった。





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