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白と黒

トオコとネイルの顔合わせです。

あと、バカップルワールド過多です。

-----------------

前話の召喚符の説明を変更しております。

その前提でお読みください。

 今日は母さんがこちらの世界(ファリーアス)に居られる最後の三日目。

 だと言うのに母さんは、朝早くから『墓参りに行ってきます』との書き置きを残して姿を消していた。

 ……まあ、どこへ行ったかはだいたい想像はついているんだけど。

 おそらく母さんの相棒を長らく務めていたというネイルさんの墓参りに行ったんだろう。

 ……だとすれば俺たちがどうこう言う筋じゃ無いし、そっとしておこう。

 とりあえず俺は、母さんが居ない間にトオコを連れてグリーンロードへ帰る準備をするなどして、時間を過ごしていた。

 それからしばらくして。

 母さんが空から(・・・)帰ってきたのは、昼食を取ってしばらくたった頃――腹ごなしに宿の庭に出てトオコとベンチでだべっていた時だった。


「――――…十蔵…ん……た…だいまっと」


 ひゅるるるるるるる…………しゅたん、と軽快な音を立てて母さんが空から宿の庭先へと降り立つ。


「ありがと、もう帰っても良いよー」


 母さんが空に向けて手を振る。

 その視線を追って見てみると、空には3人の白い着物を着た美女がふわふわと浮いていた……その美女達は残念ながら母さんの言葉を聞くとすぐに溶けるように消えてしまったが。


「ぬ、主様。あれは……」

「……多分母さんの召喚獣の一つ、『雪女』かな。俺も話だけで見たのは初めてだけど。アイリーザを拠点登録してないから自分の召喚獣に送って貰ったんだろ」

「なんと、人型の召喚獣を三体同時とは……ああ、神楽神様でしたな。そう言えば」


 ウンウンと頷いて、なんか1人で納得しているトオコ。

 フレンドリー過ぎて母さんが神様だという事を(本当は違うけど)失念していたんだろう。

 気持ちは分かる。

 よーく分かる。

 ……というか、ファリーアスの人達はよくアレ・・を神格化したな……


「お帰り、母さん……ネイルさんの墓参りはもう良いの?」 

「あ、う、うん……というかね、必要なくなったというか……」

「……? 母さんの大事な人なんでしょ? そうそう気軽に来られないところなんだからゆっくりしてきても……ん?」


 もふ、といきなり母さんの胸元から現れた白い毛玉に言葉が止まる。

 ああ、いや、毛玉じゃない。猫だ。

 真っ白な猫が母さんの懐に入っていて顔だけ出しているのだ。


「!こ、これは……なんと器量良しな……どこかで拾われたのでしょうか?…………ちちち……にゃ、にゃあ~にゃにゃにゃ」


 そのあまりに可愛げな様子の猫に速攻でトオコが陥落。

 白猫に指を差しだして、笑み崩れながらにゃーにゃー言っている。


「……猫系獣人って、猫の言葉分かるんだ……」

「あっ……いえ、わ、分かりません……こ、これはその、つい」

「あはは、わかるわかる、つい言っちゃうよね、にゃんこには」


 トオコに同意する母さんを白猫は胸の中から見上げると、カシカシと前足で叩き、母さんの注意を引く。


『シノ様、笑ってないで紹介してください』


 ……え? 今、猫がしゃべったような……


「ああ、ごめんね、ネイル」

「え、ネイル……?」


 白猫は、母さんの胸の中からすとっと地上に降り立つと、俺の前にとてとてと歩いてくる。

 そして俺に向かってぺこり、と頭を下げた。


『初めまして御子息様。このたびシノ様の召喚獣として頂きましたネイル・サヴァンと申します』


「あ、こちらこそよろしく……って、やっぱり猫がしゃべってるぅぅぅ!?」

「あ、正確には猫じゃ無いのよ? これは低魔力形態(省エネモード)の姿だから……ネイル、『通常形態ノーマルモードで顕現』」


 ぼうんっ!


 母さんが白猫にそう言葉をかけると、白猫を中心に真っ白な煙が立ち上る。

 そして一瞬の後、煙が晴れた時には白猫の姿はすでに無く、片膝をついて頭を下げているメイドルックの白猫系獣人がそこに居た。

 おおう、メイドさん。生メイドさんは初めて見たぜ。おまけにネコミミ猫尻尾つきとくればもとの世界では秋葉くらいでしか見られないだろうしな。

 ましてや新潟県に生息しているはずも無い。


「白猫系獣人でネイル……? 神楽神様、もしやこの方は……」


 その白猫メイドさんを見たトオコは目を見開き、ふるふると震えている。


「うん、私の相棒のネイル・サヴァン本人。昔の家でゴースト化してたのを見つけてね、本人の承諾を貰って召喚獣契約をすることでなんとか実体化できたの」

「え、じゃあ……この人が母さんがよく話してた……? ネイルさん本人ってこと?」


 死んだんじゃ無かったのか。ああ、いや、死んで幽霊ゴーストになったから召喚獣となったってことか?


「や、やはり神祖様……」


 頬を紅潮させたトオコが、がばっと地面に両膝をつき、ネイルさんに対して平伏ひれふす。


「お、お目にかかれて光栄に御座います。わたくしはサヴァンの森の一氏族、黒猫こくびょう族の血を引くトオコ・サヴァンと申します」


 その言葉に、はっとしてトオコの方を見やるネイルさん。


「サヴァン……そう、ならばサヴァンの一族は絶えていなかったのね……私以外にも生き延びた者がいたの?」

「は、我が祖先は人族の奴隷商に掴まり、雑益奴隷として酷使されていたと聞きまするが、神祖様のご高名のおかげで、サヴァンの名を持っていた祖先はグリーンロードの貴族に召し上げられ奴隷の身分から解放された、と聞き及んでおります」

「そう……良かった。それで今は、御子息様……ええと」


 ネイルさんがちらっと俺の方を見てくる。そう言えば、まだ自己紹介どころか名前も名乗ってなかったか。


「あー、十蔵。神楽十蔵。ネイルさんのことは母さんから良く聞いてたよ。よろしくね」

「はい、御子息さ……十蔵様。よろしくお願いいたしますね」


 ネイルさんは再びぺこり、と頭を下げると改めてトオコに向き直る。


「それでトオコさんは今は十蔵様のパーティにいらっしゃるの?」

「はい。主様ぬしさまには我が妹と私の命を助けて頂き……それをにお仕えさせて頂いております」

「そう、良かった……十蔵様、私からもお礼を申します。シノ様といい、十蔵様といい……お二方に我が一族は助けて頂いたようなものですね」

「い、いえいえ……トオコには俺の方こそ助けられっぱなしで……それにトオコは、俺の……」

「……十蔵様の?」


 い、言えん。ここできっぱりと『自分の女を守るのは当たり前ですから(ドヤァ)』とか言えれば主人公らしいんだろうけど、俺にはそんな羞恥プレイは出来ん!

 どう説明しようかとトオコの方を見やると、俺が何を言おうとしたのか察しが付いたのか、真っ赤になって縮こまっている。


「……ああ、なるほど」


 その様子を見て察したのかネイルさんは1人ウンウンと頷いていた。


「私はすでに獣人族ではありませんから、トオコさんがサヴァンの獣人族の血を残してくれるというのであればありがたいことです」


 いや、まあ……そうですけど。残すつもりでいますけども!

 察し良すぎです、ネイルさん。

 ……というか、ネイルさん自身が血を残すって考えは無いのかな。


「ああ、そう言えば……召喚獣になった……んでしたっけ?」

「はい、正確に言えば、転生したことで『天族化』して……召喚獣としての種別で言うなら『天猫ティエンマオ族』とやらになったようです」

「ふっふー、召喚獣としてはかなりレアで強力な種族みたいよ? 流石ネイル!」


 そう言いながら後ろからネイルさんを抱きしめる母さん。


「そんな……シノ様のお力ですわ。契約者の力に引きずられたに違い有りません」


 そんな母さんの腕にそっと手を置いて頬を赤くするネイルさん。


「いやいや」

「いえいえ」


 今や完全に2人だけのイチャラブ空間に籠もっている。

 ……うん。そんな気はしてた。

 でも親の百合イチャは見てて痛いのでそろそろ止めて頂けませんでしょうか。


          ※


 結局。あれから30分ほど2人の世界に浸っていた母さん達は、世界転移の反動が来て至極あっさりと帰って行った。

 段々と薄くなっていく母さんに一応別れを告げたのだけれど、700年ぶりだというネイルさんとの逢瀬に気を取られていた母さんは、そのネコミミを弄ぶのに夢中で「あ、ああ、うん。待ってるから元気でね」と生返事しかしない。

 流石さすがにネイルさんが「シノ様、十蔵様にもう少し何か……」と声を掛けたのだか、残念ながらそこで時間切れとなり、2人の姿は完全に消えたのだった。


「……あー……行っちまったな」

「はい……なんというか……その、パワフルというか」

「嵐のような人だったろ?」

「そ、そうですね……ずいぶん神話のイメージとは違ってました。良い方向で、ですけど」

「あはは、そりゃ良かった。いずれは姑になるんだから仲良く出来そうなら何よりだね」


 いまだに地面に両膝を着いていたトオコを後ろから抱きしめるようにして引き起こすと、そのままベンチに2人で座る。

 トオコは俺の両足の間に挟まれるような形だ。

 いわゆる恋人だっこというのだろうか。


「ぬ、主様っ……」


 赤い両頬を隠すように手をやるトオコ。

 ぴこぴこと両耳が嬉しげに揺れていたので、左耳を後ろから甘噛みし、右耳を『魔性の指』でこしこしと撫でてやる。


「ぬ、主様っ!? ひぅんっ……まだっ……陽が高こう……ござい、ます」


 言葉とは裏腹に、くてっと力が抜けて、とろけた表情で俺に寄りかかるトオコ。


「えー、旅の準備も終わったしさ、久々に二人っきりだしさ……これから2人で部屋に籠もろうかと思ったんだけど、だめ?」


 ふるふるとふるえるトオコの長い尻尾を左手でさわさわとこすり上げる。


「はくぅっ!!……だ、だめ、で……」


 さわさわ


「はうっ」


 こすこす


「ひぃん!」


 かみかみ


「ひっ……ひぐっ!」

「ね、だめかな~?」

「だ、だ……めじゃ……ない、で、すぅ……」


 うむ。了解も得られたことだし、今日は一日中……昨日母さんの乱入で中断させられた分も合わせて可愛がってあげましょうかね。

 ……こういう所(ネコミミ好き)だけはあの人の息子だと実感するな。まったく。 





これで予定していたエピソードは終了。

次回のエピローグを残すのみとなります。

その他にも外伝など書きたいとは思っていますが。

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