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紫乃さんの三日間(2)~閑話

結局こういう形に修正いたしました。


紫乃さんとネイルがメインの話です。

前作を読んでいないと面白くないかも。


 3日目


 ――紫乃SIDE――


 ファリーアスに居られる最後の三日目、私は息子達と行動を別にして早朝から港町サザンに来ていた。

 拠点帰還リターンホームに登録してある場所の一つなので行きは一瞬だしね。

 街の入り口付近に実体化した私は、40年ほど前に作った最新のギルドカードを、まだ20代に見える若い門兵に提示する。

 ……以前は門兵どころか門そのものが無かったんだけどなぁ。

 本来なら直接街の中の拠点(屋敷)に出られるはずなのだが、ある理由(・・・・)からその拠点(屋敷)は封


印してしまったので、一々こうして街の入り口から入らないといけないのだ。


 ……それにしても街の規模も私が最後に覚えている姿よりだいぶ大きくなっているみたいだ。

 私がキョトキョトと街の様子を見渡していると、ギルドカードを確認していた門兵の表情がだんだんと険しくなっていくのに気が付いた。

 いや、険しいどころじゃない。

 その門兵は持っていた長槍の穂先を私に向けて構えてきた。


「イグニスのEXランク冒険者、カスミ・アヤメ……? 貴様っ! 馬鹿にしているのか? 事もあろうに40年も前のギルドカード……しかも伝説のEXランク冒険者、『聖銀の爪(ミスリル・クロウ)』アヤメ様のカードを偽造するとは……不敬にも程があるぞ!」


 カスミ・アヤメというのは私の冒険者としての名前の一つ。

 だから偽造はしてません。単に40年前にギルド協力の下に偽名で登録したカードというだけです。

 ……でも、やっぱり期間が空きすぎたか。そりゃあ不審に思いますよね。


「……聞いているのか? 港町サザンは恐れ多くも神楽神様が初めてご降臨された街。不審人物は一歩たりとも中へ入れる訳にはいかん――というかだ、ちょっと詰め所に来て貰おうか。無駄な抵抗はするなよ?」

「やーねぇ。紛れもなく本人よ?」

「堂々と嘘をつくな! 貴様、どう見ても20代……30もいってないだろうが!!」

「きゃ♪ そんなに若く見える? お上手ね♪」

「……あくまで本人だと言い張るか」

「ギルドカードは本物よ? そうである以上、これに魔力を通して表示状態に出来るのは本人だけでしょう?」

「……魔導技術も日進月歩している。いずこかの国でそんな技術が開発されたのかもしれん」

「……しょうが無いわね……んじゃ、カード以外で証明しましょうか」

「……カード以外で?」


 不審げに私を見つめる門兵を無視して、私は二刀の小太刀を腰から外し地面に置き、更にある(・・)スキルをセットする。


「む、武装解除するというのか……うむ、大人しくしておれば無体な取り調べもせんぞ」

「いや、そういう訳でもないんだけどね」


 私は本当の正体――『神楽紫乃』だということを隠すために、別名で活動していた時には故意に戦い方を変えていた。

 長刀を使ったり、槍を使ったり、魔法のみで戦ったり……

 このスキルもアヤメを名乗っていた時に多用していた物だ。

 ……まあ、そのせいで、『聖銀の爪(ミスリル・クロウ)』なんて中2臭い二つ名が付いた訳だけども。


「例えば……こんなのじゃ証明にならないかな? 『閃光鋼指』(シャイン・クロウ)!」


 ッギキキキンッ!!


 私の右手が光って唸ったかと思うと、次の瞬間異様な金属音が鳴り響き、彼の槍の穂先には4つの穴が綺麗に穿たれていた。


 武器を持たない代わりに、ほぼ100%の確率で会心の一撃(クリティカルヒット)を繰り出すスキル『閃光鋼指』(シャイン・クロウ)だ。

 

「貴様っ……な、にを……?…………………って、なんじゃこりゃあっ!?」

「……だから、私が私である証明。確かこのスキルは私以外に使えた者は無かったはずだけど」


 私の声にも反応せず、呆然と自分の槍の穂先を見つめる門兵さん。


「え、何? 素手……で……鋼の槍の穂先に穴……?……ま、さか……本物の、『聖銀の爪(ミスリル・クロウ)』アヤメ様っ!?」

「うん、まあ、そゆコト」

「しっ!! 失礼いたしましたぁっ!!」


 みるみる門兵さんの血の気が引き、顔色が真っ青になる。

 それでも、びしっと穴の開いた槍を左手で上方に構えて敬礼をする門兵さん。

 うん、分かってもらえて良かった。

 私は地面に置いた二刀の小太刀を回収して装備し直す。


「どっ! どうかっ! ご無礼の段は平にご容赦をっ!」

「お仕事だもんね。気にしてないよ。ご苦労様。……で、通って良いかな?」

「はっ! 恐縮ですっ! どうぞお通りくださいっ!」

「うん、ありがとう……ああ、そうだ、槍、壊しちゃってごめんね」

「いえ! むしろアヤメ様の爪の痕を戴けて光栄でありますっ!」

「うーん、でもお仕事に支障があるだろうし……ああ、そうだ、もう使わないし、これあげるよ。多分その槍の代わりくらいにはなると思うし」


 私は『所持品欄』を開くと『十文字槍』を取り出す。

 ゲーム時代(戦国の野望オンライン)に生産の練習&初心者配布用に作った自作品だ。

 武器自体は大したことの無い品だが、付与に成功して攻撃力と回避率に補正が掛かっている。

 低レベルキャラを育成する時にはそこそこ重宝した。

 それをひょいと門兵さんの方に放ると、門兵さんが慌てて両手でそれを受け取る。


「こ、これは……ま、魔力付き……魔法の武器でありますかっ!?」

「そんな大層な物じゃないよー攻撃力と回避率にちょっと補正が掛かるだけ」

「そ、そんな高価な物を頂く訳には……」

「……じゃ、私の故郷を守ってくれている門兵さんに、ちょっとしたプレゼントだとでも思っておいて」

「サザンはアヤメ様の故郷でしたか……分かりました! アヤメ様の手を煩わせないためにも、全力で勤務に当たらせて頂く所存でありますっ!」

「ん、よろしくね」


 私は顔を興奮で真っ赤にして(青くなったり赤くなったり忙しいな)2本の槍を両手に持った門兵さんに軽く手を振ると、久方ぶりのサザンに足を踏み入れたのだった。


 ……数年後、かの門兵さんが十字槍の使い手として名を上げ、サザンの騎士団長にまで出世することになろうとは、『なんちゃって神』の私には予想も付かないことであった。


          ※


 私は街の中に入ると商店街通りを北に折れて、郊外へと向かった。


「……良かった。ちゃんと残ってたわね」


 私が塀越しに見上げているのは、かつての私の拠点――私がこの世界で最初に建てた武家屋敷、神楽邸だ。

 ここに来るのは実に700年以上ぶりになる。


「……って、なんか入り口に立て札が立ってるんですけど……なになに?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  『神卸の館』

    ここはかつて神楽神様が地上世界に最初に居を構えた館である

   と言われている。

    神楽商会の総本店もかつてはこの敷地内に併設されており、高

   品質な薬品を提供したことから冒険者を中心に賑わったという。

    現在は敷地内にあるダンジョン

    『お庭のダンジョンダンジョンオブガーデン

   を除いて一般開放はされていない。

    特に屋敷そのものには700年以上前に神楽神様自らが張った

   と言われている強固な結界があらゆるものの進入を阻んでおり、

   不可侵の聖域となっている。

                      サザン観光協会 記

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おおう……これはまさか……観光地の遺跡とか古民家なんかに立っている説明札……?

 わ、我が家が観光地と化しておる……

 ネイルの死んだ場所だから、辛くて足を向けられなかったけど……こんなコトになっているとは。

 ……ということは観光客とか冒険者とか結構敷地内に入り込んでいるのかも。

 見られると面倒なことになるかな……『気配隠蔽ステルス』発動しとこう。


          ※


 私はこっそり屋敷の封印を解除し、屋敷へと入ると、『気配隠蔽ステルス』を解除して寝室へと向かった。

 そこにはネイルの遺体が安置されているのだ。


 普通700年も経っていれば白骨化してて当たり前なのだが、私は当時使えたあらゆるスキル『腐敗防止』『劣化防止』『経年劣化停止』Etc.……を駆使してネイルの遺体を美しいまま保存しようとしたのだ。


 ……当初はネイルの遺体に毎夜すがりついて涙していたのだが、姿は生きていた時のままなのに、反応してくれないことが辛くて……絶対に生き返らない……その現実を毎日突きつけられているようで……屋敷ごと封印して逃げ出してしまったのだ。


「まったく、心の区切りを付けるのに700年とか……いい加減私も女々しいわね」


 まあ、心の区切りを付けられたのは一旦地球に帰ったり、息子を産んで母となったりしたおかげもあるのかもしれないけど。

 私は襖の前で一旦立ち止まると、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 私のスキルがあの後も正常に発動しているのなら、この中には昔のままの姿でネイルが眠っているはずなのだ。


「ただいま、ネイル」


 私は、返事が返ってくるはずもないのにそう口にしながら襖を開けた。


『まったくですよう、シノ様。どれだけ待ったと思っているんですか』

「あはは、ごめんごめん………………………って…………えええええええええ!?」


 私の目の前には腕組みしてちょっと憮然とした表情の(しかもうっすら半透明の!)ネイルが。

 え、えーと……今しゃべったのって……ネイル……?

 いつの間に半透明に……って、本来の体はちゃんと白木の棺の中に横たわっているわね。うん、美人。

 ってゆうことはこっちの半透明ネイルは……?


『あは。シノ様でもびっくりされることがあるんですね』


 くすくすと半透明のネイルが可愛く笑う。

 ああ、ネイル可愛いよネイル。

 というか、これはあれだ。幽霊とかゴーストとかその手の類のものなんだろう、たぶん。

 700年以上もここに地縛霊として居たってこと?


「ご、ごめんネイル! 私が下手に遺体を防腐処置なんかしちゃったから……成仏できなかったんだね?」


 ああ、私の莫迦。馬鹿者。自分の勝手のためにネイルの輪廻を妨げていたなんて。


『違いますよう、もともと私、生まれ変わるならシノ様のお側以外に生まれる気は無かったですから……へたに成仏してしまって、シノ様のことを忘れて別人になるなんて堪えられませんもの』


 あああ、なんて健気。これが実体なら思いっきり抱きしめてモフり倒してあげるのに。


『だから、例えゴーストとなっても年に1回くらいシノ様のお顔を見られれば満足だったんです……なのにシノ様ったら700年以上もほったらかしなんですもの』


 いじいじと空中に器用に座り込んでのの字を書くネイル。


「ごめんね、ネイル……寂しい思いさせたね……幽霊になってまで私のコトを思ってくれていたんだね……………ん?……幽霊?」


 ……なんか今、記憶のスミに引っかかったものが……

 幽霊。ゴースト。スピリット……


『……シノ様? 私が成仏しなかったのは私の我が儘です。シノ様がお気になさることでは……例え輪廻転生の輪からはずれても……』


 ……転生。


 …………………あ。

 ああああああ!!??

 もしかしてっ!


「『所持品欄』……えーと……『運営倉庫』…………………あ、あったぁぁぁぁぁぁっ!!」


 私は『所持品欄』の奥深く……『運営倉庫』と呼ばれる課金アイテム専用倉庫から一枚の札を取り出した。

 札はうっすらと青く光り、明滅を繰り返している。

 近くに使用対象が居ることの証だ。


『シノ様、それは……?』

「これはね、『召喚符』……ちょっと待ってね、念の為、効果を確認するから……『万象看破』!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【召喚符(未使用)】

 好意的かつ知性のある魔獣、妖魔、精霊、妖精、不死族アンデットらを召喚獣として契約、転生させることが出来る符。

 ただし契約前の種族、及びレベルによって転生できる召喚獣は異なる。

 主に

    ・転生前そのままの種族として召喚獣化する。

    ・転生前の上位種族として召喚獣化する。

    ・レア種族である天族、地族のいずれかに転生、召喚獣化する。

 の3パターンがある。

 もちろんレベルが高いほど上位種族やレア種族化する確率は高くなる。

 召喚獣は基本的にノーマルモードと省エネモードの2種類の姿を持ち、ノーマルモードで顕現させておく場合、召喚者の最大MPが10%減り、召喚獣顕現の維持に割り振られる。

 省エネモードでは最大MPの減少は3%ですむ代わり、戦闘力は大幅に落ちる。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一枚350円の課金アイテム、ナイス!!

 これは召喚特化の陰陽師が使えるアイテムで、基本、月額課金制の戦国の野望オンラインでは珍しい課金アイテムの一つだ。

 当時はブツブツ言いながらも皆こぞってこの札を購入したものだった。

 何しろ、これを使えばモンスターとは言え、パーティメンバーが1人増えるのだ。

 ソロ派のプレイヤーにとってはまさに必須のアイテムだったのである。

 うん、購入しておいて良かった! 偉いぞ当時の私!


「ネイル……その、さっき言ってたわよね……私の側なら……もう一度、生まれ変わったって良いって?」

『……え? それって……』

「このアイテムは『召喚符』。これを使えば魔獣や精霊……『幽霊』(アンデット)も、私の召喚獣として転生させることが出来るわ」

『え、えええ!?』

「今のネイルの状態はまさに『幽霊』(アンデット)。召喚符も反応しているし、間違いなく使えるわ……そして常時召喚契約を結べば、私の魔力を使って常に顕現状態にもできるの。ただ……一度契約を結んでしまえば、おそらく……私が死ぬまでネイルは召喚獣と言う形で『ひとならざるもの』として輪廻転生の輪から外れることになる……」


 ……つい実体を持ったネイルと再会できる可能性に舞い上がってしまったが、ネイルにとって一体どちらが幸福なのか。


「ごめん、むしろ素直に輪廻の輪に入ってしまった方が良いのかもしれない……それが本来、人としてあるべき姿……だよね」


『何言っているんですか、シノ様……私がシノ様のお側を一刻でも離れるとでも?』

「ネ、ネイル……」


 あ、いかん、目頭が熱くなってきた……


『シノ様のお側にいられるのであれば例え犬でも猫でもアンデットでもかまいません……私を……召喚獣として転生させてください』

「うん……ありがと、ネイル……故郷にね、家も建てたし………私の息子に彼女が出来てね……また昔みたいに賑やかになると思うんだ……」

『……今なんと? ……息子、ですか……?』

「ね、ネイル……?」

『私をほったらかして……男と子をなして……いた、と』

「あ、あのね、ネイル……一夜のアヤマチというかね……」

『ふ、ふふふふふ……私は所詮シノ様の下僕ですから? シノ様が男なんぞと何をしていようが関知するところでは無いのですが?』

「怖いっ、顔が怖いよ、ネイルっ」

『こうなったら……一刻も早く転生させてください! 私の目の黒いうちは、シノ様を一夜で捨てるような軽薄な男など近づけさせませんっ!』

「いや、ネイルの目は緑金色だし」

『なにかっ!?』

「いえ、ナンデモアリマセン」


 ……かくして、ネイルは私の常時召喚獣として、生まれ変わることが確定したのだった。

 自宅に帰ったらネイルとトオコとその子達と……ね、ネコミミパラダイス………あ、いかん、鼻血が……



色々なご意見を頂き、一旦死んでしまった者を安易に人間として生き返らせるべきでは無い、ゲームでは無く実際の世界として成立している以上何らかの制限があってしかるべきと思い、このような形に落ち着きました。


皆様のご意見、ご助言に感謝いたします。

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