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姑と新妻

おかげさまで腰もほぼ治りました。

「みんな、ご苦労様~」


 戦場のあちこちに散っていた母さんの分身達が戻って来たのは、10分も経たない頃だった。

 次々と母さん(ほんたい)に重なり、溶け込んで消えていく。


「……うん、後はBクラスかそれ以下しか残って無いから残敵掃討は任せて大丈夫だと思うよ」


 確かに、戦場のあちこちから勝ち鬨の声が聞こえてくる。

 ボスも古竜も大物も潰した今となっては騎士団相手に数刻も持たないだろう。

 ……しかし、生き生きとしているな母さん。

 地球むこうじゃ遠慮無く暴れられる相手なんていないから、ストレス溜まってたのかもしれん。


「あ、あの……主様ぬしさま、その、方は……」


 トオコが呆けたように俺に声をかける。

 あ、母さんの目がぎらりと光った。

 ……まずい、アレは獲物を狙う猛禽の目だ。


「十蔵君っ!」

「な、なに?」

「この子っ! この子誰っ!」

「へくっ!?ぎ……ギ、ブ、ギブッ……げふぅっ! うぐぐぐぐ」


 母さんはトオコの方を見たまま、俺の首を両手で掴んでがくんがくんと揺すりまくる。


 やめて! 母さんの馬鹿力でやったらマジで死ぬから!


「……おいおい、そろそろ止めてやれよ……十蔵、泡吹きそうだぞ」


 母さんはゴーバックの言葉にようやく俺の状態を理解したようで、ようやく両手を離してくれた。


「あら。やーねー、苦しいなら苦しいって言ってくれないと」

「げっ……げほっ……無茶言うなっ!……死ぬかと思ったわっ!」

「で、誰? あの子」

「あー……まあ、彼女、というか、なんというか……その辺も含めて何処か落ち着いたところで話すよ」


 俺は周りを見渡して母さんにそう答える。

 戦場が落ち着いてくるに従ってここにも段々と人が集まってきている。

 何しろ、謎の巨大竜が出現したのはかなり遠くからでも見えたのだ。

 余裕のある部隊が増援にと駆けつけてくれてもおかしくはない。

 実際、困惑しながらも遠巻きに俺たちのことを見ている兵士たちは徐々に増えてきている。


「……とりあえず拠点帰還リターンホームで宿に戻ろうか。ギルドへの報告も色々考えなきゃならないしな」

拠点帰還リターンホームってことは……十蔵君、術師系のクラスになったんだねぇ。順調にレベルも上がっているみたいで何よりね。あ、転移の前に素材もちゃんと回収しないと勿体ないよ?」

「ああ……あんまりの急展開に忘れてた」


 確かに目の前には多くのは虫類系魔獣の骸がある。

 というか、レプトルキングや古竜などの物もある。

 素材としてはレア中のレア――確かにこれを置いていく選択肢は無い。

 まとめて『所持品欄』に回収しておく。

 その際、周りから「おい、あの量の素材が一瞬で無くなったぞ」「なんて高性能の魔法の鞄だ」なんてざわめきが聞こえてくる。

 ……まずったな。ちょっと目立ったか。


「……あー……まあいいや……拠点帰還リターンホーム!」


 俺は半ば投げ槍になって拠点帰還リターンホームを唱えた。

 そしてそれは無事効果を発揮し、『時の守護者(タイムキーパー)』の一同と、俺、トオコ、母さん、の計7名を光に包み、無事アイリーザの宿へと転送したのだった。


          ※


「ふうん、ここが十蔵君達の拠点?」

「ああ、いや、本当の拠点はグリーンロード。今回はたまたま依頼でこっちへ来たんだよ」


 アイリーザでの俺たちの定宿「笹団子亭」。

 その一室に俺たち7名は転移してきたのだ。

 そう広い部屋でも無いので結構ぎちぎちである。

 とりあえずベッドには女性陣3人に腰掛けて貰おうとしたのだが、素直に座ってくれたのは母さんのみ。

 トオコはその母さんに引きずり込まれるようにしてベッドに座らされたが、ミリアムさんは露骨に母さんから距離を取る。

 ……まあ、Sランク冒険者から見ても異常すぎる力を見せつけてしまったからなぁ。

 警戒するのも分かる。

 ゴーバックとシルバーさんは壁に背を預け、ブルーノさんはためらわずに床に直に座り込む。

 どうやら借り主特権で一個しか無いイスを俺に譲ってくれたらしい。

 遠慮無く俺は椅子に座らせて貰う。


「で、あの、主様ぬしさま……こにょ、かたは……」


 トオコは隣に座った母さんに抱きしめられ、ほおずりされながらも俺に説明を促す。


「うん、まあ……順に紹介するよ。母さん、母さんが抱きしめてるのが俺のパーティメンバーのトオコ。で、後ろの彼らが臨時パーティを組んで貰ったSランクパーティの面々……ゴーバックさんは知り合いだっけ」

「ああ、まあな」

「……で、みんな、こっちは……薄々分かっているとは思うけど……『神楽紫乃』。俺の母親で……この世界で崇められている神楽神と同一人物ってことになる……かな」

「ふにゃ!?」

「!」

「やはり……ですか」

「……まさかと思っていたが」


 途端、ミリアムさん、シルバーさん、ブルーノさんの3人は共に床に片膝でかしこまり、頭を垂れる。

 トオコも真っ青になってベッドを降りようとするが、がっちり母さんに抱きしめられていて身動きが取れないでいる。

 そんな一同をにやにやしながら見渡しているゴーバック。


「いや……嘘を言っている訳では無いけど……なんでこんな荒唐無稽な話、簡単に信じちゃうの……?」

「いや、そりゃそうだろ。古竜なんて代物、瞬殺できる時点で人間の域を超えているしな。少なくとも神族か魔神クラスの……それもかなり上位の存在でないと無理だぜ?」


 唯一態度の変わらないゴーバックがにやつきながら応える。


「やーね、そんなたいした存在じゃないのよ? 皆さんは息子のお友達なんでしょう? そんなにかしこまらないで欲しいわー」

「は、し、しかし……」

「うむ、だからというて、はい、そうですか、と馴れ馴れしくするのものう」


 やたらとフレンドリーな母さんの態度に顔を見合わせて戸惑うシルバーさんとブルーノさん。


「いや、本当に気にしないでいいよ、話しにくいったらないし」

「そうそう。とりあえず畏まってないで、皆さん座りましょうか。『家具作成』」 


 母さんが『所持品欄』から取り出した『トレントの枝』を材料にスキルを使ってイスを4つ作り出す。

 背もたれ部分にやたらと精緻な透かし彫りが掘られている美術品のようなイスだ。

 こんな冒険者ご用達の宿には似つかわしくないことこの上ない。


「うわ~……王宮の個室にでもにありそうなイスね。座るのが怖いみたい」

「うむ、だが意外と丈夫じゃな。バランスといい座り心地といい最上級の逸品じゃて」

「流石は物作りの神でもあらせられる神楽様ですね……一瞬でこのような物を……皆さん、せっかくのお心遣いです。座らせて頂きましょう」


 シルバーさんが一同を促し、ようやく全員が席に着く。

 ふう、これでやっと落ち着いて話が出来るな。


「……しかし、十蔵君……様が神楽神様のご子息だったとは。ようやくあの異常なMP量に納得がいきましたよ」

「……様はむずがゆいからヤメテください、シルバーさん……君でいいです。俺自身はMP以外はただの人間ですから」

「あー……しかし」

「シノなら気にしないさ。なあ?」


 ゴーバックがそう母さんに話を振る。


「そうそう、若い内から変に持ち上げられちゃ性格もゆがんじゃうし。普通に冒険者の後輩に接する感じで良いのよ」

「は、それではそのように」


 ふう。これでやっと本題に入れるな。


「それで……母さん。母さんがここに来れたって事は……地球に戻れるって事?」

「んー……それがねぇ」


 ちょっと困ったように小首をかしげる母さん。


「流石の私でも、『界渡りの宝玉』の改良は難しくてね……この、『界渡りの宝玉・劣化版』は時間制限付き……完全に異世界に転移することは無理なの」

「……え? でも母さんはここに来ているよね?」

「うーん、なんというか……地球から超強力なゴム紐でつながれている状態……と言えばイメージ的に近いかな……そのうち揺り戻しが起きて地球に強制送還されちゃうのよ。この、『界渡りの宝玉・劣化版』をもう一つ作って十蔵君に使ってもらって地球に帰ったとしても……おそらく1分もしないうちにファリーアスに引き戻されちゃうと思うわ」


 ……そりゃダメだな。カップラーメンも食べられん。


「……あ、あの」


 ミリアムさんが恐る恐るといった感じで手を上げる。


「それでは神楽神様もすぐにチキュウ……? にお戻りになられるんですか?」

「そうねー私の魔力を持ってしても3日ほどがせいぜいかなぁ」


 俺が1分で母さんは3日か。

 ファリーアスに来て少しは強くなったかと思ったけど……どんだけ力量差があるのやら。

 ええと……60分×24時間×3日で……4320分……ってことは、単純計算でも4320倍かよ。

 実際はもっと広がるだろうけど。母さんの魔力は地球とリンクしているっていうからほぼ無限みたいだし。


「その劣化版が使えないって言うなら、こっちのオリジナルに母さんが魔力を込めるっていうのは?」


 何しろ4320倍だからな。

 あっという間に魔力チャージできるんじゃないか?


「うーん、オリジナルの宝玉は間接充填式……所有者の普段漏れ出ている魔力を少しずつ貯め込むって方式だから私でも一年かかるのよ。この3日じゃ無理ね。その点、こっちの劣化版宝玉は直接充填式を採用しているから気軽に使えるんだけどね」


 むう。そうそう上手くはいかないか。


「あとね、十蔵君が持っているそれ(界渡りの宝玉)は使用人数に制限は無いけど、その分魔力が必要だからね?」


 にやりと笑みを浮かべる母さん。


「『主様』、なーんて、こんな美少女に呼ばせて~母さん将来が心配だわ~……もちろん一緒に連れてくるのよね?」


 むぐっ……やはり其処をついてきたか。

 まあ、連れて行けるもんならそれにこしたことはないけど。

 今更別れる気は無いし。


「もっ……申し訳ありませんっ……神楽神様のご子息様とは知らず……その……馴れ馴れしく、ぬ、主様、などと……」

「ああん、良いのよトオコちゃん、十蔵君が主だというなら私にとっても娘も同然っ! だからこれは親娘のスキンシップなの」

「ひゃう!? だ、ダメです耳は……あうんっ、尻尾もぉ!?」

「あー、ネイルを思い出すわぁ……感じるところも一緒なのね? かわいい……」

「だ、ダメです神楽様ぁ」

「ふふ、ここはどぉ?」

「あ、ああ」

「ここもこうしたりして」

「はぅ! はんん……」


 もふもふもふもふもふもふもふ……


「うふ、うふふふふふ……おかーさまはね、おかーさまはね……」


 周囲の目も忘れトオコをベッドに押し倒そうとする母さん。

 すでに時の守護者の面々の目も点になっている。


「ええい、落ち着け!」


 スカーーンッ!

 俺は魔導師の杖をフルスイングで振り抜き、母さんの頭部にクリーンヒットさせる。


「……っはっ!?」

「……母さん、それ(・・)は俺のです。ついでに言えば今は昼間で結構まじめな話をしていたはずなんですが」

「……あ、その……久々の生ネコミミに我を忘れて……怒っちゃいやん……あ、ほ、ほら! トオコちゃんを一緒に連れてくるには結構時間かかると思うの! 宝玉に十蔵君の魔力が2人分貯まるまでは100年前後……下手したらもっとかかるかもしれないのよ」

「100……年!?」


 ちょっとまて。

 それじゃ下手したら生きているうちに地球には帰れないのか?


「まあ、十蔵君は私の血も引いているし、1000年位は楽に生きるでしょうけど、トオコちゃんは100年も生きられないでしょ? それじゃ地球に来れないし、私が愛でられな……げふんげふん……ともかく」


 え、俺って1000年も生きるの!?

 初耳なんだけど。


「トオコちゃんには私の『加護』をちょっと強めに付与しておきました。これで600~700年位に寿命が延びたはずです……うん、さっきのアレは加護を与えるのに必要なアレなのよ。うん」


 腕組みをして最もらしくそうのたまう母さん。

 いや、絶対後付けの理由だろ。


「トオコ……カードを確認してみて」

「は、はい、主様……」


 ギルドカードを慌てて取り出し確認するトオコ。


「『称号:神楽神の愛娘』『祝福:義母ははの愛』って付いてます……あ、あの……あと、なぜかMPが2000ほど不自然に上がっているんですが」

「うん、加護の副次効果ね……それで寿命も延びたはず。あとは……あ、十蔵君、ちょっとその界渡りの宝玉(オリジナル)貸してね……ここをこうして……うん、完成。これで魔力貯蔵のマックスは2人分に設定したし、効果範囲も十蔵君とトオコちゃんにしといたし……後は必要な魔力が貯まれば自動的に発動するはずよ……連れてくる(・・・・・)人数が増えなければ(・・・・・・・・・)ね。はい、返すわね」

「あ、ああ」

「か、神楽様……それって……」


 トオコの顔がみるみる赤くなる。


「んもー、2人とも若いからぁ……1人と言わず2、3人増えてるかもねぇ……ま、その時はその時で設定し直せばいいし……宝玉の設定の仕方は後で教えたげるね」

「……」


 ……なんというか……ばつが悪いというか、いたたまれんっ。

 だがまあ確かにそれは懸念するところだな。獣人と人間の間には子供が出来にくいとはいえ。


「あと注意点は――……基本的に界渡りの宝玉は『前回転移した場所と時間』に飛ぶんだけど、それほど厳密じゃ無いみたい。1年くらいは前後にずれる可能性もあるわ。実際、地球側じゃ十蔵君が転移してから1週間ほど経つけど、まだ十蔵君戻って来てないしね。それで心配になって探しに来たんだし」

「……もとの時間?」

「うん」

「……ということは俺は100才過ぎて大学に」

「通うことになるわね」

「勘弁してくれよ……」

「良いじゃない! 若奥様同伴の大学生活! こんな娘(ネコミミっ娘)が一緒に学生生活送ってくれるのよ!? まさにそれなんてリア充状態」 

「うーむ……それもそう……か?」

「そうそう、思いっきり見せびらかせるわよ? なんならネコミミは私の『変装』ディスガイズで隠してあげてもいいし」


 なんか誤魔化された気がしないでも無いがまあ、いいか。


「あー……とりあえずそっちの話は一段落したみたいだから、こっちの話……というか相談もいいか?」


 ゴーバックが会話の間を突いて話に入ってくる。


「とりあえず早急に……シノが降臨したことについて口裏合わせをしなきゃならんだろ? 戦場も落ち着いてたし、そろそろ戻って来る者達がいてもおかしくないぜ」

「「「「「「あ」」」」」」


 しまった……そっちのことを忘れてたか。

 さて、ギルドにはどう言って誤魔化すか……悩みどころだな。


 


紫乃さん大暴走中。

主人公の影が薄い……(泣)

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