降臨
執筆途中でぎっくり腰をやってしまった為、ちょっと短いです。
いつもの6割くらい。
腰を治し次第続きを投稿イタシマス。
「え……なんでここに母さんが」
俺の目の前には、地球に居るはずの母――神楽紫乃が立っていた。
「いやぁ~流石に可愛い息子が心配でね? 界渡りの宝玉の劣化コピーを作って様子を見に来ましたっ!」
そう言うと母さんは両手を腰に当てて胸を張る。
その首元に光る『子猫を模したペンダント』が、界渡りの宝玉の劣化版、とやらなんだろうか。
「……いや、作ってみましたっ、てね……? 次元を超えるようなアイテムを気軽に作らないで欲しいんですが」
「なによう、いいでしょ? 界渡りの宝玉より可愛いし。宝玉部分を猫型に加工するのに苦労したんだから」
苦労したのはそこですか。次元を渡る機能そのものは苦労も無く作っちゃったってことですか。
21年一緒に居て思い知っているはずだったが、まったく持って非常識の塊だな……母さん。
俺がそんな事を思いながらこめかみを揉んでため息をついていると、ゴーバックが大剣を鞘に収めながら母さんに声を掛けてきた。
「いよぅ、シノ、久しぶり!」
「……あらー……こっちに戻った途端に知り合いに会うとは思わなかったわね」
「20年ちょっとか? まさかまたこっちに戻って来るとは思わなかったが……あー……その、な? 十蔵が『母さん』とか言ってたが……もしかして十蔵って……お前の?」
「そうそう、私の愛息」
「……やっぱりか。非常識具合はそっくりだ」
「ひどいーむしろ華のかんばせがそっくりだと言って!」
「あー、はいはい美形美形」
「……実感がこもってないわ」
あはははは。がははははは。
戦場には似つかわしくない2人の気の抜けた笑い声が周囲に響く。
この近辺こそ魔獣やリザードマンは居なくなっているが、いまだ遠くからは攻撃魔法の爆発音や魔獣の咆哮が響いている。
はっきり言ってシュールも良いところだ。
「そうね、久しぶりにつもる話しもしたいけど……ちょっとまだ騒がしいみたいね」
「ああ、ボスは十蔵と俺たちで倒したんだが……まだあちこちに大物が数体逃げずに残って居るみたいだな」
「ふむ。んじゃ、ちょっと掃除しましょうかね。落ち着かないし」
そう言うと母さんは右手の人差し指と中指を自分の額に当てる。
「『影分身』」
そう母さんが唱えると、母さんの実体を持った分身が6体出現する。
「真朱、山吹、白磁、萌黄、瑠璃、紅藤、適当に戦場に散ってお掃除よろしくねー」
「「「「「「はっ」」」」」」
自分の分身に名前付けてるのか。おまけに芸が細かいことに、名前に合わせて分身達の髪と服の色が違う。
「「「「「「「『神速』『縮地』」」」」」」
分身達は移動加速系のスキルを二重に唱えると(ちなみに『神速』は俺の持っている『加速』の上位版だ)一瞬でその姿が消える。
本体の指示に従って戦場へと飛び出していったのだろう。
「……さて、残る問題は」
俺は後ろを振り返ると、一様に腰を抜かして座り込んでいるトオコ&時の守護者の面々に視線を向ける。
さて、どう説明をしましょうかね。
※
――王国騎士団第3小隊長SIDE――
戦況は良くなかった。
我らは西の砦の奪還戦に選抜された、王国騎士団でも生え抜きの騎士だと自負しているが、あの羽の生えたリザードマンの親玉に強襲されただけで第1小隊は壊滅。
私が指揮をする第3小隊も、第1小隊との連携が取れなくなった為にその動きに精彩を欠いていた。
――だいたい、なんでこやつらトカゲ共が部隊運用なんて概念を知っているんだ。
下位竜種とはいえ、あれだけの質量が部隊を組んで突撃してくるなど、悪夢でしかないぞ。おまけに中位竜種も数頭、高位竜種も1頭混じっている。
今までは第1小隊が守りを固めて突進を受け止め、その隙に我ら第3小隊が背後から討つ、という形で何とかなってきたのだ。
それを今度は自分たちだけでやらなければいけない。
当然、受け方も攻め方も半減せざるを得ないのだ。
「くそっ……これは長引きそうだな……あの化け物が姿を消したのだけが救いと言えば救いか」
「小隊長! そろそろ受け手の第1分隊が持ちません!」
「第2分隊と交代させろ!」
「2分隊も3分隊もまともに動けるのはせいぜい7割程度ですが」
「くそっ……全分隊を受け手に変更、時間を稼いでいる間に近くの冒険者の部隊に救援を要請しろ! 冒険者の部隊なら特定の受け持ちがない分、動きやすいはずだ。彼らに攻め手を担って貰う!」
「小隊長……それは……よろしいので?」
「かまわん! 今ここに至って騎士のメンツなどに拘っている場合では無いわ」
「はっ! 了解です!」
私の指示を受け、魔法通信で救援要請をかけようと伝令員が動こうとしたその時。
我らの魂を吹き飛ばすような強烈な念話が辺りに響き渡った。
『我を呼びつけたは己等か』
『愚かよの。人の手で作られたアーティファクトなどで我を支配できると思うたか』
『その思い上がり、自らの命を持ってあがなえ』
なんだ。これは。
まるで神か悪魔の言葉……自分達に向けられた言葉では無いことは分かるのに、そんなのは関係無しに平伏したくなる。
逆らうなんて発想すら浮かばない。
「しょしょしょ……小隊長~~」
「おち、おち……つけっ! 三列横隊で……防御態勢だ!」
部下にそう指示するのが精一杯だ。
幸い、魔獣達もこの突然の事態に混乱しているのか襲ってこない。
そうこうしている内に突然ふっと体が軽くなる。
今まで戦場に満ちていた、念話の主の気配が煙のようにかき消えたのだ。
「はっ……はっ……なんだったんだ、一体……」
今もイヤな汗が肌を伝わっている。
訳が分からない。あれほどの気配を発する強大な存在がいきなり戦場に現れ何もせずにすぐさま消え去るなど……どういう事なんだ。
「しょ、小隊長、ドラゴン共が……」
部下の声に先ほどまで対峙していたドラゴン共の方を見ると、混乱から立ち直ったのか、大物が数頭、近付いてくるのが見えた。
「くっ、今の訳の分からない念話で逃げ出してくれればと思ったが……逃げ出したのは小物だけか。そうそう都合良くはいかんな」
雑魚は居なくなったとはいえ、残ったドラゴンは皆ミドルドラゴンかハイドラゴンの大物だ。
戦力的に厳しいのは変わりない。
「こうなれば一頭ずつ削っていくしかない…………ん?」
くさび形陣形による一点突破という半ば特攻のような策を部下に指示しようとした時、私は戦場に違和感を覚え、目を凝らす。
……今、いきなりドラゴンの一頭が、鎧も着けてない女性に吹き飛ばされたように見えたが。
はは……まさかな。
私は、そのあり得ない光景に、こめかみを揉んで、もう一度そちらを見やる。
女性は消えてはいなかった。
どうやら私の幻覚では無いらしい。
紅い髪、紅い服の……極、美しい女性。
だが、何処かで見たような顔だ。
私が女性を凝視していると、戦場に静かな声が響いた。
『我が名は真朱、神楽神が影の一身なり。主の名において汝等を滅す』
これは……念話ですらない。
ただの言葉だというのに、なんという威厳、なんという魔力。
自然と地面に膝が落ちてしまう。
周りを見ると部下達も同様のようだ。
……間違いない。先ほどの念話の主の気配が急に消え去ったのは……この方の本体が降臨したからだ。
『閃空烈波』
その一言と共に振るわれた、彼の方の手刀が、紙でも引き裂くように易々とドラゴン共を屠っていく。
中位竜種だろうが、高位竜種だろうがお構いなしだ。
「しょしょしょ……小隊長……これは……」
「うむ、ま、間違いない……降臨されたのだ……神楽神様が……」
「す、するとあの方が」
「いや、ご尊名を真朱様、と仰っていただろう。影の一身、とも。おそらく神楽神様の一部……分身のようなものだろう」
「おおお……我らの危機にご光臨下されたのか!」
「お、俺、今後はちゃんと毎日のお祈りをかかさねぇ」
「お、俺も」
「俺なんか毎朝、笹団子お供えしちゃうもんね」
「これはきっとシノ様ブロマイドを枕の下にして毎日寝てた俺の信仰心のおかげだな」
「ばっか、俺なんかシノ様8分の1神像を抱いて寝てるし」
「俺なんか今度の市に薄くて高いシノ様本出すんだ」
「「「「「「それはやめとけ」」」」」」
……………………部下の教育間違えただろうか。
お見舞いコメントをくださった方々、ご心配をおかけしました。
前回良いところで終わってしまった為、続きを望むとのお言葉を多く頂きましたので、少し短いですが書き上がった分だけ投稿させて頂きます。
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参考
作中に多数のドラゴン――竜種が出ていますのでまとめると
弱い順から
レッサードラゴン
ミドルドラゴン
ハイドラゴン
真竜
古竜
……となっています。
ちなみに亜竜であるワイバーン種はレッサードラゴン以下のものからミドルドラゴン以上のものまで強さのランクは様々です。