砦奪還戦(3)
お待たせしました。
段々と行進速度が落ちていますが、完結はさせますので、おつきあい頂ければ幸いです。
リザードマン達との戦闘開始から約1時間が過ぎて。
俺の現在の戦果は
ブラスワイバーン×1
スパイクワイバーン×1
ドラゴンフィアー×1
ワイバーン×3
カオスバジリスク×3
ポイズンドラゴン×1
ラージコカトリス×2
コカトリス×4
ラミア×1
ラミアノーブル×1
の、計18匹。
使用弾数は鉛製13発、ミスリル製9発。
弾の使用弾数と倒した敵の数が一致しないのは、外したり、一発で息の根を止められなかったりというのがあったからだ。
まあ、それを差し引いても自分でびっくりするくらいの戦果であるが。
更に、途中から俺という長距離狙撃手の存在がばれて、リザードマンの別働隊が俺たちを何度か直接襲ってきたりもしたが、ことごとくトオコが撃退。
倒した骸を数えたら
ハイリザードマン×3
リザードマン×11
スケイルヴァイパー×7
バジリスク×3
と、トオコ単独の戦果も凄まじいことになっていた。
更に俺とトオコはパーティを組んでいてお互いの距離も近い為、魂の力の共有が起こっている。
その結果、俺たちのレベルは恐ろしい勢いで上がって行き……現在では
俺は総合レベルが37、トオコはレベル41にまで急上昇していた。
そして俺はレベルアップに付属して新しい魔法を習得。
隠術5(魔法感知、対魔法結界Ⅰ、魔法解呪Ⅰ)
隠術6(解錠、施錠)
隠術7(拠点帰還、地上帰還)
隠術8(柔剛制御、拠点転移)
……ずいぶん多くの呪文を覚えた……助かるが、使いこなせるか不安ではある。
トオコも
3連突き
明鏡止水(平常心から変化)
反撃術・参
四方斬
と、多くのスキルを覚えたが、それよりもレベル40を超え、スキルスロットが5になったのが大きい。(スキルリング込み)
「――と、まあ、こんなとこっす」
俺は敵の攻撃が小康状態となっている時間を見計らって、コートの内ポケットに入れた『風音のコイン』を作動させ、ゴーバック達に戦果の報告をしていた。
『いやはや、えらい戦果だな。お陰でこっちも助かった……やっかいな特殊能力や高高度の魔獣を気にしなくてすんだからな。』
「全体の戦況はどんなもんです?」
『うん、右翼は俺たちが押しているな。大物ならミドルクラスのドラゴンを4体、ワイバーンを3体、ハイドラゴンを一体潰した……雑魚共は数え切れねぇから省略だ。俺たち以外の所は一進一退って感じだ……むしろあまり良くねぇ。総合力で言えば、こっちが上のはずなんだがな……』
「何か予定外のことでも?」
『ああ、一つにはリザードマンの奴ら、曲がりなりにも部隊を運用してやがる。軍としては決して上手いとは言えないがな……それでも普通のリザードマンならそんな真似は出来ないはずだ
もう一つは……こっちが主な理由だが……戦況がやつらに不利になると、正体不明の魔獣が奴らの味方をしに姿を現すらしい』
「正体不明の魔獣、ですか?」
『ああ、俺も直接見た訳じゃ無いが、3メートル近い長身、漆黒の鱗、蝙蝠のような羽、長く伸びた2本の角の空を飛ぶ怪物……まるで二足歩行のドラゴンのような化け物だとよ』
「…………」
『で、コイツがまた無茶苦茶で……魔法は効かないわ、鱗は硬いわ、ドラゴン顔負けのブレスは吐くわで、せっかく有利に運んでいた戦況をひっくり返されちまうんだと』
「……とんでもないやつっすね」
……特に「魔法が効かない」ってのは俺にとっては大問題だ。
『魔法耐性』を持っている程度なら倍掛けで何とかなるが、『魔法無効』とかの特性持ちだと俺の攻撃手段の大半が封じられてしまう。
空を飛び、神出鬼没なそいつに奇襲されたら、ちょっと危ないかもしれん。
『特にドラゴンブレスはやっかいだぞ。魔法でも物理攻撃でもないからな、十蔵の『防具強化』の恩恵を受けられねぇ』
訂正。ものすごくヤバそうだ。
「ゴ、ゴーバックさん、どうしましょ?」
『ああ、作戦を変更して合流するか。ここらの魔獣も大分少なくなったしな。それに俺たちの装備は多少なりともブレス系にも耐性のある装備だ。ある程度はサポートできる』
「了解」
ここは強がったり見栄を張る場面じゃないので、俺は素直にゴーバックの提案に乗る事にする。
俺は自分とトオコに『透明化』をかけると、ゴーバック達の元へとそろそろと戦場を移動し始めた。
※
――???SIDE――
「アルジサマ、人間ドモノ勢イガ増シテオリマス」
兵士から奪い取ったブレストプレートと長槍を装備した高位蜥蜴人が彼の前に跪いて報告する。
「……ふん、何組か飛び抜けた実力の者達が居るようだからな。そいつ等は俺が始末しておこう。後は貴様等でなんとでもなるだろう」
「ハッ、オ手数をオカケイタシマス、アルジサマ」
「……ふん」
彼は跪いたままの部下を一瞥すると、踵を返しベランダに出る。
「まあ、良い暇つぶしだ。久しぶりに人間どもの相手をするのも良いだろう」
そうつぶやくと漆黒の羽をバサリ、と大きく広げて、宙に舞う。
そのまま垂直にどんどんと高度を上げていく。
巨大な翼を持つ生物としてはあり得ない飛び方だ。むしろ現代の垂直離着陸機に近い。
「……さて、どこから遊んでやるか……まずは正面からか?」
彼の正面に見えるのは正規軍――第1騎士団の内の第1小隊である。
飛び抜けた力を持つ者は少ないが、実力も部隊練度も高いレベルでまとまっており、連携に欠ける魔獣達を一方的に蹴散らしていた。
「うん、まずはあそこからだな」
彼はその小隊に目を付けると、いきなりその部隊のど真ん中めがけて高高度から急降下した。
それを始めに発見したのは索敵を担当する魔術師達だった。
「小隊長殿っ! 上空から巨大な魔力の気配が近づいております!」
「落ち着け。巨大とは言ってもせいぜいワイバーンかその亜種だろう! 弓兵と魔術師は翼を狙って撃ち落とせ! 重兵は戦線の維持、槍兵は落ちた敵の止めだ!」
「いえ、影はワイバーンより遙かに小さいですが、魔力のみが突出して高いのです! これはワイバーンではあり得ません」
「……だとしてもやることは変わらん! 射程距離に入り次第撃ち落とせ!」
小隊長の指示の元、多数の矢と複数の攻撃魔法が彼に向けて放たれる。
だが、矢はことごとくその硬い鱗に包まれた体表で弾かれ、魔法はそもそも体表にさえ届かない。
「効かんな。こそばゆいだけだ」
「レジスト……いや、無効化だと!?」
「つまらん。さっさと死ね」
彼が大きく息を吸い込むと、それに比例するように魔力が膨れあがる。
「魔法……!? いかん、魔法障壁を張れ!」
「はっ!………………魔法障壁展開完了!」
複数の魔導師が張った魔法障壁が小隊全体を包むと同時に、それを待っていたかのように彼の口腔から灼熱の炎が吐き出される。
「ふ、我が軍の一流魔導師の張った魔法障壁、そうそう突破は出来……うわぁぁぁぁぁっ!!」
「これは魔法ではありません! ブレス……ドラゴンブレスです!」
「ひ、人型の魔獣がドラゴンブレスを吐くだと!? がぁぁぁぁぁっ!!」
彼の吐いた炎は、魔導師達の張った障壁を素通りし、兵士達を無慈悲に焼いていく。
その凄まじいまでの熱量は1分とかからず小隊全員を物言わぬ炭の柱と化した。
「……やはり普通の兵ではつまらんな。次はもう少し手応えのある気配を狙ってみるか」
彼は魔力の触覚を四方へと伸ばし、戦場の気配を探ると、再びその翼を大きく羽ばたかせて次の獲物を求めて飛び立っていった。
※
――十蔵SIDE――
「ゴーバックさん、おまたせ」
「ぬぉっ!?」
ゴーバックに声を掛けた途端、彼の持つ大剣が俺に向けて振り下ろされた。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!
轟音と共に大地を砕く大剣。
「ぎゃあああああっ!!」
視界が暗転し大地に叩き付けられる俺。
「ぬ、主様!」
幸い……と言って良いのか、ゴーバックの大剣はわずかに俺の髪数本を引きちぎったのみで、そのまま大地に撃ち込まれたのだが、その際爆裂した大地の土砂に吹き飛ばされてしまったのだ。
大地に叩き付けられたままの俺と、その側に膝立ちになって俺の泥を払っているトオコの姿が可視化する。
……ああ、今の一撃で透明化が解けたのか。
「……って、十蔵か。わりいわりい……敵かと思ってな。あ、それと、味方に近付く時は隠形系のスキルは解けよ?」
「……ああ、身をもって実感した。下手に気配で敵の位置を探れるようなヤツの側には消えてても近寄らないようにするよ……痛てて……」
俺の全身に出来た打ち身と擦り傷にシルバーさんが『自動回復』を掛けて癒してくれる。
これは賢者の固有魔法の一つで最大HPの1割を10分間に少しずつ回復させるというもので、消費MPが3と異常なほど高効率なのだ。
『賢者』が異常なほどMPを持っている、と言われるのも、賢者の固有魔法の数々がことごとく低消費高効率なせいもあるらしい。
「あー、ありがとうございます、シルバーさん」
「いえ、ウチのリーダーがアホですみませんね……ゴーバック、あなたほど気配が読めるのなら、殺気の有る無しまで分かるでしょうに」
「いや、シルバー……分かるけどもな? ほぼ反射で出るんだよ」
がはは、と悪びれずに笑うゴーバック。
「……ふう。ともかく、『風音のコイン』で、今、騎士団と今連絡を取ったところですが……例の謎の魔獣、騎士団の一角を壊滅させた後、『シェラザード』、『S&S』に大打撃を与えて再び飛び去ったそうです」
「……Aランクパーティの奴らが……か」
「ええ。幸いにも冒険者組からは死者こそ出ませんでしたが、今回の戦からはリタイヤする他無いとのことです」
「……んじゃ、また戦場のバランスが崩れるな」
「……ええ、ですが、幸い、右翼は大物をすべて潰してありますから、そのまま私達で中央の敵へ側面から攻撃をかければまだ盛り返せます」
「うむ……だな。十蔵達も来てくれるか?」
「あー……こうなりゃ一蓮托生だからな」
「私は主様に従いまする」
「よっし、それじゃ一通り回復と準備が整い次第中央に向けて――」
――ッガイィンッ!!
ゴーバックの言葉を遮るように戦場に響き渡る激突音。
それは、まるでダガーのような長大な爪の一撃を、ゴーバックの大剣が防いだ音だった。
「……おいおい、噂をすれば影ってか? この距離まで俺に気配を悟らせねぇたぁ……ハンパじゃねぇな」
「クカ、クカカカカカ……居るじゃねぇか手応えありそうなのが」
いつの間に現れたのか、まるで二足歩行のドラゴンのようなソイツは、その凶悪な爪でゴーバックの大剣を弾き返す。
3メートル近い巨体、漆黒の鱗、蝙蝠のような翼、長く伸びた2本の角……間違いなくこいつが件の魔獣だろう。
魔法感知を使わなくても見えるほど濃密な魔力が、ヤツの体の周りに揺らめいている。
強い。多分、とてつもなく。
「くっ……竜人――でもありませんね。今まで見たことが無い個体です」
「シルバー、感心してねぇで援護だ!」
ゴーバックの一声で殺気のこもった魔力に当てられ、硬直していたパーティが動き出す。
シルバーさんは俺のバフとは別系統の――肉体を強化する支援魔法を唱える。
ブルーノさんはゴーバックと魔獣を挟んで反対側に回り込み、そのミスリル製のナックルで拳撃を撃ち込む。
ミリアムさんは魔獣の身長差を利用し、後方から頭部めがけて弓を連射する。
トオコは『ラビットブーツ』のスキルを開放してヤツの背後から跳びかかり、覚えたばかりの『3連突き』を頸椎に向かって繰り出す。
そして俺は――50倍『焦熱導く炎弾』を撃ち出す。
スナイパースタッフは弾の誘導が出来ないからこの乱戦では使いにくい。
「クカカカカカカカカッ!!!! 無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァッ!」
……どこぞで聞いた覚えのある台詞を叫びながら、魔獣は一切抵抗せずに俺たちの攻撃を体に受ける。
トオコ、ブルーノさんの攻撃やミリアムさんの矢は、わずかに鱗一枚を剥がすに留まり、俺の『焦熱導く炎弾』に至っては体表に至る前にふいっと消え去る始末。……間違いない。攻撃魔法を『無効』化してやがる。
唯一、ゴーバックの一撃が袈裟切りに魔獣の胸を裂いたが、それもわずかに出血を促したに過ぎなかった。
「んー……やるなぁ、貴様等……正直、今回の戦で初めて怪我らしい怪我を負ったぞ」
こりこりと指で胸の傷をかく魔獣。
……俺とシルバーさんのダブルのバフを受けたパーティの総攻撃をまともに受けてそれだけかよ。
……全然痛そうに見えんな。しかもよく見るとじくじくと傷が蠢いて治っていっているみたいだし。
魔法を使ったようには見えないから、特性として回復能力を持っているのか。
「……ずいぶん流暢に言葉を話す魔獣ですね……察するところ、あなたがこの魔獣達の首魁ですか……何者です?」
シルバーさんがスタッフを構えたまま魔獣に問いかける。
「ん? ああ、まあ、首魁といえばそうだな……何者か、という質問には……ふん、そう言えば名など考えていなかったな……」
「……?」
「いい機会だ。そうだな……鱗持つ者どもの王とでも呼ぶがいい……生きて戻れたらな」
そう言ってその魔獣――レプトルキングは牙をむき出しにして凶悪に笑って見せた。
やっと……やっと敵ボスの名前が出て来ました(笑)
あと、前回ミリアムの使う技にネタを仕込んだのに誰も気付いてくれない件にorz
……いや、むしろあまりにくだなら過ぎてスルーされているのか……
追伸:PSO2、沢山のフレンド登録ありがとう御座います!