砦奪還戦(2)
戦闘シーン中心ですが武器の都合上あんまり派手じゃ無いです(笑)
――シルバーSIDE――
一騎当千の戦士であり、一千年を生きてきた生ける歴史の証人。
それがゴーバック・ロイドという私のパーティのリーダーです。
剛毅で豪快で人情に厚く涙もろい。
おおざっぱだと思えば細かな心配りを見せたりもする。
まあ、総合的には非常に好感の持てる人物なのですが。
もちろん人間である以上、多少の短所もあります。
女好きだとか、女にだらしないとか、愛人が各街にいたりとか。
Sランク冒険者としての報酬の多くは愛人達との子の養育費とかに消えていると聞きますしね。
そんな彼が『将来有望な若手冒険者』として十蔵君とトオコさんを紹介した時、正直言って『また愛人が増えたのか』と思っていたのですが。
見せて貰った十蔵君のステータスは異常とも言えるものでした。
私のクラスは、MPが多いことで知られるレアクラス『賢者』ですが、そのレベル84である私でさえMPは800に届きません。
それがレベル23でMP12860ってなんの冗談なんですか。
それに加えて魔力自動回復と魔力使用制限解除という反則級の固有スキル。
確かにこれならSクラスと肩を並べて戦うことも出来るでしょう。
普通ならあまり戦闘には向かない『魔道具師』という彼のセカンドクラスも、このばかげた魔力と『魔力使用制限解除』のお陰で最上級クラス以上の有効性を持つクラスとなっています。
まさか武器強化と防具強化が、あんな反則魔法に変わるとは。
この二つは4時間ほど前、彼が私達に施した武装強化の魔法ですが、いまだその効果は消えていません。
本来なら効果の低い代わりに効果時間が24時間続くという魔法なのだから当たり前なんですが。
「えーと、ゴーバックさんとブルーノさんは前衛だから防具強化×50。ミリアムさんとシルバーさんは後衛だから40倍くらいでいいかな? 俺とトオコはその更に後衛だから30倍でいいか。あと、ゴーバックさんとミリアムさんとブルーノさんとトオコには武器強化×30と……うん、MP消費も10800……開戦まで4時間くらいだから全回復するには十分だな」
……などと言って気軽に掛けてくれましたが……防具強化×50って、つまりは防具性能が3.5倍になるって事ですよ!? 武器強化×30だって武器の攻撃力が2.5倍になるって事で……
うぬぼれでは無く、私達はSランクパーティに相応しい装備を身に付けています。
例えば私の着ているローブも『神の織手』と言われるシオリ・アルケニー作の『神鳥のローブ』だし、ミリアムの弓も『神樹の弓』という高位のマジックアイテムです。
……それらに掛ける超高効率のバフ……その有効性を本人である十蔵君がどれほど理解しているのか。
まったく、クラス名とは言え、『賢者』を名乗っているこの身が恥ずかしくなりますね。
「いいか! 我がアイリーザは神楽神様が降り立たれた神聖な地! その一片の土地も魔物なぞに明け渡すわけにはいかん!! アイリーザ第1騎士団の力見せてやれ!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
「一番槍は冒険者などに譲るわけにはいかん! 第一小隊から順次突撃ぃぃぃぃぃぃっ!!!」
……っと、騎士団が動き出しましたか。そろそろですね。
「ゴーバック、奴らが騎士団に気を取られている間に右翼から……あの大物――炎属性の中級竜を潰しましょう。ブレスを吐かれる前に速攻です」
「おう、いっちょやったるか!」
「ミリアムは周辺の飛びトカゲを撃ち落としてください。ブルーノはゴーバックのサポートを……私は広域攻撃魔法で雑魚を潰し道を作ります」
「了解♪」
「うむ、よかろう」
「んじゃ、いっくわよ~……弓術、三矢砕蛇!」
ミリアムの弓から光り輝く3本の矢が放たれて空を舞う3匹の飛びトカゲを撃ち貫きました。
……ワイバーンの眷属なんですがね。それぞれ一発で絶命してますね。
いつもなら流石にこれほどの威力は無いはずなのですが。
「うっひゃ……十蔵くんの支援魔法すっごいわ~おねーさん惚れちゃいそう♪」
正直、この支援魔法だけでも彼をパーティに入れた価値はありますね。
さて、私も先輩賢者として、十蔵君に少しでも良いところを見せましょうかね。
――十蔵SIDE――
「うーん、凄いな……流石Sランクパーティ……BやCランク魔獣程度、雑魚扱いか」
ゴーバックの力はともかく、他のメンバーも尋常じゃ無い。
ミリアムさんは一気に2、3本矢をつがえて空を飛ぶ魔獣を的確に射落としているし、ブルーノさんは普通のリザードマンに倍する体格を持つハイリザードマンを正拳突きの一発で昏倒させている。
シルバーさんは流石に賢者だけあってブリザードの魔法を連発して広範囲の雑魚を殲滅している。
「ええ、連携も上手くお互いを邪魔しないよう動いていますね……主様、こちらもそろそろ……」
「だな。せっかくSランクパーティに一時的とはいえ入れて貰ったんだ。ちょっとは役に立とうか」
『魔導師の杖スナイパーカスタム』――長くて言いにくいので『スナイパースタッフ』とでも呼ぼうか。そのスナイパースタッフを戦場に向けて銃身の後ろから弾丸を一発入れる。
戦場まで距離があるので、狙いの付けやすい大型魔獣を手始めに狙ってみることにする。
飛びトカゲの更に上方を旋回する魔獣……赤銅色のワイバーンだ。
「トオコ、悪いけど肩を貸して。銃身を固定したい」
毛布では地上の魔獣はともかく空の魔獣を狙い撃つには角度が足りない。
幸い、スナイパースタッフは火薬の音もしないので、トオコの肩に銃身を乗せて狙いを固定しワイバーンに向ける。
「『念動』……重量限界10分の1、移動速度800倍……発射!」
例によって銃身を前方に引っ張られる感覚と共に弾丸が飛び出す。
直後にワイバーンの姿勢がぐらり、と傾いたので当たったことは当たったようだ。
「ち、ダメージは与えたみたいだが……落ちないか」
「主様、弾は右足に当たったようです。負傷はしていますが、貫通はしていないようですね……ですが、あれはワイバーン種の中でも防御力に優れるブラスワイバーンですから……ダメージを与えただけでも上出来だと」
トオコ、この距離からそんなところまで見えるのか……凄いな。もしかして視力3.0くらいあるの?
「貫通してないか……ならこいつを使ってみようか」
俺は木製のケースから銀色に輝く弾を取り出す。
「主様、それは?」
「徹甲弾。ミスリルの弾芯に銀でコーティングしたヤツ。別注でピィスさんに頼んどいた……これなら」
本来は弾芯にはタングステンとか劣化ウランとか使うらしいが……幸いこっちの世界には環境に優しい超金属のミスリルがある。
俺は今度は銃身にその銀色の徹甲弾を装填すると再びワイバーンに狙いを付けた。
ワイバーンは自らに傷を付けたのが俺だと言う事に気付いたのか、回頭しこちらに向かってくる。
だが、それは的が近くなって狙いも付けやすくなるという事で。
「『念動』……重量限界10分の1、移動速度800倍……発射!」
「……! やりました! 凄いです、主様、頭頂部から入って完全に貫通しておりまする!」
だから何でそんなに詳細に分かるんだ。
トオコの視力も並じゃねぇな。
それはともかく、トオコの報告通り急所を撃ち抜いたのだろう、ブラスワイバーンはその巨体をきりもみさせながら地上に墜落した。
「おや、落ちたついでにリザードマン達を巻き込んだようです」
そりゃラッキー……『ピコピコーン』……って……ああ、レベルが上がったのか。
何か役に立つ魔法かスキルを覚えてないか確認だけしとくか。
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氏名 神楽十蔵 21歳 男性
総合レベル25 ギルドランクC
クラス メイン 隠者 LV20
セカンド 魔道具師 LV12(LV25)
サード 呪術師 LV10(LV20)
状態:健康
HP 225(MAX225)
MP 12320(MAX13120)
ステータス基本値(実効値)
STR 10(34)
VIT 09(31)
DEX 15(51)
SPD 11(37)
INT 13(44)
MID 13(44)
称号
真なるマナの申し子
固有スキル
魔力自動回復
魔性の指
魔力使用制限解除
属性補正
全属性+5
祝福
母の愛
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スロット数2(+2)
セットスキル【呪術1】【加速】【攻撃呪術1】【呪術2】
所有スキル
[汎用]
加速、素材調達、製薬
[隠者]
隠術1(静音結界、透明化)
隠術2(魅了Ⅰ、眠りの霧Ⅰ)
隠術3(鷹の目、聞き耳、魔種)
隠術4(紅蓮の火球、凍て付く吹雪)
[呪術師]
呪術1(解析、ヒールⅡ)
呪術2(念動、浄化Ⅱ)
光術1(光明、暗黒)
攻撃呪術1(ファイアボルト、ストーンボルト、アイスボルト)
攻撃呪術2(エアボルト、サンダーボルト、エネルギーボルト)
[魔道具師]
武装強化(武器強化、防具強化)
魔法の指輪作成
(使用制限)魔法の靴作成
(使用制限)魔法の腕輪作成
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「……こりゃ、ずいぶんとレベル上がったな」
「ブラスワイバーンは亜竜と言えどAランク魔獣ですので。普通は私達のレベルでは、倒すどころか傷付けるのも困難な相手です」
「なるほど……徹甲弾のお陰か。ピィスさんいい仕事してくれたみたいだな」
お陰で隠者は5レベル分、総合レベルも2レベル分一気にレベルアップしている。
新しい魔法も一気に5種類覚えた。
鷹の目は視力強化の呪文、聞き耳は遠距離の音を聞き取る呪文。
魔種は……相手に埋め込むと魔力を吸い取って魔法を使えなくする。
紅蓮の火球、凍て付く吹雪は念願の広域攻撃呪文だ。
隠者ではこのクラス以上の広域呪文は覚えないので、実質俺の最強呪文候補だ。
隕石召喚や原子分解はどう頑張っても隠者では覚えないのだ。
閑話休題。
今現在この状況で使えるのはとりあえず『鷹の目』だろうか。
「とりあえず試してみるか……『鷹の目』! ……………………………って、気持ち悪いくらい見えるな!?」
これなら狙撃ももう少しピンポイントでいけるかな。
「主様、ゴーバック殿の左後方からカオスバジリスクが迫っております」
「おお、アレな。了解」
ゴーバックの左後方から迫る漆黒の巨大なトカゲ――カオスバジリスクの頭部に狙いを定め、鉛の弾丸を装填し『念動』で狙撃。
「バジリスクの頭部に着弾を確認……先ほどより格段に命中率が上がっておりますね」
「よっし、この調子で援護を続けるぞ」
「はい、続けて左前方リザードマンの群れに隠れて小型のポイズンドラゴンが」
「了解、確認した……発射!」
ワイバーン、バジリスクと同様に頭部を撃ち抜かれて息絶えるポイズンドラゴン。
一発400MPの消費だから単純計算で32発……撃っている最中にも魔力回復で少しづつMPは回復していくからもう少しいけるだろう。
出来ればMPを使い尽くす前にボスを倒してケリを付けて欲しいものだが。
そこら辺はゴーバック達に期待させて貰おう。




