砦奪還戦(1)
やっと砦戦まで来た……おかしい、こんなに時間掛かるはずじゃ。
俺は『魔導師の杖スナイパーカスタム』の第一射が上手くいったのに気をよくして、そのまま試射を続けた。
20発程度続けざまに撃ち、だいたいの有効射程距離を割り出す。
速度を800倍にしているので、弾速は800m/s……秒速800メートルは出ているはずだ。
これはライフル弾並みの速度なので、当たれば2~3キロ先からでもダメージを与えられるはずだが、残念ながら俺はゴ○ゴ13では無い。
風速や気温や重力を考慮して1キロ先のピアスを撃つなんて芸当は出来ないのだ。
だが、この似非ライフルはゴルゴ並みとは行かないが、結構な成績を叩きだした。
約300メートル離れたところから素人の俺が撃ち、直径50センチ位に集弾するのだ。
これなら十分実用に耐えるが……照準器だけで、スコープも無いのにこの命中率。
おそらくは
・火薬式で無い為反動が無い。
・トリガー式で無い為、引き金を引く動作によって下方向に照準がずれない。
あたりが理由と思われる。
この世界の遠距離攻撃魔法はせいぜいが射程距離50メートル程度なので、それ以上遠くの敵を攻撃しようと思ったらロングボウ系の武器を使うしか無い。
それも普通の弓では100メートル程度が実戦的な距離だと言うから、この300メートルという距離は敵の攻撃の届かないところから一方的に攻撃できるという事だ。
ちょっと卑怯な気もするが、俺も死にたくは無いので、この程度の工夫は勘弁して貰おう。
「……よし、トオコ、ゴーバックさん、試射はこの辺りにして帰りましょうか」
「ああ、そうだな。明後日は決戦だ。食堂で上手いもんでも食って英気を養おうぜ」
「あ、なら繁華街にプラムチキンという鳥料理専門の店が」
ふむ、トオコは猫系獣人なだけに、やっぱり鳥とか魚が好みなのか?
「よし、それじゃあトオコお薦めのそのプラムチキンで軽くやろうか……ゴーバックさんはどう?」
「おお、ヤキトリが有名なところだな! コメの酒と合うんだこれが。もちろん文句はねぇぜ」
ヤキトリ……焼き鳥と米の酒? もしかして『プラムチキン』って『鳥梅』とでもルビが振られるのだろうか。だとしたらまんま焼き鳥屋だな。
……まあ、とにかく。ゴーバックの同意も得たので繁華街に向かうことにする。
決戦は明後日だ。少しくらい深酒をしても問題ないだろう。
……正直、初の大規模戦闘にちょっとびびっているしな。ほとんど戦争の規模だし。
酒の力を借りるのもアリだ。
※
その夜。
ゴーバックを交えた3人でプラムチキンで一杯やりながら食事をしていた時、3人の男女が合流してきた。
なんと彼らはゴーバックのパーティ……つまりはSランクパーティ『時の守護者』の面々らしい。
将来「超・有望な若手」(ゴーバック談)である俺たちを紹介する為に、ゴーバックが魔法通信で呼び寄せたのだそうだ。
「初めまして。隠者レベル15の神楽十蔵です。総合レベルは23。ゴーバックさんには今回お世話になりまして……」
「ト、トオコ・サヴァンと申します。剣豪レベル14で、総合レベルは31です。い、以後お見知りおきを……」
「よろしくね。狙撃手レベル87、ミリアム・エルスよ」
「賢者レベル84のシルバー・メダリオといいます……よろしく」
「僧兵レベル90のブルーノ・エルクじゃ」
俺とトオコの自己紹介に、彼らも挨拶と自己紹介を返してくれる。
すげぇな、みんな80オーバーか。流石Sランクパーティ。
長い金髪のエルフの女性がミリアムで、灰色の髪に銀色のローブを身に着けた20代の男性がシルバーか……んで、聖職者のような服に身を包んだ岩のような筋肉を持つ黒髪のドワーフがブルーノと。
うん、覚えた。
しかし、シルバーは本物の賢者なのか……初めて見たな。
お互いの自己紹介が終わり、緊張しつつも、(特にトオコはSランクパーティと同席するということでガチガチだった)和やかに食事と酒を楽しんでいた俺たちだが、今回の砦奪還戦に俺たちをパーティに加える、とゴーバックが言いだしたのを切っ掛けに場が騒がしくなってきた。
「……本気? ゴーバック? この子達を臨時パーティに加えるって……」
ミリアムがデザートのフルーツを切り分けていた手を止めてゴーバックに問いかける。
「本気本気、こいつ等色々とすげぇぞ?」
「……とは言ってもCランクでしょう?……確かにトオコさんは剣豪になれるくらいですから並外れた才をお持ちでしょうが……」
シルバーも怪訝な面持ちで、ゴーバックの真意を測りかねているようだ。
「ふふん、シルバー、規格外なのはトオコさんじゃねぇ、十蔵の方だぜ?」
「……? 隠者、ですよね? 確かに多少珍しくはありますが、特に強力なクラスという訳では……」
「……十蔵、どうだ、シルバーにステータスを見せてやってもかまわんか? それなら話が早いんだが」
「……んー、まぁ、良いですよ?」
こちらとしても今回の戦いでSランクパーティと一緒に戦えるなら心強い。
ならばある程度こちらの手札も晒して納得して貰うのも良いだろう。
「……では、失礼して……『万象看破』」
シルバーが俺に対してスキルを使用する。
……というか、このスキルって母さんが使ってた解析系の上級スキルだ。
流石本物の賢者。
「……なっ……!?」
俺のステータスを見て思わず立ち上がり、そのまま絶句するシルバー。
そのあまりに慌てた様に、ゴーバック達3人がはやし立てる。
「あはん、どしたん、シルバー? いつもすまし顔のあんたがさ」
「珍しいの、お主がそのように取り乱すのは」
「がはははは、びっくりしただろ? 十蔵のMP量は半端じゃねえぜ」
「なっ……なんなんですか……非常識でしょう……MP12860って……」
「「「12860!?」」」
シルバーの言葉に今度はゴーバック達3人が絶句する。
「いっ……いや、多いとは思っていたが……本当にマジハンパねぇな……」
「伝説にもそのような無茶苦茶な魔力容量を持った人物は聞いた事が無いのぅ」
「いやん、おねーさん濡れちゃう♪」
なんか1人だけ不穏な言動をしているのが居るが……そうか、これが伝説のエロフか。
「……とにかく。これでゴーバックがあなた方を推薦する理由に納得がいきました……私としては条件付きでパーティを組むことに賛成しても良いと思っています」
「……その条件ってのは?」
報酬を全部寄越せーとか言われても困るが。
「お二人にはパーティの別働隊として後方に位置し、遠距離攻撃を中心にサポートして貰いたい、と言うことです。何しろ決戦は明後日です。十蔵君達を組み込んだパーティでの連携戦闘を構築する時間はありません……幸い十蔵君の豊富なMP量なら魔法の発動距離をかなり倍加させても……それこそ認識領域ぎりぎりまで離れても問題ないはずです」
「なるほど、それは道理ですね。分かりました」
というか、願ったりなポジションな訳だが。
魔導師の杖スナイパーカスタムならその更に後方からでも狙撃できるし。
「んじゃ、シルバーの提案したフォーメーションでいくか……トオコさんは十蔵といっしょに居て、万が一の時の十蔵のガードを頼む」
「はっ。もとより身命を賭して主様をお守りする所存」
「にゃはは、トオコちゃんて堅い話になると口調まで、より古風になるのね。かーわいい~」
「みっ、ミリアム殿っ……耳はっ……耳はダメですっ……あうんっ」
隣のトオコを抱きしめてネコミミにスリスリするミリアム。
ぬう。裏山けしからん。俺にもさせろ。
ということで、空いている反対側のネコミミを『魔性の指』を使ってすりすり。
「ひっ……ひっ……ぐっ……主様っ……」
ありゃ、ちょっと力加減を誤ったか? 一瞬で意識を失うトオコ。
「ちょっ……トオコちゃんっ! 大丈夫っ!? ……って、ものすごい満足そうな笑顔で気絶してるわね」
「……そうか……ステータスの『魔性の指』とはそういう……実に興味深い」
「……あー……十蔵、師匠って呼んでいいか?」
……なんにせよ『時の守護者』の面々とは打ち解けることが出来たようだった。
※
試射から2日後。
とうとうリザードマン達との決戦の時が来た。
敵勢力は当初予想していたものより規模が大きく斥候によるとその数はおよそ300。
中にはパイロヒドラやミドルドラゴン等のAランク相当の個体まで確認されている。
こちらの戦力は騎士団91名、神殿医療班15名、冒険者135名、自警団55名。
総大将はアイリーザの第1騎士団長が、参謀としてギルマスがそれぞれ勤める。
騎士が少なく冒険者が多いように思えるが、冒険者は強制参戦義務の無い末端や他支部の者までかき集めた結果である。
比べて、騎士団は冒険者で言えばC~Bランクの強者達で、安定した力を持っているらしい。
主力の騎士団は砦の正面に位置し、騎士団の後ろには神殿医療班、低レベル冒険者、自警団が控えている。
Cランク以上の冒険者達は別働隊としていくつかの遊撃班に分かれ各ポジションに散っている。
これは彼らが普段からパーティ単位の戦闘に慣れていて、その方が力を出せるからだ。
そして俺はというと、西の砦から約200メートル離れた小高い丘に陣取っていた。
『魔導師の杖スナイパーカスタム』を毛布を丸めた物に銃身を乗せて安定させ、俺自身は俯せになってそれを構える。銃口は砦の方向だ。
トオコは俺の右後方に控えて不測の事態に備えてくれている。
『右翼遊撃班ゴーバックから狙撃班』
内ポケットに入れた『風音のコイン』からゴーバックの声が聞こえてきた。
これはパーティ内で音声を共有することが出来る魔道具で、あの夕食の席で『時の守護者』のシルバーから渡された物だ。
『こちら狙撃班十蔵、どうぞー』
『砦正面の騎士団が突撃をかまして、トカゲやろう共を引きつけているうちに、こっちは適宜、横からの奇襲を掛ける。十蔵は足の止まったヤツから狙撃だ。なるべく状態異常攻撃を持つもの――ゴーゴン、バジリスク、コカトリスを優先に。次点で空を飛ぶものを落とすのが役目だ』
『狙撃班、了解。ゴーバックさんも無理はしないでくださいよ』
『ああ、それ無理ーゴーバックの40%は無茶で出来ているからー』
いきなり通信に割り込んでくるミリアム。
『……残りの60%はなんですか? ゴーバックのことですから想像はつきますが』
『エロかなーー私という者がありながらこの町にも愛人居るみたいだしーー』
『ミリアム、シルバー、通信に割り込むんじゃねぇ』
『あー、ごまかしたぁ~十蔵君、傷心のおねーさんを慰めて~やっぱり目には目をってことでおねーさんと一夜のアヤマチを……』
『主様のお世話は間に合っておりまする、ミリアム殿』
『ふふん、そこは熟練者のテクニックで……トオコちゃんも色々技術を身に付けないと飽きられるわよ?』
『そ、そんなことは……』
『なんなら教授しましょうか? ○○を○○で××したり○○を喉の奥で△△したり――あなたのご主人様もメロメロになって離れられなくなるわよ?』
『そ、そ、そんな破廉恥な……ぜひご教授頂きたいっ!』
『トッ、トオコさんっ!?』
『待っていてください主様っ! 必ず奥義を身に付けて――』
『身に付けなくていいからっ!』
『皆伝の暁にはっ! 主様が「もう君から離れられないよ、トオコ……他の女なんてナスやカボチャに等しい」って囁きながら……うふっ、うふふふふふ』
『戻って来てぇぇぇぇ!?』
どうも、彼らと一緒に居ると大規模戦闘の只中だって事を忘れそうだが……それでも、ふと我に返る時があり、そんな時は胃がきゅうっと締め付けられる思いがする。
本来、「戦争を永遠に放棄した」「戦争は無条件で悪」等と教えられて育った一般的日本人の身にしてみれば今回のこれはかなりのストレスなのだ。
「……まあ、ここで生きていく為には、どっかで腹ぁくくらなきゃならないんだよな……」
「主様、なにか?」
「いや、何でも無い………………ん? そろそろか?」
眼下では騎士団長が檄を飛ばし、騎士団が鬨の声を上げていた。
「いいか! 我がアイリーザは神楽神様が降り立たれた神聖な地! その一片の土地も魔物なぞに明け渡すわけにはいかん!! アイリーザ第1騎士団の力見せてやれ!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
「一番槍は冒険者などに譲るわけにはいかん! 第一小隊から順次突撃ぃぃぃぃぃぃっ!!!」
騎乗した騎士達が見事な隊列を保ったまま砦の前面に群れる魔獣達に向かって突撃を開始した。
それが、開戦の合図だった。
PSO2 サーバー ギョーフ(07)
チーム名 神楽屋 キャラ名 紫乃 でプレイ中。
良ければフレンド登録よろしくお願いしまする。
……そんな事しているから話が進まない訳ですがorz