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スナイパースタッフ

お待たせしました。

間にアルケニーを挟んだりして時間が空いてしまいましたが、劣化賢者を投稿いたします。

また、前2話のサブタイトルをそれに伴い変更いたしました。

 地下牢で囚われの騎士と兵達を牢から出した俺たちは、静音結界サイレントフィールド透明化インビジビリティを駆使して無事に隠し通路の城内出入り口まで戻って来ていた。

 ……まあ、『土よその身を塊と成せ(クリエイトセラミック)』×200倍と全員分の静音結界サイレントフィールド透明化インビジビリティの連続使用に、救出した騎士達が例によって口を開けて呆然としていたが、それを無理矢理正気に返らせて地下の隠し通路に急いだ訳だ。

 ただ、まあ……心配していたとおりに、途中、体温を『見る』事が出来るスケイル・ヴァイパー数匹に発見され戦闘となったが、ゴーバック氏が瞬殺したので他の敵を呼ばれる(モンスターリンク)こともなかった。

 ゴーバック氏、頼もしすぎる。


(よし、んじゃ開けるぜ)


 ゴーバック氏が突き当たりの壁の右下を靴で強く押すと、がこん、と留め金が外れる音がして隠し通路が回転し口を開ける。


(念の為、静音結界サイレントフィールド透明化インビジビリティを掛け直しとくよ)


 俺は一同にそう声を掛けると、静音結界サイレントフィールド透明化インビジビリティを全員に掛け直す。


(……いや、まだ魔法使えるんですか? ……Sランクのゴーバックさんが救出に来てくださったことにも驚きましたが……十蔵殿は……驚きすぎて言葉も出ません)

(まあまあ、細かいことは無事帰ってからって事でな。レイピア殿)


 ゴーバック氏がため息をつく女騎士――レイピア・ティーチャと名乗った――をなだめつつ隠し通路へと誘う。

 このレイピアさん、牢で簡単に話を聞いたところ、アイリーザのギルドマスターの娘だという。

 ……あのギルドマスター、道理で救出作戦に妙に力を入れると思ったぜ。依頼料、割り増し請求しないとな。


主様ぬしさま、私達が最後です。お早く……) 


 おっと、考え事をしている間に他の皆はもう隠し通路に入って行ったみたいだ。


(ああ、今行く……)


 俺はトオコに続いて隠し通路に戻ると、そっと壁を元に戻した。

 割り増し請求に関しては、帰ってからゆっくりギルマスと交渉だな。うん。


          ※


「お父様!」

「おお、レイピア!!無事で良かった!会いたかったぞ!!」


 がばっと両腕を広げて娘――レイピアさんを抱きしめようとするギルマス。

 それをサイドステップで華麗にかわすレイピアさん。

 愛娘にハグをスカされてべちゃっと床に突っ伏すギルマス。

 俺たちはあれから無事に復路を突破し、砦の8名を救出に成功。

 レイピアさんを伴ってギルドへと報告に来た訳だ。

 普通であれば窓口で報告して終わりなのだが、そのままギルドマスターの執務室に通され現在に至る。


「ハグはお預けです。お父様」

「な、何故……」

「どうしてもこうしてもありません。心配してくださったのは嬉しいですが、救出依頼に関して……受けてくださった冒険者の方々に正確な情報をお渡ししなかったでしょう?」

「うぐっ……だが、確実にお前が居るとはあの時点では不明だったのだ」

「だとしても。居るかもしれない救出対象わたしの戦闘能力を知っているのといないのとでは現場での対応も違ってくるでしょう? 更に言えば。奴らは人質を盾にする、などと言う知恵の働く輩ではありません。ただの食料として飼っていただけです。……私が捕らわれているという可能性が無かったら救出部隊を向かわせましたか?貴重なSランクや十蔵様を危険にさらして?」

「い、いや、その、な?」

「な? じゃありません……はあ。……せめて十蔵様達には規定の倍、報酬を差し上げてくださいね?」

「わ、分かった。分かったから気を静めておくれ、レイピア」


 おお、ラッキー。どう賃上げ交渉をしようかと思っていたが……手間が省けたな。


「んんっ……その、な? 今聞いた通りだ。報酬は一人金貨10枚の契約だったが……20枚払おう。その代わり、その……この部屋でのことは内密に頼む」


 確かに、強面のギルマスが娘には甘々でデレデレだと威厳が崩壊するな。


「了解です。せいぜい親子仲の修復に勤めてください。んじゃ、俺は報酬貰ったら宿で休みますよ……決戦は明日ですしね」

「ああ、そのことだが……総攻撃は延期だ」

「はい?」

「囚われの者達が戻った今、決戦を急ぐまでもない。招集を掛けているSランク達が全員集まってからでも遅くはないからな……そうだな、奴らの出方次第だが、5日後を予定している」


 ああ、そういう事か。

 まあ確かにその方が安全か。 


「了解。じゃあそれまで装備の新調でもしてますよ」


 ちょっと思い付いたこともあるしな。

 俺はトオコを促すと執務室を辞し、ギルドの外へ出た。

 なぜかゴーバック氏も一緒に付いてくる。


「……なんです?」

「いや、装備の新調するんだろ? 俺も付き合って良いか? 十蔵がどんなのを選ぶか興味あるからな」


 そう言ってぐりぐりと俺の頭をなで回すゴーバック氏。

 ……いいや、もう「ゴーバック」で。今までは脳内呼称では氏を付けていたんだが。

 なんつうか、人なつっこいというか……友達感覚でこっちに踏み込んでくるし、とてもSランクの威厳は感じられないしな。

 ……口に出す時は「さん」を付けるけどね。何せ1000歳以上も年上なのだからして。


「いいですよ。たいした物を発注する訳でもありませんが……魔法の武器(マジックウェポン)ですらありませんけど」

「……ほーう……うん。ますます興味が沸いてきたな! 十蔵ほどの者がわざわざ注文する魔法効果の無い装備か!」

「じゃあ、ついでに腕の良い鍛冶師紹介してください」

「おう、まかせろ! こっちだ」


 と、言う事で俺とトオコはゴーバックの案内で東にある職人街に向かったのだった。


          ※


 昼なお薄暗い小路を通り抜けると、『ヴィータ鍛冶店・オーダーメイド承ります』と刻まれた銅製の看板が目に入った。

「お、ここだ……魔法武器じゃないってんなら、ここが一番の腕利きだな……おーい、ピィス、客、連れてきたぞー」


 がらんがらんと大きな音を立てて、えらく五月蠅い銅のベルを鳴らしながらゴーバックがドアを開ける。


「おーう、ゴーバックの旦那か。今日はまたえらく可愛らしい客を連れてきたな」


 カウンターに座っていたのは30代前半の黒髪で大柄な女性。

 上は黒のタンクトップなので、見事な二の腕の筋肉とバストの盛り上がりが見える。

 がっしりした体つきの割にかわいい系の顔だ。


「初めまして。神楽十蔵といいます。ゴーバックさんから魔法武器でないならここの工房が一番だとうかがいまして」 

「おお、礼儀を知っているヤツは好きだぜ。アタシはピィス・ヴィータ。ここの店主だ。ゴーバックの旦那にゃ、連れ合いが死んだ頃から……その、世話に……なっててな。うん! ゴーバックの旦那の紹介ならないがしろにゃしねぇ。何でも言ってみてくれ!」


 ちらちらとゴーバックの方を見ながら、顔を赤くしてにへら、と相好を崩すピィスさん。

 あー……もしかして。


「ゴーバックさん……もしかしてゴーバックさんの彼女さん?」

「あー……いや、その……まあ、な……あー、だからってひいきで紹介したんじゃねぇぞ? ピィスの腕は魔法付与以外は超一流だ」

「やだね、旦那っ! 子供相手に何言ってんのさ! もうっ」


 心なしか顔を赤くしてポリポリと頬をかくゴーバックと両手を頬に当てて体をくねらせるピィスさん。

 うん、いわゆるバカップルですね。人の事言えないけど。


「ピィス、この2人は若いがそれなりの腕利きだぞ。特に十蔵はSランクパーティに入ってもやっていけると見てる」

「……そんなにかい? あんたが言うんだ、そうなんだろうね……うん、こりゃあ久しぶりに気合いを入れて仕事をしなきゃかね? ……で、一体何が欲しいんだい? 武器かい? それとも防具?」

「その前に。ここは希少金属って扱ってますか?」


 俺は鼻息も荒く意気込むピィスさんを手で制して問いかけた。


「希少金属ね。ミスリルなら長剣一本分くらい在庫はあるかね。オリハルコンとヒヒイロカネは切らしててね、武器を作れるほど残っちゃいないね」

「少ないけどあることはあるんですね? このくらいの塊ならいくつ分あります?」


 と、俺はピィスさんに人差し指と親指でパチンコ玉くらいの空間を作ってみせる。


「……それなら、それぞれ20個分くらいはあるかね……なんだい、縫い針でも作れってのかい?」


「いえいえ、れっきとした武器ですよ。後は……銅か鉛は?」

「……それなら十分在庫があるがね」


 うん、それなら何とかなるかな。

 俺は途中で買った紙に簡単な図面を書きつつピィスさんに説明する。


「……だから、問題は正確さ、です。これとほぼ同経の筒にこうして…………両端で一組の部品をつけてですね」

「……こりゃあ、確かに……私でしか出来ないね……つまりこの直線とこことここを結ぶ直線が1キロ先でも平行で伸び続けなくちゃいけないってこった」


 意見を交わす俺とピィスさんの横で、話しについて行けないのか、ぼけっと立ち尽くすゴーバックとトオコ。 


「……ゴーバック殿、何を話しているか分かりますか?」

「んにゃ、わからねぇ……トオコさんはどうだい」

「私も分かりませんが……流石主様です。本当の賢者に勝るとも劣らない知識を持っていると見受けます」

「流石ピィスだ。十蔵のなんかわからん注文にもきちっと応えているみたいだな」


 結局ここにはバカップルしか居ないのだった。


          ※


 

 ピィスさんに装備を注文して3日後。

 ピィスさんが出来上がったそれを態々わざわざ宿まで持ってきてくれた。


「注文通りに仕上がっていると思うんだが、テストはしてみた方が良いねぇ」

「出来の方は信頼してますよ。ですが、まあ、俺の方がこれに慣れなきゃいけないでしょうから練習はしてみないとですね」

「……なら、アタシもそれを見させてもらえるかい? これ・・が本当にそんな風に使えるのか興味があるよ」

「あ、俺も行くぜ。仲間の戦力は知っておきたいしな」

「もちろん私も主様に同行いたしますから」


 トオコは言わずもがな、同じ宿に泊まっていたゴーバックもテストへの同行を表明する。

 ……まあ、このメンバーなら問題ないか。


「……分かった。ただし、ここに居る者以外には他言無用だ。ゴーバックさんも……テストの結果はパーティメンバーにも内緒にしててくれますか?」

「了解だ。Sランクメンバーの名誉に誓おう」

「それじゃあちょっと……街の外へ出ましょうか。西は……リザードマン達に余計な警戒をさせてしまうかもしれないから、東の草原辺りで」

「……武器だろ?道場か屋外練武場じゃダメなのか?」

「有効射程とか見たいので」

「有効? 射程?」

「まあ、見れば分かりますから……とりあえず場所を移しましょう」


 俺は3人を促して、街の東の草原へと向かった。


          ※


「で、これがピィスさんに作って貰った武器……というか杖のオプションだな」

「……主様ぬしさま、私にはただの筒に見えるのですが」

「だなぁ……ただの筒だよな」


 怪訝げなトオコとゴーバック。

 2人の感想はある意味正しい。

 俺が手に持っているのはいつも使っている魔導師の杖だが、その中途からミスリル製の筒が杖に沿って平行にくっついているのだ。


「莫迦だね、ゴーバックの旦那……これはただの筒なんかじゃないんだよ。魔力こそ籠もってないが、ミクロン単位で平行を取ったり加工してあるんだ。苦労させられたよ」


 腕を組んでにやりと笑うピィスさん。思わず姉御と呼びたくなるね。


「……打撃武器にミクロン単位の精密加工だ? なんでそんな事を?」

「ま、それは使ってのお楽しみという事で……しかし本当に良い出来です。期待以上ですよ……ピィスさん、ありがとう御座います」

「いいんだよう、お代もたっぷり貰ったしね……それより早速使ってみとくれ」

「そうですね、早速テストしてみます」


 本体と一緒にピィスさんから渡された木製のケースを開くと、小さな金属の塊がびっしりと詰まっている。

 それは形としては細くとがったドングリ、といった風であるが、大きさ自体はドングリより大分小さい。

 もし、地球の人間がこれを見たなら、一発でその正体を看破しただろう。

 そう、これは『弾丸』なのだ。

 ただ、本来の弾丸と違って薬莢は付属していない。

 これを飛ばすのは火薬ではないからだ。


「……主様、それは?」

「これは弾丸。スリングで言えば飛ばす石、弓で言えば矢の部分だ。鉛を銅でコーティングして作ってある」

「だん、がん……」


 ケースの中のそれを不思議そうに見つめるトオコとゴーバック。


「いや……こんな小さなのが武器になんのか?」

「小さいから良いんですよ。空気抵抗も少ないから遠くまで飛ぶしね」


 俺はゴーバックの疑問に答えながら、弾丸を一発、筒の根元から入れて網状の蓋を閉める。

 そしておもむろに杖の先を遙か彼方にある10メートルほどの立木に定める。


「目測300メートルくらいかな……」


 筒の根元にある凹型の部品を覗き込み、筒の先端にある凸型の部品と凹凸を一致させる。

「うん、照星フロントサイト照門リアサイトも問題なしだ……後は」


 俺は照星照門をずらさないよう気を付けながら呪文を行使する。


「『念動サイコキネキス』……重量限界10分の1、移動速度800倍……発射ファイア!」


 筒の中の弾丸を念動サイコキネキスでもって800倍の速度で前方へと加速させる。

 同時に、動かせる重さの上限を10分の1に設定してMP消費を抑える。それでも一発400MP消費するのだが。

 弾はライフル弾程度なので、重量上限が100分の1でも可能なのだが、そこまで微細に魔力調整できないのだ。

 念動サイコキネキスで弾き出された弾丸は、筒内に掘られた螺旋状の溝(ライフリング)によって、そこを通過する際に回転を与えられ、直進安定性が強化される。

 やがて、弾丸はパァンッという乾いた音を立てて、先端から空気を切り裂いて飛び出した。

 そして同時に、ものすごい勢いで前方に引っ張られる杖。

 ……そうか、火薬の反動がないから、銃身を通る際の摩擦で逆に引っ張られるのか。

 テストしてみて良かったな。やはり火薬銃とは色々違うしな。

 さて、結果はどうだろう。


「……おい、なんの冗談だ……いきなりあんな遠くの木がぶち折れたぞ?」


 呆然とつぶやくゴーバック。うむ、上手くいったみたいだな。

 というか火薬の反動がない分、素人の俺でも狙いを付けやすいのかもな。


「あの……これ、本当にマジックアイテムじゃないんですか……? 魔法でもここまでの距離を攻撃するのは無理ですよ?」

「ひゅー……実際に見ると凄いね! 注文するだけのことはあるよ……なあ、説明してあげたらどうだい? 2人とも呆けているよ?」


 うんうん、ともの凄い勢いで首を振るトオコとゴーバック。


 では、説明しよう


「ふむ……まあ、名付けるならこれは『魔導師の杖スナイパーカスタム』と言ったところかな? 『念動サイコキネキス』ってのは本来、近~中距離……自分の意識が届く範囲でしか効果が無いんだ。で、それを補う為に手元で800倍ほどに加速させて、慣性で弾を届かせようとしたんだけど、念動の効果範囲を外れてしまうから命中率が壊滅的だったんだ。で、それを解決する為に、長い筒の中を同経の弾丸を通過させることにより回転を与え直進性を増して撃ち出したって訳。これならコントロールが効かなくても、筒を目標に向ければある程度狙ったところに着弾するしね。そのために照準器サイトもつけたし」


「いや……ある程度って……この距離で、この威力で、この命中精度ってよ……そんなん、神器クラスの弓でも無きゃ、本来は無理だぜ?」

「ううん……でもこれは……主様が隠そうとしたのも分かります。これと主様の常識外のMPがあれば、簡単にテロが成立してしまう」

「うん、そういう事。今回は非常事態だから作って貰ったけど、決戦が終わったら封印するつもりだから……他言無用でね」


 俺の言葉に一同は神妙に首を縦に振ったのだった。

 


異世界知識チートしてみました。

十蔵君はモデルガンが趣味なんです。

ただ、エアライフルとかには手を出してないみたいです。

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