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鱗の影

とうとう年貢の……

「主様、なにをなさっているのですか?」


 俺はトオコの声に手に持っていた小盾をベッドに置いて振り返った。


 ここは王都アイリーザのほぼ中心に位置する宿「笹団子亭」。

 前日、あの混沌きわまる宴が繰り広げられた宿屋である。

 その二階の一室で俺はリザードマンリーダーが持っていた盾を分解していたのだ。

 この盾は木のフレームに薄く金属板を張って補強してあり、良い物のように見えた。

 実際解析(アナライズ)してみると、『複合素材の(コンポジット)ミスリル小盾(ミスリルバックラー)+1』となかなかの物だった。


「うん、みんなが戦利品の中で一番良い物をって、これ、譲ってくれただろ? だけど俺もトオコも盾は使わないしな。どうせなら使える装備品に作り直そうかと思ってな」

「ああ、それでミスリルの部分だけを取り外しているのですね」

「そう、コイツを素材にブレスレットを作っておけば、今作れる装備品は全部埋まるし、とりあえず『魔道具師』をサブに回して『隠者』をメインクラスに戻しても良いだろうと思ってね」


 そう言いながら俺は一端置いたミスリルの盾を再び手に取る。

 もう取っ手とか木のフレームも外してあるので、盾と言うよりただの金属板だが。


「と言うことで、だ。『魔法の腕輪作成クリエイトマジックブレスレット』」


 俺がスキルを実行すると、金属板が光を発して徐々にその形を変えていく。


「……っと、こんなもんかな」


 光が収まった後には、半分ほどになった金属板と、銀色に輝く三重円のブレスレットが残されていた。

 今回は素材が良かったので、かなり良い物が出来たように思う。

 早速解析(アナライズ)で確認、と。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『聖銀のブレスレット+10』

  制作者:神楽十蔵

  レベル制限 無し

  種族制限 無し

  クラス制限 無し

  防御力 35+10

  術防御 15+10

  身体付与 VIT+1 

  特殊能力

    一日に一回だけ『絶対防御』が自動発動。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おお。これは……

 防御力が指輪や靴に比べてかなり高いな。

 ブレスレットというカテゴリのせいか、ミスリルという素材のせいか……なんにしろ防具強化ディフェンダーブーストは元々の防御力が高いほどその効果を発揮するものだから、後衛職の俺にはありがたい。

 『絶対防御』ってのは……死に至るダメージや、最大HPの60%以上のダメージを一気に受けた時に自動的に発動してダメージをキャンセルするらしい。

 物理、魔法関係なく……

 一日一回だけとはいえ、非常に心強いな。これは。

 材料ももう一個作れるほどにはあるから、二人で一個ずつ装備できるな。

 ――そう思い、俺は出来上がったばかりのブレスレットをトオコに手渡した。


「ほれ。効き手とは反対に装備してな?」


 と言うのも、どうやらブレスレットはカテゴリ的には盾扱いらしいからだ。

 盾を装備できないクラスの為の装備品、ということらしい。

 もちろんただの装飾品としての腕輪ならその限りでは無いが。


「……主様ぬしさま、またこのような……先日、魔法の靴を頂いたばかりですのに」

「と、言っても迂闊に+10装備を売ると悪目立ちすることが分かったしな。トオコが強くなる分には俺にも利があるし……まあ、気にしないで貰ってよ」

「は、はい……では、ありがたく」


 そう言いながらいそいそと嬉しそうにブレスレットを嵌めるトオコ。

 そこはやはり女性なのか、装飾品の類は嬉しいらしい。


「ん、似合うよ……さて、もう一個、俺の分も作ったらこの街(アイリーザ)のギルドに行ってクラスを変更してくるかな」

「あ……そう言えばしばらくこちらで活動するのですよね?」

「ああ、観光も兼ねて、こっちでいくつかクエストをこなしてから帰ろうと思ってる……良い依頼が無いか、ついでに見てくるよ」

「では、私もギルドへお供いたします。ちょうど用がありますので」

「わかった。それじゃ一緒に行こうか」


 俺は手早くもう一つのブレスレットを作り上げると、トオコを連れてアイリーザのギルドへと向かった。


          ※


 アイリーザのギルドへは宿の主人に聞いたところ、宿から歩いて20分くらいかかるらしい。

 ついでなので色々通りの店を冷やかしながら歩いて行くことにする。

 商店街らしき通りには各店ごとにのぼり旗が立っていて、「元祖神楽神さまの笹団子」とか「神楽印のたれカツ丼」とか「シノ様のへぎそば」とか……挙げ句の果てには「アイリーザ産コシヒカリ新米入荷」なんて物まであった。


 ……これ、絶対母さんの仕業しわざだよな。

 食べ物の傾向が新潟地方の名産に偏ってるもんなぁ……


「あ、主様ぬしさま、どうやら見えてきましたよ」


 と、トオコが指差したのは巨大な女神像。


「……大きな女神像のある神殿の隣がギルドだって聞きましたが……」


「いくら何でもでかすぎるだろ……ガンダムくらいあるぞ」


 ポニーテールに忍者服のその巨大な女神像は、その顔にイヤと言う程見覚えがありすぎた。

 母さん……マジで神様やってたんだ……母親が女神様ってどんな罰ゲームだよ。


「……いつ見ても麗しいお姿です……流石カグラ教のお膝元、神像の出来もすばらしいですね」


 トオコは頬に手をやって、ほおっとため息をついている。


「切れ長の凛々しい目、シャープな輪か……く……?……」

「……どうしたの?トオコ?」

「……いえ、どことなく……主様のお顔と似ているな、と」

「……いや~……た、たまたまじゃ、無いかな~……そ、それよりもほら、ギルドに入ろう、なっ」


 まずいまずい。

 俺はトオコの肩を抱いて、ギルドに入るよう促す。

 自分ではそんなに意識してないけど、他人から見ればやっぱり似ているのかな……


 観音開きとなっている扉を開け、冒険者ギルドアイリーザ本部に入ると、その正面は20畳ほどのスペースになっており依頼掲示板が複数設置されている。

 その他には受付の窓口は右奥に三つ並び、左奥はソファが並べられた休憩スペースとなっていた。


「まずは依頼完了報告かな。後、盗賊の正体が高レベルリザードマンだったことも言っとかないとな」


 トオコと連れだってまずは依頼完了報告の為に真ん中の窓口へ。

 左がクラス登録、変更窓口、真ん中が依頼関係窓口、右が素材買い取り窓口、らしい。


「すいません、グリーン・ロードで受けた護衛依頼の報告なんですが……」


 実はギルド同士は魔法によって高度にネットワーク化されている。

 他国で受けた依頼の報告も可能なのだ。

 俺とトオコは窓口の狼人のお姉さんに依頼の完了報告を行うと、報酬の金貨3枚を受け取る。

 その際に盗賊の正体が高レベルのリザードマンだったことも報告する。

 お姉さんは最初中々信じようとはしなかったが、俺が所持品欄から出した10本の尻尾――リザードマンの討伐証明部位――を提出するとようやく信じてくれた。


「――しかし、これは容易ならざる事態ですね……まさか街道にそのような高レベルのリザードマンが現れるとは。早速ギルド内で対策を協議しますわ。まずは調査依頼を出す事になるでしょうけども……」

「ええ、よろしくお願いします」


 ロドリゲス達も言っていたが、リザードマン達が自主的に盗賊行為を働く事は無いんだそうだ。

 そもそも彼らの間では金銭は流通していない。

 肉食なので、生肉を積んでいれば、襲うこともあるのかもしれないが、今回の一連の被害はむしろ宝飾品や魔道具などの高級品を積んだ隊商が主に狙われているとのことで、不自然極まりない。

 ここはしっかりと謎を解明して頂いて、街道の安全を確保して頂きたいものである。


「さて、次は……俺はメインクラスの変更に行くけど、トオコは?」

「はい、ちょっと依頼がありますのでもうしばらくここに」

「依頼……?」

「ええ、その……しばらくこっちに居るのであれば、生活費をミュケの居る孤児院に送らねばなりませんので、配達を依頼しようかと」


 あー……そうか、そうだった。

 トオコには孤児院に妹が居たんだったな。

 ……トオコとの爛れた生活に溺れてすっかり忘れていた。薄情だな、俺……反省。


「あー、その、な?」

「?」

「グリーン・ロードに帰ったら……孤児院の近くに家でも建てるか? 孤児院の近くならミュケちゃんも寂しくないだろうし……もし良ければ三人で住まないか、と」

「主様っ!」


 どんっ!と俺の胸に飛び込んでくるトオコ。


「そ、それっ……それって……」

「……だめか?」

「……いいえ……いいえっ!……ふぐっ……」


 俺の胸に顔を埋めてむせび泣くトオコ。


「まさか……主様からっ……そのように言って頂けるなど……求婚して頂けるなど……トオコは幸せ者で御座います……」

「うんうん…………うん?」


 あれ?求婚?


 いや、ただ……同棲しようくらいの意味でね……

 トオコが妹に仕送りしているのに俺がなにもしてやらないのもどうかと思っただけでね?

 ……でもよく考えたら確かに『家を建てるから一緒に住もう』ってプロポーズ以外のなにものでも……

 道理で周りの冒険者諸氏も妙に生暖かい視線で俺を見ている訳だ。

 窓口の狼人お姉さんに至っては瞳をキラッキラッさせてこっちをガン見しているし!

 ああ……俺、大学生ですでに詰み!?


「あ、いや……トオコ……? ま、周りに妙に注目されているし、とりあえずまた後でな?」

「あ……はい」


 トオコも周りから妙に注目の的となっていたことに気付いたのか、顔を赤くしながら離れる。


「そ、それじゃっ!郵送依頼してきますねっ!」

「お、おう、俺もクラス変更してくるなっ!」


 結局その日はそそくさとクラス変更を行い、依頼も確認すること無く逃げるように宿に帰ったのだった。

 ちなみに高レベルのリザードマン討伐は予想以上に経験値を稼いだらしく、魔道具師のレベルは22に(サブに回したので表示上では11だが)、メインに変更した『隠者』(ハーミット)のレベルは一気に13まで上がっていた。

 お陰で、レベル制限で使えなくなっていた


   呪術2(念動サイコキネキス浄化クリアネスⅠ)

   攻撃呪術2(エアボルト、サンダーボルト、エネルギーボルト)

   光術1(光明ライト暗黒ダークネス


も隠者で新しく取得し直すことが出来た……

 呪術師よりも低いレベルで取得できたのは僥倖と言うべきか……むしろ呪術師が不遇すぎたのかもしれないが。 


          ※


 翌日から俺は精力的に依頼をこなしていった。

 ……半分やけになっていたのかもしれないが、後悔はしていない。

 なにしろ、後悔するにはトオコは魅力的すぎるのだ。

 なので、やり場の無い……なんか、こう、もやもやしたものを発散する為に、俺が受けられる討伐系依頼を片っ端から受けていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『神殿の害虫駆除』

依頼難度:Cランク

達成条件:神楽神殿の神像に巣くった貪石虫ストーンバグを駆除して欲しい。

募集人員:1名

達成期日:9月15日まで

報酬:銀貨50枚。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 貪石虫ストーンバグってのは何かと思ったら、巨大な……2メートルもあろうかという蝸牛かたつむりだった。

 ……そう言えば地球でも蝸牛はコンクリートを食べて殻のカルシウム分を補充するって聞いたことがあるな。

 その巨大蝸牛、貪石虫ストーンバグは神像(母さんの顔をしたアレだ)の地上15メートル付近にひっついてかりかりとその表面をかじっていた。

 これを下手に倒すとその巨大質量が固い殻という凶器を持って15メートルを落下してくることになる。

 なので、貪石虫ストーンバグ自体はDランク魔獣なのだが、依頼はCランクということらしい。

 俺は『貫き導く氷弾』(アイスボルト)を威力を10倍、弾速を10分の1にして貪石虫ストーンバグを狙撃、凍り付かせた後、念動で地上に降ろし、駆除した。

 ……ちなみに貪石虫ストーンバグの殻は虹色に輝く美しさで有名で、傷の無い物は珍しく、俺の駆除した貪石虫ストーンバグは金貨1枚の値が付いた。

 副収入ゲット。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

水棲サラマンダー(オオサンショウウオ)の討伐』

依頼難度:Dランク

達成条件:下水道に住み着いた水棲サラマンダー(オオサンショウウオ)の駆除。

     5匹以上で達成。以降5匹毎に追加報酬。

募集人員:常時募集

達成期日:常時募集

報酬:銀貨15枚。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 本来、こいつ等は山中の水辺に生息しているらしいのだが、なぜか最近になって急に下水道に住み着き始めたとのことだった。

 外見はまったく地球のオオサンショウウオと一緒だが、魔法の水弾(ウォーターボルト)を放ってくるので要注意とのこと。

 それさえ気を付ければ手強い相手ではないらしい。

 下水口の入り口から閃光導く雷撃(サンダーボルト)×100を下水めがけて放ち、感電して浮かんできた水棲サラマンダー(オオサンショウウオ)17匹を回収。

 依頼3回分、銀貨45枚をゲットした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

森兎フォレストラビットの納品』

依頼難度:Dランク

達成条件:森深くに生息する切り裂き兎の亜種、森兎フォレストラビットを10匹、生きたまま捕獲、王城厨房係ランチ・シェスタまで納品すること。

達成期日:9月17日まで

報酬:銀貨20枚。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 森兎フォレストラビットそのものは切り裂き兎カッティングバニーに毛が生えたくらいの強さだが、食料の鮮度の問題で生きたまま、と言う条件が付いているのが問題だった。

 が、幸い、水棲サラマンダー(オオサンショウウオ)戦で『隠者』(ハーミット)のレベルが15になった際に 隠術2(魅了チャームⅠ、眠りの霧スリープフォグⅠ)を習得していたので、好物の『鬼ニンジン』を餌におびき出し、眠りの霧スリープフォグで捕獲、を繰り返し、なんとか期日までに10匹を揃えて納品できた。




 ……等々。

 このほかにもトオコと組んでやった依頼もいくつかあるが、どうもあんな事があった後では気恥ずかしく、比重が個人依頼に偏ってしまった。

 まあ、なんにせよ、この10日間ほどで大量の依頼をこなした俺は、無事『ランクC』に上がることが出来た。

 そして、そろそろグリーンロードに帰ろうかと、トオコを連れてギルドに挨拶に行った際に……その男はギルドの扉を蹴破るような勢いで飛び込んできたのだった。


「たっ、大変だ!西の砦が……リザードマンに襲われて……みっ、みんなやられて……やつらに占拠されちまった!!」


 この上ない凶報を持って。




 

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