リトルキャラバン(2)
長くなったので2つに分けて投稿します。
そしてグリーン・ロードを立って三日後の昼日中、両側が断崖に挟まれた谷底で、とうとう俺たち一行は件の盗賊に襲われることになった。
切り立った両側の崖から気勢を上げながら次々と滑り降りてきて、キャラバンの前後を挟み退路を断ったのは、人では無く亜人の一種であるリザードマンだった。
前方に10人、後方に8人。それぞれが今までの戦利品なのか、妙に新しい剣を構えている。
なるほど、トカゲで盗賊、な。直球過ぎるぞ、おい。
「「「キシャアアアアアアアッ!!」」」
「「「シュー……シュシユシユ……」」」
「おい、どういうこった!? リザードマンは人を捕食する為に襲うことはあっても徒党を組んで盗賊行為を働くなんて知能がある奴らじゃねぇだろう!?」
ミスリル製のショートスピアを構えながら疑問の声を上げるロドリゲス。
「……おまけにこいつら……おそらく日常的に人を襲っているせいでレベルアップしているよ。油断しないようにね」
キリエ姐さんの言葉にああ、なるほど、と納得する。
亜人型の敵にはそういう恐れがあるのか。じゃあ、念の為に確認と。
「解析……っておい」
「主様? いかがされました?」
「あー……トオコ、こいつ等、平均してレベル30以上はある……リーダーっぽいのは前方の盾持ちでレベル41だ」
「……十蔵、マジか?リザードマンのレベルじゃねぇだろう」
じりじりと囲いを狭めて迫ってくるリザードマン達を視線で威嚇しながらロドリゲスが確認してくる。
「残念ながらマジですね」
「ちっ……勝てねぇまでも何匹かは道連れに……」
ロドリゲスが早々と諦観の入った弱音を吐こうとした時。もっとも前方のリザードマンの姿がずるり、と縦にずれた。
トオコの一刀がリザードマンを頭頂から股間まで唐竹割にしたのだ。
二つに分かたれたリザードマンはゆっくりと左右に分かれて倒れる。
「諦めるには早すぎるな。そもそも私は主様をこのような畜生どもの餌にするつもりはないのでな」
「な……なんだ!? そのスキル? レベル30オーバーのリザードマンを一刀ってなんの冗談だ」
「スキル? スキルでは無いな……ただの切り下ろしだ」
そう。トオコはなんのスキルも使っていない。
ただ、いつ襲撃があっても良いようにトオコには朝一でいつも武器強化×20と防具強化×40を掛けているのだ。
もちろん俺自身にも防具強化×40を掛けている。
これによって武器は2倍の攻撃力、防具は3倍の防御力になり、更に効果時間は24時間という長期護衛依頼にぴったりな魔法なのだ。
MPは合計3000ほど消費するが、朝方のことなので今はすっかり全回復している。
「「「キシャアアアアアアアッ!!」」」
「「「シュシュシユシユ!!!!」」」
「あー……ゴンザレス殿。詮索は後にして、今はこいつ等の討伐が先決かと思うのだが」
「……ロドリゲスっす」
トオコに素で名を間違えられ落ち込むゴン……ロドリゲス。意外と余裕あるな、おい。
そんなロドリゲスに仲間を殺されたリザードマンが3匹、長剣を手に襲い掛かる。
かろうじて1匹目と2匹目の剣をミスリルショートスピアで弾き返すも、3匹目がロドリゲスの肩に突きを入れる。
「く……そ!レベルも規模も予想以上だな、おい!」
一方キリエとクローマは後方から来た8匹を相手に防戦一方だ。
ここが谷底で、一度に襲い掛かれる数が限られているのが幸いして何とか持っているようなものだ。
一人トオコだけが奮戦しているが、楽観視できる状況でも無い。俺たちが勝ち残ったとしても依頼人をやられてしまえば失敗なのだし。
……あまり他の冒険者がいる前で本気を出したくなかったのだが、そうも言ってられないようだった。
「……『焦熱導く炎弾』……50倍×10発!!」
古代王の迷宮で手に入れた『魔導師の杖』から次々と炎弾が飛ぶ。
ノーマルな『焦熱導く炎弾』の50倍の熱量を持ったそれは、すでに火の玉というよりは白く輝く雷球に見えた。
レベルが上がったことによって威力が底上げされ、プラズマ化する寸前あたりまで行ったのかもしれない。
それは俺の意志によってある程度リモートコントロールされつつ宙を飛び、次々とリザードマンの体に大穴を穿っていく。
中には上手く長剣で受け止めた固体もいたが、あっという間にその剣も解け落ち、もろともに焼き尽くされた。
ううーむ。ちょっと威力強すぎたかな。
今後は30倍くらいにしとこう。
ロドリゲスを襲っていた3匹の内2匹にも『焦熱導く炎弾』を向かわせる。
横方向に貫くと威力が強すぎてロドリゲスまで貫通しそうなので縦方向に……リザードマンの頭上から『焦熱導く炎弾』を撃ち込む。
「シャギャァァァァァッ!!」
断末魔と共に火柱となるリザードマン。
「あっちぃぃぃぃぃっ!!!」
あ。ロドリゲスに引火した……やはり威力が強すぎるようだ。
……よく考えたら『貫き導く氷弾』を使えば良かったんじゃ……と思っても後の祭りだった。
……とりあえず消火消火。
「『出でよ命の根源たる水』×20」
呪文と共にロドリゲスのおっさんの頭上から大量の水が降り注ぎ、おっさんの燃え上がった服を消火する。
「悪い悪い。ちょーっと火力が強すぎたみたいだ」
「ちょっとじゃねぇっ! 気をつけろっ!……まったく熱いわ冷てえわ、さんざんだぜ……まあ、なんだ。助かったことは助かったから、今回はチャラにしちゃる!」
そう言い捨てて、別のリザードマンへ向かうロドリゲス。
残りのリザードマンはリーダーを含め7匹。
そのうちの4匹にクローマが渾身の4倍紅蓮の火球を放ち、3匹を倒すもMP切れとなって戦線を離脱。
その際、瀕死となるも生き残った1匹にキリエがとどめを刺す。
残りは3匹。その内、1匹をロドリゲスがスキル『十字突き』で、もう1匹をトオコが『2連突き』で倒す。
「よっしゃ!これでラストかぁ!?」
「いや、もう1匹……リーダー格が居たはずだが」
「あの盾持ってたヤツなら崖を登って絶賛逃走中やな」
この混乱の中、馬車の中に引っ込んで戦況を見守っていたドロシーが右の崖の中程を指し示す。
「リーダーを残しておくとやっかいやからな。なんとか倒してな」
「ドロシーちゃんはさらっと無茶を言うね……もう届かんよ」
……それほどでも無い、かな。
「トオコ、頼む」
「はい、主様」
トオコは先日俺が作り上げた『ラビットブーツ+10』を履いている。
そしてその恩恵として『跳躍』のスキルが使える様になっているはずだ。
「……『バニーフット』」
トオコがスキル使用の条件であるコマンドワードを唱えると、ラビットブーツから魔力の輝きが立ち上りトオコの足に絡みつく。
「はっ!」
元々身の軽い猫系獣人のトオコのジャンプ力がスキルによって2倍になっているのだ。
トオコは苦も無く2、3回崖の出っ張りを足がかりにジャンプしただけで10メートルほど上の崖にへばりついていたリザードマンリーダーの位置まで到達した。
そして一閃。
トオコの刃は的確にリザードマンリーダーの首を薙いでいたのだった。
※
「いや~ウチの見込んだとおりやったな! 特に十蔵! ただの魔道具職人と思わせておいて、実は凄腕の賢者とは! うんうん、トオコがメロメロになるのも不思議や無い! 体のサイズが合えばウチかて色仕掛けで籠絡するところや……」
「だっ……ダメですよ!? 主様は……そのっ」
「んに~もうっ! トオコも焼き餅焼いて可愛いなっ! ぱふぱふしてもいい?」
「やっ……だめっ……ドロシー、だめだったら……」
……なんだろう。この混沌は。
「おいっ! 十蔵! 飲んでるかーーーっ!! てめえすました顔しやがって、とんでもねえ凄腕じゃねえか!……くっ……うう……しかたねぇ、トオコたんはお前に任す! だから泣かせんじゃねぇぞ!? うぉぉぉぉぉぉぉぉトオコたーーーーんっ(泣)」
「わかる、分かりますよ。しかしですね、実際の所50倍のファイアボルトという時点で非常識なのに、それを10発同時起動させて平然としている……そんなのは実にレジェンドレベルですよ。最低でも2500のMPがあるって事ですよ? おまけにあなたあの後ヒールで治療までしていたでしょう? 何者なんですか。言えないんですか。そうですかじゃあもう一杯……ああ、女将さん、一番強い……ええ、エールじゃ無くて葡萄酒持ってきてください……ってどこ行くんですか。逃げるんですか」
「んもう、逃げないでここに座って……そう、休みたいの?ならキリエおねーさんが膝枕……いえ、十蔵君が望むなら同衾……それ以上のことだって……ぽっ……ああ、いいのよ、トオコちゃんがいたって、おねーさんは日陰の女で良いの。なんならさんぴーでも……げへへ」
「キリエ、よだれよだれ」
「だから主様はだめですったら~……抜きますよ……?……今宵の『水鏡』は血に飢えている……ふ、ふふふふふふ」
あの、怒濤のリザードマンの襲撃を乗り切った俺たちは、その後新たな襲撃も無く、無事アイリーザ国の首都、アイリーザに入ることが出来た。
そして無事荷を引き渡したところで依頼人であるドロシーから依頼料の他に感謝の印として宿の一階の酒場を借り切っての宴に呼ばれたのだ。
そこでの料理や酒はすばらしく、また、全部無料、飲み放題食べ放題と言う事で、宴が進むにつれ上記のような混沌状態となったのである
「はーい、真剣抜くのはやめとこうね」
「ひゃう!にゃああああああああんっ!!!」
俺はとうとう武器を持ちだしたトオコを『魔性の指』で無力化すると『透明化』を自分とトオコに掛けて宴を抜け出した。
まさか覚えたばかりの隠者のスキルをこんな形で使うとは。
「ほら、トオコ、しっかりして……酔い覚ましに水でも飲むか?」
俺は2階の自室にトオコを寝かせると、クリエイトウォーターで作り出した水をコップに注ぎトオコに飲ませようとした。
「ううん……主様……」
だが、その俺の手をトオコががっしりと掴む。
流石前衛職、握力が半端なく、とても俺の力では外せない。
「主様、主様……ひどいです……こんな……こんな中途半端に終わらせないで……んっ」
そのまま口付けをしてくるトオコ。
どうやらアルコール+『魔性の指』効果で完全に理性が吹っ飛んでいるようだった。
というか、俺も色々限界なので、そのままトオコに覆い被さっていくことにした。
……ドアの外でドロシーとキリエが聞き耳を立てていたのに気付いたのは、翌日「昨夜はお楽しみでしたね」と何処かで聞いたような挨拶をふたりがにやつきながらしてきた時だった。
とうとう前作の地アイリーザ(街は違うけど)に入国しました。
かといって前作関連のイベントはあまり起こらない……はず。




