再会の迷宮(2)
インターネットが使えなかった分、暇で筆が進んでしまった……
ということで(2)も投下します。
※
あれから俺は順調に歩を進めていた。
コボルドやらゴブリンやらが、わらわらと沸いて出たが、奴らの攻撃は剣だろうが斧だろうが俺の特製100倍付与コートを突破する事は出来ず、逆に1匹当たりボルト系魔法を2発も叩き込んでやれば確実に倒せるので、パーティ相手でもだいたい一戦闘に50MPも使わずに終了してしまう。
そしてその50MPも1分もしないうちに回復している。
どうやら固有スキルの『魔力自動回復』は1分間に最大MPの0.5%ほど回復するらしい。
俺の場合分母が11430なので計算上は1分間に57MPほど回復している事になる。
なので、戦闘自体は順調なのだが。
「くっそ……無駄に広いな、このダンジョン……」
入り組んでいる上にやたらと広く、地下に下りる階段が中々見つけられないのだ。
それでもやっと3階まで降りてきたが、ここまでですでに1時間が経過している。
「一刻も早く見つけないと……どうする」
気ばかりが焦って、ますます道に迷い時間をロスするという悪循環。
まったく、わらわらと沸くゴブリンなどの雑魚さえ居なければ時間を大分短縮できるのに……
………ん?
……そうか、そうだよな……いかんな、どうもコンピューターRPGの常識を無意識に当てはめちまって。
今回の目的は救出なんだから、わざわざ戦わなくてもいいんじゃないか。
常時『加速』していれば奴ら程度なら振り切れるよな。
スキルスロットの中身を【攻撃呪術2】【呪術1】【加速】に付け替えて、と。
どうせ『防具強化』の効果時間は24時間だ。付与を掛けてしまえばスキル自体はセットしておく必要も無い。
「それじゃあ、ま、早速……『加速』!アーンドダッシュ!」
だいたい俺の短距離のスピードは100メートル13秒位だから、その4倍速というと100メートルを3.25秒……時速にすると110㎞/hちょいってとこだ。
言ってみれば、俺が『加速』を掛けて全力で走ればバイクや自動車並の速度が出るって事。
大抵の魔物なんざ追いつけるはずも無い。
「うん……やっぱり逃げに徹する方が早いな」
俺は4組目の魔物の群れを突破し、そう実感していた。
ただ、誤算が二つ。良い誤算と悪い誤算だ。
良い誤算は速度と同時にレベルアップのスピードも上がった事。
何しろ防具性能500%アップの俺がバイク並みのスピードで突っ込んでくるのだ。ゴブリンやコボルド、切り裂きウサギは見つけたと同時に俺にはじき飛ばされ即死、という状況で、正直普通に戦闘するより殲滅速度が速い。
ドロップアイテムも大量に落としたが、急いでいるので魔石とウサギ肉だけ回収し後は放置。ああ、勿体ない。
悪い誤算は……ダンジョンの中が直線ばかりでは無いということ。
全速力で走ろうとすれば走ろうとするほどあっちこっちの壁に激突する事になり……結構HPを削る羽目になってしまった……ましてや全力疾走時にうっかり緑粘菌なんかを踏んだ日には……豪快に滑ってそのまま轟音を発し壁に衝突、崩れた石壁の下敷きになるところだった。
……まあ、怪我自体は疲労回復を兼ねたヒールで全快するから良いんだけど、痛いものは痛い。
正直、防具ブーストしてなかったら2~3回、自爆で死んでいる。
「……まあ、その結果階段を見つけたからオーライだ」
古代王の迷宮に潜ってから1時間半。俺の目の前にはやっと4階へと続く下り階段が口を開けていた。
※
4階、5階は更にスムーズに攻略が進んだ。
スライムが出ないので、コケる心配が無いのが大きい。
通路もシンプルになり、直線が多くなっているので『加速』も使いやすい。
ここに出るのはスケルトンとゴースト。
この内ゴーストは魔法の武器か銀の武器か魔法そのものでないと倒せないはずだが、どうやら魔力をまとっての体当たりは魔法武器と判定されたらしい。
「うははは!V-M○X発動ぉぉぉぉぉっ!!」
ドゴン!バゴン!ドカン!
俺はほぼ全速力で迷宮内を走り回り、当るを幸いと奴らをなぎ倒していった。
もはやテンションもおかしくなっている。
そんな風にダンジョン内を探索(?)している内に、やがて今までとは少し違う雰囲気の小部屋を発見した。
10畳位の小部屋で、中心には淡く発光する魔法陣がある。
どうもこのダンジョンに潜る時に見た入り口の魔法陣に似ている気がするので、これがポータルと言うヤツなんだろう。
「ぜっ……ぜっ……はっ……さ、流石に、疲れた……な」
『ヒール』で誤魔化しながら進んでいるとは言え、元々『ヒール』は怪我を治す呪文で、疲労を取る効果は副次的な物だ。
ここに来て2時間以上全力疾走してきたツケが出たのか、中々疲労が抜けなくなってきたのだ。
「はっ……はっ……ここで一端っ……ポータルで地上に戻ると、双方向に行き来できるようになるんだっけ……」
中心の魔法陣に立つと、やはり入り口の時と同じように白光が迸り、一瞬で地上の廃墟に戻っていた。
「……これでポータルが使えなかったらもう一度あの距離を走るのか……」
ちょっとうんざりするが、トオコさんの為なら何でも無いさ! 母さんも『猫耳は正義!特に猫耳美少女は国を挙げて保護すべき』と言ってたし。
"ボレトーの迷宮へようこそ。あなたの資格を走査します………………走査終了。あなたは|ポータルの使用資格を満たしています。地下5階からお入りになりますか? yes/no ?"
「おっと、問題なく使えるみたいだな……もちろんイエスだ」
そう答えた瞬間、俺の体は再び地下5階のポータル部屋へと飛んでいた。
「さてと、とりあえず結構レベル上がったから、探索再開する前に覚えた技能の確認だけでもしときますか」
ギルドカードを出して確認すると、レベルが12→15へと3つも上がっていた。
他には呪術師がレベル15、魔道具師がレベル7になったし、
HPは108→135
MPは11430→11820
と、それぞれアップしている。
……しかし、前から思っていたがMPだけ上昇率が異常に高い気がするな。
上昇率とステータスを比べてみると、どうやらHPはレベルアップ毎にVIT値の分だけ上昇しているみたいだ。
つまり1レベル毎に9上昇する。
比べてMPはINTの10倍……1レベル毎に130ほど増えている様なのだ。
これが他の人もそうかと言えばどうやらそうでは無いらしく、MPはむしろHPより上昇率が低めなのが普通らしい。
……とことんMPのみに特化したチートなんだな、俺って。
「まあ、それはともかく……新しい魔法も覚えたみたいだし、トオコさんを救出する助けになれば良いけど」
新しく覚えたのは『呪術2』(念動、浄化Ⅰ)。
『念動』は約3㎏の物体を1分間手を触れずに動かす事が出来る、というもの。
魔法であるだけに倍掛けが可能だろうから色々応用が利きそうだ。
『浄化Ⅰ』はステータス回復の魔法。
呪文レベルが上がれば石化とかまで治せる様だが、現在は毒の浄化がせいぜい。
……そして俺は呪文レベルが上がらない呪術師なので、実質対応できる状態異常は毒のみだ。くそぅ。
「よっし、確認はこれくらいにして、探索再開と行くか。『加速』!」
俺はまだ未踏破な右の緩やかにカーブしている通路に踏み出すと、一気にダッシュをかけた。
このくらいのカーブなら4倍速でも問題ない……と思ったのだが。
ポータルで多少休憩したせいか、思った以上に速度が出てしまい……つまり。
カーブの先に待っていた強制降下のトラップに自分から思いっきり突っ込んでしまったのだった。
「ちょ……まて! おいっ! だぁぁぁぁぁぁっ!!」
強制降下とは、言ってみればものすごく急な滑り台だから、1階分位落ちても普通は怪我もしないのだが……おいっ! 結構深いぞ、この穴っ! もう2~3階分降りてるんじゃ無いのか? 油も塗ってあるみたいで落下速度が半端ねぇ。
このまま床に激突するとやばいかね……あ、下方に明かりが……出口か? 間に合え!
「『念動×20!!』
MP100を消費して、念動を発動。対象を自己、力のベクトルを落下方向と逆に、と意識する。
その途端、まるで自動車で急ブレーキを踏んだ様な反動が体を襲う。
「ぬぉぉぉぉぉっ!」
徐々に落ちていくスピード。やがて強制降下の出口に着く頃には幼児の三輪車並の落下速度になっていた。
お陰でどうやらゴールへは余裕を持って両足で着地。
「ふいぃぃぃ……直前に確認の為に呪術2をセットしておいてそのままだったのが幸運だったな……まったく冷や汗もんだ」
今後、ダンジョンの中での『加速』×全力疾走は禁じ手だな。
するとしても戦闘時の体当たり位にしておくべきか……
……しかしそれにしても……あの強制降下は俺が落ちた時には、すでに口が開いていた
という事は誰かが先に落ちたという事で……
トオコさん、無事でいてくれ……
――トオコSIDE――
運の悪い事にあの強制降下は3階分を一気に落下する物だったらしい。
しかもほとんど落とし穴と見まがう様な急角度で、おまけに油まで塗ってあった。
明らかにダメージを与える事を目的の一つとした強制降下だ。
直前のダブルトラップといい、まったく運が無い……いや、本来ならすぐに見抜ける程度の簡単なトラップなのだ。
あの三人を止めてさえいれば本来引っかかるはずの無い罠……つまりは子供達を監督できなかった私の責か。
更に悪い事に、私は足を痛める位で済んだのだが、レベルの低いレイドン等3人は強制降下で瀕死の怪我を負い、その治療にポーションを使い尽くしてしまったのだ。
私自身はレベル25の時にこの迷宮を最下層まで攻略しているが、それは頼りになる仲間達との5人のパーティだったからで……とてもではないが手負いのこの身で、戦力外の子供達を3人も引き連れて無事に帰還の途につく自信は無い。
何しろここは地下8階……最下層とほぼ同等の凶悪な魔物が跋扈するフロアなのだ。
と、すれば私が取れる策は一つ。
何もしない事。
結界石でキャンプをはり、非常食と水筒で喉を潤しひたすら体力の温存に努め救出隊を待つ。
強制降下に落ちた頃はすでに帰還予定時間を過ぎていたはずだから、そろそろ救出隊が差し向けられてもおかしくは無い。
「ふっ……ぐっ……おなか減ったよう……」
「我慢なさいませ、レイドン殿。救出隊はいつ来るか分かりませぬ。少しでも食料は温存しておかねば」
「レイドンがっ……ダンジョンに行こうなんて言うからっ!」
「コーディこそ!魔法の武具があるから心配ないって言ったじゃ無いか!クラムだって!」
「……お三方、騎士を目指そうというのに、人に責任をなすりつけるのはいかがかと」
「ぐっ……じゃあ、お前はどうなんだよ!僕たちの護衛役じゃないのか!!」
「……もちろん、この身にお三方を危険な目に遭わせた責がある事は明白。故に我が身命を賭してもお三方はお守り申し上げる」
「じゃ……じゃあ! 今助けろ! すぐにここから出せよぉぉぉぉぉっ!!」
「レイドン殿」
少しだけ視線に力を込めて少年を見つめてやる。
「ひくっ!?」
「……魔物の中には視覚より聴覚に優れた種も多御座います……静かになさらねば魔物を呼ぶだけかと」
「ひっ……」
「ひぅ!?」
「お、脅かすな!結界の中に居れば、入って来れないはずだろ!」
「何事にも例外はございまして……ああ、遅かったようですね」
目の端に移ったきらめきに暗闇を凝らして見れば、何かチカチカと輝く人型の様な物がこちらにゆっくりと近付いてくるのが見えた。
「な、なんだよ、アレ……」
自らの怒鳴り声が呼び寄せたと覚しき異形の人型が近付いてくるにつれ、レイドン達3人の顔から血の気が引いていく。
それは、言ってみれば1.5メートル位の「水晶で出来た人形」といった外見。
それが3体、石床の上を音も立てずに滑る様にこちらに近付いてくる様は非常に不気味だ。
「よりによって魔素喰らい、か。結界の魔力さえ食い尽くすヤツだ……倒すしか無い」
私は愛刀を鞘から引き抜くと、痛む足を引きずって結界の外に踏み出した。
私の今の状態では2体を倒すのがせいぜいか?……3体目も何とか相打ちに持ち込めればいいが。
「お三方」
背後でビクッと震える子供達の気配。
「私は騎士では無く武士ですが……責任の取り方は心得ているつもりです。……とくとご照覧あれ!」
そして私は3体の魔素喰らいに向かって対峙したのだった。