サトウキビ畑で捕まえて(2)
なんとか(2)でまとめることが出来ました。
「……シュタールさん? アロウさん?」
なんか二人とも口を開けて固まってる。
「……まあ、そのうち戻るか」
とりあえず俺は、二人を放置することにして、レベルアップの音がしたギルドカードを取り出し、確認してみることにした。
――――――――――――――――――――――――――――――
氏名 神楽十蔵 21歳 男性
総合レベル12 ギルドランクF
クラス メイン呪術師LV12
サブ 魔道具師LV6
HP 108(MAX108)
MP 570(MAX11430)
ステータス基本値(実効値)
STR 10(21)
VIT 09(19)
DEX 15(32)
SPD 11(23)
INT 13(27)
MID 13(27)
称号
真なるマナの申し子
固有スキル
魔力自動回復
魔性の指
魔力使用制限解除
属性補正
全属性+5
祝福
母の愛
――――――――――――――――――――――――――――――
スロット数1(+1)
セットスキル【攻撃呪術1】【加速】
所有スキル
[汎用]
加速、素材調達、製薬、
[呪術師]
呪術1(解析、ヒールⅠ)
攻撃呪術1(ファイアボルト、ストーンボルト、アイスボルト)
攻撃呪術2(エアボルト、サンダーボルト、エネルギーボルト)
[魔道具師]
武装強化(武器強化、防具強化)
――――――――――――――――――――――――――――――
「ふおお、一気に4レベルアップ!……スキルは……クラス毎に分かれたな。魔道具師がスキルを覚えたからか? ボルト系の魔法が3種類追加か。『武装強化』ってのは魔道具師のスキル……魔法かな?」
「お、おい……」
「効果は……武装の能力を5パーセントアップか。持続時間24時間、もしくは解除までと……24時間て凄いな!? 増加率は微妙だけど……両方とも倍掛け可能ってことは魔法扱いなのか? あ、MPちょっと回復しているな。自動回復とレベルアップ分か?」
「なあ、おいっ!!」
「うわっ!吃驚した!!」
いつの間にかシュタールさんとアロウさんがすぐ側まで寄って来ていた……ギルドカードの確認に集中してて気付かなかった。
「さっきも言ったけどよ……お前、何もんだ?あんな無茶な魔法の使い方を連続で行使するなんて常識外だ」
「まあ、シュタールの言葉は荒いけど同意見だよ。魔法そのものには不慣れな様なのに、その魔法の規模はとても一人の人間の魔力量で賄えるものとは思えない」
「さあ、吐け、とっとと吐け、キリキリ吐け! ……話せば楽になるぞ」
「シュタール、だから聞き方が乱暴だと……すまんな、しかし私とて興味があるのは変わらん、無理強いはしないが今後一緒にやっていく可能性のある冒険者仲間としてだね……」
ぐいぐいと顔を寄せて尋も……質問をしてくる二人。
正直ちょっと怖い。
「いや、だからね、人よりちょっと魔力量が多いだけで……」
「だから賢者様なんですってば!」「おおお、助かっただよ~あんなに大物の巣だとは思わなかっただ~」
そして説明をする俺を遮る依頼人親娘が混乱に拍車を掛ける。
あーシュガウさん、いい加減俺の手を握るのやめて下さい。汗ばんでて気持ち悪いっス。
メディーナちゃん、後ろから抱きつくのは良いけど、手が俺のデンジャーゾーンに当たってます。
てか、握らないで……
「あーーーーーーっ! もうっ! お前等もちつ……落ち着けっ!、『出でよ命の根源たる水』100分の1×100!」
まあ、要するに頭上にシャワー状に水を蒔いた訳で。
「……落ち着いた?」
「「「「はい」」」」
やっぱり混乱を沈めるには冷たい水ですね。
「す、すみません……こ、興奮しちゃって……そのっ! そういう興奮じゃ無くてっ! ごめんなさいっ! 賢者様っ」
メディーナちゃんにあっては、自分がどこを鷲掴みにしていたのか今更ながら気が付いたみたいで、顔を真っ赤にして謝ってきます。
「あー、落ち着いてくれればいいんです。あと、俺は賢者じゃありません。ただの呪術師です。MPが異常に多いのはそーゆー体質だからです。生まれつきです……シュタールさん達もOK?」
「あ、ああ……その、すまなかった。術師たる者、自分の魔導の秘をそう簡単に明かせるはずも無かったな」
まだ一部誤解しているのもいるが。
「あー、まあ、とにかく。依頼は完了したんだから戻ろうか?」
「あー、まてまて、討伐証明部位を持って行かないと……討伐系は報酬が出ないぞ」
踵を返して帰ろうとした俺にそう声を掛けるシュタールさん。
「え、マジ?」
「……本当に素人なんだな……演技とかじゃ無く……まあ、いい。この世界実力がすべてだからな……ほら、シュガービーの討伐証明部位はここ、針の部分だ」
シュタールさんが足下に転がっていたシュガービーから縫い針ほどの針を抜く。
「これは実際に加工して裁縫道具として売れる為、このまま売っても多少の金になる。依頼以外で倒したらここだけでも取っておくといい]
うーん、急にシュタールさんがフレンドリーになったなぁ。あれか、実力を認めてやるぜって感じなのか。
なんにせよ、同じ冒険者同士でギスギスするのは胃に来るから、関係が良好なのは良いことだね。
早速シュタールさんの指導に従ってシュガービーの針部分を分離していく。
……うん?針の根元当たりに白い粉の入った部分が……これ、もしかして。
「シュガウさん、これってもしかして?」
「ああ、砂糖ですだな……だけども魔物の体内に取り込まれた時点で商品価値は無くなってしまっただよ……色も風味も無い白い砂糖なんて誰も買わないだ」
「……えーと、こっちの砂糖って黒い方がいいんだ?」
「?言っていることがよく分からないだが……白い砂糖ってのはシュガービーの砂糖くらいだ」
マジか。精製された砂糖って無いんだ。
ちろり、と指に付いたシュガービーの砂糖を舐めてみる。うん。普通の白砂糖だな。
ということは「魔物の体内で出来た見慣れない砂糖」っだってんで、みんな食べないだけなのか。
「あー、その、シュガービーの砂糖、俺、貰って良いですかね?」
ほとんどゴミ扱いされているみたいだし、かまわないとは思うが、一応シュタールさん達に聞いてみる。
「あ? ああ、君が倒したのだ。当然、権利があるだろう……何に使うのか知らんが」
「ああ、私もかまわないと思うよ。だが、良ければ何に使うのか聞いても良いかな? 純粋に興味がある」
「ああ、熱いし、氷菓子……でも作ろうかと思ってね。せっかくアイスボルト覚えたんだし」
「アイスキャンデー、ですか?」
不思議そうに聞き返してきたのは復活したメディーナちゃん。
うーん、こっちには氷菓子って無いのか?
「あー、ええっとね、冷たくて甘いシロップや果汁を凍らせたキャンデーかな……他の味を付けるから、黒砂糖より風味の無い、ただ甘いだけっていう白い砂糖が合うんだ」
「へー、初めて聞きました……冷たいお菓子なんですね? でも確かにこの暑い時期はそんなのがあったら美味しいでしょうね……」
うっとりと目をつぶるメディーナちゃん。
「まあ、本当はシャーベット系よりアイスクリームの方が好きなんだけど……生クリームなんて無いだろうし」
「あ、ありますよー」
「え?」
「私の家はサトウキビだけじゃ無くて牛も飼ってますから」
「じゃ、じゃあタマゴとかは……」
「もちろん鶏も居ます!」
「……………アイスクリーム来たぁぁぁっ!!……そうと決まったら白砂糖全部回収だっ!」
「あ、ならシュガービーの巣を壊すと結構貯め込んでいるはずです。蜜蝋で固めてあるはずなので、短時間なら熱湯で湯がいた後も残っていると思いますよー」
「うぉぉぉっ!巣も回収ぅぅぅぅっ!!」
メディーナちゃんの言葉にテンションの上がった俺は一人でシュガービーの巣を掘り起こさんと奮闘したが、途中、幼虫が甘露煮状態で出て来たりして地味にダメージを受けていた……
結局、巣の掘り起こしに悪戦苦闘する俺を見かねてシュタールさんとシュガウさんが手伝ってくれ、巣の中に蜜蝋でパッケージングされ保管されていた白砂糖を回収したところ、シュガービーからのドロップ品の砂糖と合わせて10キログラムほどにもなったのだった。
※
砂糖を回収した俺は、シュガウさんのお宅の庭にお邪魔していた。
今回Fランク料金でそれ以上の難度の依頼を解決してくれたお礼として、乳製品やタマゴを譲ってくれることになったからだ。
どうせならみんなに試食して貰いたいと思い、そのまま庭先を借りてアイスクリーム「モドキ」を作ってみることにした。
……いや、俺だって生クリームと卵黄と牛乳とバニラビーンズを使うって事位しか知らないし、何となくそれっぽい物が作れれば良いなーってだけだからアイスクリーム「モドキ」って訳で。
「とりあえずボウルを作って……『土よその身を塊と成せ』×体積2倍×2行程」
一辺だけを倍にして40センチ×30センチ×10センチのブロックを作成。
これの下側を丸く整えて……上面を凹ませて……合計12MPで陶器製のボウルが完成した。
このように『土よその身を塊と成せ』は複雑な加工は無理だが、簡単な形の加工は出来るのだ。一工程ごとにMPを使うけど。
「よーし、ここに牛乳と生クリームと卵黄とシュガービーの砂糖を入れてかき混ぜる……」
本当は混ぜる順番とか色々あるんだろうけど無視。ていうか分からんし。
メディーナちゃんから泡立て器を借りてひたすらかき混ぜる……
「次は氷を作って、と。射程距離0、速度0目標地面『貫き導く氷弾』10分の1×100」
ほどよく混ざったところで『土よその身を塊と成せ』のせいで出来た地面の穴に10分の1サイズで生成した『貫き導く氷弾』を敷き詰める。
この『貫き導く氷弾』、普通に作った氷よりずいぶん温度が低いらしい。
何しろ本来は敵に『凍結』の状態異常を付加する事が出来る攻撃魔法なのだから、当たり前と言えば当たり前か……だからこそクーラー代わりに使えるほど食堂も冷やせたんだし。
で、その冷蔵庫の氷大のアイスボルトで敷き詰められた地面の穴にセラミックのボウルを設置して木べらでゆっくりかき混ぜながら冷やすと……とりあえずのアイスクリーム「モドキ」の完成だ。
「ほう、これがあいすくりーむ、とやらかね?」
興味深げに聞いて来るアロウさん。やはり女の人だけあって甘い物は好きらしい。
「……試食してみます?」
木で出来た小さじでアイスをすくってやり、手渡す。……空気の含みが少ないのか、冷やし過ぎなのか非常に堅い。
「どうぞ」
「う、うむ……」
さじを手に取るアロウさん。興味はあるがシュガービーの砂糖って事でちょっと躊躇している感じだ。
他の御一同も興味深げにアロウさんの様子を見守っている。
……やがて決心が付いたのか、アロウさんがさじを口の中に運ぶ……
「うむっ!?」
さじを口に含んだまま固まるアロウさん。
……だが、やがて頬は上気し、その表情が恍惚に解ける。
「ん、んんんん……ちゅぷんっ」
名残惜しそうにさじを舐め尽くすアロウさん。
……上気した顔でそれやられると、めっちゃエロいですアロウさん……
「ふぅ……んっ……はぁっ……」
「あ、アロウ?」
シュタールさんが様子の明らかにおかしいアロウさんに思わず声を掛ける。
「……ぅまい」
「あ?」
「うーーーまーーーいーーーーーーーーぞぉぉぉぉぉっ!!!」
いきなり再起動したアロウさんは、さじを片手にボウルのアイスクリームをがっつきだした。
「この、こくのある濃厚な甘みっ! だが、それが凍り付く冷たさでさっぱりと喉を通るっ! 更には暑さにほてった体を中から気持ちよく冷やしてくれて……まさに天上の甘味っ!!」
「あ、あーーーーっ! ずるいですっ! アロウさんっ! 私もっ……はむっ……こ、これは……ぱくっ……たまりません……ぺろっ……美味しすぎますっ!」
「ま……、まてまて、そんなにか? ぱくっ……ほう……もう一口……うむ……悪くない。悪くないな、これは……ぱくぱく」
「ま、待つだ、タマゴと乳製品を提供したのはおらだべ? おらも一口……ほぅ!……ぱくぱく……さすが……ぱくぱく……賢者様の作った菓子だ!」
アロウさんの様子にメディーナも参戦。
更にそれにつられてシュタールさんとシュガウさんも加わる。
……てか、元々俺が食べる為に作ったんだが。
……結局みんなが満足するまであと2回アイスクリームを作る羽目になったのだった。
※
後日。
王都の南門商業区においてハーヴ親子が出したアイスクリームの屋台がバカ売れし、連日長蛇の列が出来ていた。
あの後、俺はシュガウさんに白砂糖とアイスボルト製の氷(効果時間を30倍し、5時間ほど持つ様にした特別製)を提供するからと屋台の出店を促したのだ。
更にアイスはあれから改良を施し、トウモロコシの粉で作ったカップに入れ、食べ歩きしやすい様にし、種類もイチゴ味、柑橘味、ミルク味、コーヒー味と各種取りそろえた。
まあ、もちろんただでは無く、材料費を除いた売り上げの3割を貰うことになっているのだが。
予想通りこの猛暑の中、アイスクリームは評判が評判を呼び、一個銅貨10枚という高値にも関わらず屋台は大繁盛。
売り上げもバカに出来ない金額で、俺の手元には、この夏の盛りの1ヶ月で銀貨30枚が支払われた。
……と言うことはハーヴ親子の手元には材料費を除いても銀貨60枚が残ったはずである。
臨時収入としては上々ではなかろうか。
……そして、以後、ハーヴ親子のアイスクリーム屋台は夏の風物詩になったのだった。
アイスクリームの作り方って色々流儀があるんですね……