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サトウキビ畑で捕まえて(1)

多分前後編に収まると思いますが、念の為(1)に(笑

 ルグリス魔道具店のシモーヌさんとポーション売買の契約をしてから気が付いたのだが、その契約は無制限に儲かる、というものではなかった。


 何しろ、ひと月に納品できるのが10本まで、と決められているのだ。

 それ以上売ると相場が値崩れする恐れがあるから、らしい。


 なので、俺はギルドの常時依頼『吸魔草レッドクレソンの採取』を適当にこなしながら、月が変わったらルグリス魔道具店に納品する、ということを繰り返していた。

 納品は『MPポーション+』をメインにしているので、月に銀貨50枚の定期収入があることになる。

 材料もベッドで量産出来るのでそうそう時間は掛からないし。

 風呂には入れないのだけが不満だが、『光りよ我が身を清めよ(クリーンボディ)』の生活魔術があるので不衛生では無い。

 結局俺は、討伐依頼などの危険な依頼には手を出さずに、のんべんだらりと冒険者の宿で、すでに二ヶ月以上日々を過ごしていた。


「暑い~暇だ~金はあるけど使い道が無い~」


 宿屋代や諸経費、外食代を含めても俺の手元には銀貨74枚と銅貨25枚がある。

 この世界、もちろんパソコンやゲーム機など無いので遊興代がかからない。

 いや、やろうと思えばゴニョゴニョなピンク施設も街にはあるが、何となく怖いお兄さんが仕切っていそうで足を向けていない。

 故に夏真っ盛りのこの季節、暑い部屋でごろごろしているしか無いのである。


「ちょいと旦那~暇ならまたアレをお願いするよ! 今月の宿代負けるからさ」


 開けっ放しのドアから呆れたように顔を出して声を掛けてきたのは宿の女将さんである。


「んー? アレ? いいよ~俺も暑いしね」


 短パンにサンダル、Tシャツという冒険者にあるまじき格好で一階の酒場へ降りていく。

 そこには昼間だというのに、そこそこの客がエールをかっくらっていた。


「ほら、そこ……テーブル席の真ん中ら辺を開けといたから、そこに頼むよ」

「おーけーおーけー……射程距離0、速度0目標石床……『貫き導く氷弾』(アイスボルト)×体積500倍、発射」


 俺の詠唱と共に巨大な……ちょっとした庭石ほどもある氷塊が、床にでん(・・)と出現した。

 誘導弾的性質を持つ○○ボルト系魔法は、弾速や射程距離をある程度いじれる。

 今回は射程をゼロ、速度0に設定したので、勢いよく飛び出して床を壊したり破片が飛び散ったりしない安心設計。

 ……ちなみに呪文と倍率部分はもにゃもにゃと小声で聞こえないように気を遣っている……500倍のアイスボルトなんて非常識すぎるので、遠い故郷の製氷用魔術だと言って誤魔化しているためだ。


「おー、十蔵の旦那、待ってました!」

「こりゃ涼しいや」

「くぅー、よりエールが美味いぜ」


 うむ、お客さんにも喜んでもらえて、俺の宿代も浮く。MPは2500ほども消費したけれども、今日も良い仕事をした……


「じゃないっ!」


 いきなり大声を発した俺に怪訝そうな視線を向けるおっさんズ。

 いや、このままではいかんと思うのですよ。人間ダメになりそうで。

 宿のクーラー代わりにMP2500使う位だったら、ゴブリンの200や300倒せるってなもんですよ。

 今日こそ自堕落生活にピリオドを打たねば。


「と言う訳で、女将さん、ギルドに仕事探しに行ってきます!」

「あ、ああ、気をつけていっておいで」


          ※


「――という訳で適当な仕事無いかな? ものすごく安全、かつ高収入な討伐依頼とか」


 話しかけたのはいつものごとくギルド窓口のおっさん。

 討伐依頼は初めてだから危なくないのを選ばねば。


「んなもんあれば俺が行くよ……と、そうだな、報酬は安いが……これなんかどうだ」


 と、おっさんが示した依頼用紙には


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『シュガービー討伐』

依頼難度:Fランク

達成条件:サトウキビ畑に出現するシュガービーを巣ごと討伐すること。

達成期日:8月20日まで

報酬:銅貨70枚。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――と書かれていた。



          ※


 結局俺はおっさんの進めてくれた依頼を受けることにして、西門を出てすぐ側にあるサトウキビ畑に来ていた。

 集まったのは俺を含めて三人。

 他の二人は黒いローブの男性と弓を持った女性だ。

 2人ともギルドで斡旋された冒険者で、男性が魔術師のシュタールで、女性がレンジャーのアロウと名乗った。


 その俺たちの前で、ぺこぺこと頭を下げているオーバーオールを着たおっちゃんが今回の依頼人だ。


「シュガウ・ハーヴ、と申しますだ。今回は、お前さんがたが依頼を受けて下さるそうで、ほんにはあ、申し訳ねぇこってす」


 はて、ハーヴ……?


「賢者様!」


 何処かで聞いた名前に俺が首をひねっていると、サトウキビ畑の農作業小屋の辺りにいた少女がそんな声を上げて俺に駆け寄ってきた。

 ……おや、この子は何処かで……


「お忘れですか?クレソン摘みの時に不良冒険者から助けて頂いた……」

「あ! め、メディーナさん?」

「はい! 覚えていて下さって嬉しいです! 賢者様!」

「いやぁ……賢者なんて上等な物じゃ……」「おお、ではあんたさんが!」


 ない、と言おうとしたのだが、その前にシュガウ氏の言葉に遮られてしまった。


「娘から聞いていますだ、この子が危うく傷物にされるところを、見たことも無い魔術で助けて頂いたと!」


 いえ、絶対見たことありますから。ただの生活魔術ですから。


「賢者様自ら私らをお助け下さるとは、ありがたいことですだ」


 親子があまりにも俺を持ち上げるものだから、他の2人の機嫌が目に見えて悪くなる。

 オレらと同じFランクがいい気になってるんじゃねえ!……という感じだ。


「い、いえ、仕事ですので……それよりシュガービーのことを詳しく聞きたいんですが」

「そうだか……ご存じとは思うだが、シュガービーはサトウキビ畑を荒らし、食い尽くす魔物で……糖分を体の砂糖袋に貯めておるんです。私ら素人でも一撃当てられれば倒せるだが、すばしこい上に中々手の届くところまで降りてこないんですだ……なので大量発生した年には、毎回ギルドの方から魔術師か弓使いの方を回して頂いて狩って頂いていたんですだ」


 なるほど、弱いけど遠距離攻撃の手段がないと倒しにくいってことか。


「そんな事はギルド員なら誰でも知ってるぜ? これだから素人は……」


 ため息をつきながら俺を横目で見やる黒ローブ。

 まあ、それも仕方ない。討伐っていうか、俺はこの世界そのものに関して素人なんだから。

 しかし、そんな黒ローブに反感を持ったのか、メディーナはギッと黒ローブを睨み付けた。


「まあ状況の確認をするのは悪くないさ、落ちつきなよ、シュタール」


 依頼人の娘(メディーナ)の機嫌が悪くなったのを察して、場を収めようとするアロウさん。


「ふん、まあいいさ、勝手にすりゃあいい」


 シュタール氏の同意も取り付けたので、説明の続きをシュガウさんに促す。


「で、巣穴の位置とかは分かっているんですか?」

「はあ、サトウキビ畑のすぐ側に大岩があるんですだ。奴らはその根っこ辺りの土中に巣穴を作っておりますが……」


 ふむ、土蜂系なのか。


「巣が分かっているんなら話が早い、早速潰そう……奴らはせいぜい1つの巣に10匹程度しか居ないはずだ」


 そう言って、さっさと踵を返して巣のある方向へ歩いて行くシュタールさん。

 別に俺も異は無いのでアロウさんと共にその後を追った。


          ※


「……巣に居るのは10匹程度って話じゃ無かった?」


 俺たちの目の前には、どう少なく見積もっても40~50匹程度のシュガービーが雲霞のごとく飛び回っていた。

 アレだな、やっぱり魔物とされるだけあって、一匹の大きさがネズミほどもあるんだな。

 それがこの数って……結構来るわ~


「……最悪だ……コロニー形成してやがる……しかも見たことも無いほど大規模な……」

「コロニーってなんです?シュタールさん」


 シュタールさんは俺の問いにも答えず呆然と眼前の光景に見入っている。

 動かないシュタールさんの代わりにアロウさんが説明してくれた。


「シュガービーは、そのほとんどは10匹程度の群れで巣を作るんだけど、極たまに群れ同士が同じ場所に巣を構える時があるの。その場合は群れのリーダー同士で戦って新しいリーダーを決めるのだけど……そして出来たより大きい群れをコロニーと呼ぶの……ダメね、これは」

「ダメって何がです?」

「Fランクの仕事じゃ無いって事……奴らは、こちらから手を出さなければ敵対行動に移ることは滅多に無いし、ギルドに言ってランクの高い仕事として依頼し直して貰いましょう……私達じゃ手に余るわ」

「そんなっ……これ以上ランクが上がったら、依頼料が払えなくなりますっ……」

「な、何とかして貰えねぇだか……収穫が出来なくなったら来年の種も買えねぇだ」


 顔色を無くすシュガウ氏とメディーナ。

 んー、乗りかかった船だし、何とかしてやりたい。

 というか、多分俺なら何とか出来る……と思う。


「シュタールさん、アロウさん、ちょっと質問。二人だけだと何匹まで行けますか?」

「……無理だ。俺とアロウだけでは無理して15匹……程度だな」

「うん……そうね」


 ほほう、意外とイけますね……


「もう一つ質問。あいつ等はファイアボルトとかの初級呪文でも倍掛け無しで倒せます?」

「……威力的には問題ないが、誘導性能を倍がけしておかないと半分は避けられる……っておい! 俺たち二人だけに押しつけるつもりか!?」

「んー、そんな事しませんよ? でも、お二人には依頼人さん達の護衛に回って欲しいので、どのくらい当てに出来るかなぁ、と」

「…………てめぇ、アレ相手に一人でやり合う気か!?」

「や、やめた方が良い、十蔵君、若いウチは根拠の無い自信を持つものだ」


 あら?シュタールさんまで心配してくれるとは思わなかった……意外と良い人?


「ええと、サトウキビ畑の側だし、ファイアボルトはやめた方がいいか……となるとストーンボルトかアイスボルト……暑いし、アイスボルトにしとくか-」

「聞けよ、このガキゃあ」

「聞いてますよ……まあ、論より証拠ということで……スキルセット『攻撃呪術1』『加速1』、『加速』実行」


 俺の肩を掴んで押しとどめようとしたシュタールさんの手を4倍速でくぐり抜け、ダッシュで約20メートルの距離を走り抜けて、俺はシュガービーの群れの前に躍り出た。

 ……うわ、アップで見ると一段とグロいな。巨大昆虫って。

 『加速』付きのダッシュを攻撃と見たのか、シュガービー達がこちらに向かって数匹急降下してくるのが見える。

 だが、まだこれくらいなら『加速』で回避は余裕だ。

 俺はシュガービーの攻撃を避けながら、初の攻撃呪文の実戦使用に向けて入念に呪文を練った。

 ……えーと、確か誘導性の強化は必須、だったか。


「射程距離……デフォルト、速度最大、目標各シュガービー………『貫き導く氷弾』(アイスボルト)同時起動×100、誘導性能×2……」


 呪文と共に空中に現れる100本の氷の矢が魔力を帯びて燐光を放つ……なんかもう気分は波動砲である。

 しかも消費MPは5MP×誘導2倍×本数100本で、1000MPだ。

 まあ、なんてリーズナブル……って、最近MP消費についての認識がおかしくなっているな。


 「発射ぁ!!」


 キュドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!


 発射、のトリガーコマンドを合図に一斉に打ち出されるアイスボルト×100。

 それら100本の氷の矢がそれぞれ独自軌道を描いてシュガービーへと突き刺さる。

 まあ、なんて板野サーカス。

 シュタールさんの情報通りシュガービーはボルト系魔法一発で十分倒せるらしく、氷の矢に撃墜され、どんどんその数を減らしている。 

 ……にしても一発で体のほとんどを吹き飛ばすとか、ちょっと威力強すぎだな、と思ったが『虫除けの指輪(アンチバグスリング)』を着けてたんだった……確か対虫系に+10%ダメージだったっけ。

 やがて、『貫き導く氷弾』(アイスボルト)は巣の外に出ていたシュガービーをことごとく殲滅し、周囲には静けさが戻った。

 その様子を見て、シュタールさん達が恐る恐る近寄って来る。


「お、お前……何者だよ……あんな真似、いくら魔法職ったって、レベル100オーバーでもなきゃMPが持たないはず……って、何してんだ?」

「いえ、まだ巣の中まで確認してませんから……念の為、『出でよ命の(クリエイト)根源たる水(ウォーター)』えーと、体積2000倍」


 2000リットルの水をぽっかりと地面に空いた巣穴に流し込む。消費MP6000。

 巨大な水球をすべて飲み込み、やっと穴から覗き込める位の位置に水面が見えてきた。

 更に念の為、その水を熱湯に変える。


『焦熱導く炎弾』(ファイアボルト)……500発くらい?」


 順次出現したファイアボルトを巣穴からあふれている水に向かって突っ込ませる。

 あっという間に爆発したような蒸気で真っ白くなる周囲。


「ばっ……熱っ!」

「あ、まだ離れてたほうが……」

「先に言えぇぇぇっ!」


 結果的には巣穴の奥まで煮沸するのに800発程度かかりました……MP4000。

 MP自動回復が無かったらMP足りなかったかも。

 ファイアボルトを撃ち込めるのが巣穴の入り口だけだから、熱伝導効率が悪いのか、予想よりかかった。

 疲れた……MP使って疲れたのって初めてじゃないか?


「おーい、もう巣穴の奥まで煮込んだから、側に寄ってもOKっすよ!」


 ギルドカードの連続したレベルアップ音を聞きながら、俺はシュタールさんや依頼人さんに向けて手を振った。


シュガービーの大きさを猫サイズからネズミサイズへ変更しました。

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