日常
うっすらと目を開けると、少し開いたカーテンから朝日が差し込んで、電気のついていない部屋を明るくしていた。冴子はゆっくりと体を起こして、まだ混濁する意識を水面下から引き上げる。壁に掛けられた時計を見ると針は六時五十五分を指していた。
あの夜から今日で二日目だ。今日辺り、そろそろ何か進展があるだろうか。昨日の夕方のニュースで小さく取り上げられているのを見た。警察も、自殺か他殺か、もしくは事故か、判断に迷っているに違いない。冴子はベッドから降りて、テレビのあるリビングに向かった。
「ニュースをお伝えします。昨日、男性が自宅で遺体となって発見された事件で、警察は有毒性の薬を誤って飲んだことによる事故死であるとの見解を示しました。今日は男性が誤って飲んだとされる解熱剤について、薬物に詳しい医師に――」
そこまで聞いて、冴子はテレビの電源を切った。リモコンを置くと、小さなため息をついて、一人がけのソファにすとんと腰を下ろした。
仕事の後は、いつだって憂鬱だった。罪悪感はない。郷田は死んで当然の人間だった。それだけのことをしていたのだから。けれどそれは私だって同じのはずだ。だって私は――。
「にゃー」
「きゃっ、こらスピカ、急に膝に乗っちゃだめっていってるでしょ」
突然視界に飛び込んできたその小さな暴君に、冴子の思考は遮られた。スピカは何食わぬ顔で、冴子の膝の上で丸まっている。一年前、スピカはダンボールに入れられて捨てられていた。拾ったときは骨と皮のやせっぽちの猫だったが、冴子が時間をかけて手入れをし、今では毛艶もよく、肉もついてきれいになった。長い時間一緒にいるせいか、スピカは冴子の気分を敏感に感じ取ることができた。冴子が落ち込んでいるときは、いつもこうして擦り寄ってくる。冴子は動物が好きだった。彼らは冴子を責めないし、彼らとの生活には人間のようなわずらわしさがない。冴子は自分の膝うえでくつろぐ愛猫の様子に表情を和らげて、柔らかいのど元を優しく撫でてやった。
「あんた、心配してくれたの?」
「にゃー」
しばらくスピカと戯れた後、軽い朝食をとり、身支度を済ませ、冴子は一階の店に下りた。