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罪の花  作者: 藤野玲
19/20

接点

 あれからぺティ・リッパーは行動を見せず、新たな証拠も出ないまま、秋元が殺された事件から二週間が経った。佐野と神谷は一旦秋元の事件を置き、数日前起こった大学生殺人事件に回るよう指示されていた。被害者が通っていた大学の構内を並んで歩きながら、神谷が今回の事件について切り出した。

「佐野さんは、今回の事件どう思いますか?」

殺された大学生は、手足に縄できつく絞められた跡があり、全身には鞭で打たれたような跡や、スタンガンを押し付けられたような跡がいたるところに残っていた。しかしどれも致命傷になるほどの傷ではなく、最後は心臓を一突きされたことによる出血死だったことから、全身の傷は死なない程度に痛めつけるためのものだと判断された。

「お前はどう思う?」

「あんな拷問みたいな殺し方、普通じゃないですよ。俺は異常精神者による犯行だと思いますね」

神谷の考えに、佐野も頷いて肯定を示す。

「まあそれが妥当な考えだろう。けど俺は、今回はそうじゃないと思ってる」

「どうしてですか?」

「他人をなぶるのが趣味って奴は、たいてい同じことを繰り返すもんだ。その快感が忘れられなくてな。けど今回は、もう四日経ったのに殺人事件すら起きていない。犯人は快楽殺人者じゃないってことだ」

「なるほど。じゃあどうしてこんなことを?」

そう聞かれた佐野は神谷を見ると、呆れたような顔で言った。

「もっと頭働かせろ。拷問なんて、快楽殺人じゃなかったら、目的は一つしかないだろうが」

しばらく歩いたところで、二人は応接室とかかれた部屋の前で立ち止まった。ノックをすると、中から「どうぞ」と返事が聞こえた。

 二人が中に入ると、中には一人の男子学生が座っていた。男は佐野の顔を見ると、驚いたように目を開いた。佐野は彼の反応に笑みを浮かべ、「久しぶり」と話しかけた。

「佐野さん?」

「修一、久しく見ないうちに男前になったな」

佐野は修一に歩み寄って、目の前のソファに腰を下ろした。神谷もそれに続いて佐野の隣に座る。修一は、まだ驚いた表情を浮かべたまま言った。

「佐野さんが御堂の事件を捜査してるなんて驚きました」

「俺も驚いたよ、まさか修一が被害者の友人だったなんてな。……辛かったろ」

「……はい。御堂とは、一番仲良かったですから。それに、あんな殺され方……。もう調べてると思いますが、本当に、御堂は人に恨まれるようなやつじゃなかったんです。正義感も強いやつで、人とトラブルを起こすような性格でもなかったし」

「じゃあ、知り合いに心当たりはないんだな?」

「ありません」

それを聞いて、佐野は唸って眉間にしわを寄せた。トラブルや、怨恨以外が動機の殺人は、犯人の特定が極めて困難になる。この事件は思ったより時間がかかりそうだと佐野は思った。

「最近、御堂くんは何か言っていなかったか? 身の回りで、変わったことがあったとか」

「さあ……特に何も言っていなかったと思います。ただ、最近は研究レポートのためとか言って、けっこう危険なところに取材に行ったりとかしてたみたいです。危ないからやめろって前に一度言ったんですけど、一度決めたことは最後までやるって聞かなくて……」

修一は御堂のことを思い出して、苦しそうに顔を歪めた。佐野はそんな修一の心情を読み取ったのか、黙って優しく肩を叩いた。

 しばらくして落ち着いた修一は、ありがとうございます、と佐野に笑みを向けた。佐野は少し間を置いて立ち上がった。

「修一、その研究レポート、俺たちも見れるか」

「いや、どうでしょう……。御堂のパソコンに入ってなかったんですか?」

「押収したパソコンの中に、それらしきデータは入っていませんでした」

修一の問いに神谷が答える。修一は少し考えこんで、何か思い当たることがあったのか、「そういえば」と呟いた。

「大学の研究室に、こっそり自分のパソコンを置いていると、前に御堂が話してくれたことがあって。もしかしたらデータはそっちかも」

「とりあえず行ってみよう。案内してくれるか」

「はい」

修一も立ち上がり、三人は御堂の研究室に向かうため応接室を後にした。



 「おかしいな……、前見たときはここに置いてたのに」

大量の資料が詰められている本棚の一角を指差して修一は首をかしげた。一番下の棚の壁側にできた、ちょうどノートパソコン一台が入る分だけの隙間に御堂はパソコンを隠していた。ところが来てみると、その隙間にあるはずのパソコンはなくなっていた。

「誰かが盗ったんでしょうか」

神谷がそういうと、修一は首を振った。

「それはないと思います。ここにパソコンがあるのは俺と御堂しか知らないはずですし、ほら、一番下の棚で視界に入りにくい上に、隣の資料が大きすぎて棚からはみ出してるでしょう? こっち側からみると、ちょうどその資料に隠れて見えないんですよ。ここの資料って実際あまり使われないですし、偶然見つけるなんてこと、まずないと思いますよ」

「じゃあいったい誰が……」

神谷と修一が頭を抱えていると、佐野が神谷の頭をぱしっと叩いた。

「いたっ、なにするんですか佐野さん!」

「頭を使え神谷。思い出してみろ、ガイシャは、拷問されて殺された可能性が高い。ってことは、犯人は知りたいことがあった。ガイシャしか知らないことだ。で、今ここにあるはずの、ガイシャのパソコンがなくなっている。ここまで言えば分かるだろう」

「あっ、そういうことか! 犯人が欲しかったのは、御堂くんのパソコンだ! その場所を吐かせるために拷問を……」

「ああ、まあ今回は修一も知っていたようだが、犯人にとっちゃ、本人から聞き出せればいいんだし、それはどうでもいいだろう。御堂が口を割らなかったら、修一も危なかったかもしれんがな」

神谷の答えに、佐野は表情を険しくしながら頷いた。佐野は修一に向かって言った。

「修一、御堂くんが調べていたその研究の内容、どんなことでもいい、教えてくれ」


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