始まり
「甲斐、最近イイコトでもあったのか?」
いつもどおりの昼食時、御堂がにやにやと笑みを浮かべながら言った。
「なんで」
「いや、お前自覚ない? 最近頬緩みっぱなしなの」
「えっ」
慌てて自分の頬を押さえる修一が面白かったのか、御堂は声を上げて笑った。修一はそんな御堂を一睨みし、照れ隠しからか、こほん、と一つ咳払いをした。
「お前には関係ないだろ」
「なんだよ、連れないな。好きな子でもできたのか?」
御堂の言葉に、コーヒーを啜っていた修一は、吐き出しそうになるのをなんとかこらえ、無理やり飲み込んだ。
「な……別に、そんなんじゃないよ。ただ高校のときの同級生と、このまえ偶然再会して、最近よく会うようになったってだけだ」
微かに頬を赤らめる修一に、御堂は思わず苦笑する。この男は、大学に入学して知り合ってから今まで本当に変わっていない。今どき珍しい、純粋な男。
(だから一緒にいて飽きないんだろうなぁ)
「へえ、同級生ね。じゃあ今度俺にも会わせてくれよ」
「嫌だ、お前なに言うかわかんないし。それに彼女は人見知りなんだよ、お前みたいなの連れて行ったら怖がるだろ」
「どうせ俺はごつい顔してますよ」
修一の言葉を自虐的な言葉で受け流し、御堂は立ち上がった。
「なんだ、もう行くのか」
「ああ、教授のとこに課題を出しにいかないと」
「お前自分のレポートに熱心なのはいいけど、単位落として留年とかシャレになんないからな」
修一は、以前話していたレポートに御堂が相当真剣に取り組んでいることを知っていた。その一方、講義の課題を放っておくので、教授によっては単位も危ないという状況にあることも。修一の指摘に、御堂は苦笑いを浮かべる。
「はは……ま、お前の言うとおりだ。気をつけるよ。じゃ、またな」
「ああ」
去っていく御堂の後ろ姿を少しの間見送って、修一はかばんから文庫を取り出して読み始めた。
次の日、御堂は他殺体となって発見された。