新婚旅行の口実となった姉への結婚報告
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
我が生駒伯爵家へ婿養子としてお迎えした山手公爵家の次男である杉雄さんは物腰の柔らかい好青年な殿方で御座いますから、伴侶である私は勿論ですが両親や使用人に至るまで忽ち気に入ってしまいましたの。
そんな入り婿である杉雄さんは、新婚旅行での立ち振舞いもまた至って紳士的なもので御座いましたわ。
龍山区の南山公園に聳える南山タワーでは「この南京錠で僕と英里奈さんの永遠の愛を誓いましょう」とロマンチックな御言葉を囁いて頂きましたし、北村韓屋村のリノベーションカフェでは事前の綿密な下調べが伺える絶品のティーセットをお勧めして頂きましたからね。
「杉雄さん、李朝の事については非常に御詳しゅう御座いますのね。特に漢城府周辺につきましては地元の方もかくやで御座いますよ。」
思わず斯様な事を申してしまいましたが、杉雄さんが綿密な下調べと万全の御準備をなされたのも無理からぬ事で御座いましょう。
この李朝という立憲君主制国家が私と杉雄さんにとって如何なる意味を持つ国なのか、そして私達夫婦の此度の新婚旅行における主目的が何なのかを計算に入れたなら、それは当然にして至極の事で御座いますね。
そして此度の目的地である所の漢城府五大王宮が一角である徳寿宮に足を踏み入れた私達夫婦は、その荘厳にして絢爛たる歴史的な威容に圧巻されながら、己の主目的を改めて認識し直したのでした。
「こちらで御座います、生駒英里奈女史、生駒杉雄殿。」
しかし案内役を担当して下さった黄彩和秘書官の微笑により、私の緊張感は少なからず緩和されたのですよ。
何しろ世宗時代の名宰相として王朝の初期を支えた黄喜の血を継ぐ両班の令嬢である美貌にして俊英の侍従は、これから私達夫婦の御会いする御方の懐刀と形容すべき忠臣であり、私と致しましても心許せる顔馴染みの御方で御座いますからね。
そうして黄彩和秘書官の御案内で入室した接見室で、その御方は高貴にして優美な微笑で私達を歓迎して下さったのです。
「御二人とも、この度は御成婚おめでとう御座います。新たに家族が増えるというのは僥倖で御座いますよ。私を『姉』とお呼び下さる方が杉雄さん以外にもいらっしゃる。これ程に喜ばしい事が他に御座いましょうか。」
仕立ての良いチマチョゴリを華麗に着こなすこの御方こそ、私達が此度の新婚旅行で結婚報告を最優先で行うべき最重要人物。
この李杉乃親王妃殿下は李朝の有力皇族であらせられると同時に、西日本の名家である山手公爵家の長女でもあらせられるのです。
そして一連の会話内容からも御分かりかとは存じ上げますが、彼女は私の夫である杉雄さんの実姉にあたる御方なのでした。
李朝の親王殿下御夫妻は、私達夫婦に本当に良くして下さいましたよ。
「外交ルートを経由した親書や祝電などは御送り致しましたが、こうして直接に祝意を御伝え出来るというのは実に喜ばしい限りですよ。何しろ杉乃親王妃殿下の弟君とその奥方ならば、私にとっても可愛い義弟と義妹にあたるのですからね。」
国際ニュースや講演の記録映像の知的で誠実な印象に違わず、李新親王殿下は物腰柔らかで紳士的な好青年で、私達夫婦を実の家族同然に御気遣い下さりました。
李朝においては儒教の価値観が重んじられておりますが、私達夫婦に対する親王殿下の慈悲深さは正しく「史記」の「兄友弟恭」の体現で御座いますよ。
「日本人の山手杉乃だった頃の私には兄と弟は御座いましたが、姉妹は一人も御座いませんで…それ故に姉妹のいらっしゃる御友達を羨ましゅう感じましたのよ。しかし今日こうして可愛い妹が出来ました事は、誠に喜ばしい限りで御座います。しかも義務教育の頃より折に触れて晩餐会や懇親会等で親しくさせて頂いた貴女が私の妹なのですからね。プライベートにおきましては貴女とは親友であると同時に姉と妹の間柄で呼び合いたい物で御座いますが、御迷惑では御座いません事?」
「滅相も御座いません、李杉乃親王妃殿下!親王妃殿下という高貴な御方を姉上と御慕い出来ます事…この生駒英里奈、感慨無量に御座います。」
同じ近畿地方の華族令嬢で世代も近いため、子供時代の私は山手公爵令嬢であらせられた頃の親王妃殿下とは何かと懇意にさせて頂きましたよ。
国際結婚により李朝の皇室入りを果たされたと聞いた時には「もう今まで通りには御会い出来ないでしょうね…」と覚悟はさせて頂きましたが、それも杞憂で御座いましたね。
「私も兄弟姉妹と申せば、双子の妹が一人きりで御座いますからね。その双子の妹の美里亜さんにしても、生まれてすぐに嵐山の分家に養子縁組されたのですが…」
考えてみますと、此度の私と杉雄さんの婚姻は美里亜さんに於いても義理の兄姉が新たに出来る事で御座いますね。
そんな私をハッとさせたのが、今や私の義姉という間柄と相成りました李杉乃親王妃殿下の御言葉だったのです。
「しかしたとえ分家の養女となられましても、英里奈さんの目には可愛い双子の妹君に変わりは御座いませんでしょう?」
「あっ…!」
それは正しく、落雷に撃たれたような衝撃で御座いました。
「私もまた同じ事では御座います。私は李氏に嫁がせて頂き、杉雄さんは生駒伯爵家の婿養子に。どちらも今は山手姓は名乗ってはおりません。しかし私にとっての杉雄さんが可愛い弟である事は何一つ変わってはおりません。たとえ苗字や国籍が変わろうとも、互いを思い合う限りは家族や友人の絆は決して断ち切れる事はない。私はそう信じておりますよ。」
「そして新しい絆もまた然り。生駒伯爵家と山手公爵家の結納により、私達はこんな素晴らしい家族を新たに迎える事が出来たのですから。いかがでしょうか、新しい兄弟姉妹の成立を祝して記念写真などは…」
そうしてカメラが御趣味であるという親王殿下の拘りのアングルで、李杉乃親王妃殿下と私達夫婦の素敵な家族写真が撮影されたのです。
この一枚が私達夫婦の新婚旅行の良き御土産となりました事は、今更申すまでもない事で御座いますね。




