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聖女だけど聖魔法はアンチです! ―元プログラマー、異世界でバグだらけの魔法をデバッグします―  作者: チキントマト
第1章

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デバッグ完了?:世界システムのマスターサーバーへ

「――なるほどね。ようやくこの世界の全体設計ソースコードが繋がったわ」


新しくアップデートされた自由都市アルカディアの拠点で、私は引き抜いたばかりの聖剣デバッグツールの柄を操作していた。

剣先から空中に投影されているのは、半透明の淡いブルーに輝く、この世界の全構造を網羅した巨大なシステムログ(ディレクトリツリー)だ。


「何が分かったの、イルハ? その光る板に、何が映っているの?」


フェリスが淹れてくれたお茶を飲みながら、私の肩越しに画面を覗き込んできた。


「この世界の魔力や物理演算、果ては生き物すべての生死フラグまで、あらゆるデータストリームを中央一括で制御している心臓部――本番環境のマスターサーバーがどこにあるかってことよ。……フェリス、すべての元凶は、私たちが逃げ出してきたあのエルラディン大聖堂の『地下深部』にあるわ」


「大聖堂の地下……? あそこは初代教皇の遺骸が安置されている、生聖不可侵の最深聖域マスターエリアのはずだけど……」


「ただのデータの秘匿処理(カプセル化)よ。教会は、そのマスターサーバーの管理者権限(ルート権限)を独占することで、都合の悪い人間を『異端』としてシステムから抹消(手動デリート)したり、奇跡という名の不正パッチを配布して大衆をコントロールしていたんだわ。仕様書(教典)を書き換えて、自分たちが神の代理人であるかのように装ってね」


私は聖剣の画面をパチンと閉じ、立ち上がった。

身にまとった【虚無の黒】のドレスが、私の覚悟に呼応するように静かに波立つ。


「集中管理型のクソ仕様のせいで、辺境は未実装のまま放置され、バグを報告した聖女は魔女としてデリートされかける。……こんな破綻したシステム、これ以上稼働ランさせておくわけにはいかないわ。元開発者として、今すぐ本番環境へ直接アクセスして、世界システムを完全なオープンソース(分散型アーキテクチャ)にリファクタリングしてやるわ!」


「大聖堂の地下へ逆侵攻カチコミをかけるってことね……。ふふ、いいわよ。元よりこの命、大聖堂を粉砕したあの日にあなたに預けたもの。世界を巻き込む大デバッグ、この近衛騎士フェリスが最後まで護衛タスクガードしてあげる!」


フェリスが錆びた剣をパチンと鞘に収め、最高に不敵で美しい笑みを浮かべた。


決戦の準備は整った。

私たちは自由都市を後にし、聖剣デバッグツールのテレポートコマンドを力技でアクティベート(起動)した。空間の座標データを直接書き換え、光の粒子となって世界を跳躍する。


ズバァァァァァァァァァァンッッ!!!


次の瞬間、私たちはエルラディン大聖堂の地下最深部――幾重もの物理障壁とセキュリティ術式に守られた「禁忌のサーバーベイル」へと、認証をすべてバイパスして直接ポップ(強制侵入)していた。


「――何奴だ! 聖域へ不法侵入するバグめが!」


空間が激しく光り、大聖堂の最高セキュリティ、神聖守護プログラム『アークエンジェル』の巨体が三体、目の前にレンダリングされた。それぞれが数千もの術式をまとった、世界システム最強の防衛オブジェクトだ。


「イルハ、ここは私が食い止める! あなたは奥のサーバーへ!」


フェリスが銀髪を翻し、聖剣を構えて神聖守護プログラムへと突っ込んでいく。

「おっと、私のサポートパッチ(バフ魔法)を忘れないで!」

私はすかさず聖剣のデバッグメニューから、フェリスのステータス領域を直接書き換えた。


(ロジック構築:ターゲット【フェリス】。攻撃力、防御力、移動速度の変数をすべて『9999』へオーバーフロー(限界突破)させろ! パッチ適用……『ゴッド・デバッグモード』!)


「な、何よこれ!? 身体が軽すぎて、一歩踏み込んだだけで床の物理演算が壊れて空間が割れるんだけどォォォォォォッ!!??」


フェリスの超絶怒涛のツッコミと共に、ステータスがバグった彼女の一振りが、アークエンジェルの一体を文字通り「一撃でデータごと霧散ワンパンデリート」させた。物理法則を置き去りにした元近衛騎士が、残りの守護プログラムをものすごい勢いで処理タスクキルしていく。


「頼もしいわね。じゃあ、私は私の仕事をしましょう」


私は広大な地下空間の中央にそびえ立つ、世界システムの本体――淡く発光する巨大な水晶の柱『世界樹の根源マスターサーバー』の前へと歩み出た。

表面には、世界中の人間の生命データが、終わりのないログストリームとして高速で流れ続けている。


私はそのマスターサーバーへと両手を直接触れさせた。

私の持つ十サークルの魔力、そして手に入れた聖剣デバッグツールの全エネルギーを解放し、世界システムの基幹コード(カーネル)へとダイレクトに割り込み(インタラプト)をかける!


「世界システムへ、全開発者権限での緊急修正(パッチ適用)を開始するわ。全エリアの未実装データの強制コンパイル、教会の特権IDの完全剥奪、そして――世界すべての魔力インフラを、全ユーザーへのピア・ツー・ピア(分散型)へと解放リファクタリングせよ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


大聖堂が、いや、大陸全体が、これまでにない巨大な地鳴りを上げて激しく揺れ動いた。

マスターサーバーの水晶の柱が、真っ黒な例外コードから、純粋な透明の「光のコード」へと徐々に書き換えられていく。流れるシステムログが、赤から正常を示すグリーンへと一斉に反転していく。


「イルハ! サーバーの書き換えが完了するわ!」


背後で、すべてのアークエンジェルを物理デリートし終えたフェリスが、息を切らせながら叫んだ。


「ええ……! これで、この世界のクソ仕様はすべて修正デバッグされる! 誰もが自分の意志で、自分のアーキテクチャを構築できる新しい時代の幕開けよ!」


眩い光が地下空間を、そして世界全体を包み込んでいく。

元プログラマーの漆黒の魔女と、彼女を信じ続けた銀髪の騎士。二人の手によって、世界システムはついに「正常終了クリーンアップ」を迎え、新しき世界へとリブート(再起動)を果たすのだった。


――【第1章・完】

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