前を向く
人間なんて信じられない…その考えが変わったのは、あの日の放課後だった。その日は一日中、晴れているのに雨が降るおかしな天気で、私は世界史の授業中、教室の窓から空をボーっと見ていたんだ。
「くるみさん、授業聞いていますか。」
おばちゃん先生の一言で、クラスメイトの視線が私に集まる。どうして授業を受けなきゃダメなんだろ。勉強して良い高校に入ったものの、全く勉強する気になれない。まわりに馴染めず、ひどく孤独を感じる。もう…授業受けたくないな。そう思った時には、すでに授業中の教室から無性に抜け出していた。泣きたくない、こんなことで泣きたくないのに、廊下を走る私の後ろには涙の跡が残る。私はどこに向かっているのか自分でもわからない。
気が付くと、中庭のベンチに座っていた。もう涙と雨の区別がつかなくなっている。中学の復讐をやり遂げた私には、今は何も残っていない。中学の時、好きだったあの男と付き合えたはいいものの、二日三日で別れようと言ってきて、次の日には違う女がいた。問いただしても、あの子の告白を断れなかったとしか言わない。確かにあの女は私よりかわいくて勉強もできる。だから私は…こんなにも頑張って見返してやろうとあの女より賢い高校に入ったのに、この褒めてもらいたさとでもいえるような沸々とした感情を、どこにも解き放つことができない。制服が重たくなっていく。いつまでここにいよう。というよりもう、動きたくないな。
肩をトントンと叩かれた。ふっと我に返り、大きくくしゃみをしたら、鼻水が飛んでいった。
「うおっ。」
放課後の雨の中、私の前にいたのは、体育のはると先生だった。先生は傘をさして、服に付いた鼻水と私の落ち込んだ顔を右往左往していた。私は、何か話さないと、と焦って声を出したが、寒さに震えてうまく話せなかった。先生の、どうしたらいいんだろう、という考えが透けて見える。
「雨、濡れるし…中入ろか。」
先生の、早く行ってほしい、が私に伝わって、それが私を行かせない。コンプライアンス的にも男性の先生は、女性の生徒の手を持つわけにはいかない。だから、私がわざわざ「勇気」という気持ちを無理やり出して、校舎へ向かわなければならない。濡れた制服は鉛のように重く、冷えた体は岩のように動かない。私は地面に目を向けて、水たまりにポツンと落ちる水滴を眺める。ふと、体が動かされた。私の手を強く握るはると先生の手は、大きくてごつごつとしていて、厚かった。引っ張られるがままにおぼつかない足を一歩一歩と踏み出す。えっ、とか、あっ、とか言葉にならない声が出る。先生は振り返らず、早歩きで私を引っ張る。強く握られた手に、温かみを感じる。進まなきゃ、耐えなきゃ。ある意味諦めた私は、少し気が楽になって、先生の手を握り返した。先生は、一瞬私の方へと振り返った。その時にはもう、私は先生を追い越していた。先生は手を放して、私を自由にした。私は背中に羽が生えたように、軽快なステップで前へ前へと進んでいた。
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