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第4話「腐敗した街と、悪意の取引」

前回のあらすじ:初配信でスラムのボスを倒したアレンたち。手に入れた魔石を換金するため、街のギルドへと向かうが……

 ドブネズミと汚泥の臭いが充満する「魔導スラム街」。

 俺たちは、路地裏にある『冒険者ギルド・第13支部』の重い鉄扉を押し開けた。

 中は紫煙が立ち込め、昼間から酒を飲んだ荒くれ者たちの怒号が飛び交っている。


「……趣味の悪い場所ね」


 セレニアが扇子で口元を覆い、眉をひそめる。その優雅な所作と喪服ドレスは、この掃き溜めのような場所で浮きまくっていた。

 周囲の視線が一斉に突き刺さる。値踏みするような、粘着質な視線だ。


「おい見ろよ、上玉だぜ」

「ありゃ貴族か? なんでこんなゴミ捨て場に」


 俺はルガを抱き直し、早足でカウンターへ向かった。

 対応に出てきたのは、脂ぎった禿頭の男だった。ギルドマスターのゴズだ。金色のネックレスをジャラジャラとつけ、葉巻をふかしている。


「へえ、スラムの地下水道を掃除してきたって? で、換金したいのはこの泥まみれの魔石か」


 ゴズは俺が出した魔石を手に取り、鼻で笑った。


「シケた石だな。全部で銀貨3枚ってとこだ」

「は? 相場の十分の一以下だろ。ふざけるな」


 俺が抗議すると、ゴズはカウンターをバンと叩いた。


「嫌ならよそへ行きな。ま、この街で俺に逆らって商売できる場所なんてねえがな」


 完全に足元を見られている。俺が拳を握りしめた時、ゴズの視線が俺の背後――セレニアとルガに移った瞬間、その目が欲望でギラリと光った。


「……おい、待ちな。いい取引を思いついたぞ」


 ゴズが下卑た笑みを浮かべ、カウンターから身を乗り出す。


挿絵(By みてみん)


「その女と、銀色の犬。そいつらを俺に置いていけ。そうすりゃ、この魔石を金貨10枚で買い取ってやる」

「……なんだと?」

「へへっ、その女はいい店で働けそうだ。犬の方は……珍しい毛並みだな。皮を剥げば高く売れそうだ」


 ブチッ。


 俺の中で、理性の弦が切れる音がした。

 皮を剥ぐ。まただ。こいつらも、あの勇者と同じだ。命を金としか見ていない。


「……断る。行くぞ、セレニア」

「あ? 逃がすと思ってんのか?」


 ゴズが指を鳴らすと、酒場にいた荒くれ者たちが一斉に立ち上がり、出口を塞いだ。


「ここじゃ俺がルールだ。女と犬を置いて失せろ、この雑魚が!」


 四面楚歌。暴力で来られたら、レベルの低い今の俺たちに勝ち目はないかもしれない。

 セレニアの手がわずかに動く。魔法で強行突破する気だ。でも、そんなことをすれば彼女が指名手配されてしまう。


 (落ち着け。考えろ、アレン。お前の武器は何だ?)


 俺は青いウィンドウを開いた。配信はまだ続いている。視聴者は『150人』。

 俺はゴズを睨みつけ、心の中でスキルを唱えた。


 『解析』!!


 普段は魔物に使うスキル。だが、対象は「人間」でもいけるはずだ。

 脳内に情報が走る。


 【名前:ゴズ】

 【職業:スラムギルド支部長】

 【状態:慢心、飲酒】

 【所持アイテム:裏帳簿(カウンター下の金庫)、違法奴隷のリスト……】


 ――ビンゴだ。


 こいつの悪事は、ただのぼったくりじゃない。


「おい、聞いてるのか小僧!」


 ゴズが俺の胸倉を掴もうと手を伸ばした、その時。


「なあ、アンタ。裏帳簿の3ページ目。『勇者パーティへの上納金』って何だ?」


 俺の言葉に、ゴズの動きがピタリと止まった。


「……あ?」

「それから、先週の『亜人孤児の行方不明事件』。アンタが隣町の闇市場に売り飛ばした記録が、そこ(カウンター下)にあるよな?」


 俺は虚空のウィンドウを指差し、配信画面にゴズのステータス画面の一部――【犯罪歴】と【裏帳簿データ】をミラーリング表示させた。


【コメント欄】

:は? 人身売買?

:うわ、ガチの犯罪者じゃん

:勇者パーティへ上納金ってマ?

:これヤバい情報だろ

:通報しました

:拡散希望


 コメント欄が一気に加速する。

 ゴズの顔から血の気が引いていく。「て、てめぇ……! 何だその画面は! デタラメを言うな!」

「デタラメかどうか、騎士団にその金庫を開けさせてみればいい。全国に配信されてるぞ、今のアンタの顔」


 俺は配信カメラ(空飛ぶ小さな光球)をゴズの目の前に突きつけた。


「現在、視聴者200人突破。増え続けてる。アンタの悪事はもう、この街だけの秘密じゃない」

「き、貴様ァァァ!! 殺せ! こいつらを今すぐ殺せ!!」


 ゴズが錯乱して叫ぶ。

 冒険者たちが襲いかかろうとした瞬間――。


「下がりなさい、下郎ども」


 冷徹な声と共に、酒場の温度が氷点下まで下がった。

 セレニアだ。彼女の周囲に、漆黒の魔力が渦巻いている。


「私の契約者に指一本でも触れてみなさい。この建物ごと、氷像に変えてあげるわ」


 彼女の背後に、巨大な氷の槍が無数に出現し、ゴズと冒険者たちの喉元に突きつけられた。


挿絵(By みてみん)


「ひ、ひぃぃッ!?」


 圧倒的な格の違い。本物の「悪役令嬢」の殺気に、ゴズは腰を抜かして失禁した。

 同時に、ギルドの扉が蹴破られる。


「王都騎士団だ! 闇ギルド摘発の通報があった!」


 視聴者の誰かが、本当に通報してくれたらしい。

 騎士たちが雪崩れ込み、動けないゴズを取り押さえる。


「連れて行け!」

「ち、違う! 俺は勇者の知り合いで……!」


 喚き散らすゴズを見下ろし、俺はポツリと言った。


「勇者なら助けてくれないよ。あいつは『名声』が全てだ。犯罪者のアンタとなんて、関わるはずがない」


 ゴズが連行されていく。

 静まり返ったギルドの中で、俺は深く息を吐いた。


【コメント欄】

:ざまぁwwww

:逮捕RTA成功

:この配信者、何者? 情報戦強すぎない?

:スカッとしたわ

:スパチャ投げとく ¥1,000

:チャンネル登録しました


 チャリン、と音がして、俺の懐に魔力の光(換金されたスパチャ)が入ってくる。

 魔石を売るより、よっぽど稼げたかもしれない。


「ふふ、なかなかやるじゃない。元社畜さん」


 セレニアが楽しげに微笑む。


「情報社会を舐めるなよ。……さあ、行こう。次の駅が待ってる」


 俺たちは騒然とするギルドを後にした。

 少しだけ、胸のつかえが取れた気がした。

 でも、これはまだ序の口だ。本当の敵は、もっと高く、輝かしい場所にいるのだから。


次回予告

スラム街を離れ、次元列車は次なる階層へ。

辿り着いたのは、住民全員が不眠不休で働き続ける「第2階層・無限工場都市」。

そこは、かつての俺のような「社畜」たちが、死ぬことすら許されずに酷使される地獄だった。

強制労働を強いられる人々を見て、アレンのトラウマと怒りが爆発する!

アレン「ふざけるな……! 休む権利は、誰にだってあるんだよ!」


次回、第5話「死なない労働者たちと、社畜の反乱」。


――定時退社(システム崩壊)のベルを鳴らしてやる。

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