第3話「スラム街の暴走と、解析チートの目覚め」
前回のあらすじ:母を殺されたアレンは、謎の美女セレニアと契約し、最強の次元列車を手に入れた。復讐の資金(魔力)を稼ぐため、二人は配信者となる道を選ぶ。
轟音と共に、アビス・ライナーは雲海を突き抜け、第1階層へと降下していく。
眼下に広がったのは、錆と油煙にまみれた巨大なスラム街だった。
「ここが、始発駅……」
セレニアが説明する。「ええ。魔導産業の廃棄物が集まる最下層の街。治安は最悪だけど、ダンジョンの入り口があるわ」
巨大な車体が、軋みを上げて駅のホームに滑り込む。周囲の薄汚れた建物が、列車の風圧で揺れた。ホームにいた柄の悪い連中が、口を開けて見上げている。そりゃそうだ。こんな規格外の怪物が降りてきたのだから。
「さあ、行きましょう。配信は付けっ放しよ」
セレニアが優雅にタラップを降りる。喪服のようなドレスが、スラムの埃っぽい空気の中で異様な存在感を放っていた。俺もルガを抱えて後に続く。
俺たちの前には、青半透明の配信ウィンドウが浮かんでいる。視聴者数は……『32人』。さっきより少し増えた。
【コメント欄】
:うわ、なんだこの列車デカすぎ
:スラム街に似合わねえ美女だな
:あの男は何? 荷物持ち?
:犬かわいい
:タイトル『復讐』って釣りかよ。ただの観光配信じゃん
コメントは辛辣だ。俺の見た目(ボロボロの革鎧)とレベル1のステータスが、完全に「寄生」に見えているのだろう。
「気にすることはないわ。彼らはまだ、あなたの価値を知らないだけ」
セレニアは意に介さず、街の奥にあるダンジョンゲートへと進んでいく。
ダンジョンの入り口は、崩れかけたマンホールの先にあった。「廃棄地下水道」。推奨レベルは3~5。レベル1の俺にはこれでも命懸けだ。
中に入ると、腐臭と湿気が鼻をつく。
「キシャァッ!」
早速、猫くらいの大きさがあるドブネズミの魔物が飛び出してきた。
「うわっ!?」
俺は腰のナイフを抜くが、体がすくんで動けない。社畜時代に培ったのは忍耐力だけで、戦闘経験なんてゼロだ。
「『黒雷』」
セレニアが指先を向けると、漆黒の雷撃が走り、ネズミを一瞬で炭に変えた。
「がるるっ!」
別の方向から来たスライムには、ルガが飛びかかり、その核を噛み砕く。強い。まだ子供なのに、さすがフェンリルの血筋だ。
【コメント欄】
:お姉さん強ええええ!
:魔法エフェクトかっこよ
:犬もやるじゃん
:男(笑)
:ナイフ構えてビビってるだけじゃねーかw
:寄生乙
コメントが俺を嘲笑う。悔しいが、事実だ。俺はただ守られているだけ。
「焦らないで。あなたの役目は、戦うことじゃないわ」
セレニアが俺の肩に手を置く。「よく見て。『解析』を使いなさい」
最深部の広場に出た。そこには、汚泥と廃棄物が固まってできた巨大な人型――「ジャイアント・スラッジ・ゴーレム」が待ち構えていた。
「グオォォォォン!」
ゴーレムが腕を振り回す。その一撃は壁を砕く威力だ。
セレニアが『黒炎弾』を放つが、泥の体はすぐに再生してしまう。ルガの牙も、柔らかい体に埋まるだけでダメージが通らない。
「物理も魔法も効きにくいわね。面倒な……」
セレニアが眉をひそめる。ジリ貧だ。このままでは全滅する。
(俺が……俺が何とかしないと!)
俺は恐怖を押し殺し、ゴーレムを凝視した。
「『解析』!!」
スキルを発動する。頭が焼き切れそうなほどの情報が脳内に流れ込んでくる。
【種族:スラッジ・ゴーレム(変異種)】
【レベル:8】
【特性:物理耐性(中)、魔法耐性(小)、自己再生】
【弱点:魔力核(胸部の奥、廃棄物に隠れている赤い球体)】
見えた!
ただ漠然と見ていた時には気づかなかった、泥の中に埋もれた微かな赤い光が、今ははっきりと認識できる。
「セレニア! ルガ! 胸だ! 胸の奥に赤い核がある! そこを狙ってくれ!」
俺の叫びに、二人が即座に反応する。
「了解よ! ルガ、私が足止めするわ。核をやりなさい!」
セレニアが広範囲の氷魔法でゴーレムの足を凍らせる。動きが鈍った一瞬の隙。
「がるっ!」
ルガが壁を蹴って高く跳躍し、俺が指し示した胸のポイントへ、回転しながら突っ込んだ。
バキィン!!
硬質な音が響き、ゴーレムの動きが止まる。次の瞬間、その巨体がドロドロと崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ……やった、か?」
俺はその場にへたり込んだ。泥水が跳ねて顔も服もぐちゃぐちゃだ。ルガが尻尾を振って駆け寄ってきて、俺の顔を舐める。
「よくやったな、ルガ」
「ナイス指揮だったわ、司令塔さん」
セレニアが微笑み、ハンカチを差し出してくれた。
ふと、配信ウィンドウを見る。視聴者数は『85人』になっていた。
【コメント欄】
:おお、倒した!
:今の指示、的確すぎだろ
:あの核、全然見えなかったぞ。どうやって分かった?
:もしかして『解析』って、ガチで使えるスキルなのか?
:男、ただの荷物持ちじゃなかったのか
:泥だらけでワロタ。でもまあ、頑張ったな
:犬が可愛くて強かったから登録した
流れるコメントの雰囲気が、少しだけ変わった。嘲笑一色だったのが、驚きや評価の声が混じり始めたのだ。
「見たでしょ? 力任せに暴れるだけが攻略じゃないわ」
セレニアが満足げに言う。
俺は握り拳を見つめた。レベル1の、最弱の力。だけど、使い方次第で戦える。
(これなら……いけるかもしれない)
復讐への道が、わずかに開けた気がした。
アビス・ライナーに戻ると、獲得した魔力(スパチャと視聴ポイント)で、ボイラーの火が少しだけ強く燃え上がった気がした。
次回予告
スラム街のボスを撃破し、配信者としての第一歩を踏み出したアレンたち。
しかし、手に入れた報酬(魔石)を換金しようと訪れたギルドで、彼らはトラブルに巻き込まれる。
スラム街を牛耳る悪徳ギルドマスターが、セレニアの美貌とルガの珍しさに目をつけたのだ。
「その女と犬を置いていけ。そうすれば見逃してやる」
次回、第4話「腐敗した街と、悪意の取引」。
――ナメられたままじゃ終われない。アレンの『解析』が、悪党の弱みを暴き出す!




