異世界帰りと異世界来訪者とウィンナー様
異世界召喚から帰ってきた俺には、財宝もスキルも残らなかった。
いや、唯一。変なものを見る目だけが残った。役に立たないし、地縛霊は見えるし。
いらないスキル。
命をかけるドキドキもなく、消し炭みたいな人生を送っている。
とはいえ、生きていくには飯を食う必要がある。日払いバイトで、食いつなぐ日々だ。
共同の風呂とトイレ、共同のキッチン。四畳半の古い下宿を、格安で借りている。
歩くたびに軋む廊下だが、他に住人もいないようなので、それなりに快適。
贅沢をしなければ、それなりに生きていける。
さて、今日は安いウインナーとカブの浅漬けでいいか。さあ、飯にしよう。
いつも通り、共同キッチンに向かおうとした、その時。
押し入れが、突然光り出す。
光が収まると、金髪ロングに赤い目の少女が俺を睨んでいた。
ロシア系か?いや
異世界人。だが、知らないやつだな。
胸には、竜の紋章が付いたローブ。
「探したぞ! ユウキ!」
……赤い目の仲間も敵も、向こうではいなかったがな。
「どちら様?」
「あー、この格好ではわからんか」
少女はきょとんとしていたが、不意に、殺気が漏れる。
こっちの世界に持って来れた唯一のスキル。見てはいけないものを見てしまう目が、オーラを捉える。
見た目に反して、相当強いな。
「気づいたか、勇者ユウキ! お前だけは許し難い!
イリーナ・アッシュレイの名を冥土の土産に刻むが良い」
いや、わかりませんけどね。イリーナちゃん。
名前聞いても思い出せないんですけど。
だが、戦いになればなすすべはない。装備もスキルも、今の俺には何もない。
ただ、見えるだけだ。
ぐぐぐー。
……なんか、変な音がした。
イリーナが赤い顔をしている。
こいつの腹の虫か。
「貴様! そうだ、あの時も――」
「なんだかわからんが、ともかく腹が減ってるんだな」
まだ何か言いたそうだが、話を逸らせそうだ。
……米が少し足りなくなるな。その分、おかずを足すか。炒めれば、多少はマシになるだろう。
ウインナーは一本を、五等分。三本使うか。
量は変わらないが、いっぱい入っているようには見える。
それを、たっぷりの油で炒める。誰かが言った。「油もおかずである」と。
ウインナーに焦げ目がついたら、冷や飯を投入。軽く炒めて、馴染ませる。
「おい! お前、何をしている!」
「あー、すぐできるから。こたつに座ってろ。そこの低いテーブル。足入れたら温まるから」
俺が忙しそうにしていると、すごすごと部屋に戻った。
その後も、「なんだこれは! サラマンダーが入っているのか!」などと、いちいちうるさい。
いい具合にほぐれた米に、ソースを回しかけて再び混ぜる。皿に盛る。
普段なら、米を炒めながら真ん中に窪みを作って焼くが、今日は二人分だ。
フライパンに油を多めに入れ、卵を揚げ焼きにする。
ウインナーソースライス。目玉焼きのせ。カブの漬物も添えてやろう。
ワンプレートといえばかっこいいが、まぁ男飯だ。
『ウィンナーソースライスON半熟目玉焼き』
さて、持っていってやるか。
「これすごいな。あったかい空間が中にあって。背もたれもふかふかだ」
すごいくつろいでる。
まぁ殺気出されるよりいいけどな。
「ほれできたぞ。味が足りなければ、追加でソースな」
イリーナの目の前に皿とソースを置く。
スプーン忘れたな。
カレー用のスプーン1本しかないんだよな。
俺はレンゲで食うか。
スプーンとついでに、麦茶も注いで戻ると。
イリーナはソース瓶の匂いを嗅いで首を傾げてた。
「……香辛料だけじゃないわね」
「まあな」
「甘い。果実?」
「詳しくないけど、果物と野菜やら色々入ってるな」
ソースに果物が使われていると知った瞬間、表情がわずかに変わった。
「保存食に、甘味を混ぜるの?」
「食べればわかる」
「信じがたいわね。こっちは?」
切れたウィンナーをスプーンですくって見つめている。
「向こうにもあったろ、腸詰だ」
ウインナーを一口。
「……」
次の一口は、ゆっくりだった。
確かめるようによく噛んでる。
「ただの保存肉じゃない」
「だろ」
塩辛い粗悪肉ではない。
そしてソースが加わるとまた別物。
香辛料で輪郭を作り、フルーツの甘味で奥行きを出している。
「肉が……生きている」
大げさだが、否定はできなかった。
異世界の燻製肉は、保存のためのものだった。これは違う。
食を楽しむ保存食だ。
あえて言おう。ウィンナー様である。
なおシャウエッセン様は特売じゃないと降臨されない。
「こっちの人間は、ずいぶん贅沢なことを考えるのね」
そう言いながら、皿ごと引き寄せた。
腹の虫は、もう文句を言わなかった。
スプーンが止まる。
「貴様、私を殺すきだな」
「バクバク食って何言ってんだお前」
「卵が完全に固まっていない。私のお腹を壊して、辱めをする気だな」
「辱めねーよ」
「あと、あっちの世界と違ってこっちの卵は生でも食える」
「卵を生で。完全体なら大好物だが、この体で一度ひどい目に遭ってるのよね」
よくわからんことをブツブツ言ってるな。
まぁ俺も異世界で初めての食べ物は躊躇したしな。
オークとか二足歩行は気が向かなかった。
食ったら美味い豚だったけど。
ゴブリンは無理だったな。
しょうがない。手本を見せるか。
「目玉焼きって言ってな。まぁこの黄色いのに火を通しても美味いんだが」
俺はレンゲで黄身を突き破る。
ソースがかかった米に黄身が染み込む。
白身の固まったところも米と一緒にすくい上げて、バクリ。
「うん。美味い」
俺が何度も何度も口に運ぶので、イリーナも恐る恐る真似をする。
そして、口に入れた瞬間。笑みが漏れる。
「悪くない。悪くないぞ」
こうして、イリーナは飯を平らげた。
カブの漬物も食べたなえらい。
「竜王イリーナが命ずる!おかわり!」
ねーよ。
あと竜王!?




