安直な決意
(゜Д゜)ウボァー
それから1時間ほど進み再び森に入る。
遺跡周辺の森ほど鬱蒼とした森ではないが、人の手の入らない原生林だ。
木々の間から木漏れ日が差し込み、森に住む生き物たちの息吹を感じさせる。
生前、まともに森に踏み入ったことのないジンにとって目新しく感じる。
決して、大きく元の世界と変わることのない森の雰囲気にあたりを見渡すと一本の角が生えた兎が顔を覗かせ、こちらに驚いて逃げ去る。
エペ・トラジェクトの面々には至極、当たり前の事であり見向きもしないが、その環境の動き一つ一つに自分は異なる世界に来たのだと感じる。
休憩をへて、先程より歩きやすい森を進み少し余裕がでたジンは元の世界での記憶に想いをはせる。
仲の良かった学友、告白できなかった想い人、そして両親。
朝起きて、学校へ向かい、友達と馬鹿騒ぎし、帰って両親と共に過ごす、そんな当たり前で退屈だったが決して嫌ではなかった日常が自分には二度と戻らない。
平和で退屈な日常が変わり、一介の高校生でしかなかったジンに多くの困難が訪れることとなる。
そんな、戻らない過去への寂しさと先行きの見えないの不安に襲われる。
足音と森のせせらぎ、鳥の鳴き声、遠くから聞こえる動物達の嘶き、その聞こえるすべてがジンの心を鬱屈とさせる。
異世界転移、それは憧れた程に楽観的に考えられる状況ではない。
自分事となった途端に、転移直後の高揚感などまるで消えてなくなったかのように重く、重く不安となってのしかかる。
2時間程、進んだだろうか。向かう先に木々が減り、更に先からは太陽の光が眩しく差し込む。
「そろそろ、森を抜ける。ジン、よく頑張ったな」
ジュールが優しく声をかける。
そして、森を抜ける。
湖畔、辺りには幻想的な光景が広がる。
周囲を森に囲まれ大きな湖がそこにあった。水は澄み、太陽の光が反射し宝石のように水面が煌めく。
透明な角を持った鹿が遠くで湖の水を飲み、鳥たちが水浴びをしている。
この世界では、決して珍しくない光景なのだろう。
普段、雑然と並んだ都会で暮らしていたジンには、そのすべてが輝いて見えた。
「ジンさん?」
呆然と立ち尽くすジンにゾエが声をかけるが、ジンは聞こえていない。
先程までの鬱屈とした心境が、目に映る光景によってすべてが吹き飛んだ。
「手分けして野営の準備をしよう、俺とルネは狩りに行ってくる。ゾエとドニは薪を頼む。クロエは、ジンを頼む」
「わかったわ、なにか食べれるものがあれば一緒に探してくるわ、クロエちゃん、ジンさんをお願いね」
「…」
クロエは答えなかったが、小さく頷いた。
そうして、4人は準備のため各々行動を開始した。
そんなやり取りも耳に入らないジンは、ただただ湖畔を眺める。
どのぐらい経っただろうか。
ふと、クロエが自分の隣にいることに気づく、同じく湖畔を見つめている。決して近くはないが、そこに自分はいると感じれる場所に立っていた。
そして、自分が泣いていることに気づく。
クロエはジンが泣いていることに気づきそこに居てくれたのだろう。
このパーティの人たちは優しい。
これは、何にも代えがたいほど自身に訪れた幸運なのだろう。
「俺、この世界に身の着のままやってきて不安でした」
「…」
「聖人だ、この国では国賓待遇だと言われ、ある程度の安心安全は保証されているのでしょうけど、恐らく元いた場所へは帰れない、知っている人や家族、両親とも一生会えないでしょうし、俺は戦ったことやおろか、こうして森を歩き回ったことだってない」
「…」
「俺は、なんにもできないんです。これまでは周りにすべてあって用意されていたし、安全だって」
「…」
クロエは何も答えない。
「だからこそ、ありがとうございます」
「?」
クロエはジンの方に目を向ける
「ここに来るまで、エペ・トラジェクトのみんなが俺を気遣ってくれたこと、危険がないように常に警戒してくれて居ましたよね」
「…そうね」
「この世界に来て、始めに出会えたのが、みんなでよかった」
「大怪我させられたのに?」
「…それは…災難でしたけど…それでも。」
「変わってるのね」
「そうですか?」
「股間を燃やされて怒らないうえ、平然としてるし」
「怒りよりも、今の状況に対しての困惑のほうが大きかったから」
「フフフ…」
クロエが薄く笑う
幻想的な湖畔で笑う彼女はとても美しかった。
ジンの心臓は途端に鼓動を早める。
恐らく、一目惚れだろう。
顔に熱を帯び、目を合わせて居られず背ける。
このままでは、ダメだ。この世界で生き延びる為に強くなろう。
自分だけではなく、彼女を守れるぐらいに。
単純だろうと理由なんてそれで良い。
「あの!魔法を教えて貰えませんか?」
「え?」
目を合わせずクロエに懇願する。
自分でも失礼だとわかっている。でも、今は目を合わせられない。
クロエの視線が自分に向いているのがわかる。
恥ずかしい、変な顔していないだろうか、赤面しているのが嫌でもわかるぐらい顔が熱い。
「強くなりたいんです。エペ・トラジェクトのみんなに、ずっとおんぶに抱っこじゃ嫌ですし」
「いいわよ、あなたに罪滅ぼしができるいい機会だわ。」
「罪滅ぼしだなんて…もう謝って貰ったじゃなないですか」
「ダメよ、あたしはあなたを殺しかけた。罪人でもなく善良な人を。なんの贖罪もなく許されていいわけがないの」
「わかりました。じゃあ、よろしくお願いします」
「クロエ」
「え?」
急に話題が変わったと思い驚き、クロエに目を向ける
「クロエって呼びなさい。あたしもジンって呼ぶから。それと、あんた自分で普段通りに接しろって言っておいて、よそよそしいのよ!」
「はい…」
「今から、ジンは私の弟子だから!いい?」
「はい!よろしくお願いします!」
「だから!よそよそしいの!」
「よろしく、クロエ」
「えぇ、こちらこそよろしく」
クロエはそう言って右手を差し出す。
現代において握手なんてする機会ないから、たじろんでしまう。
「ほら!」
クロエが握手を促す。
ええい!ままよ!
クロエの手を握り握手を交わす。
おぉ…小さい手だな、柔らかい…
「お二人さん、お熱いね〜」
そこには狩りから戻ったルネの姿があった。
「もう戻ったの?ジュールは?」
「あっちでホーンラビットの血抜きしてるよ〜なになに?いつの間に仲良くなったの〜??」
ルネが茶化すように聞いてくる。
「ジンが強くなりたいんだって。だから、あたしが魔法を教えることにしたの」
「へぇ〜そんな話の割には、ジン顔真っ赤だけど〜」
「あぁ、里心に駆られてメソメソしてたから恥ずかしいんじゃない?」
「!!!」
クロエがニヤニヤしながらジンを茶化す。
「まぁ、ジン。その気持もわかるが〜女の子の前で泣くのはなぁ〜」
ルネもニヤニヤしながらジンを茶化す。
あぁ…死にたい…
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