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仮初めの皇帝、偽りの騎士。  作者: 津森太壱。
【PLUS EXTRA.Ⅰ】
89/170

Plus Extra : 世界の始まりを見た。

ツァイン視点、昔の話です。





 世界の始まりを見た。

 白と黒、二色しかなかった世界が、鮮やかに彩られる瞬間を見た。


『……父上、この子』

『ツェイルだ。おまえの妹だよ』


 世界に彩りを与えてくれたのは、小さな命。

 空の青。

 森の緑。

 山の赤。

 大地の茶。

 川辺の銀。

 麦の金。

 太陽の橙。

 闇の紺。

 多くの色に驚いた。

 その美しさに魅入られた。


 世界はこんなにも美しかったのか。


『父上……』

『うん?』

『世界が……綺麗だ』


 美しさのなんたるかなど、語る必要はない。ただ、目の前の鮮やかさに、捕らわれた。


『ツァイン、おまえ……』

『知らなかった……こんなに、綺麗だったなんて』


 身体が震えた。

 心が震えた。

 その美しさに、慄いた。


 これが世界なのだと、それを教えてくれた小さな命に、胸が熱くなった。


『……ツェイル』


 小さな命に感動を覚えた。


 これがきみの世界。

 これがきみの生きる世界。

 これが、さまざまなものに彩られた、きみの世界。


 腕に、小さな命を抱く。

 白くて、柔らかで、暖かい、そのふっくらとした頬に、はたはたと雫が落ちた。


『ツェイル……ツェイル』


 胸が苦しい。

 目頭が熱い。

 身体が悲鳴を上げている。

 身に溢れるこの感覚が、叫びたいほど苦しくてたまらないのに、満たされていく感覚に支配された。


 かくん、と足の力が抜ける。


『ああ……ツェイル』


 天を仰ぐ。

 空を漂う雲の白さに、それまで自分が見てきたものすべてを疑った。


『きみの世界は、なんて、綺麗なんだろう……っ』


 これがきみの生きる世界なのか。

 これが、きみが生きていく世界なのか。

 この鮮やかで美しい世界が、きみのいる世界なのか。


『こんな、綺麗な世界……僕は知らない』


 これが、きみが見せてくれる世界。

 きみが見ている世界。

 色鮮やかで、艶やかで、眩しい世界。


 だからもっと。

 もっと。


『僕は知らない。なにも、知らない、から……っ』


 もっと。


『きみの、世界に……僕を……っ』


 もっと。


『僕を……っ』


 きみの世界に染めて。

 きみの世界に、僕は染まりたい。


『ツェイル……ツェイル……ツェイル……っ』


 きみが僕の、世界の始まり。

 世界へのいとしさを、感じた始まり。







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