Plus Extra : 世界の始まりを見た。
ツァイン視点、昔の話です。
世界の始まりを見た。
白と黒、二色しかなかった世界が、鮮やかに彩られる瞬間を見た。
『……父上、この子』
『ツェイルだ。おまえの妹だよ』
世界に彩りを与えてくれたのは、小さな命。
空の青。
森の緑。
山の赤。
大地の茶。
川辺の銀。
麦の金。
太陽の橙。
闇の紺。
多くの色に驚いた。
その美しさに魅入られた。
世界はこんなにも美しかったのか。
『父上……』
『うん?』
『世界が……綺麗だ』
美しさのなんたるかなど、語る必要はない。ただ、目の前の鮮やかさに、捕らわれた。
『ツァイン、おまえ……』
『知らなかった……こんなに、綺麗だったなんて』
身体が震えた。
心が震えた。
その美しさに、慄いた。
これが世界なのだと、それを教えてくれた小さな命に、胸が熱くなった。
『……ツェイル』
小さな命に感動を覚えた。
これがきみの世界。
これがきみの生きる世界。
これが、さまざまなものに彩られた、きみの世界。
腕に、小さな命を抱く。
白くて、柔らかで、暖かい、そのふっくらとした頬に、はたはたと雫が落ちた。
『ツェイル……ツェイル』
胸が苦しい。
目頭が熱い。
身体が悲鳴を上げている。
身に溢れるこの感覚が、叫びたいほど苦しくてたまらないのに、満たされていく感覚に支配された。
かくん、と足の力が抜ける。
『ああ……ツェイル』
天を仰ぐ。
空を漂う雲の白さに、それまで自分が見てきたものすべてを疑った。
『きみの世界は、なんて、綺麗なんだろう……っ』
これがきみの生きる世界なのか。
これが、きみが生きていく世界なのか。
この鮮やかで美しい世界が、きみのいる世界なのか。
『こんな、綺麗な世界……僕は知らない』
これが、きみが見せてくれる世界。
きみが見ている世界。
色鮮やかで、艶やかで、眩しい世界。
だからもっと。
もっと。
『僕は知らない。なにも、知らない、から……っ』
もっと。
『きみの、世界に……僕を……っ』
もっと。
『僕を……っ』
きみの世界に染めて。
きみの世界に、僕は染まりたい。
『ツェイル……ツェイル……ツェイル……っ』
きみが僕の、世界の始まり。
世界へのいとしさを、感じた始まり。