Plus Extra : 憩いの精霊。
精霊たちの視点でお送りします。
Plus Extra『国を継ぐ者。4』の直後あたりの話です。
こんなことがありました、的です。
ヴィーダヒーデは目下、メルエイラの人たちを観察するのが趣味である。愛でるのは趣味ではなく、当然のことだ。
だから観察する。
好きだから、愛しているから、メルエイラの人たちを見守るのである。
それは半身、ヴィーダガルデアも同じだ。なにせヴィーダヒーデと双子の精霊なのだ。考えることも思うことも、見るものも感じるものも、ほとんど同じだった。
「男は却下」
「雌雄はないわよ。見た目はこうだけれど」
「いやだ、近寄るな」
いつも笑っていて、しかもその笑みは極上のものであるのに、今はそれがものすごくひどいことになっているあるじに、ヴィーダヒーデはため息をつく。
ヴィーダヒーデが今代においてあるじにしたメルエイラの人間、ツァインは、ヴィーダヒーデの半身を全力で嫌う青年である。
「そんなに拒絶しなくても……」
「近寄るなと言っているだろ、ガルデア!」
ものすごい拒絶に、ヴィーダヒーデと同じようにメルエイラが大好きなヴィーダガルデアは、可哀想なくらい落ち込む。落ち込み過ぎで部屋の隅で丸くなり始めた。
「かっこ悪いわ、ガルデア」
言ってみるが、効果はない。
ツァインの言葉はいつだって絶大だ。
「……ツェイルのところに帰りたい」
ころん、と転がる始末である。
「おとなしくしていろ、ガルデア。おまえは、ツェイルの子を殺そうとしたんだ。許されると思うなよ」
「……ツェイルを護るためだ」
「ほかにも選択はあったはずだ」
ツァインの目が、厳しくヴィーダガルデアを見つめる。奥底からの憎しみが感じない分、ひどく優しさを感じてしまうのは、おそらくこの男とずっと一緒にいる自分だけだろうと、ヴィーダヒーデは目を伏せた。
「ツァイン」
「なにかな、ヒーデ」
「口先ばかりね」
「なんのことだい」
「……愛しているわ、ツァイン。ありがとう」
許してくれて。
不器用な半身を、憎まずにいてくれて。
「……僕は怒っている」
「ええ、そうね」
それでも、本気で怒っているようには見えない。周りからすれば怒っているようにみえるのだろうが、ヴィーダヒーデはそう感じない。
「これからもツェイルを護らせてくれるかしら」
「……僕の役目だ」
「そうよ。だから、ね」
「僕はしばらく怒っている。勝手なことはするな。どちらもおとなしくしていろ」
「わかっているわ」
にこ、と微笑めば、不機嫌そうなツァインから、その表情が消える。くるりと背を向けると、部屋を出て行った。
「よかったわね、ガルデア。ツァインは許してくれるそうよ」
部屋の隅に転がったままのヴィーダガルデアのそばに膝をつくと、ヴィーダヒーデは腕を伸ばしてその身を引き寄せる。膝に抱くと、そこに顔を埋めてしがみついてきた。
「怒らせた」
「あなたが悪いからよ」
「ツェイルを護りたかっただけだ」
「手段が強引だったわ。当然のことよ。反省なさい」
「……ヒーデ」
ぎゅっと、その腕の力が増した。肩が震えている。
「……泣くくらいなら、最初からテューリの言葉を聞いていたらよかったでしょう」
泣き虫で、弱くて、臆病者の半身は、それらからかけ離れた外見をしているせいか、誤解を受け易い。
ヴィーダガルデアは、本当はなによりも、メルエイラの子どもたちが好きだ。好き過ぎて、ヴィーダヒーデにその感情を伝播させ、巻き込んで永遠を誓わせるくらいには、どうしようもないほどの愛だ。
「……かっこ悪いわね、ガルデア」
ふっと笑って、愛に盲目的な半身を、ただゆっくりと撫で続けた。
* *
寄り添う双精霊を、マチカはじっと見ていた。
「ねえ、ルーフェ」
「なぁに、マチカちゃん」
「マチカにもあれやって?」
「いいわよ。いらっしゃい」
マチカはのんびりと微笑むルーフェが好きだ。だから、双精霊と同じように、床に座ったルーフェに抱きつき、膝に抱いてもらう。
「ねえ、ルーフェ」
「なぁに」
「ラクウィーは姫の妹が好きなの?」
「そうねぇ」
「マチカたちより好きかな」
「さあ、どうかしら」
「ラクウィーは幸せになる?」
「マチカちゃんは幸せじゃないのかしら? わたしは幸せよ」
まるで子守唄を聞かせるかのように、ルーフェにぽんぽんと肩を撫でられながら、マチカは考える。
この、胸がほかほかするような、戦うときのようになにか楽しくてどきどきするような、なんとも言いようのない高揚感。
あるじであるラクウィルの心を感じる、と思うのは気のせいではない。
「うん……マチカ、幸せ」
「そう、よかったわねぇ」
そうか、ラクウィルは姫の妹が好きなのか。だからこんなに気分が高揚するのか。
「マチカは姫の妹が好きかもしれない」
「あら、わたしは好きよ。ラクウィーが好きだから」
にこにこと笑うルーフェは、いつもこんなふうに穏やかに笑う。嘘は言わないルーフェの笑顔に偽りはない。
「姫の妹……ネイはマチカたちを好いてくれる?」
「そうねぇ……きっと、好いてくれるわ」
「きっと?」
「ええ、きっと」
「……そっか」
なら、いいか。
ラクウィルがあの娘を愛しても、きっと、自分たちは許せる。
自分たちも愛せるから、許せる。
そうか、そうか。
「ねえ、ルーフェ」
「なぁに、マチカちゃん」
「マチカはルーフェも好き」
「ふふ……わたしもマチカちゃんが好きよ」
たとえばマチカに、母と呼べるような存在がいたとしたら、それはきっと、ルーフェ。
たとえばマチカに、恋人と呼べるような存在がいたとしたら、それはきっと、ラクウィル。
たとえばマチカに、姉妹と呼べるような存在がいたとしたら、それはきっと、シュネイ。
うん、悪くない。
「マチカは楽しい」
「そう……よかったわね、マチカちゃん」
さらりとルーフェに朱い髪を撫でられる。その暖かな仕草に満足して、マチカは瞼を閉じた。
「眠るの、マチカちゃん?」
うん、と頷いて、マチカは一時の眠りを手にした。
リクエストありがとうございました。
また書きたいと思いますので、今回のところはここまでに。
読んでいただきありがとうございました。