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仮初めの皇帝、偽りの騎士。  作者: 津森太壱。
【仮初めの皇帝、偽りの騎士。】
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Extra : 花舞い。3

サリヴァン視点です。





 案の定、と言うべきだろうか。


「体力なさ過ぎ……見失っちゃったじゃないですかぁ、サリヴァン」


 そんな文句を言われても、どうしようもない。


「うる……さいっ」


 肩で息をしながら、サリヴァンは広場にある長椅子に埋もれる。

 飄々としているのはラクウィルだけで、そしているべきはずのツェイルの姿はどこにもない。ついでにリリの姿も見えない。

 一言で表わすなら、先にラクウィルが述べたとおりである。


 ツェイルを見失った。


「あんなに、行動力が……あるとは」

「リリも一緒ですからねえ」

「ああ?」

「リリの特技は家出ですよ。街の地図なんてなくても、どこにでも行けちゃうらしいですから」

「うわぁ……」


 敵うわけがない、と素直に思う。体力の問題以前に、サリヴァンは街に不慣れだ。


「まあリリが一緒なら、姫も安全ですけれど……姫単品でもだいじょうぶそうですが」

「ツェイはこの街の出身じゃない」

「腕っ節のことですよ」

「……、否定はしないが」


 悪漢に襲われてもツェイルなら返り討ちに、いやむしろそれ以上のことができるであろう。


 護りたいと思うのに、なんだか護られてばかりのような気がしてくる。先刻だって、若い青年に言い寄られていたのに、助け舟を出したのはメルエイラ家の者だった。サリヴァンを護るものになるといって、鉱石を購入していた。


 このもやもやとした気持ちはなんだろう、とサリヴァンは呻く。


「そんな呻かなくても、姫の居場所ならわかりますよ。ルーフェさんに頼めばいいことですし」


 マチカちゃんもいますしね、とラクウィルは己れの精霊を呼ぼうとする。

 その姿を見てふと、そういえば天恵というものがあったな、と漠然と思った。


「……ラク」

「はい」

「ちょっと待て」

「ん?」


 サリヴァンは長椅子を立つと、おもむろにぎゅっと手のひらを握り、そうしてゆっくりと開く。ぽん、と一輪のルーフが咲いた。


「見せものでもする気ですか」


 とラクウィルは言うが、そんな気はさらさらない。

 くるりと振り返り、怪訝そうな顔をしているラクウィルの胸元にルーフを飾ると、手のひらを握ったり開いたりした。そうしてその手のひらを、地面にぴたりと押しつける。


「サリヴァン?」

「やってみたいことができた」


 目を瞑って、肩の力を抜く。


 サリヴァンの天恵は、国主の天恵だ。だからヴァリアス帝国にしか生息しない、国花であるルーフを、咲かせることができる。サリヴァン自身にはそれくらいしかできないが、この天恵がサリヴァンにあり、且つここにいるからこそ、国は生きている。

 サリヴァンの命は、国そのものと言ってもいい。

 だからこそ、できることがあるはずだ。


「……ああ」

「うん?」


 命を国に左右されているから、感じるものがある。それを限定して感じられるようにすることも、やろうと思えばできるはずなのだ。


 例えばそう、ツェイルがこの国のどこにいるか。


「ツェイ」


 国はサリヴァンに味方する。力の器であるサリヴァンに、そのすべてを見せてくれる。


 だから、ツェイルの居場所を教えてくれる。


『サリヴァンさま?』


 ツェイルが、サリヴァンに気づいた。

 そのときには。


「サリヴァンっ?」


 ラクウィルの声が聞こえた。けれどもサリヴァンには、いとしき者への想いのほうが強かった。


「ツェイ」


 ツェイルに向かって手を伸ばす。

 その指先が、花びらへと変化しながら、風に紛れて消えていっているとも気づかずに、サリヴァンはツェイルだけを見つめ続ける。


「待ってください、サリヴァン!」


 ラクウィルの制止を聞きつつも、サリヴァンはひたすらツェイルを求め続けて、その気配を辿る。


 そうして。


「さ……サリヴァンさま」

「ツェイ」


 見つけた。

 こんなところにいた。


 そう思いながら両腕に、ツェイルをかき抱く。両腕に感じるぬくもりは、確かにツェイルのものだ。


「花……びらが、サリヴァンさまに……」


 なぜか呆けているツェイルに、サリヴァンは「ん?」と微笑みを向ける。


「本当に、サリヴァンさま……?」

「なにを疑う、ツェイ?」

「だって……花びらが、サリヴァンさまに……」

「花びら?」


 なんのことだ、と思う。人気の少ない通りをきょろきょろと見渡して花びらを探してみるが、どこにもそんなものは見当たらない。


 しかし。


「……、ん?」


 先ほどと景色が違う。

 なぜだ、と思うまもなく、ふっとラクウィルが目の前に現われた。


「なにやってんですか、サリヴァン!」


 怒鳴られた。

 それも、笑みのない本気の怒鳴りに、サリヴァンはツェイルと同じように呆けてしまう。


「無事ですね? 身体のどこにも異常ありませんね? ちゃんとここにいますね?」


 なにかを確認するようにポンポンと頭や肩に触れられる。ラクウィルのそんな行動に、なにを思ったのかツェイルまで同じことをする。


「……サリヴァン」

「な……なんだよ」

「さっきやったようなこと、もう二度としないでください」

「なんのことだ」

「その無自覚が厄介なんですよ。いいですか、姫から離れたくないのはわかりますけど、自分だけで探そうとしないでください。なんのためにおれがいると思ってるんです。なんのために、おれに空間移動の天恵があると思ってるんです」

「いや……だから、なんのことだ」


 なにをそんなに怒っているのか、サリヴァンにはさっぱりわからない。


「はぁぁ……とにかく、もう二度とやらないでください」

「よくわからないのだが」

「どうせ説明しても理解しないでしょうから、いいです」

「おれはそこまでバカではないぞ」

「そういう意味じゃないですよ。まったく……姫、あとでちょっといいですか」


 ラクウィルの怒りの矛先が、ツェイルに向く。同じようにリリもそれには含まれているようで、ふたりしてビクッと震えていた。説教決定のようである。

 しかしながらサリヴァンとしては、ラクウィルがなにに対して怒っているのかはともかく、その怒気を浴びて震えたツェイルがぎゅっとしがみついてきたので、それでよしとした。


「買いものは済んだか?」

「は、はい……」

「そうか。なら、もう少しだけふらついて、帰ろうか」


 こくん、と頷くツェイルが可愛い。ラクウィルの怒気が思った以上のものだったのだろう。

 蕩けそうな笑みを浮かべてツェイルの頭を撫でると、額を擦りつけるようにして甘えてきたので、さらに嬉しくなってサリヴァンはツェイルを深く抱き竦めた。







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