18 : 心を閉じて小さな声で。5
サリヴァン視点、サリヴァンほぼ一人称です。
ツェイルの天恵を、見た。
その姿は、神にも見紛うほどの美しさに、溢れていた。
いや、神ではない。
人としての美しさが、そこには溢れているように感じた。
そう感じてしまった己れに、サリヴァンは苦笑せざるを得ない。
あれが生きるということだ。
あれが死を見てきた者の姿だ。
あれが、護りたいものがある者の姿だ。
あれが、ツェイルという少女の、決意だ。
「ツェイル……」
少女の決意を、甘く見ていた。
護ろうとしたこの腕をすり抜け、立ち向かっていったその覚悟を、甘く見ていた。
躊躇いもなく天恵を発動させたその瞬間の、なんと虚ろな眼差し。
なんてことだ。
「ツェイル」
おまえに、そんな顔をさせたいのではない。
白い衣装をところどころ赤く染めたツェイルは、怯えた瞳でサリヴァンを見る。
なにを怯えるのだ。
「ツェイル……おいで」
おまえのそんな顔は見たくない。
いつか見せてくれた笑みを、また見せて欲しい。
「おいで、ツェイル」
おまえは美しい。
誰よりも強く、誰よりも優しいおまえだから、その天恵が与えられたのだ。
「……サリ、ヴァン……さま」
「おいで」
怯えるなら、おれにではなく、恵みを与えた天に怯えろ。
泣くなら、この腕で、泣け。
泣いて、その悲しみをおれに寄こせ。
その寂しさをおれにぶつけろ。
「おいで、ツェイル」
おまえは美しい。誰よりも、なによりも、美しい。
血染めが似合うということではない。
生きるその姿が、サリヴァンには眩しいほど美しい。
「サリヴァン、さま……っ」
俯くな、前を見ろ。
「ごめ……な、さ……っ」
謝るな。
おまえは間違ってなどいない。
「ごめんな、さい……ぃ」
謝るな。
おまえは悪くない。
「ツェイル」
間違っていたのは、悪いのは、サリヴァンだ。
初めから、生きることには意欲を持てなかった。いつ死んでもいいと思っていた。いつ殺されてもおかしくはない場所にいたから、生きるということがよくわかっていなかった。怯えて暮らすよりも、いっそ晴れやかに殺されたほうが楽だと考えていた。
けれども、ツェイルの姿を見ていたら。
「無茶をしてくれるな」
今までどうでもよかった己れの命が、惜しいと思えた。
「サリ、ヴァ……さま」
「ああ、ツェイル……もうだいじょうぶだ」
おまえがここに、おれのそばにいてくれるなら、おれはおまえとの未来を考えられる。
おれは剣でおまえを護ることはできない。
けれども、おれという存在は、おまえを護れる。
もうだいじょうぶだ。
おまえの傍らにありたいと、あり続けたいと思う。
おまえに傍らにあって欲しいと、あり続けて欲しいと思う。
だから、おれはおまえを、もうなににも囚われずに、欲することができる。
美しいおまえを、見続けていたいから。
その強さに、焦がれずにはいられないから。
偽りの心を閉じて、サリヴァンは小さな声で呟く。
「……これが、いとしいということか」
これが本当の、護りたいものができた、ということなのだ。
ずっと埋もれていた本当の心が満たされていく、そんな感覚が、腕に抱きしめたツェイルをより強く、深く抱きしめさせた。
読み難いと思われた方、すみません。