同居人
どうぞよろしくお願いします。
微かな鍵の音に続いてドアの開く音。
同居人のがんちゃんが帰ってきた。
出迎えようと居間のドアを抜けて玄関へ出ると、がんちゃんは後ろ向きのまま静かに玄関のドアを閉め、こちらを向き、あたしの顔を見ると、ちょっとうろたえた。
「起きてた?」
何を言っているんだ。
出迎えなかったことなんて、今までにある?
なんか、あやしい。
がんちゃんはそろそろと靴を脱ぐと、そのままの足取りで居間に入っていく。
あたしはがんちゃんの背中を立ち止まって眺めてから、ゆっくりとついていった。
がんちゃんはちゃぶ台の上に白い小さな箱を置き、座った。
「あのさぁ、キナコにちゃんと言ってなかったけれど……。俺、キナコが大好きだよ」
そんなことは言われなくてもわかっている。
あたしはがんちゃんの向かいのローソファに座る。
「キナコのこともちゃんと大切に考えてる。だから、ちゃんと病院にも行ってきた」
病院?
「もし病気があって、キナコにうつしたりしたらいけないからさ……」
えっ?
あたしはがんちゃんを見つめる。
「ちゃんと検査してもらったら、病院の先生も大丈夫だって」
それはよかった。
でも、がんちゃん、何の話をしているんだろう?
あたしは居心地の悪さを感じて、もう一度座りなおす。
その時、白い箱の中で何かが動いた。
思わず立ち上がりかけて、身構える。
「大丈夫だよ。あのね……、仔猫なんだ」
仔猫?
いぶかしげな顔をして首を傾げたあたしを見て、がんちゃんがやさしく言った。
「キナコも気にいると思うよ。真っ白い仔猫でさ。女の子」
がんちゃんがそっと箱を開ける。
「ほら」
ローソファの方にやってきて、あたしの隣に座る。
がんちゃんの手元を覗き込むと箱の中に小さな白い毛玉のようなものがぽよぽよと動いている。
あたしはがんちゃんの腕に手を掛け、がんちゃんの顔を見上げた。
「ねっ、かわいいでしょ」
う~ん。
「二日前に保護してね。飼い主も探したんだけど、見つからなくって……」
がんちゃんが申し訳なさそうに言う。
がんちゃんの優しさはあたしがよく知っている。
「もしかしたら、キナコも喜ぶかな……なんて思って。どうかな?」
あたしは重々しくうなずく。
大歓迎というわけにはいかない。
「名前も考えたんだ。もっちーっていうのはどう?」
もっちー?
「うん、明るいキナコいろの茶トラのキナコと白いおもちみたいなもっちー。よくない?」
まあ、あたしはいいけどね。
尻尾をぱたりと振って見せた。
読んでくださりありがとうございます。
猫、好きです。
家族に猫みたいと言われます。
特に家族がビニールをガサガサしているとすぐに現れるので「ほんま猫やな!」と言われます。