62,広場で子供達とバザーを
本編61にてお伝えしておりました、後日談を執筆いたしました!
筆がノリに乗ってしまって、3話も書いてしまいまして……この後、1時間おきに更新いたします。
サグラードに帰ってきたディアとライ。
多忙を極める二人だが、ディアは孤児院の院長からある問題を聞き……?
いつも通り解決に乗り出すディア、可愛い孤児院の子供達と街の人達の温かさ、そしてライの言葉にみんなが湧き上がる……!?
是非ともお楽しみいただけますと幸いです( .ˬ.)"
私達がサグラードに戻ってきてから二週間ほどが経った頃。
ある問題を聞かされた私は、夕食をいただきながらそれを解決すべく、ライとテルセロ様に事の次第を伝えていた。
「それで、何か良い案があるのか? ディア嬢も予定が詰まっているだろうから、あまり時間は割けないだろう?」
「大丈夫です! 私はお願いするだけで、ほとんどは子供達に用意してもらうつもりなんで!」
「あ? あいつらに?」
ライが首を傾げたと同時に、テルセロ様も首を捻る。
相変わらずそっくりな動きで面白い。
そんな二人に私は思い付いた企画を提案する。
「神殿前の広場を借りてバザーを開こうと思うんだけど、やってもいいかな?」
「「……バザー?」」
揃って目を丸くし、同じような声色で問う二人。
私はクスッと笑ってから、これからどうするつもりか段取りも含め説明を始めた。
少し時間を遡り、今朝、朝食の席でのこと。
サグラードに戻ってきた私は、再びテルセロ様のお屋敷に滞在させてもらっていて、三人で食事をとっていた。
というのも、まだこちらにライの屋敷や城がない上に、大神殿もない。
そのため、一番警備が行き届いていて綺麗な場所と言えばここになってしまったのだ。
新国王と大聖女が家なき子って……ちょっと間抜けすぎて笑ってしまう。
「言われていた西の方に城の準備をさせているが、それで良かったな?」
「はい、大丈夫です」
「囲壁も取り掛からせてるし、そっちはすぐ出来るはずだ。タウンハウスの位置は身内を優先して先に場所を確保させてから、全体に落とす方向で進めてるぞ」
「ライ、ありがとう」
二人の言葉に頷きながら、私はパンに手を伸ばした。
元々公爵領は、元王都ホロンビスに最も近く栄えているサグラードを先頭にして、南へと扇状に領地を広げていた。
しかし今回、サグラードとホロンビスの中間にあった元伯爵領を公爵領に取り込み、テルセロ様の管理下にしたので、テルセロ様には今後そちらの地を中心に治めてもらうことになる。
しかしそれはあくまでゆくゆくの話。
今テルセロ様にサグラードから離れられてしまっては業務上無理がある。
それに、この地がテルセロ様の領地であったことに代わりない。
この屋敷だってテルセロ様の所有物で奪うつもりなど毛頭ないのだから、サグラードの街を王都にするとは言ったものの、新たに王城を建設する必要があった。
そこで、サグラードを囲っている囲壁を大きく拡張し、王城と一緒に貴族街を作るべきではとテルセロ様から提案された。
これから多くの貴族がサグラードの街に滞在するだろうし、今居る領民達との棲み分けは必要だろうとライも私も納得した。
その場所をどこにするかと話し合った結果、元伯爵領を先頭にして西寄りに扇を広げることに。
元王政の反対派として西の貴族達はとても協力的だったため、多少そちらを優遇するような意味合いで西寄りに場所を確保してもらったのだ。
「ライは今日も執務だよね?」
「あぁ……。やってもやっても減らねぇし、どこもかしこも手を入れなきゃなんねぇ場所が多すぎるんだよな」
そう言いながら気怠げに頭を掻く。
ライは今、ホロンビスの立て直しと、他領主達から没収して一旦王家直轄領になった地域の現状確認や見直し、テルセロ様からサグラードの引き継ぎなど……相変わらず忙殺されているのだ。
「ディアの予定は?」
「今日は神殿に行ってお祈りをしたあと、孤児院にも顔を出して……それから城や大神殿の建設現場に寄って帰ってくるつもりだよ」
「そうか、現場の奴らにはガッツリ力を分けてやってくれ。かなり無理させてっからなぁ……」
ライの言葉に私は苦笑を漏らした。
私達の住むところがないと分かった途端、街の人達が総出で築城を手伝い始めたのだ。
本職の人達は勿論のこと、男は資材運びや作業の補助を、女は炊き出しや男達の服やタオルの洗濯を、それぞれ休日に交代で行ってくれている。
「休みの日は休んでって言っても、全然言うこと聞いてくれないんだもんね……」
「城が出来る前に、街の連中が倒れやしねぇか怖ぇよ」
「まぁまぁ。そこはみな大人なのだから、自己管理出来るだろう。お前達の力になれると思って嬉しいのだ」
全くもってその通りなのだろうが、それを向けてもらっている当人だからこそ、照れ臭いやら心配やらが募る。
そこで私の出番。
定期的に大聖女の力で、彼らの疲労回復を行っているのだ。
普段はライやテルセロ様の仕事の補助をして、テルセロ様の屋敷で祈っている私だが、大聖女が顔を出すと街の活気にも繋がると言われ、週に二回は神殿を訪れて祈るようにしている。
恐らく半分は事実なのだろうが、もう半分は二人が息抜きにと気遣ってくれてのことだろう。
今日は少し時間が作れそうだったので、神殿を訪問した後に孤児院に寄って、子供達の顔を見に行くつもりをしていた。
城や囲壁の建設現場へ向かい、みんなに労いの言葉を直接かけて力を行使してくるつもりだ。
「ちゃんと護衛は連れて行けよ」
「分かってる、大丈夫だよ。さて……今日も頑張りますか!」
食事を終え三人とも立ち上がると、自分達の仕事へと向かうべく、それぞれ足を向ける。
こうして今日も、私達の忙しない一日が始まるのだ。
「おはよう」
「大聖女様、おはようございます」
私が神殿に到着すると、神官や巫女達が勢揃いで出迎えてくれた。
街の人達や孤児院の子供達も遠巻きに眺めていて、私は笑ってしまいそうになる。
(見えてる見えてる。そんな興味津々そうな顔しなくっても、私は私のまんまだよ?)
そうは思うものの、確かに見た目は少し変わったかな……と自分の服を見下ろす。
私の着ている聖女服は、更に煌びやかなものに変わっていた。
ホロンビスに居た時も、私からすれば相当綺麗な聖女服や普段着用のドレスを用意してもらっていたのに、サグラードに戻った途端、例の洋服店からのお届け物だとテルセロ様に渡されたのがこの服。
式典用ではなく普段使い用の聖女服……とのことだが、悲鳴を上げてしまいそうなほど手触りのいい、しかも凝った刺繍が施されたもので、私は気絶しそうになってしまった。
(「いくらでも仕立てますので!」って言ってくれるけど、汚さないか気が気じゃないんだよね……)
こちとら何年も平民生活を送ってきた身だ。
そう簡単に貧乏性が抜けるはずもない。
それに孤児院に行くなら、服が汚れるなんて大前提になる。
髪だって綺麗に結ってもらったけれど、きっと帰るころにはくちゃくちゃになってしまうだろう。
念のため、馬車に替えの服を用意してきたので、神殿で着替えさせてもらってから孤児院に行こう。
そんなことを考えながら、私はしゃらりと袖を揺らしながら神殿へと入った。
神殿でお祈りを済ませた後は、神官や巫女に不便がないかを聞いて回る。
けれど公爵領の神殿にはまるで問題がなく、適度に建物や備品などの老朽化対策や修繕もされているようだし、人柄もみな人格者で穏やかな人ばかり。
何より神殿の管理者である、ホロンビスにも駆け付けてくれた司教様の飴と鞭の使い分けが上手いそう。
ただ、悩みがあるとすれば、ここ最近、公爵領に居たいばかりに神官や巫女になろうとする者達が減っているそうで……。
ホロンビスの大神殿がなくなり、多くの神殿のテコ入れが決定している上に、国の中心がここサグラードになることを考えれば、確かに神官や巫女が増えて欲しい気もする。
そんな話を聞いてから、私は神殿で着替えさせてもらい、孤児院へと向かった。
「ディアおねえちゃーん!」
「こらっ、ディア様って言わなきゃいけないんだぞ!」
「そっか! ディア様ーーっ!」
「あ……っ、ディア様……っ」
「わぁっ! ディア様だーーっ!」
私が孤児院の扉を開くと、みんなが元気よく駆け寄ってきた。
大神殿から来た子達も、子供達で出来た壁の向こうから必死で顔を覗かせている。
小さな子供達の頭を撫でながら挨拶をしていると、ゆっくりとした足取りで院長もやって来た。
「おぉ、ディア様。ごきげんよう」
「院長、こんにちは。今日は宜しくお願いします」
「えぇえぇ、こちらこそ。ほら、お前達。今日は料理を教えてもらうんだろう? 早くせんと、昼食がどんどん遅くなってしまうよ」
院長が優しく子供達に声をかけると、子供達は思い出したように「そうだった!」「ディア様、こっち!」と私をキッチンへ案内し始める。
元々私もここに住んでいたから案内なんて要らないのにと、その懸命な様子に院長とくすくす笑う。
そうして子供達と一緒に料理を作り、孤児院で食事をする。
遊んだり寝かし付けたりと、昔に戻ったようだ。
心地よさそうに眠っている子供達の頭を撫でながら寝顔を見ていると、院長がやって来てちょいちょいと私を手招いた。
私は年長者にその場を任せ院長の後を追う。
案内されたのは院長室で、どうやら真面目な話があるらしい。
「どうしたんですか? 何か問題でも……?」
「問題と言えば問題なんだがねぇ……。元王都から来た子供達がおるだろう?」
「あ、トーイ達ですか?」
私がそう聞くと、院長は静かに頷いた。
「ここでの生活に馴染めないのか、どうにも不安定なようでなぁ……」
「えっ、不安定? この孤児院で生活してるのに?」
私はこの孤児院で多くの子供達を見てきたけれど、酷いところから連れてこられた子もすぐ馴染んでいたように思っていた。
まだ夢見が悪いなどであれば納得だが、大丈夫だろうと安心しきっていた私は驚く。
「幼い子供達はいいんだけどねぇ。比較的大きい子がね……。恐らくこれまでの生活との差を感じて、それならこれまでは一体なんだったのかと思っていたり、助けられなかった子供達を思い返して幸せになるのを心苦しく思っていたり……。そういった感情が渦巻いているのかもしれないねぇ」
「あ……」
院長の言葉に私はハッとした。
ライだって初めは私としか行動せず、周囲を常に警戒していた。
それに、助けられなかったマヤさんを思って、自分が生き残ったことを悔いるようなことも言っていた。
その姿を知っている私が、それを忘れてしまうなんて。
(もっと早く気付いてあげるべきだった……。あんな環境で暮らしてきた子達が、素直に新しい環境を受け入れられなくても仕方がないのに)
私は自分の不甲斐なさに唇を噛む。
その様子に気付いてか、院長が「これこれ」と私を窘める。
「大神殿から来た子達だけで固まってしまって、どうにも周りと上手く付き合えない様子でなぁ。あの子達が他の子供達と打ち解けられるような、何か良い案がないかと思っていたんだよ」
良い案と言われ、私は真剣に過去を思い返した。
ライがみんなと打ち解けられたのは、いつの間にか一人で勉強や訓練にも参加するようになっていたからだ。
でもその前は――そう考えて、私が褒めたりビックリしたことで、もっと褒められるようにビックリさせられるようにと頑張っていた姿を思い出す。
あと私が居る間だけは、他の子供達が居ても一緒に孤児院の分担作業をしてくれていたっけ。
「安心出来る環境で、成長を褒めてあげられて、みんなと一緒に出来ること……?」
「ふむ……それなら、ディア様が居てくれた方がいいだろうねぇ」
「私?」
首を傾げながら自分を指差すと、院長はおおらかに笑った。
「ディア様は自分がどれだけ子供達に慕われているか、自覚がないのかい? いつも部屋の隅に居るあの子達が、今日はディア様の顔を見ようと前に出てきていただろう」
「あ……そういえば」
私は普段の彼らがどう過ごしているか知らないけれど、院長の言葉から察するに、いつもひっそり生活しているのかもしれない。
けれどさっき孤児院の扉を開いた時、人垣の向こうから手を振ってくれていた。
きっとあの姿や行動はとても貴重で珍しいのだろう。
私は嬉しくて目が熱くなってしまう。
ライの時のように、私がクッション材のようになってあげられれば、もしかしたら。
私も参加出来て、子供達と一緒に出来る何か……うーんと必死に考えて頭に過ったのは、大量に作りすぎて放置されたままのアレ。
私は目をキラリと光らせ、院長に問いかける。
「その話、持って帰ってライとも相談してもいいですか?」
「えぇ、構わないよ。忙しいのに手を煩わせてしまってすまないねぇ」
「いえいえ。あの子達を連れてきたのは私達ですから」
その後、子供達にお別れを告げて、開発中の西の地区へと向かった。
本当に多くの人達が協力してくれているらしく、まだ指示が下りてから日も浅いだろうに、沢山の資材が積まれ、着々と進められているようだった。
無理はしないでと伝えた上で疲労回復をかけておく。
そうしてテルセロ様の屋敷に戻る頃には夕食の時間で、私は二人に今日の報告をしながら食事を取り「バザーを開きたい」と提案するのだった。




