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49,大々的に広められる二人


 パーティー会場で私はライを探していた。

 あまりキョロキョロとしないよう気をつけながら、注意深く一人一人の顔を確認していく。


(ライ、どこいったんだろう……?)



 

 会場に入場し、無事ファーストダンスを披露し終えると、私達は次々と押し寄せてくる貴族達の対応に追われた。

 戴冠式の時、時間の都合で貴族達からの挨拶と祝辞を省略し、このパーティーに全てを纏めたせいだろう。

 そうは言っても私は挨拶や感謝を述べる程度で、彼らの相手をしてくれたのはライだ。

 上手く話を引き出したり盛り上げたりと、いつの間にこんなにも言葉巧みになったのかと驚いた。

 私はライの横で頷き、話を聞いているだけ。

 

 しかし慣れないせいか、何もしていないくせに気疲れしてしまい、人の波が途切れた隙にライは私を控え室に連れ「少し休憩しとけ」と休ませてくれたのだ。

 聖女なのだから精神回復(サナスピリト)を使えばいいのだろうが、こうして貴族と接する度に疲れていてはこれからやっていけるはずもない。

 そう思い術を使わず、この空気や雰囲気に慣れるよう努力しようと決めていた。


 水を飲んで一息吐き、再びホールに戻ったはいいものの、ライの姿が見えなかった。

 ライが居れば人集りで分かると思ったのに。

 そうして貴族達に会釈をしながらウロウロとしていると、何故かみんなからニンマリと微笑みかけられた。

 あれは一体どういう表情なの……?と怪訝に思っていたところに、令嬢達の楽しげな声が耳に入ってきた。


「先程のミログラシア国王様、素敵でしたわね!」

「本当に! 公爵領の方々らしい雄々しさがあって、王様というよりもまるで騎士様のようでしたわ」

「わたくしもあんな方に守っていただきたいですわ」

 

 令嬢達はキャッキャとはしゃぎながら、ライに対して黄色い歓声を上げている。

 私は口をへの字にして顔を(しか)めてしまう。


(先程のって、なにがあったのよ! ライ〜〜っ、何処で何してるの?)


 埒が明かないと判断した私は千里眼(ミロホス)を使ってホールの中をくまなく探す。

 しかしやはりライは見当たらない。


(ホールには居ない? テラスとか庭にでも行ったの?)


 そう思ってテラスへと視点を移し、私はドキリと胸が跳ねた。

 そこに居たのはライと……バシリカの父親、マッサーカ侯爵だった。

 彼の妻であるナサネバは、セレイ様や前公爵夫妻殺害への関与で貴族牢に投獄されている。

 娘のバシリカも自宅謹慎をさせられ、このパーティーも勿論不参加。

 社交界への復帰は難しいだろうとされている。

 そしてそんな妻子を持つマッサーカ侯爵自身も、戴冠式からこのパーティーに至るまで招待されていなかったはずだ。


(どうして侯爵様が!? まさかライに因縁でもつけに来たの!? ……それにしては静かに話している様子だけど)


 ただライを探すだけのはずが、とんでもない現場を目撃してしまった。

 これ以上はプライベートを勝手に覗くようで一瞬躊躇したが、何かがあってからでは遅いと千里耳(ミロレイハス)も重ねて使用する。


「それでは、これで失礼します」

「あぁ」


 侯爵様は頭を下げ、庭の方へと去っていった。

 ライは何事もなかったかのようにホールへと戻ってくる。

 

 (話終わっちゃったーーっ! はぁ……何も分からなかった。失敗したなぁ。もっと早く千里耳(ミロレイハス)も使っておけばよかった。……でも何もなさそうだったし、大丈夫なのかな?)


 そう思いながらライの居たテラスの方へと向かうと、ライが私を見付けて顔を綻ばせた。


「ディア! 少し楽になったか?」

「うん……」

「……なんだ? 歯切れ悪くないか?」


 どうしてもさっきの光景がチラついて、モヤモヤしているのが素直に出てしまう。

 なにせ対峙していた相手があのナサネバの夫でありバシリカの父なのだ。

 何を考えてライに近付いたのかと気になってしまうのは仕方がないだろう。


(でも、ライなら必要なことは言ってくれる気がするしなぁ……)


 問うべきかと悩んだが、ホールでマッサーカ侯爵の名前を上げると、誰かに聞こえてしまうかもしれない。

 そもそもライが話さない内容なのであれば聞くべきではないか……と思い直して誤魔化すことにした。


「さっきご令嬢達が、ライを素敵だとか騎士様みたいって褒めてたの。一体何をしたの?」


と、少し頬を膨らませて見上げた。

 令嬢達の話も気にはなっていたので、問いかけるには丁度いい。

 ライは目をぱちぱちと瞬いたあと、何かを思い出したように「あぁ〜〜…あれか」と少し視線を彷徨わせてから、その時の話を語り始めた。


「いやな、どっかの侯爵夫妻と令嬢が俺のところに来てな。あからさまに娘と俺をくっつけたがってさ」

(それってマッサーカ侯爵のこと!? どうにかしてバシリカを王妃にしたいとか!?)

「しかもディアの雰囲気に似た令嬢でさ、顔も色も両親とちっとも似てねぇの。アレ、絶対どこかの分家筋から引き取ってきた娘だぞ」

(……あ、大丈夫だ。確か侯爵様とバシリカは似た髪色してたもんね。それにそもそもナサネバは牢に入れられてるんだから、夫妻で居るわけないか。あーービックリした)


 ライの話に相槌を打ちながら一人勝手にハラハラしていたが、どうやら杞憂だったらしい。

 ライに擦り寄ってくる人達が居ることには変わりないので、そこは不服だが。


「それで?」

「俺が『私は新たな王として、民を平等に愛し守るつもりをしているが、私が男として愛するのは唯一ディアだけだ』って言ったやったんだよ。それを何処かで聞いてたんじゃねぇか?」

「!?」


 私は口をはくはくさせ、ライを凝視した。

 先程目が泳いでいたのは、その台詞を言ったことに多少なりとも照れがあったのかもしれない。

 しかしまさか周りの目があるホールでそんなことを言っていただなんて。

 そこで私は周囲へと意識を向けた。

 貴族達は私達と距離を取りながらも、取り囲むようにこちらの様子を伺っている。


(さっきから擦れ違う人達がニヤニヤしてたのは、きっとそれのせいだよね? う、嬉しいけど、恥ずかしすぎるっ!!)


 カッと熱くなる顔を両手で押さえる。

 ライも少し気まずげに頬をかいていると、そこへ「相変わらずだな」と言いながらテルセロ様がやってきた。

 少し上機嫌に見えるのはこの話のせいだろう。


「ライのご寵愛は唯一ディア嬢だけと、会場中に広まっていってるぞ。しかも尾ひれ付きで」

「あ?」「え?」

「その姿は姫に唯一の想いを馳せる騎士のようだったとか、遠慮のない断り文句で既に数名の令嬢を泣かせたとか」


 テルセロ様がカラカラと笑う一方、ライは眉間にくっきりと皺を寄せ「誰が騎士だよ。つか断ったのは一人だっただろ?」と顔を歪めていた。

 私は顔を赤らめたまま口を引き結ぶ。

 

「いやぁ、私としてはライやディア嬢に変な虫が近寄らないのであれば、それに越したことはないからいいのだがな。戴冠式やお披露目の内容と一緒に、明日の新聞にでも取り上げられるんじゃないか?」


 テルセロ様の発言で、私達二人は唖然とした。

 まさか新聞にライのその台詞が書かれるのだろうか?

 そこへ慌てるように声を発したのはライだった。


「まさか、あれ書かれんのかよ!? いや、別に嘘でも誇張でもねぇけどさぁ……!」


 頭が痛いと俯いたライだが、少し顔が赤らんでいる。

 流石に参ったとでも言わんばかりの苦々しい様子に、私はライの手を取り、テルセロ様へと振り返った。


「テルセロ様、それなら一緒にこう付け足してもらうよう、噂を広めていただけますか?」

「ん?」

「私も大聖女として、民を平等に愛し守るつもりをしていますが、私が女として愛するのは唯一ライだけです、と」


 その途端、周りの貴族達がざわつき、各方面から「まぁ!」「聞いたか?」と声が上がる。

 テルセロ様は目を丸くしたあと「ふはは!」と高らかに笑った。

 それを見た周りが更にどよめく。

 私にとってテルセロ様が声を上げて笑うなど特別珍しくないが、どうやら貴族達はこんな屈託のないテルセロ様の笑顔など見たことがなかったのかもしれない。

 私の時と同じように「あの公爵様が満面の笑みを!?」「あんなふうに笑われるのだな」と囁かれている。


「ディア嬢の依頼はしかと承った。こうして周りで聞いていた者達も多いからな、それこそ嘘でも誇張でもなかろう」


 そう言って満足そうに笑みを浮かべ、テルセロ様は立ち去っていった。

 この現場を見ていなかった貴族達に話を運んでくれるのかもしれない。


「……ディア」

「あっ。ごめんね、勝手なことして。でもどうせ書かれるなら、私も一緒に書かれた方がいいかなと思って」

「…………」


 私の言葉に対しライからの反応がなく、俯くライの顔を覗き込もうとして……ふわりと、宙に竜胆が花開くように、ドレスのスカートが浮き上がる。

 両脇に手を入れられ、私はライに持ち上げられていた。

 全員の視線が私へと向く。

 

「へっ!? ライ、降ろし」

「愛してる」


 私は浮き上げられたまま、ライを見下ろす。

 青い瞳が蕩けるように細められていて、呼吸さえも忘れてしまう。


「これから俺がこの国の太陽だなんて呼ばれるんだろうけど、俺にとっての太陽はずっとディアだけだ。俺を救ってくれてありがとう」

「……っ!」


 ここでそんなことを言うのは反則ではなかろうか。

 人前で泣いてはならないと、溢れそうになる涙を必死で押し留め、私はライへと手を伸ばす。


「……私も愛してる。私を選んでくれてありがとう」


 ゆっくりと降ろされ、私はライの首に抱きついた。

 止まっていた時間が突如動き出したように、ワァッと会場が湧き上がる。


「ねぇ、この後どうするの? すっごく恥ずかしいじゃん」

「……知らねぇ」


 私達は顔を見合せ、ぷっと吹き出す。

 その後、私達は多くの貴族達に散々弄られながらも、同じくらい多くの祝福の言葉を受けるのだった。





 翌日の朝。

 新聞に前日の戴冠式やお披露目、その後のパーティーでの出来事が一面に取り上げられた。

 私の希望通り、パーティーでのライの言葉のあと、私の言葉も並べられていた。

 だがそれだけでは終わらず、ライに抱き上げられてからの一部始終まで書かれてしまい、参加していた貴族だけでなく全国民があの出来事を知ることとなる。

 噂は広まり、新聞は全て売り切れ。

 急遽増刷までされたという。


「やっぱりこうして書かれると恥ずかしいんだけど!」

「……これから公務のたびに弄られるんだろうな、俺」


 そんなふうに私達が顔を赤くしたり暗くしたりと忙しなく表情を変えている中、テルセロ様だけは終始楽しそうに微笑んでいた。



 

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