26,団結する公爵領民
※5/24改稿投稿の際、誤って28,の内容を入れてしまっていたようです。大変失礼致しました。以下修正済です。
「うわぁ……ついに挙兵するみたい。なんか国王陛下みたいな人も『平民聖女を王都に連れ戻せ』って王太子殿下に言ってるね」
「なに?」
「あ? 散々ディアのこと蔑ろにしてたくせにか? ていうか、まだ平民聖女なんて言ってんのかよ」
私がいつも通り王城内を覗いていると、ついに王太子殿下が公爵領に兵を向ける算段を立て始めた。
国王陛下にも許しを得て、挙兵の準備を進めるようだ。
公爵様とライの居るところで口にしたため、公爵様は慌てて立ち上がり、ライはキレる一歩手前のような顔で凄んでいる。
……いや、私にそんな顔をされてもなぁ。
「人数は? 騎士の人数など、どれくらいの規模か分かるか?」
「今そういう話が進み始めたみたいですし、まだ何も分かりませんね……」
「なぁなぁ、向こうから襲ってくるんだから、返り討ちにしてもいいんだよなぁ?」
「……なんでお前は楽しそうな顔をしているんだ?」
相変わらず気が抜けるようなやり取りである。
私は好戦的なライに苦笑する。
公爵様曰く、向かってくる王国騎士団の人達は実戦経験が乏しいらしい。
賊退治や害獣駆除、魔獣討伐は冒険者や傭兵の仕事で、王国騎士団の主な仕事は王侯貴族の要人警護だそうだ。
要人警護も重要な役割だろうし腕っ節が必要だろうに、見目のいい人達の寄せ集めなんだとか。
公爵様は武人としての志が強い者ならあんな所には所属しないと言い切り、公爵領の兵士達の方が余程強いと豪語されていた。
それに私の結界もある。
ちなみにライや兵士達に協力してもらって、私の結界がどれほどの攻撃に耐えられるのかは検証済だ。
ライの悔しそうな顔は今でもしっかり覚えている。
一万を超える兵士から魔法や剣で総攻撃を受けても、私の結界はビクともしなかったのだ。
ライがムキになって氷魔法を撃ちまくっていたが、私の結界が壊れるよりライの魔力切れの方が早かった。
多少結界の維持のために術を多く使ったとはいえ、私はピンピンしていたし、そんな私を見てライは口をへの字に曲げていた。
「いやだって、こっちにはディアが居るんだぞ? 領地や領民は結界で守ってくれるし、俺達にだって加護をくれるんだろ?」
「もし本当に戦いになるなら全員の武運と、怪我をしてもすぐに治癒が働くよう加護を与えるつもりではいるけど」
「だったら全員とっ捕まえた方がよくねぇか?」
「……その捕虜を維持するにも費用がかかるのだぞ」
そう言って公爵様は頭を押さえた。
今公爵領は多くの移住者を抱えている。
いずれ移住してきた彼らがこの地に根付き、領地のために働いてくれる人材となるのだろうが、今はまだその前段階であり、増えた人員分の食材や資源を回すだけで精一杯なのだ。
捕虜にまで食事や寝床を用意する余裕は、今の公爵領にはないだろう。
「でも、こちらが何もせずそのまま帰してしまっては、更に多くの兵を引き連れて再度挑みに来ますよね? 出し惜しみした兵まで全投入されては、流石の私も耐えられるかどうか……」
「それはそうだな。どうしたものか……」
「維持出来ねぇなら叩くだけ叩いて追い返すしかないんじゃねぇの?」
ライはソファの肘かけで頬杖をつきながらニタリと笑みを浮かべ、足を広げて座っている。
見た目だけで言えばこちらの方が悪の親玉みたいだ。
「とにかくボコボコにしたいんだね、ライは」
「当たり前だろ。ディアのことをてめぇらの都合で呼んだり追い出したりしておいて、結局連れ戻せだぁ? そんな指示に従うような騎士なんて、全員叩きのめしてやりゃあいいんだよ」
私の想像していた返事とは異なり、どうやらライは私のことで怒ってくれていたようだ。
私は目を丸くしながらパチパチと瞬く。
「……ライはただ暴れたいだけじゃないの?」
「あ? ディアに手を出さねぇなら別に興味ねぇよ。まぁここには世話になってっから、ここが襲われんなら戦うけどな。あぁでもディアを散々こき使ってきやがった奴らを殴れるって思えば、思う存分暴れてぇ気もするなぁ」
血気盛んなことに変わりはないが、ライの戦う理由が彼の優しさから来ていることを知り、私は嬉しくなった。
自然と頬が緩み「にへへ」と笑うと、ライは変なものを見るような目でこちらを見ていた。
「追い返すと言っても、報復する気さえも起こさせないようにしたいところだな。……そろそろこちらも動く頃合いか」
「あー……まぁそうかもなぁ」
「いっそのこと追い返すのではなく、全員捕縛して共に王城に乗り込むか?」
「んー……手っ取り早そうではあるよな」
公爵様の言葉にライが頭をガシガシと搔いている。
一気に話が分からなくなったが、公爵様もかなり好戦的かつ不穏なことを言っていませんかね?
「の、乗り込む……? 王城に?」
「こちらも兵を向けられたとなれば黙ってはいられんからな。それに国がこんな情勢になっているにも関わらず、こちらに挙兵しようなどと愚かなことを考えているのだろう? 騎士や兵士を動かすのなら、国の立て直しのために他領へと向かわせればいいものを」
「あいつらがトップのままだと国が崩壊すんのも秒読みだろうな」
それは確かにそうだ。
聖女を連れ戻すことは国にとって重要なのだろうが、まず先にこれまでの非を詫びて交渉しようとすれば良かったのだ。
交渉が決裂したのならいざ知らず、国民を救うよりも先に聖女奪還を選択する彼らは、きっとこの先も民を顧みることはないのだろう。
そもそも非を詫びようなど頭の片隅にもないだろうし、自分達の行いのせいでこうなっているのに武力行使に移るなんて、本当に碌でもない統治者だ。
「でもだからって乗り込んで、その後はどうするんですか? まさか簒奪……?」
「いやいや、ディア嬢。継承資格のない人間がその地位を奪おうなんて、まさかそんなことはしないさ。あっはっは」
「そうだぞ、ディア。何も心配することねぇよ。くっくっく」
「…………えぇ?」
公爵様とライは二人して怪しげな笑みを浮かべていて、心配ないと言われても全く信用出来そうにない。
公爵様の底抜けに明るい笑顔も得体が知れず、ライの悪どい笑顔は見たとおり危険な香りしかしない。
そんな二人をドン引きながら見ていると、公爵様がコホンと咳払いをして立ち上がった。
「向こうの動きは逐一報告を頼む。こちらもそれに合わせて策戦を立てよう」
「分かりました」「りょーかーい」
公爵様の言葉に、いつものように私達は頷いた。
その後、三千人ほどの部隊が公爵領目がけて侵攻を始め、私達も準備を始めた。
ライは「たった三千かよ」と笑っていたが、実際にそんな大勢が攻めてきたらどうなるのかなど、私には想像も付かない。
いくら結界があっても、攻撃の音で怯える領民も出るだろう。
そのため、領民達には事前に説明して回った。
結界も公爵領の兵士達も居るから、何も心配要らないと。
すると、領民達が
「戦いの間、飲まず食わずってわけにはいかないでしょう? 門まで食事を届けましょうか?」
「物資を運ぶ必要があるなら任せてくれ!」
「武器や防具は足りておるのか? 必要なら儂の店のやつを使ってくれ。手が足りんなら補充を手伝いに行ってもええぞ」
と支援を願い出てくれたのだ。
戦っている音だけでも怖いだろうに、念の為に避難をするでもなく一緒に戦おうとしてくれる。
私はやっぱりこの街の……この領地の人達が大好きだと実感した。
「ありがとう、みんな。公爵領は私が必ず守るよ」
「こっちはディアに任せた。俺は来た奴全員叩きのめしてくる」
私は領地の守備を。
ライや公爵様、兵士達は攻撃を。
そしてみんなはその支援を。
国から命を受け、聖女を連れ戻さんとやってくる王国騎士団を全員で迎え撃つ。
私達は一致団結し、反撃の狼煙を上げるのだった。




