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【ダーク】な短編シリーズ

20万光年先への転校

作者: ウナム立早


 わたしの名前はコヨミ、ハルバンディっていう星の、ハルバンディ第三小学校で勉強をしている四年生です。


 今日は友達のサクラちゃんと一緒に、放課後の図書室で宿題をしていました。


「うーん、ここの宇宙公用語、なんて意味だろう。たくさん出てきてちんぷんかんぷんだよ」

「大丈夫だよコヨミちゃん。私がわかるように教えてあげるから」

「ありがとう! 宿題終わったらホログラム広場で遊ぼうね!」

「うん!」


 サクラちゃんは私と同じ、地球のニホンという国に住んでいたご先祖様をもつ女の子。わたしたちは入学してすぐに知り合って、そしてあっという間に友達になった。


「うわぁ。こんな複雑な計算式、AIじゃないと解けないよ」

「そんなことないよ。ほら、この公式を使えば……」

「あっ、そっか! さすがサクラちゃんだね!」


 サクラちゃんはとても頭がいいと学校中で評判です。宇宙にいるすべての生き物と比べても高いレベルにいるって、先生も言ってた。飛び級だってできるかもしれないんだって。わたしはちょっと、習いごとのダンスに夢中になり過ぎてるかもしれないけれど……。


「はやく見てみたいな、コヨミちゃんのマスターしたっていう新しいダンス。サテライトチューブでも話題になってるやつでしょ」

「えへへ、もう少しで終わるから、楽しみにしてて!」


 このまま、ずっとサクラちゃんと友達でいたいと、わたしは思っていました。




 サクラちゃんの転校が決まったのは、一学期もなかばになってからのこと。お父さんがお仕事で、別の銀河に行くことになったそうなのです。転校先はヴァルゴデア星立小学校といって、ここから20万光年先の場所にある学校みたい。


 20万光年。光が届くまで20万年かかるような距離だって、先生は教えてくれた。


 あまりに突然のことで、クラスメイトのみんなも驚いてた。もちろんわたしも、最初は悲しさやさびしさで胸が一杯になったけど、それ以上に、サクラちゃんのことが心配だった。


 転校が決まってからサクラちゃんはほとんど学校を休んでいて、クラスでお別れ会をした時も、終わりの時までずっと大声で泣き続けていた。


「嫌だ、嫌だよ。みんなと別れたくない。コヨミちゃんと別れたくない!」


 こんな姿のサクラちゃんは、今まで見たことがなかった。わたしは目に涙を浮かべながらも、サクラちゃんの背中をさすり、応援の言葉をかけた。


「大丈夫だよ。サクラちゃんなら新しい学校でもうまくやっていける。それに、どれだけ遠くまで離れていても、わたしたちは友達だよ。卒業したら、また会いに行くから。約束だよ」


 サクラちゃんが泣き止むことはなかったけど、時々うなずいて、わたしの言葉にこたえてくれているようだった。


 その次の日、サクラちゃんは20万光年離れた、新しい学校へと出発していったのです。




 それからわたしは、サクラちゃんのいない学校生活を、なんとかがんばって過ごしていた。宿題も、ちょっとは間違えちゃってるけど、全部その日のうちに終わらせている。


 サクラちゃんとはメールでやりとりをしているけれど、20万光年も離れた場所にいるので、何日かしてようやく返信が来るのが大変だった。


「サクラちゃん、お元気ですか。わたし、新しいダンスを覚えたよ。動画もつけてるから、見てね」


「コヨミちゃん、お久しぶりです。私も元気で勉学にはげんでいます。ダンス、どんどん上達してるね。プロでも目指してみたら、どうかな?」


 それでも、サクラちゃんからのメールが届いたら、やっぱり嬉しくなる。卒業して中学生になる前に、もう一度会いたいな。毎晩そんなふうに願っていたから、神様がこっそり聞いていたのかもしれない。


 三学期も終わり、そろそろ五年生になる日が近づいていたころだった。


「コヨミ、パパからさっき連絡があって、ヴァルゴデア星の防衛隊長になることが決まったそうよ。だから、私たち引っ越さなくちゃならないの。寂しいかもしれないけど、今の学校とはお別れね」

「ママ、それって転校するってこと? それにヴァルゴデア星って……サクラちゃんが転校した小学校のあるところだよね!?」

「そうよ、コヨミが転校する先も、ヴァルゴデア星立小学校になると思うわ」

「うれしい! またサクラちゃんに会えるんだ!」

「……そうね、また、会えるといいわね」


 それから、あっという間に引っ越しの準備が進んでいった。なんでもパパの前につとめていた隊長さんが急に亡くなっちゃったみたいで、少しでも早く現場に行かなきゃならないんだって。


 お別れ会も終わり、新しい学校へ出発する前に、わたしはメールを確認した。転校が決まってからすぐ、サクラちゃんに連絡したんだけど、まだ返信は来ていなかった。


「待ってて、サクラちゃん。いま行くからね」




 それからわたしとパパとママは大きな宇宙船に乗って、ときどき冷凍睡眠コールドスリープをしたり、ワームホールに入ったときに酔わないよう分子制御室に入ったりしながら、ようやくヴァルゴデア星にたどり着いた。


 パパはすぐに新しい仕事場へ向かっていったので、わたしはママに頼んで、ヴァルゴデア星立小学校へ連れていってもらうことにした。


 転校までにはまだ5日間のお休みが残ってるんだけど、わたしはサクラちゃんに会いたい気持ちを抑えることができなかった。着いてからすぐ、わたしは学校の玄関へと走っていった。


 校舎の中はとてもキレイで、たくさんの窓からあたたかい光がさしこんでいる。こんな素敵なところでサクラちゃんは勉強してるんだ。


 わたしは教室をこっそりのぞいて、サクラちゃんがいないか探してみた。


 今は休憩時間みたいで、廊下にもたくさんの生徒たちがいた。今まで見たこともない、変な姿をした子もたくさんいる。でも肝心のサクラちゃんの姿は、なかなか見つからなかった。


「きみ、教室をチラチラのぞいてて、どうしたのかな? 入る教室がわかんなくなっちゃった?」


 後ろから、女のひとの声が聞こえてきた。たぶん、この学校の先生が心配になって声をかけたのかもしれない。ちょっと、はしゃぎすぎちゃったかな。


「ごめんなさい、迷ってたわけじゃないんです。わたし、もうすぐこの学校に転校するスギシタ・コヨミっていいます」


 わたしは自己紹介をしながら、後ろを振り向いた。


 そこに立っていた女のひとは、驚いた顔で、わたしを見つめていた。


「コヨミちゃん、ほんとにコヨミちゃんだ。あの時のままの」


 すると、そのひとは泣きそうな顔になって、わたしにゆっくり近づくと、思いっきり抱きしめてきた。


「コヨミちゃん、さっきメール見たよ! 私も会いたかったわ!」

「えっ、だ、誰……ですか」

「ふふっ、そう思うのも無理ないよね。私はもう、この学校の……」


「ムラモリせんせー、どうしたんだよー、その女の子に抱きついたりしちゃってさ」

「ベラク君、先生はいま感動の再会をしてるところだから、邪魔しないでくれる?」

「へーい」


 ちょっかいを出してきたベラクっていう男子生徒は、ニヤニヤしながらどこかへいってしまった。ムラモリ。サクラちゃんの名字。


「サ、サクラちゃん? サクラちゃん、先生なの?」

「そうよ、私はこの小学校を卒業して、先生になって、今はこの学校に勤めているの。本当に、奇跡のような偶然だわ、こうやってまたコヨミちゃんと一緒の学校になるなんて!」


 サクラちゃんは喜んでいるけど、わたしには何がなんだかわからなかった。


「な、なんで、どうしてサクラちゃんが大人になってるの」

「それはね、えーっと、相対性理論って、聞いたことある? この星での時間の流れは、私たちのいたハルバンディの時間よりもずっと速いのよ。重力や、星々の配列の関係でそうなっちゃうんだけど……」

「わかんない」

「うーん、とにかくね。ハルバンディで半年ちょっとの時間がたつと、このヴァルゴデアでは15年ほどの時間が……」

「わかんない、わかんないよ! なんでサクラちゃんだけ先に大人になるの!? ハルバンディにいたクラスメイトのみんなは、どうなるの!? わたしはこれからどうなっちゃうの!?」


 ぐしゃぐしゃになった頭をかかえて座り込むと、涙が自然にあふれ出てきた。


 大人のサクラちゃんは、そんなわたしの頭を優しくなでながら言った。


「大丈夫だよコヨミちゃん。これから先、私がわかるように教えてあげるから」



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
20万光年先と「数日程度」の差で連絡が取れる世界。超技術だなぁ。光通信を超えた、空間跳躍通信? 量子テレポーテーションを利用した量子通信? そんなハイテクに囲まれながらも普通の人間の営みが維持されてい…
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