あとがき
ある春の日。
暖かい陽気に包まれるカフェの中で、私こと雪浦空実はある人を待っていた。
「…………なんですか、用って」
「久しぶり、猫戸さん」
そのある人は、店に入ってくるとすぐに私の隣に座った。
「あの、自分今あんまり…………」
「大丈夫すぐ終わるから」
私はある封筒を出した。
「これは、佐島君からあなたへの手が――」
「先輩…………!!」
顔を見ると、怒りよりも、恐怖や寂しさを含んだ表情が見えた。
「私の前で、その名前を…………!」
「受け取って」
私はその封筒をすうっと差し出した。
すると猫田さんは唇をかんで暗い顔をした。
「…………雪浦先輩
わたしはあなたのことが嫌いです」
「うん」
「あなたは一生の恋敵で
私はあなたを恨んでさえもいる」
「うん」
私はもう一つ封筒を出した。
「それもこれも、佐島君の親御さんからもらったもの
手紙と云っていた」
もう一度猫戸さんのほうを見ると、目から涙がこぼれかかっていた。
「…………私もまだ見れていない
その覚悟が決まるのに、時間がかかっちゃってね
猫戸さんも、いつか見ればいいと思う
でも、絶対に読んであげて」
私がそう言うと、猫戸さんはその封筒を受け取り、逃げるように店から出て行った。
私は、受け取ってから数か月。未開封の封筒をやっと、開けて、その文字を…………佐島君の文字を、確かに黙読した。
雪浦先輩へ
先輩。こんにちは!いやこんばんは?まあいい感じにくみ取ってください。
この手紙を読んでいるということは、きっと私はもうお墓の中なんでしょうね。
できれば読んでほしくないといえばあまりに自己中ですが、私の言いたいことをつらつら書き連ねようと思うので、いつでも、何回にも分けたっていい。無理なくお願いします。
私は今日。元カノの幽霊を見ました。
はい、いました恋人。宇杉の言ってたことは事実です。
私には小学校の時に死別した恋人がいらっしゃいました。
でももう、私の好きはあなたにしか向いていない。
そして元カノの幽霊には、もうわたしのことは忘れていい、なんて言われてしまいました。
ちゃんと、フリーです。
でもきっと、読んでいらっしゃる頃には、私はあなたにフラれた男か、恋人になっているでしょう。
ですがきっと恋人なんでしょうね。
バレバレです。先輩の好意に気づかないほど鈍感じゃない。
先輩がお酒を飲む前、毎回言葉数が減って、すごく照れ照れしていました。
嘘が下手なとこも大変かわいらしいです。
ころころと変わる表情も、おしゃれをしているときも、ゲームで勝った時も負けた時も、シラフのあなたも、ちょっと男っぽいときも、北天でしかなかった時も、何も知らなかった頃のあなたも、そのほか全部全部、愛しています。
でも経験者から言わせていただきます。
告白は幸せなことですが、こうなってしまえば呪いでしかない。
私は一年、死を悲しみ、後十数年、後悔と言い訳の日々でした。
幸せなんて、たった一瞬しかなかった。
でも元カノと話せたことによって、また幸せを手に入れることができた。
忘れていい
この言葉がどれほど私の救いになったかわからない。
どうか、一年、寂しがってください。
そしてそのあとはただ、私のことは忘れて、幸せになってください。
私からの愛なんてどうせあなたを縛る鎖にしかならない。
いつかできる恋人、夫、子供、孫。
その人たちに分ける愛をどうか持て余すことがないようにお願いします。
きっとあなたの死際に、一回化けて出てあげます。
その時、懐かしい、ぐらいの思い出感覚で私を思い出していただけたら結構です。
それではまたいつか。
空実が幸せを成就するその日まで。
佐島祐作より




