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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
終章 ナフリマルフィスの娘

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67.新たな旅立ち




 リチノア村へと到着したときには昼をとうに過ぎていた。

 村長宅を訪れた僕たちは事の顛末を差し障りない程度に説明し、任務が失敗に終わったことを告げた。


 森に入ってから大分日数が過ぎていたから、僕らのことも既に死亡したと思っていたらしかったので、無事に生還したことを心の底から喜んでくれた。


 バクーダ青年のことは最初から半分諦めていたらしく、白骨化した遺体を見て、獣に襲われて喰い殺されたんだろうと、そう解釈してくれた。


 本当なら生きて連れ戻すことはおろか、遺体が発見されることすら難しいと言われている人喰いの森。


 結果的には助けられなかったけど、遺体だけでも連れ帰ってくれたということで、村長たちはとても感謝してくれた。その上、僕たちに成功報酬として多額の金貨まで払ってくれた。

 路銀に乏しかった僕たちはそれをありがたく受け取った。


 それから、森で遭難しているところを保護したとして、バーミリオン兄とディアナの二人のことも村長に頼んだ。


 半日ほど宿で寝かせ、夜、ようやく二人は目を覚ましたけど、案の定と言うべきか、森での出来事もそうだけど、僕たちのことやシュバッソのこともすべて覚えていなかった。


 二人は狐につままれたような状態になっていたけど、森で見つけたと説明したら、勝手に納得してくれた。


「そういや俺たち、ギルドの仕事で森に薬草採りに行ってたんだったな。だが、やっぱりと言うべきか、道に迷っちまったんだな……」


 実際に二人はそれを証明する依頼票を持参していた。

 記憶を失う前の二人からそんな話は聞かなかったけど、おそらくその仕事の一件と、シュバッソか誰かが仕入れてきたお宝の話が同じ場所ということで、一石二鳥と思って森の中へと入っていったのだろう。


 僕はそう勝手に解釈した。

 ともあれ、それでも一つだけ誤算だったのはディアナのことだった。

 彼女は僕のことをすっかり忘れていたというのに、会った瞬間、


「好きっ」


 そう目をキラキラさせて迫ってきたのである。

 これにはさすがに焦った。


 すぐ側には正体を隠すために砂色のローブとフードで顔を隠したオルファリアがいたけど、なぜか彼女から刺すような視線を感じていたからだ。


 そんなこんなもあって、僕たちは翌朝、逃げるように村をあとにした。

 リチノア村を出てすぐ、アーシュバイツさんが急に立ち止まって僕たちに別れを告げてきた。


「俺はここで別れよう。フランデルク討伐という任務も果たせたしな。早く国に帰り、陛下に報告したいんでね」

「……わかりました。名残惜しいですが、どうかお元気で」

「あぁ。君たちも。リヒトに来ることがあったらぜひ、声をかけてくれ。俺の命を助けた冒険者だと衛兵に説明すれば、すぐに取り次いでくれるよう計っておく」


 そうニヤッと笑うリヒトの騎士団長様に僕は大慌てとなった。


「そんなっ。命を救っただなんて大げさなっ」

「いや。実際、君たちがいなかったら俺は今もなお、あそこで路頭に迷っていただろう。そういう意味では本当に命の恩人なんだよ。おそらく、陛下もお会いしたいとおっしゃるはずだ。報奨金も出るはずだしな。だからぜひ、忘れずに声をかけて欲しい。約束だぞ?」


 そう言って、アーシュバイツさんが大きな右手を差し出してきた。

 僕はなんとも言えない気持ちになりながらも、笑って握手を交わした。


「必ず! 必ずお伺いします! ですので、それまでお元気で!」

「あぁ! 君たちもな!」


 アーシュバイツさんはそう言って、笑顔で手を振りながら北西方向へと去っていった。


「んじゃ、俺たちも行くか」

「そうですね」


 僕は名残惜しさからいつまでも、小さくなっていくアーシュバイツさんの背中を眺めていたけど、寂しさを振り払うために大きく深呼吸してから再び歩き始めた。

 目指すは冒険の出発地点だったイゼリアの港町。

 僕たちはバーミリオン兄妹に絡まれないようにと、一路、大急ぎで歩いていった。




◇◆◇




 数日後に辿り着いた港町は相変わらず活気に満ちあふれていた。

 この間まで死と隣り合わせの森の中で大冒険を繰り広げていたなどと、まったく実感できないぐらいの光に満ちあふれた世界だった。


 オルファリアは初めて見る人間の町におっかなびっくりといった感じだったけど、それでも、幼子が真新しいものを目にしたときのように、楽しそうにはしゃいでいた。


 僕はそんな姿を見ているだけでもがんばった甲斐があったと思えた。

 本来だったら今この場に、彼女はいなかったのだから。


 一緒に旅に出ることもなかったし、それどころか、生きて元気に笑ってる姿を見ることもなかっただろう。

 そうやって考えると、僕が幼少期の頃からやってきた努力のすべては無駄ではなかったと、改めてそう思えた。


 たとえその結果、未来が変わってしまったとしても。

 本来の歴史よりも恐ろしい出来事がこの先、待ち受けていたとしても。

 今このときばかりは笑っていたい。心の底からそう思えた。


 僕たちは一度ギルドに顔を出したあと、この町をあとにすることをギルド職員に告げた。


 ルードとベネッサは、大分長い間この町を拠点に活動してきたらしいから、お世話になった人たちに挨拶したいとのことで、街中を奔走していた。


 なんだかよくわからないけど、二人とも、僕たちが、「旅支度が整い次第、すぐにでもこの町から旅立ちます」と告げたら、一緒についてきてくれることになったのだ。


「本当は二人っきりにしてあげたいところだけれど、リルはどこか、危なっかしいところがあるしね」

「だな。それにオルファリアのこともある。人が多いに越したことはないだろう」


 そう言って、ベネッサはうふっと色っぽく笑い、ルードは豪快に笑った。

 僕たちはその申し出をありがたく受け取り、


「わかった。今後ともよろしくお願いします」

「お世話になります」


 そう、二人して頭を下げた。

 それから、一応フランデルクの件もギルドに報告しておいた。


 あいつは最上級賞金首として指名手配されていたような人物だし、それが倒されたことをギルドが知らずにずっと賞金首にしたままというのも、どうかと思ったからだ。


 本当であれば、賞金首だからあいつの身元がわかるものを持参して証拠とする必要があるんだけど、あいにく、その手のものをあいつは持っていなかった。

 その上、死に顔がまるっきりの別人になってしまったので、首を持って帰ったところで信用されないだろう。それ以前に、あのときはそんなことをしている場合ではなかったとも言う。


 そんなわけで、報告はしたけど、当然賞金は出ない。

 ギルド職員も半信半疑といった感じだったので、僕たちはリヒトの討伐部隊に退治されたと付け加えておいた。そうしたら、後日問い合わせてみるとのことだった。


 僕はそれ以上この件に触れることはなく、オルファリア共々、それ以降はイゼリアの町で出立の準備にいそしんだ。

 そして数日後、旅立ちのときがやってきた。


 朝早くに港町の南門から外に出た僕たちは、門から出てすぐのところで立ち止まっていた。そこには、僕やオルファリアを始め、ルードやベネッサだけでなく、ザクレフさんまでいた。

 彼とはここでお別れとなる。

 ザクレフさんも記憶を消されてはいない。彼は森であったことは一切口外せず、新天地へと旅立つということだった。


「ふぉっふぉ。古代王国にまつわる謎は、何もザーレントだけに限ったことではないしの。世界中にはまだまだ知られていない、数多くの考古学的価値の高い新事実が眠っておる。わしは生涯をかけてそれらを研究し続けるのじゃ」


 ザクレフさんは笑顔でそう言い、陸路を通って東街道へと歩いていった。


「さてっと、リルよ。お次はどこで何をしようかね?」

「ふふ。ザクレフさんじゃないけれど、世界は広いって言うしね。特に目的も決めずに渡り歩くのも楽しいものよ?」


 ルードとベネッサが、笑いながら僕を見てくる。


「リル。私はあなたとでしたら、どこへでもお付き合いいたします」


 ほとんど、「愛の告白かよ」と突っ込みを入れたくなるような台詞を吐いて、上目遣いに見つめてくるオルファリア。

 これで彼女は自分が僕に対してどんな感情を抱いているのかわからないというから、本当に質が悪い。


「そうだね……」


 僕はわざとらしく考える仕草をして見せたあと、


「とりあえず南かな」


 ニヤッと笑って歩き始めた。

 街道をひたすら南へと歩いていくと、やがてはいつか、この商業国家エルリアの首都に辿り着く。


 一際賑やかで大きな町として知られているこの国と同じ名前の大都市エルリア。

 商業の中心であり、物資だけでなく大勢の人間たちが日々行き交っている。


 当然そんな場所に向かえば、人間同士の諍いに巻き込まれる可能性が高くなる。

 決して安易な道ではないだろう。

 それどころか、この先起こるはずの大事件(・・・・・・・・・)が、僕の知る未来よりもずっと大変で過酷なものへと変異しているかもしれない。


 僕とオルファリアが二人して求めている、人と幻生獣がともに手を取り合い支え合っていく未来。そんなものは一生訪れないのかもしれない。


 他者を見下し、自分の権益だけを優先し、理解できないことはすべて悪と決めつけ敵意を剥き出しにする。僕たちが生きるこの世界の人間社会はそういう差別と侮蔑で成り立っている。


 人間が人間である以上、僕たちの理想は並大抵の努力では実現できないはずだ。


 だけどそれでも、僕たち二人が明るい未来を手に入れるためには、前へ進んでいくしかない。そして、そんな僕たちだからこそ、取れる唯一の手段があるように思えた。


 多くの現代人に魔法と解釈されるような異質な力を僕たちは持っている。フランデルクが滅んだ今、幻生獣や僕たちしか扱えない精霊神術の力が。


 そして、本来では完成されることのなかった一本の剣。

 僕と彼女の深い絆とも言うべきエルオールの剣。


 争い事のない平和な未来を切り開いて欲しいと願い、彼女が鍛えてくれたこの剣が、きっと、立ち塞がる巨大な壁を切り裂く希望の光となってくれるだろう。


 僕は笑顔でベネッサたちと話しているオルファリアを振り返って、次なる新天地へと思いを馳せた。


 首都エルリア。そこで巻き起こる次なる大冒険、『エレノイアの海賊』へと。





―― 第一話『新エルリア第七伝承詩』 完 ――

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

本エピソードをもちまして、第一話は完結となります。


このあと、不定期となりますが、ちょこまか短編をアップする予定です。

また、少し時間は空きますが、第二話『エレノイアの海賊』か、もしくはスピンオフとして第零話に位置する『マファルラ大海戦』の方を執筆するつもりです。

もし、公開した暁には、変わらずのご愛顧、よろしくお願いいたします。


それから、とても励みとなりますので、【面白かったよ】と思ってくださったら是非、『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

今後公開するかもしれないお話も引き続き読みたいと思ってくださったら、是非、『ブクマ登録』の方もよろしくお願いいたします。


それではまた、次回作で~。


ぺこり


ps)

本作の正式なタイトル名は『リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~ 英雄王の章』となります。

ご了承ください。

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