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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第七章 廃城での死闘

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53.シュバッソと魔者




 僕たちは空中を流れるように先行するアルメリッサのあとを懸命に追いかけ続けていた。


 この城の内部は既に猛獣の巣窟となっているらしく、時々、長大な牙を生やしたどす黒い狼や、巨大なヒルのような生き物が襲いかかってきたけど、先刻討ち果たしたフランデルクと比べたら雑魚に等しい存在だった。


 大分朽ち果ててそこら中に穴が空いている通路やその先に続く広間などを突き抜け、体力が続く限り走り続けた。


「――じゃぁ、あんたたちは本当にあいつとは縁を切ったのか」


 先頭を走るルードやアーシュバイツさんのあとに続いて走っていた僕の隣には、なぜかバーミリオン兄がいて、その後ろには妹のディアナが続いていた。

 二人は走りながらも、湖の地下で僕たちとやり合ったあとのことを説明してくれていた。


「あぁ。あんたら――リルって呼ぶけど構わないな? あんたらリルたちと別れたあと、俺たちはあの野郎を担ぎながら外に出てすぐ、西の森を突っ切ってそこで休憩してたんだ。さすがにあいつのあの怪我をそのまま放置するわけにはいかなかったからな。だから携帯していた薬で手当てしてやってたんだが、そのときに、あいつを説得してたんだよ」


「あたしたち、もともと、あなたたちを見かけたとき、自分たちと同じで森に迷い込んでる人がいるってそう思って、情報交換しようと思ってたのよ。その上で、もし食料とかあまってたらわけてもらおうと思ってたんだけど、いきなりあいつ、例によって頭おかしくなって、気が付いたら発砲してたってわけ」


 走りながら呆れたように補足してくるディアナに、バーミリオンが相づちを打った。


「俺たちは端っから戦う気なんかなかったしな。だからあいつに、これ以上敵対するのは止めろって言ったんだ。こんなことしても仕方がねぇ。それよりも協力して森から出る方法を探した方が得策だろうって。だけど、それなのにあの野郎、思いっ切り激怒して拒否りやがってな」


「よくわからないけどあの人、あたしたちと仕事一緒する前は他の人たちとやってたみたいなんだけどさ、だけどそこでいろいろあったらしくてね。化け物としか思えないような魔獣とか魔者とかに仲間を皆殺しにされたらしいのよ」


「で、なんとかあいつだけは這這(ほうほう)(てい)で逃げ延びられたらしいんだが、それ以来、あいつは人間至上主義みたいになっちまって、獣とか魔者とかそういうのすべて目の仇にするようになったってわけだ。だからあんたら見て、あいつは化け物と判断して絶対に殺すとか息巻いてたんだろうな。しかも、リルたちと何度も戦って因縁もできちまったしな」


 バーミリオン兄はうんざりしたようにそう言った。そんな彼のあとに、妹が続く。


「あたしたちが最後に見たときにはあいつ、全身、皮膚が腫れ上がってて、別人みたいになっちゃっててさ。だからだと思う。あたしたちがあなたたちに謝りに行こうって話したら、見たこともないぐらいに激怒されちゃって。それであいつ、一人でどっか行っちゃったのよ」


「まぁ、俺たちもさすがにそろそろあいつの奇行には付き合い切れなくなってたから、丁度いい機会かもしれないなと思ってな。あいつのあの怪我のことは気になったけど、まぁいいやって」


 走りながら端的にそれだけを説明する金髪兄妹。僕は心の中で軽く溜息を吐きながら、


「なるほど。それで別れたって言ってたのか」


 そう呟いていた。

 実際問題、この二人がどこまで真実を話しているのかわからないし、人間性だけ見たら、あまり真っ当ではない種類の冒険者だと思う。


 僕が知る限り、本来この兄妹はもっと僕たちに攻撃的な態度で接してきたから。

 最終的にはいろいろあって、妹のディアナとは一緒に行動するようになったけど、それでも本来はそういう二人だった。


 だから、いまいち信用できなかったんだけど、一つだけ確かなことがある。それは、本来オルファリアのことを化け物と罵っていたこの二人が、まったくそういう素振りを見せていないということだった。


 それどころかむしろ、化け物じみた力を持っている僕ですら、普通の人間として扱っているということだった。

 それこそ、裏があるんじゃないかと思えるぐらい、好意的な言動で。


 そこから判断するに、この二人に関してはある程度信用してもいいのかもしれない。


「大体の事情はわかった。それで、あの男は今頃どこで何してるかわかる?」

「さぁな。あいつが今どうしてるかはさすがにわからんな。それに、そもそもあの怪我だ。生きてるかどうかすら怪しいところだな」

「なるほど。どっち方面に行ったかはわかるかい?」


 その僕の質問には妹のディアナが答えた。


「確か西の方だったんじゃないかな? あっちにはなんか細長い岩山があったし。あれを目印にどっか行ったんじゃないかな」

「岩山……」


 僕はその話を聞き、一抹の不安を覚えた。何しろ、その岩山の内部こそが、今から僕たちが行こうとしているザーレントの研究塔だったからだ。


 外から入る方法があるかどうかはわからない。だけど、研究塔であり、セディアが安置されている場所なのは確かだった。

 一人、嫌な予感に心が蝕まれて胸くそ悪くなっていたら、先行していたアルメリッサを始め、ルードとアーシュバイツさんが立ち止まった。


「どうしたんですか?」

「いや、ちっと、おかしなもんが目の前にあったもんでついな」

「おかしなもの?」


 ルードたちの背後で立ち止まった僕は、ランタンの明かりに照らされた大広間のような場所をぐるっと見渡し、息を飲んだ。


「これは……」


 本当にここは城の中なのかと思いたくなるくらい、おかしな円柱状のものが床から天井まで、左右の壁一面に並んでいた。

 室内にあったと思われる机などの調度品はすべて朽ち果てて床に散乱していたけど、ガラスのようなもので作られた壁の円柱だけはそのまま無傷で残っていた。

 しかも、何か緑色の液体のようなものが入っていて、上下に流れている。


(この溶液は古代王国時代、広く一般的に使われていた燃料の一種ですね。現在も稼働しているということは、この城の機関部分に当たる制御装置は今もまだ健在だということでしょうね)


「制御装置って、要するに、機械や装置とかを動かす中央制御機構ってことですか?」


(えぇ。昔はそれらを使って、城内の明かりやいろんなものを自動で稼働させる仕組みが作られていました。一般家庭でも広く普及し、それが古代王国を栄えさせたもう一つの側面といっても過言ではないでしょうね。ですが、この城で使われていた燃料の多くは、専ら別の用途に使われることが多かったのです。それが……)


 彼女はそこで一度言葉を切ってから、部屋の出口にある扉へと移動する。


(この一つ上の階層に存在する外敵防衛制御機構です)


 それだけを告げ、再び一人、先へと進んでいってしまった。

 僕たちは一度顔を見合わせたけど、ルードが軽く肩をすくめただけで特に何も話さず、アルメリッサのあとに続いて走り出した。


 そうして朽ちた城内の通路や大部屋をいくつも突き進み、更には螺旋階段を駆け上がっていき、五階層へと到達した。

 階段上ってすぐのその場所は広い踊り場のようになっていて、背後は一階まで吹き抜けとなっている伽藍堂だった。


 正面には左右へと続く一本の長い回廊が延び、僕たちの正面にあるその壁には、人間の軽く三倍はあろうかというほどの巨大な扉が待ち構えていた。


 しかし、幸いなのかなんなのか、扉の片方が老朽化に耐えられなくなって向こう側の通路へとひしゃげ、倒れていた。

 僕たちはその扉の前までゆっくりと進み出た。


(本来、この扉は防衛機構によって封印措置が施されていました。丁度この通路を左右それぞれ最奥まで行ったところから登れる、塔の最上層に制御盤が設置されているのですが、それを操作し、解除することで開く仕組みとなっているのです。ですが、そこには当然、制御盤を守るガーディアンも設置されていましたが、どうやら、余計な戦闘はしなくてすみそうですね)


 扉を見上げて厳かに告げるアルメリッサに、


「なんか、恐ろしく厳重だな」


 ルードがぼそっと呟いた。


(そうですね。この先にはザーレントの居室や研究塔へと繋がる(ゲート)が設置されていますからね。七政王の例もあります。侵入者をおいそれと先に進ませるわけには行きませんから)


 そんなことを言いながら彼女はゆらゆらと、扉の隙間から先へと進んでいった。僕たちもそのあとを慎重に歩いていく。

 扉の向こう側は壁から発せられる淡い光だけしか光源のない、薄暗い場所だった。果てしなく長く続く回廊のように感じられる通路。まったく先が見えなかった。


 そんな場所を、僕たちは足下確認しながらひたすら前進していった。そして、無言のまま歩き続けた先で、アルメリッサが動きを止めて揺れ動いていたのである。


「扉……か?」


 目の前には再び、巨大な扉が姿を現していた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

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