表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第七章 廃城での死闘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/67

52.語られた真実




(かつて、遺体保護装置(セディア)を使ってザーレントを復活させようとしてそれが叶わなかった私は、ただひたすらに絶望し、完全に発狂しておかしくなってしまいました。激しい憎しみやどす黒い感情が渦を巻き、理性を失い、すべてを破壊しようと考えたのです。それこそが、ザーレントが生涯をかけて研究し続けていた第三の力を利用した、大量殺戮兵器でした)


「第三の力……」

「殺戮兵器だって……?」


 オルファリアと僕は、寒気すら覚える凜とした声色に呆然となってしまった。かつてアルメリッサが遺体保護装置とは別に、なんらかの遺産を稼働させただろうことはわかっていたけど、まさか殺戮兵器だとは思いもしなかった。


「アルメリッサ様……あなたは……」


 オルファリアはそう呟き、口に手を当て小刻みに震え始めた。さすがに、彼女にはこの手の話はきつかったのだろう。目の前に立ち塞がった障害を、どうしても排除しなければ前に進めないというときだけは、なんとか取り除こうと覚悟を決めてくれたけど、無意味な殺戮など、到底受け入れられるわけがない。


 僕はそんな彼女を慰めるように、腰に腕を回して抱き寄せるようにしたあと、続きを聞かなければ問題解決できないからと、心を鬼にして先を促した。

 アルメリッサは軽く頷いたあと、続けた。


(ザーレントが研究し、生み出そうとしていた第三の力とは、物質構成原理学レオ・ヴァル・ディースの集大成である物質変性と幻生獣だけが持つ精霊神術(セレスティア・マギ)の融合による新たなエネルギーのことです。当時の技術でも、完全な永久機関は存在していませんでしたし、物質変性の材料として用いられる素粒子変異体(エルオール)ですら、精霊力だけは生み出せなかったのです。ですが、その二つを可能とするものをあの人は作り上げてしまった。それが第三の力の研究途上で偶然生み出されることとなった『セデフ』――精霊神の力セレン・ディア・フォーザという物質変性装置です)


 厳かに語られたアルメリッサの言葉が真実だとしたら、ザーレントは古代王国時代でも唯一生み出すことのできなかった精霊力すら生み出してしまったということになる。


 そんなとんでもない代物が世にあるなどと世界に知られたら、いったいどうなるかなんて考えるまでもない。ありとあらゆる利権を巡って多くの権力者たちが動き出したことだろう。


 おそらく、戦争をふっかけてきた七政王もその一人だったということだ。しかし、


(ですが、あの人が作り上げたセデフをもってしても、当時希少価値の高かったエルオールを大量に使用しなければ精霊力に変性させることができなかったのです。その上、あの装置には大きな欠陥がありました。少量の精霊力を生み出すだけなら問題ありませんが、莫大な精霊力を生み出そうとすると、暴走することがわかったのです)


「暴走って……それってまさか、それが原因で魔の領域ができたってこと?」


 ベネッサが難しい顔をして聞いたけど、アルメリッサは否定した。


(そうではありません。セデフはあくまでも精霊力を生み出すことが可能な、物質変性装置の一つに過ぎません。魔の領域とはまったく関係ないのです)


 彼女はそこまで言って、じっと僕を見つめてきた。


(セデフはあくまでも第三の力の研究によって生まれた副産物に過ぎません。ですので、私はあの人亡きあと、二人で共同研究していた第三の力を生み出す技術を数十年かけて延々と研究し続けました。そして、その果てに、あの人が成すこと叶わなかった技術をついに完成させたのです。それが完全変異性機構フォルカ・ディ・ネーショニック・アルマス。通称フォルディナル。セデフの弱点すべてを取り払った完全版の究極の力です)


 静かに告げる彼女の言葉に、息を飲み込む音はしたけど、誰も声を発しなかった。

 アルメリッサは一同を見渡しつつ、先を促す僕の視線に軽く頷き続けた。


(――フォルディナルは装置を稼働させるときにそれなりの燃料を使用しますが、それ以降は自身が生み出す霊荷素粒子(エルレリウム)が精霊力と結合し、絶えず分裂、増殖を繰り返しながら、この世に存在するありとあらゆるものに変性する、精霊力を帯びた素粒子を無限に作り続けていきます。そして、この技術を使えば、今までは生み出すのに大量のエルオールを必要とした精霊力ですら、簡単に作れるようになる。更に、生み出された電荷精霊素子トゥワイエル・フォーザが装置の動力源へと再利用されるため、永久機関をも実現させるに至ったのです)


 僕は彼女の説明を聞いて、最初はピンとこなかったけど、噛みしめるように何度も何度も反芻するうちに、事の重大さに気が付き、愕然とした。


 彼女が生み出した装置が、実際にどんな仕組みになっていたのかはもちろんわからないけど、目に見えないレベルの粒子を延々と大量に生成し続け、それが装置の燃料にすら変性するのだとしたら、とんでもないことが起こる。


 フォルディナルだかっていう装置が生み出した精霊力を帯びた未知の素粒子が、もし仮に戦略級大量殺戮兵器に使われるエネルギーをひたすら生み出し続けたら、世界なんてあっという間に滅んでしまう。


 あるいは、人間を殺す毒素を大量生成して世界中にばら撒かれたら……。

 そこまで考え、はっとした。 


「まさか、その装置を使って大量に毒か何かを生成し、さっき言ってた大量殺戮兵器に搭載して、世界を滅ぼそうとしたってことなのか?」


(……正確に言えば毒ではありませんが、似たようなものでしょう。私はあのとき、命令コードを埋め込める変異性精霊力を大量生成し、人だけを殺す破壊コードを埋め込んだのです。そして、研究塔最上層に設置した戦略級拡散高射砲『滅びの天雷(ディ・ストラング)』を使って、天空へと大量に放出しました。その結果、人間だけを滅ぼす精霊力が、天を貫く荷電粒子の嵐に乗って、数百、数千エルフェラーム規模にわたって世界に拡散されていったのです。あとはもうおわかりでしょう。滅びの精霊力を体内に取り込んだ人間たちがどうなってしまったのか。)


 そう告げた彼女は、いったんそこで目を伏せた。


(……気付かぬまま取り込んだ死をもたらす精霊力と自らの身に宿していた精霊力とが結合した瞬間、彼らは細胞爆発を起こして内側から外側へと、木っ端微塵に弾け飛んでいったのです。それこそ、この森を中心とした数千エルフェラーム圏内にいた人間たちすべてが死に絶えるまでずっと。それが、私の犯した罪のすべてです……)


 そう感情を押し殺したような声で締めくくった古代の女王の言葉に、僕たちは言葉を失ってしまった。

 彼女が生み出した破壊コードが組み込まれた精霊力というものが、実際にどういうものなのかはわからない。


 だけど、まるで起爆装置が埋め込まれたような精霊力が空気を吸うがごとく体内に入り込んで、人間がもともと持っていた精霊力と結合し、それらすべてを誘爆させて弾き飛ばすとか、正気の沙汰とは思えなかった。


 それだけ、ザーレントを殺されたことで生まれた凶悪なまでの強い憎しみが計り知れなかったということなのだろうけど、それにしたってあまりにも酷過ぎる。


 争い事は何も生まないという月並みな言葉があるけど、まさしくそれを体現するような結末だった。

 ザーレントの研究成果を狙って戦争を引き起こした七政王もそうだけど、その報復として反撃に出た彼女も彼女だった。しかし、


(ですが、これだけは信じてください。今でもあの人を殺した人間たちへの恨みは晴れていませんが、あのときの私は私ではなかったということです)


「それは……どういうことでしょうか?」


 恐る恐るといった感じで、震えながらオルファリアが問いかけた。


(当時の私たち幻生獣は人間たちと共生関係にありましたが、私たちは彼ら人類にとってはただの実験動物や奴隷のような存在でしかなかったのです。ですから当然、私たちを手懐けたり人格を破壊したりする薬も作られ、それがあの戦争でも使われていました……)


 そう静かに語るアルメリッサにまさかと思った。


「まさか、七政王軍は反撃に出たあなた方を無力化するために、武器に薬物を仕込んで攻撃してきたということですか?」


(……はい。多くの同胞が命を散らし、あるいは人格を汚染され発狂しました。その中の一人に私もいたということです。幸い、私は精霊神術の力で毒素を中和できましたが、時既に遅く、脳の半分を汚染されていました。人格破壊の速度を弱めることはできましたが、完治するに至らず、気が付いたときには狂気に犯されていたのです)


「……てことは、あんたが兵器を作ったときには既に薬のせいでとち狂っていて、そんなあんたに滅ぼされた人間たちは自業自得だったってことかよ……」


 うんざりしたように呟くルードに、アルメリッサは何も返事をしなかった。


(ともあれ、復讐を果たして目標を見失った私は、一時的に理性を取り戻すことに成功しました。自分がやったことの罪の重さに苛まれ、別の意味で心が壊れていきました。私はザーレントの遺体が眠るセディアへと精霊力吸収機構エフィート・アゼクシヨン完全変異性機構(フォルディナル)を使って、そのあとも精霊力を注ぎ込ませ続けました。そのようなことをしても、あの人が蘇ることはないとわかっていましたが、私はナフリマルフィスの娘。自分が死に、いつの日か女神の力を携え蘇ることができるかもしれない。女神の力は他者を蘇らせることができると言われています。ですから、それまで遺体が朽ち果てないようにと願いながら、私はもう一つの保護装置へと入り、自らナイフで胸を突いて永遠の眠りについたのです)


「じゃぁ、あなたのその姿は……」


(わかりません。これが果たして、本当の意味での蘇りなのかどうか。千年の永き眠りより目覚めたことは事実ですが、どうやら肉体と魂とが分離してしまったようです)


「分離だって? いったいどういうことだ? 女神の力だかなんだかよくわからないものを手に入れ、蘇ったんじゃないのか?」


 しかし、僕がそう問いかけたときだった。再び、城が鳴動し始めた。


「ぐっ。またかっ」


 激しく揺れ動く大地に体勢を崩しかける。


(もはや一刻の猶予もなさそうですね。すみませんが皆さん、これ以上説明している暇はなさそうです。今すぐにでも、あれをなんとかしなければ取り返しのつかないことになります)


「あれ……? あれっていったいなんのことだ?」


(もちろんセディアのことです。あなた方をこのまま、研究塔へと案内いたします。そして、最上層に安置されている私の本体を滅ぼし、セディアを止めてください)


「え……? 滅ぼすって……どういうことだ? 研究塔ではいったい何が起こってるんだ?」


(説明したいのはやまやまなのですが、口で説明するより実際に見てもらった方が早いと思います。ですが、これだけは言えます。長年の稼働によって既に研究塔最上層にある装置のすべてが老朽化し、暴走し始めています)

「暴走って……」


 誰かがそう呟いた。しかしアルメリッサはそれに答えることなく続けた。


(それだけでなく、加えて復活した私の本体も理性なんてものを欠片も持ち合わせておりません。あれを野放しにしたら、装置が完全に暴走する前にすべてが破壊され、かつての比ではないほどに甚大な被害を及ぼしてしまうかもしれません。千年の長きにわたって生成吸収、蓄積され続けてきた精霊力が大爆発を起こし、今度は人間だけでなく、この森に住まう幻生獣やすべての動植物すらも一瞬にして消し炭になってしまうことでしょう。このエルリアの大地も周辺地域の国々も、すべて大地ごと消滅することが予想されます。ですから、早急に私を排除し、装置を停止させなければなりません。放っておいたらすべてが終わります)


「たくっ。いまいちよくわからねぇが、魔の領域とか言ってる場合じゃねぇってことかよっ」


 揺れが収まり始めて、なんとか体勢を立て直したルードが吐き捨てた。


(魔の領域はかつて私が稼働させた兵器と精霊力吸収機構により、長年にわたって森から精霊力が吸収されてしまったことが原因で生み出された副産物のようなものです。ですので、装置を停止させることができれば、自ずとあれも消滅することでしょう)


 厳かにそう告げる彼女に、


「行くしかないようだな」


 肩をすくめたアーシュバイツさんがそう答えた。

 僕たちは頷き、上層へと続く階段へと流れていくアルメリッサの思念体のあとを追いかけた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ