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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第六章 明日を切り開く精霊の剣

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42.霊力路の先に待つもの1




 遺跡の中に突如現れた地階へと続く階段。

 僕たちはルードを先頭に僕、オルファリア、カャト&アーリと続き、そのあとにベネッサ、殿をアーシュバイツさんが務める形となってひたすら下りていった。二匹の小猿ラッツィはカャトとアーリの肩の上に乗っている。


 中はランタンの明かりだけに照らされた真っ暗闇な空間で、入口こそ狭かったものの、下に行けば行くほど天井が高くなっていった。そのおかげで、必然的に高さだけは余裕を持って歩けるようになった。


 周囲の壁や天井は、材質がよくわからない、金属のような光沢を放っている。長い歳月が流れたとは思えないほど、黒光りした壁には錆びが一切見られない。

 足下の階段も知らない間に材質が石からざらついた金属へと変わっていた。


 そんな場所をしばらく下っていたら、やがて目の前が行き止まりとなり、右側へと続く通路の入口が顔を覗かせた。

 先に下りたルードは顎で合図を送ってくる。どうやら危険はなさそうだった。


 僕は通路の先へと消えた彼のあとを追って、慎重に歩を進めた。

 足を踏み入れたそこは巨大な通路のようになっていた。横幅二フェラーム(約三メートル)ほどあり、階段を背に、左右へと一直線に続く回廊のような作りとなっていた。


 壁や天井は相変わらずよくわからない黒い金属のようなもので作られていたけど、まるで夜光幻虫が埋め込まれているかのように、仄かな青白い光がそこら中の壁から灯されていた。


 思わず感嘆の声を上げそうになってしまったけど、飲み込んだ。

 みんなぽかんとしながら周囲を見渡している。

 僕は改めてこの通路を注意深く観察し、すぐそれに気が付いた。


 僕の腕よりも太い管のようなものが巨大な束状となって、正面の壁下を左右に延びる形で通路の向こう側へと消えていた。地理的に見て、おそらく右手側が石碑のある泉、左手側が湖の方角だろう。


 ひょっとして、これが僕たちが探していた精霊力を遺体保護装置(セディア)へと送るための霊力(ライン)か何かだろうか。


 目を凝らして右手側を見てみたけど、数フェラームも行かないうちに壁になっているみたいで、その先に行けそうにはなっていなかった。ただ、霊力路だけは壁の中に消えている感じがする。


 おそらく、あの壁の向こう側にも同じように通路が続いているんだろうけど、何者かの侵入を恐れたのか。隔壁で封鎖してしまったということなのだろう。


 それに対して左手の湖側は果てしなく通路が続いていた。

 僕はルードが指で合図を送ってきたので、それに頷き、彼のあとに続いて再び歩き出した。

 通路は広くなっているけど、この先に何が待っているかわからないので隊列は変えない。


 そうしてひたすら突き進むこと幾時。急にルードが止まるように合図を送ってきた。

 大男は手に持っていたランタンを床に置くと、背中にしょった大剣を引き抜いた。


 その行動を見て、一気に緊張が走った。

 青白い光が仄かに広がる通路の先、そこには泉側同様、隔壁のような壁が作られていたけど、左隅に人一人通れるぐらいの小さな入口みたいなものが設けられていた。

 そして、その先から明らかに人工物の光と思しき銅色の光が漏れている。


 耳を澄ませると、何やら話し声のようなものまで聞こえてきた。

 それらから得られる答えなんて一つしかない。


 ――あいつらか。


 すぐさまルードが新たな合図を僕たちに送ってきた。その独特の合図の仕方に慣れていなかった僕たちだったけど、長年連れ添ったベネッサは心得ているようで、オルファリアたちはここで待機するように身振り手振りで指示を出していた。


 対して僕はルードに一緒に奥へと進むよう促される。

 おそらく大人数で行動すると、敵に気付かれると判断してのことだろう。


 僕は軽く頷くと、アーシュバイツさんやベネッサにオルファリアたちのことをお願いして、慎重に歩いていった。そして、壁に張り付くようにしながら向こう側の様子を窺う。

 さびを含んだ男の声が聞こえてきた。


「――ンとに何もねぇ。たくっ。マジでしけてんな、この森は。踏んだり蹴ったりとはこのことだっ」


 そう罵るように叫んで、床を蹴飛ばすような激しい音を立てた男の声に、僕はビクッとなった。恐怖を覚えたからではない。忘れもしなかったあいつの声だったからだ。

 石碑で取り逃がしてしまった因縁の男。コルギル・シュバッソ。


「情報屋から仕入れたネタも大したことねぇし、宝なんか何一つない。おまけにクソみたいな化け物どもと遭遇し、持ってた武器ぶっ壊されるわで、マジくそったれだっ」

「まぁ、情報屋なんて端から当てにならなかったしな。如何にも胡散臭そうな奴だったし」

「そうそ。確かに古代遺跡はあったけど、ホント、あたしたちには無用の長物みたいなものばかりだしね」


「だな。おまけに食料も底尽きちまった挙げ句、あのおかしな場所のせいで町に戻るにも戻れねぇ。たくっ。あんたがあんとき、あいつらを攻撃しないで、もっと協調的に接してたら今頃食料わけてもらえてたかもしれねぇのによ」

「そうよっ。ホント、信じらんない! どう考えてもあの人たち普通の冒険者みたいだったのに、いきなりわけもわからず鉄砲ぶっ放すとか、ホント、ただの殺人鬼じゃないの!」


 どうやら僕たちの気配にまったく気付いていないらしい向こう側の連中は、相変わらず話に夢中になっているようだった。


「うるさいっ、黙れっ、役立たずな無能兄妹どもがっ。大体がだっ。貴様らがお宝お宝騒ぐからこんなことになったんだろうがよっ。俺は別に大金欲しくてあいつの情報に乗ったんじゃない。お前らが金金うるさいから、たまにはいいかと思って乗っかってやっただけだろうがっ」

「はンッ。よく言うわよ。あの話聞いたとき、あんたノリノリだったじゃない。人喰いと噂のあの場所なら、あんたが大好きな化け物どもがうじゃうじゃいて、皆殺しにできるかもしれないって。ホント、人間至上主義も大概にして欲しいわよっ。あの人たちに武器壊されたのだって自業自得ってもんでしょ? フンっ」

「て、てめぇっ。もいっぺん言ってみろっ」


 しかし、ディアナという名のあの少女がそれに答えることはなく、うっとりとした声を上げ始めた。


「あぁ……それにしてもあの人、いい男だったわぁ。今頃どこで何してるのかしらぁ? 次会ったら今度こそはいっぱい話して、それで……うふ……うふふふ……」

「……そういや、あんとき偉いべっぴんさんがいたっけなぁ……。あの白金色の髪。透けるような白い肌。何よりこの世のものとは思えねぇぐらいの美貌……くぅ~! 俺ももう一度会えるものなら会ってみたいぜ。あの美人さんによ――て、うん? ちょっと待て。おい、ディアナ」

「あん? 何よ、バカ兄貴」


「誰がバカだっ。ていうか、お前、まさかあの小僧に惚れたとか言い出すんじゃないだろうな!? いいか!? 絶対ダメだからなっ。俺の許可なく、どこの馬の骨ともわからん奴と仲良くするのはっ」

「はぁ!? 何言ってんのよ、バカで脳天気でくそったれな兄貴のくせしてっ。自分だってあのよくわからない女にベタ惚れじゃないのさっ。あ~やだやだ。いやらしぃ」

「てめ……! 誰がいやらしいだっ。もっぺん言ってみろっ」


 しかし、あの長身の男のものと思われるその怒声にはシュバッソが答えた。


「おい、バカ兄妹がっ。下らねぇこと言ってんじゃねぇぞ。今はそんなことより、このあとどうするかを考えろやっ」


 そのあとも引き続き、延々と言い合う三人だった。

 出入口から少しだけ顔を覗かせて様子を窺っていたルードが背後にいた僕を振り返った。その顔には異常なまでの殺気が漂っていた。

 僕はルードが何を考えているのか瞬時に悟り、軽く頷いて見せた。その瞬間、彼の姿が目の前から消え、


「なっ……てめぇはっ」


 すぐに怒号のような叫び声が上がっていた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

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