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リ・グランデロ戦記 ~悠久王国の英雄譚~  作者: 鳴神衣織
第六章 明日を切り開く精霊の剣

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40.秘密の共有、未来と過去の歴史2




「あの、リル……」

「うん?」


 既に目に涙は見えなかったけど、相変わらず憂いを帯びた儚げな表情をしていた。


「私はアルメリッサ様ではありませんので、彼女が当時、本当のところ何をなさったのかはわかりません。ですが、同じナフリマルフィス族として、思い当たる節が一つだけあります。それが蘇りです」

「蘇り……?」


「はい。私たち種族には昔から伝えられていることが一つあります。それは『一度目の死を迎えたあと、女神の力携え帰ってくる』というものです。これが何を意味しているのかはわかりませんが、もし本当に言葉通りの意味なら、ナフリマルフィス族は一度だけ生き返ることができるのかもしれないということです。ですが、それが本当なのかどうかはよくわかりません。現に私の母様は……」


 目を伏せてしまった彼女になんとも言えない気持ちになって、僕は無意識のうちにオルファリアの頭を撫でていた。彼女は最初、驚いたような顔を浮かべたけど、すぐに微笑み返してくれた。

 僕はそんな彼女を見て、石碑に残されていた碑文を思い出していた。


「そういえば石碑に森の女王蘇るという碑文があったよね? てことは……」

「……はい。おそらく、復活を明示するものかと」

「なるほど。となると、アルメリッサとともに歩んでいたザーレントも、それを知っていた可能性があるってことか。だから本来の歴史では、余計に彼女を保護装置に納めて復活させようとしたと」


 蘇りの仕組みはまったくわからない。オルファリアの母親のこともあるし、何より、僕が持ってる知識の中にも一度も登場してこない要素だったから。


 だから仕組みもそうだけど、ナフリマルフィスがいつどのようにして蘇るのかさっぱりだったけど、おそらく、アルメリッサたちも僕たちと同じでよくわからなかったのだろう。


 だからこそ、遺体保護装置なんぞ作って、遺体を腐らせないようにしつつ、ただ復活のときを待ったか、もしくはなんらかの方法で人為的に復活させようとした、ということなのだろう。


 と、僕はそこまで考えて「ん?」と思った。

 アルメリッサの蘇りのことを知っていたなら、もしかして、自分より先に彼女が亡くなったときのことを考え、事前に遺体保護装置を完成させていたのではないかと。

 アルメリッサが死んでからではなく、それよりもずっと前から用意していたのではないのか?

 実際に、セデフやセディアといった記述があるわけだし。


「もしザーレントが亡くなる前に、既に遺体保護装置があったとしたら……」


 呟くように言った僕の言葉に、オルファリアが頷いた。


「はい。おそらく、アルメリッサ様はこうお考えになったのではないでしょうか。自分が生き返ることができるなら、もしかしたらザーレントにもそれが可能かもしれないと。そして、都合よく、既に遺体保護装置が存在している」


 僕はまさかと思った。


「まさか彼女はザーレントが残した装置を使って、彼を復活させようとしたと? 石版に書かれていた通り、どうにかして遺体保護装置に遺体を収容し、ずっと保存しながらザーレントを蘇らせる研究を続けていたと? だけど、結局それが叶わず狂ってしまい、ザーレントの別の遺産を稼働させた……」

「はい。遺産が何かはわかりませんが、可能性としてあるのは」

「魔の領域。そして第三の力」


 仕組みはわからないけど、本来の歴史でも、フランデルクを打倒したあと装置を停止させたら、魔の領域それ自体は勝手に消滅していた。


 だったら、アルメリッサが稼働させたかもしれない遺産も、ザーレント絡みのものであるなら、十分、魔の領域に絡んでいる可能性があるというわけだ。


 ただし、何度も言うけど、魔の領域が発生するそもそもの原因はまったくわかっていない。遺体保護装置によるものか、それとも別のものか。


 あるいは、僕の知識にない第三の力が何者で、それらが今回の一件に本当に関わっているのかも不明だった。

 かつての時代に彼女が稼働させた遺産によって、何が起こったのかもまるでわからない。


 だけど、なんだかそれらすべてが細い糸で繋がっていて、その結果、最悪な未来が待ち構えているような気がして仕方がなかった。


「こうしちゃいられない。アルメリッサが何を動かしたのかわからないけど、もし仮に魔の領域の異変がそれに関係しているのだとしたら、もう猶予は残されていないかもしれない」


 正直、相変わらず彼女が何をしたのかはわからないけど、もし僕が知る本来の歴史と同じようなことが実際に起こるのだとしたら、間違いなく、彼女が動かした古代の遺産は遺体保護装置のあるあの場所に存在しているはずだ。ザーレントが生み出した遺産のほとんどが、そこで作られたのだから。


 そしてもし仮に、そんな場所にあの男が本来の歴史同様侵入を果たしたら、とんでもないことが起こる。

 僕が知らないありとあらゆる遺産をいじくり回し、この森だけでなくエルリア全土、引いてはイルファーレンやリヒト・シュテルツ王国にまで甚大な被害が及ぶかもしれない。

 そうなったらすべてが終わる。


「急いでザーレントの居城へ乗り込まないと、取り返しがつかないことになる!」


 一人勢いよく立ち上がろうとした僕に、


「居城だと? それってあれか? あの廃城のことか?」


 そう聞いてくるルードに頷いた。


「そうだよ。そこから研究塔に繋がっている部屋があるんだ」

「なるほど。つまりその研究塔とやらに、ザーレントなのかアルメリッサなのかわからねぇが、あいつらが残した遺産があるってことか」

「多分ね。本来だったら今もまだ稼働しているはずだけど、アルメリッサが稼働させているものが今も動いているかはわからない。だけどフランデルクより先に抑えたい。あいつにそれが見つかったら何が起こるかわからない」

「……最悪、この世の終わりってわけね」


 疲れたように溜息を吐くベネッサ。

 そのあとにアーシュバイツさんが口を開いた。


「大体の事情はわかった。遺産云々がなんなのかはわからないが、あいつにだけは触れさせてはならんということがな。だが、肝心なことを忘れている。フランデルクより先に抑えたとして、奴を討ち取る手段を何一つ手に入れていないということをな」

「それは……」


 僕はそこで言葉を失ってしまった。確かに高密度の精霊力を宿すことのできるエルオールの剣なら、奴を仕留められるかもしれない。しかし、奴を倒せるほどの精霊力を注ぎ込むためには、あまりにも時間がかかり過ぎる上、膨大な精霊力が必要となってくる。


 それこそ、多くの命を犠牲にするぐらいには。更に、今の時代、エルオールに精霊力を込められるのは、精霊力を操作する能力を持っていて、なおかつ『平安』の力を宿している幻生獣だけだ。彼らの命を奪うような真似は絶対にできない。


「くそっ……どうしたら……」


 浮かせかけた腰を再び落として奥歯を噛みしめる僕に、


「そのことなんじゃが」


 ザクレフさんが声をかけてきた。


「先程リルやが申しておった、石碑が精霊力吸収機構かもしれんという話を聞いて、一つ合点がいったことがあるのじゃ。それが、石碑がある泉の地下じゃ」

「地下? そこに何かあるのですか?」

「うむ。以前調べたとき、泉の底から北へと何か金属のようなものでできた平べったい構造物の光が見えたことがあっての。てっきり何かおかしなもんでも埋まっとるだけかと思うておったが、あれが精霊力を吸収する装置か何かかもしれんということならば辻褄が合う」


 ニヤッと笑うザクレフさんに僕は「そうかっ」と閃くものがあった。


「つまり、精霊力を吸収してセディアに送らなければならないなら、その精霊力を送るための霊力(ライン)が必要になってくるってことか」


「そうじゃ。そしておそらくじゃが、そのセディアとやらがどこにあるかにもよるが、泉の北には巨大な湖があっての。そこと泉との丁度中間地点には、廃村遺跡にもあったアルメリッサの巨像が二体、建っておる場所があるのじゃ。あの辺は幻生獣の村のもんに、あれ以上北に行くと危険だから行くなと言われておったから一度見たきりじゃが、そこに何かあるやもしれん。フランデルクの障壁を打ち破るための方策(ヒント)か何かがの」


 精霊力吸収機構とセディアを繋ぐ霊力路の上に、意味ありげに巨像が建っている。かつて存在した神殿跡なのか、それとも廃村遺跡のようなものがかつてそこにあったのか。


 いずれにしても、ここであーだこーだ言っているよりかは、調べてみる価値はありそうだった。

 その上で、もし、今でも精霊力吸収機構である石碑が稼働していて、そこから吸い上げた精霊力が霊力路を流れているのだとしたら……。


 僕は一抹の不安や期待を胸に、まだ見ぬ新天地へと思いを馳せた。

本作に興味を持っていただき、誠にありがとうございます!

とても励みとなりますので、【面白い、続きが気になる】と思ってくださったら是非、『ブクマ登録』や『★★★★★』付けなどしていただけるとありがたいです。

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